秋雨の間に
例年なら青空が専売特許のような季節なのに今年は雨が長引いていた
鬱々とした気分で珍しくかけた電話に
あの女性は「秋雨もいいものですわ」と
いつもの声で囁いた
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だからここに誘うことにした
まだ紅葉には早いはずなのに
ほんのりと染まった一枝が二人を迎え
足元には名残の萩が小動物のように戯れる
今日この女性をここにお連れしたのを
喜んでいるかのように
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「見事な竹林ですね こんなに何種類も」
「ええ庭師の自慢の一つです」
金明孟宗竹、黒竹、孟宗竹、亀甲竹
いつもの歌うような声で竹の名前を
一つずつゆっくりとつぶやく
俺にはもう愛語のようにしか聞こえない
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結い上げた黒髪と大島の肩に大粒の雨が落ちた
「庭は明日でも逃げないから
もう部屋に行こう」
差しかけた和傘の下でしなやかな香りが
やんわりと俺の体に寄り添う
ああ 今夜はあの竹のように
この柔らかい身体を縛り上げたい
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人払いをした応接で
彼女を座らせることもせず唇を奪った
目の前の大粒の雨も
夏の名残の芙蓉の花も
秋の深まりを告げるツワブキの花も
彼女の眼には見えていない
このまま塩瀬の帯を解きたくなる欲望が
秋雨よりも激しさを増した
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