振り向くと
呼び止められた気がして振り向くとそこにはひっそりとした紅の椿
つい先ほどまでこちらを向いていた花首を
恥じ入るように背けたよう
「あなたなの?」
心の中で呼びかけてみる
耳を澄ませても答えはない
もしかしたら
椿の奥に咲く梅の馥郁たる香り
のせいかもしれない
曲水の庭へ歩みを進めようとする
「待ってください」
今度は本当に呼び止める男性の声がした
着物姿のしっくりと似合う男性
まさかここで再会するとは・・・
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ぽとり・・・
暖かかったと思っていたのに一夜を越えたら
うっすらと積もっていた雪
布団から出た肩先さえ
少し冷たい
ぽとり・・・
中庭で儚げな音がする
ぽ・とり・・・
今年ももうこんな季節になったのね
ぽと・・ん・・・
ひっそりと咲いていた侘助が落ちる音
きっと花の下には抱きかかえるように
うっすらと白い雪が積もっているはず
ぽと・・・
無言で肩に掛けられた布団の暖かさに
大きな逞しい胸へと振り返る
もう少しで春
この腕の中のようにあたたかな・・・春
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