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小春日和の庭

今朝も空気はキンと冷えていた
なだらかな坂道を上った先にある寺院に
朝の拝観を請う

しんとした本堂の
緋毛氈に差し込む日差しだけが
やけにあたたかい

「おはようございます」
今朝はこの寺のお嬢さんがお茶の係のようだ
二人分の抹茶と菓子を運び
作法通りに並べ一礼をする
作務衣の肩に薄茶色の髪が揺れた

「今日も冷えますね」
「お足許凍っておりませんでしたか?」
ふっと隣のあの女性が私を振り仰ぐ
「滑りそうになって 助けていただいたの」
一瞬目元に浮かぶ笑みに心奪われてしまう
「まぁ 大丈夫でしたか」
「ええ」
「お帰りの時も気をつけてくださいませ」
「ありがとうございます」
隣に並ぶさらさらと流れる黒髪が
あらためてゆるりと一礼をする
「どうぞごゆっくり」

二人きりの本堂はしんとしている
朝の勤行のお線香の香りがいつもよりは
わずかに強い
そして今は
とどけられたばかりの抹茶の香りに包まれている

それなのに何もつけていないはずの
隣の女性の薫りが
ふわりと立ち上っているような気がする
その場のどんな香りの印象より
ほのかでたおやかな透明感のある薫り

昨夜幾度も私を狂わせたその女性の肌を思い出す
本堂にふりそそぐ陽射しのように
あたたかくほの白く私を煽るくせに健康的な薫り

いま隣にその薫りがあることが
私の心を満たしていた

「あら かわいい」
本堂の縁側にしつらえられた手水鉢に足を止める
季節の花をその時々でお内儀があしらう
今朝は一輪の菊がやわらかな陽の中で水の流れと戯れていた
「気持ち良さそうですね」
「ほんとうに」
小春日よりも振り向いたこの女性の微笑みのほうが
暖かくまぶしかった

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