桜陰 8
坂の一番下に立ち、行く先を見上げるわたくしの視線からは・・・満開の桜は青い空を薄桃色に染めているようでした。「ここがこんなに綺麗な季節に来たのは初めてだわ。いつも青葉のころばかりしか通ったことがなくて。」
都心の並木道です。上野のように花の下に屯しての花見をする人たちはおりません。
ゆっくりとそぞろ歩くか・・・通り沿いのカフェの窓からゆっくりと外の景色を楽しんでいらっしゃる方達がほとんどでした。
「そうか、誘って正解だったかな。」
「ええ、ありがとうございます。うれしいわ。」
「それじゃ、コートの前の釦を全て外してごらん。」
「えっ・・・ここでですか?」
坂の入り口の大きな桜の樹の下にわたくしたちはおりました。建物と樹のわずかな死角に桜を背に立っていたのです。
「この坂を登ったところが僕の部屋だ。そこまででいい。コートは羽織ったままでいいから、釦を全て外して登っておいで。」
コートの下は、スリップとガーターベルトと・・・パンティだけなのです。
釦を止めたコートの裾から覗くスリップだけならなんとでも言い訳は出来たでしょう。
でも・・・上まで全て開けてしまえば・・・Gカップの胸元は鴇色の乳首をはっきりと透かせて・・たゆ・ゆ・・と一足ごとに揺れてしまうのです。
ガーターベルトはストッキングの終わるラインもストッキングを吊る留め具さえも、パンティはわたくしの茂みの在処すら・・・透かしてしまうのに・・・。
「おねがい。そんなはしたないこと出来ないわ。」
「ん・・くぅ・・」
首を振るわたくしの頤を捕まえると、高梨さんは乱暴に唇を重ねたのです。
満開の桜の下・・・ごつごつとした桜の樹皮に背を押され・・・荒々しく奪われる久しぶりの唇は春の日差しの下でアブノーマルな背徳感をわたくしに与えるのです。
「美味しいよ 祥子。」
「ゃぁ・・こんなところで」
「そうだな。ちょっと気が変わった。祥子に選ばせてあげよう。」
高梨さんの指はわたくしの右の耳朶へと動いてゆきます。
「ここからコートの釦を全て外して僕と離れてレジデンス棟まで上がってゆくか、それとも桜の樹3本に一度今みたいにキスをしてくれるか、どちらがいい?」
品なく飲酒をする人たちがいるわけではありません。でも・・・だからといって人目がないというわけではないのです。
大人の、それもきっと目立つであろう大柄な男女が、並木を3本数えるごとにディープキスを・・・まるでセックスそのもののようなキスを交わすなんて。
「もちろん、キス1回ごとに1つずつ釦を外させてもらうよ。レジデンスに着いたら16階の僕の部屋までエレベーターの中はコートを取り上げる。」
彼の小指がわたくしの耳穴を意味ありげにまぁるく撫でるのです。
「コートの釦を全て外してゆくなら、レジデンス棟の中でコートを取り上げるのは勘弁してあげよう。さぁ、どちらを選ぶ?」
わたくしは、本当に困ってしまったのです。
どちらも・・・どちらを選んでも、わたくしは羞恥にまみれさせられてしまう行為だったからです。
「ん? 祥子、どっちがいいんだい?」
耳に掛かるロングヘアを掻き上げると耳朶に唇を這わせるのです。
「ん・・やぁ・・・」
カメラをポケットにしまい込んだ右手は、薄いスプリングコートの上からわたくしの乳房の先端を探り当て・・・くりくりと・・・嬲りはじめるのです。
「ぁん・・だめ・・・」
「早く決めるんだ、祥子。」
「・・・んん・・キス・・」
どちらかと言われて・・わたくしはキスを選ぶよりありませんでした。
あきらかにランジェリーにしか見えないインナーを晒しながら、はるか先にあるレジデント棟まで多くの方の視線に耐えて歩くなんて、とても出来なかったからです。
「いいコだ、祥子。じゃぁ行こうか」
わたくしの右手を取り高梨さんが歩き始めました。でも、ゆっくりと、風にそよぐ桜の一輪一輪を愛でるように歩いてゆきます。
何気ない風でいなくてはならないのに、わたくしは彼に仕掛けられた艶戯に、すでに頬をかすかに紅潮させていたのです。
どきどきとする鼓動を押さえるように、ことさらに高梨さんの腕に縋りました。
