秋の花火
誘われたのはお昼と呼ぶにはまだ早い時間。「駐車場が遠いから、少し早い昼食をとって出かけよう」
そう微笑んだ4人の紳士たち。
「今日はどちらへ?」
「桜川までです」
ハンドルを握る望月さんが優しい声で教えてくださった。
「晴れてよかったね」
隣に座る山崎さんはわたくしの手をすべすべの手で包み込んだ。
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「全国の煙火店が参加する花火競技大会なんですよ」
日の暮れかける桟敷席で地元の仕出し弁当をいただきながら
美貴さんが口にする。
わたくしの知る中でも極めて大きな規模の花火大会である。
「お席を確保なさるのも大変でしたでしょう
いつもありがとうございます」
「祥子さんが喜んでくださるならそれでいいんです」
きっと石塚さんがご手配くださったのでしょう。
「花火の後に美味しい食事をご用意しています
軽く召し上がってください」
予想以上に気温の上がった宵に相応しい
爽やかなスパークリングワインとペリエを
望月さんは屋外の桟敷席では贅沢なグラスに注いでくださった。
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さすがに全国的な競技大会だった。
一般的に尺玉と呼ばれる10号玉と新作の創造玉
スターマインのみで競われ95プログラムあるという。
登ってゆく光と音に心誘われ
尺玉の幾重にも重なる色が見事に真円に光る。
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風は微風。
「花火にはベストなコンディションだね」
グラスにロゼワインを注ぎながら美貴さんが耳元で囁く。
「ええ、花火を観るには嬉しいお天気ですね」
「これはとっても繊細なプログラムですね」
レースのワンピースの袖を山崎さんの指が撫でてゆく。
「だめっ」
後れ毛を後ろに座る石塚さんの指が無言で搦めとる。
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スターマインは1プログラム毎に大きな盛り上がりを見せる。
煙火店のセレクトした曲とイメージに合わせた花火を組み合わせて
新たな景色を創り上げてゆく。
「こんなに豪華なのにまるで線香花火みたい」
「祥子さんは可愛いことを言う」
口ではそう言っていたものの
わたくしは微かな火薬の香りと
花火が上がるたびに起こる炸裂音に体の芯を揺さぶられていた。
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「連休は始まったばかりだからな
二日間俺たちとゆっくりしてくれるよな」
背中をがっしりとした石塚さんの腕が抱きとめる。
「あん・・・」
声がかすれてしまったのを気づいたのは石塚さんだけならいいのに。
花火の赤い光がハートを夜空に刻んだ時
四人の男性の視線が
わたくしの唇に集まったことに気づいた。
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