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ジューン・ブライド 8

「難しいのね。ひっそりとしていて・・・圧倒的な紫陽花の花なんて。」
圧倒的・・・その言葉だけで、押し寄せるように幾重にも丸い花珠が連なりかさなる・・・そんなイメージがわたくしの脳裏に広がりました。
「あなたがそこまで拘わるなんて大切なシーンなのね」
「ええ、出会いとクライマックスの場所なんです。まだ、構想ですけれど。」
これ以上のことを口にしていいのか悩む表情で森本さんが口ごもります。
「いいのよ。お話してまとまることもあれば、口にすることでイメージが希釈されちゃうこともあるでしょうから。ごめんなさい、余計なことを聞いて。」
ふっと、彼の瞳が優しい表情を取り戻しました。
「やっぱり、ねえさんと一緒なのはいいな。ちゃんとこの感覚をわかってくれる。」
「ううん、そんなことないのよ。」
北鎌倉の紫陽花の寺の山門までわたくしたちは戻って来ていました。
「あじさい探しの旅に、まだ付き合ってくれますか?」
「ええ、よろこんで」
にっこりと頷くと、駅の近くに停めた車へと森本さんは歩き出しました。
 


 
「お願い、トモくん。今日は、ね・・・」
「うるさい!」
タクシーから降りた正面は鴬谷の駅の改札でした。
彼を振り切って帰ろうとするわたくしの身体を強く引くと、キヨスク脇の自動販売機に押し付ける様にして・・・貪るようなキスで言葉を塞いだのです。
トモくんは両腕をわたくしの左右に突いて、身動きを封じました。
「やめ・・て・・」
彼の唇をそらせて・・・説き伏せようとする言葉さえ・・・すぐに追いかけられて・・・覆いかぶさられてしまうのです。

雪がまたちらちらと舞い始めているようでした。
何人もの人が、駅へ向かいながらわたくしたちの姿を認めていたことでしょう。
薄く眼を開けるたびに見知らぬ誰かと目線が合うのです。公共の場所でこんなに激しいキスを繰り返す羞恥にもわたくしは苛まれていたのです。
それなのに・・・トモくんはわたくしの身体が無言の抗いを止めるまで・・・キスをやめてはくれなかったのです。
彼の胸のなかで、わたくしは・・・諦めたのです。このまま帰るなんてことはとてもできないと。トモくんと静かな場所で彼が納得するまで話をするしかないと思ったのです。
たとえその場所がホテルの一室だとしても。そしてとにかく、円満に別れ話を承知させるしかないのです。彼の結婚が、別れの理由なのですから。
わたくしは、身体の力を抜き・・・自分から積極的に舌をからめていったのです。
 
「いいね、祥子さん」 
口づけをやめると彼は耳元でそう囁いたのです。
こくん・・・と、わたくしは声も出さずに頷きました。
トモくんはわたくしのミンクのコートの肩を抱きしめると、細いファッションホテル街へと歩き出しました。そして歩きながらも、時折立ち止まるとその場でわたくしの唇を啄もうとするのです。
17歳年下のセフレ。確かに若い男性ですが、端から見ればいまのわたくしたちはとてもそうは見えなかったかもしれません。
180cmを優に越えるがっしりとした体躯は、女性としては大柄なわたくしさえ包み込むほどでした。強面な表情は、彼の年齢以上の貫禄を感じさせたはずです。もちろんそれだけの男性としての魅力があったからこそ、わたくしはこれまで彼とお付き合いを続けてきたのですから。

トモくんはほんの少しの迷いもないように、1軒のホテルへとわたくしを誘いました。
「泊まりで・・・」
3つしか空いていない部屋の中から一つを選ぶと、フロントにそう告げたのです。
いつもならフロントと話す間はわたくしをエレベーターホールに1人にしておくのに、今日はほんの少しも側から離してはくれません。
キーを受け取ると、偶然開いたエレベーターへと無言のままで乗り込んだのです。
「なん・か・・んく・・・」
フロア釦を押そうとするわたくしの手を押さえ込み、最上階の釦を彼自身の手で押すと、そのまま・・・また唇を奪ったのです。
「だ・・・め・・」
トモくんの手は、腰の上でコートごとわたくしのスカートをたくし上げ、もう一方の手はわたくしの唇を逃すまいと雪に濡れた黒のロングヘアの後頭部をがっしりと掴んでいたのです。
チン・・・ エレベーターのドアが開きます。
乱れた装いのままに、彼は2部屋しかない最上階のフロアの一部屋へとわたくしを押し込んだのです。 コメント
こんにちは。

昼休みにこっそり覗いていました。
2つ同時進行では切り替えが難しいでしょうね。
文才の無い私には解りませんが、祥子さんのチャレンジ精神にいつも関心させられます。
今私の頭にふと!浮かんだ事、それは私自身の好奇心です。
それは、SM小説を書きたい願望です。
単なる思い付きですからそんなに簡単で無い甘く無いのは充分承知です。
フィクション、ノンフィクション交えて、短編にチャレンジしたいです。
幸いな事にSMの経験、知識、生写真はそれなりにありますが、困ったら得意分野に逃げるかもしれません。(汗)
ただでさえ、多忙な自分の首を絞めるのは承知ですが、思いついたら挫折考えないで、頑張って見たいと思います。
すみません、勝手に願望述べてしまいました。
祥子さんには、いずれお尋ねさせて頂きたいと思いますが、その節は宜しくご教授お願いします。
では、失礼します。     ・・縄指導・・


2006/06/21 12:56| URL | 縄指導  [Edit]
 激しく求められるのって好きです。
思いもかけない場所で
不意打ちに抱きしめられて
考える間もなく
引き攫らわれてしまいたい・・・・。

2006/06/21 16:09| URL | さやか  [Edit]
こんばんわ~
シュンさんの所からきました
いや~本当にビックリしました。
プロですね~
これから初めから読もうと思ってます。
よかったらお友達になってくれませんか~?
宜しくお願いします。

2006/06/21 21:05| URL | マリ  [Edit]
同時進行とは驚いたな。二つとも筋道がちゃんとできてる…それも凄いね。

強引に求める…か。最も苦手な課題だな。
でもそれを望んでいるんだよね、女性は心のどこかで。


2006/06/21 21:06| URL | eromania  [Edit]
梅雨空のしっとりとした風情はなかなかに得難いものですね。
ふと、物思いにふけってしまうのは・・・わたくしだけでしょうか?

縄指導様
お昼休みにこのブログを開けてくださっているなんてドキドキです。
最近はイラストをアップしていないので安心ですが・・・以前は・・・でしたので。
さて、小説に挑戦♪とのこと。ぜひぜひトライなさってください。
調教師ならではの冷静な視線で切り取られた1シーン楽しみにしております。

さやか様
強引に攫われる・・・ある意味「白馬の王子様」も同じですもの。
愛で攫ってほしいと、わたくしも思ってしまいますわ。

マリ様
はじめまして、ようこそいらっしゃいました。
短編・長編おりまぜてございますので、どうぞお楽しみください。
よろしければ、閑話休題に簡単な紹介がまとめてありますので
そちらもご参考になさってください。
これからもよろしくお願い申し上げます。

eromania様
ありがとうございます。はじめての回想&リアル同時進行の物語になります。
この強引さは・・・トモくんの若さ故ですね。
大人の男の方には大人なりのお誘いの仕方がおありでしょう♪

2006/06/22 07:40| URL | 祥子  [Edit]
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