「同じ染井吉野でも環境が違うと少しずつ花つきも違うものだね。」
同じ時期に植栽されたはずの並木の3本目は、となりの樹よりも数段太い幹を持ちたわわに花を咲かせておりました。
「最初の桜だよ。」
車道に背を向ける様にわたくしの背を桜に押し付けると・・・右手でわたくしの髪を払いのけて・・・首筋に・・キスをはじめたのです。
「・・やぁ キ・ス・ぅ・・」
桜の前は画廊でした。ひっそりと静まり返った店内には人影はなく、桜を描いた油彩が数点壁に飾られていました。
「キスだろう。唇にするとはひと言も言ってない。」
首筋の薄い皮膚は、ベッドで与えられるような唇からの快楽を、わたくしの意志を裏切って・・・ダイレクトに身芯にまで届けるのです。
「・・・はぅ」
たしかにこれもキスです。でも・・昼間の路上で・・こんなこと。
「はしたない声を出すんじゃない。」
耳朶を甘噛みしながら、漏れてしまうわたくしの声を・・・言葉で制するのです。
「・ん・・ぁは・・」
唇を噛みしめて声を殺すわたくしの切ない表情が・・・高梨さんのがっしりとした後ろ姿とともに画廊のショーケースに映り込みます。
「眼を閉じるな」
高梨さんの大きな背に抱きしめられたわたくしの顔が・・・はらはらと花びらが舞う中に見えているのです。時折車道を車が横ぎり、向こうの歩道を歩く人が見える度・・・わたくしは身体を堅くするしかありませんでした。
「もう・・ゆるして」
わたくしたちに気づいたカップルの囁き交わす姿が見えた時、身を捩って高梨さんから逃れようとしたのです。
「しかたないな。」
首筋から顔を上げると高梨さんはご自身の手でわたくしのコートの第一釦を外して・・・身体を離したのです。
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祥子さん、こんばんは。
大阪は今日も昼から雨でした。早くスカッとした夏の日差しになって欲しいものです。
それで、二社選択を迫る高梨さんの心理状況が良く解り、祥子さんには申し訳ないですが、私は心地よく読ませて頂きました。(汗)
Sの良く使う手段ですが、意地悪な交換条件が瞬時に閃き選ばせるのです。
どちらを選択したとしても、羞恥の表情を見れますから楽しいですね。
では、今後の展開楽しみにしています。 ・・縄指導・・
2006/07/23 20:56| URL | 縄指導 [Edit] -
縄指導様
大阪でお昼頃に降り始めた雨が、ちょうどいま東京にちらほらと届いたようです。ひんやりした夜気が心地よいのですが、まるでまだ桜の時期ででもあるかのようです。
高梨さんと同じことを、縄指導様もお考えになってらしたのでしょうか。
縄指導様にSとしての共通点を見いだしていただけたなんて・・・きっと高梨さんも光栄だと仰ることでしょう。
これからの責めも、お好みにあうとよろしいのですが。どうぞ、心行くまでお楽しみくださいませ。
2006/07/23 21:23| URL | 祥子 [Edit] -
祥子さん、最近露出が増えてますぅ・・。
(〃∇〃) てれっ☆
さやかは、人前でキスしたことないから
こういうの好き!(*'‐'*) ウフフフ♪
どきどきします。
でも、最近、駅に行くと制服の高校生や
学校のクラブの名前が入ったパーカーを来た
カップルがほんとにべったりと
よりそってエスカレーターに乗っていて
キスしているのを見ると
すごい世の中になったなぁって感心します。
○○高校剣道部のカップル
君たちのことだよ・・・・。
2006/07/24 14:41| URL | さやか [Edit] -
さやか様
そうですね。ほんとうに羞恥心の薄い若い世代が増えて・・・。
それってどうかと、個人的には思ってしまいます。
微笑ましいというのよりも、度を超しているようにも思えます。
わたくしの考え過ぎでしょうか(笑)
ああいうことは秘めやかにするからこそ
楽しみが増すものですのにね♪
2006/07/24 20:59| URL | 祥子 [Edit]
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