梅雨の間に
約束した日は珍しく雲の厚い朝だった御堂の傍らには石仏たちが肩を寄せ合い
祈りを込めた結び紐が
御堂の中を虹色に染める
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「晴れていたらもっと綺麗だったかもしれないわね」
手を合わせる横顔に雲の切れ間から
差し込む日差しが彩りを添えてゆく
「客殿で一休み、いかがですか?」
長い車移動の気分転換に
インスタグラムで人気だという
ここに立ち寄ってみた
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目玉はここの客殿だという
流行に敏感な男を演出したくて連れてきたわけではない
それでも、平日の朝早く
この時間なら物見高い観光客も少ないだろう
そのぐらいのことは考えていた
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『そこまで頑なに考えなくてもよろしいのやおへんか』
天井画から夏の装いの舞妓さんがそっと囁く
「猪目窓のお寺さんてこちらだったのね
雨が上がったのかしら
外が明るいこと」
明るい緑の窓の景色が彼女の目を引く
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「今日はこの後結婚式の前撮りの方がっ・・・・」
お寺の方が息を飲むのがわかる
猪目窓の前で
艶やかに立ち尽くす彼女の唇を
貪るように奪った
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