外伝2/レンジローバーの帰り道 5
どういうわけか、今時の女の子にしては彼女はこの手の話には奥手だった。運転手にして1年経つが、彼女から<男>の匂いがしたことはまだない。「もう石塚さんたら、冗談が過ぎますよ。結城くんが困ってるじゃないですか。まだ山道が続くんですから、石塚さんの新車で事故ってもしりませんよ。」
「そうか?こんなにかわいい子が1人で滑っていたら、俺なら声かけるぞ。」
たしかに、長身の祥子さんと違って小柄な彼女が1人でゲレンデで転んでいたりしたら・・・つい助けにいってしまうかもしれない。
「声を掛けたのがこんなおじさんなら無視しますよね、結城さん。」
美貴が助け船を出すなんて、珍しいことだ。
「・・・どう答えていいか、わかりません。」
「ははは、まいったな。結城くんに振られちゃったよ。」
「そんな・・・」
困惑しきった彼女の声を、石塚さんは笑い飛ばしてくれた。これで、この話は終わりだ。
「食事は、大丈夫だったかな。飽きたりしなかったかい。」
「はい。美味しかったです。」
けなげに答えるが、旅先の1人の食事が愉快なわけはない。
「1人にさせて済まなかったね。ありがとう。」
「こうして帰りは3人のちょい悪おやじが一緒にいるから機嫌をなおしてくれ。」
「そうだね。今日は一緒に夕食でもどうだい。結城さんの好きなものをごちそうするよ。」
「いいね。3が日だがいい店があるかな。」
「なにが食べたい?結城くん」
よかった。これで少しはひとりぼっちのお正月をさせた罪滅ぼしができるというものだ。
「ありがとうございます。あの、でも専務・・ほんとうにご一緒していいんですか?」
困惑した声だ。望月くんと違って彼女は単なる運転手だ。このメンバーを運転する車に乗せることはあっても、食事や商談の席に同席させたことは一度もない。
日頃の周囲の評判を聞く限り、一緒に食事をして私が恥をかくようなことはしないだろう。
「ああ、いいよ。今夜は一緒に夕飯を食べよう。」
「うれしい。ありがとうございます。」
やっと、本当に声が明るくなった。こうして会話をすることで、やっと気持ちが解れたんだろうか。
「あの・・・中華でもいいですか?ホテルにちゃんとした中華レストランはあったんですが1人じゃ入れなくて。」
「いいね。美貴、どこかいい店がないか?」
「そうだな。タワーホテルの中華ならなんとかなるだろう。あとで高速のSAで予約の電話を入れて置こう。」
「あそこの北京料理は旨いからな。北京ダックとフカヒレの煮付けをオーダーしておいてくれ。」
「はい、はい。もう、石塚さんのためじゃないんだけどおかしいなぁ。」
ははははは・・・・。
車内が笑いに包まれるころには、もう高速のインターが眼の前だった。
専務はあたしのことなんて忘れてるのかと思ってた。こんなに・・・石塚様や美貴様まで気を遣っていただけるなんて、淋しかったけど来てよかった。
それに一緒にお食事。いままで沢山あたしの運転する車にこの方達には乗っていただいたけど、いつも目的地までお届けするだけ。それが、お食事に誘ってもらえるなんて。これからも時々こんなことがあるかも?
あぁ、ホテルのレストランに専務に連れて行ってもらえるんならもっとお洒落なカッコしてくるんだった。
- 祥子様
-
結城さんのお話なのですね。
望月様と祥子様の帰り道も気になったけど、結城さんの事も少し心配でした。
山崎様に秘めた想いを持っていらっしゃる結城さん。
楽しいお食事になるといいですね。
2006/12/02 17:35| URL | 桜草 [Edit] - 桜草様
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そうなんです。
このお話は<初雪>が終わってすぐのことです。
前回書かせていただいた<女性運転手 結城さん>は、今回のお話の5ヶ月ほど後のお話になります。
ですから、山崎さんは彼女の気持ちをちっとも知らない時です。
往きの車の中で、山崎さんと石塚さんに文字通り嬲られて嬌声を聞かされ続けた<祥子さん>への複雑な想いと、バージンの彼女らしい気持ちの動きを楽しんでいただけたらと思います。
合わせて、わたくしと一緒の時とは全くちがう結城さんに気を使いつつ交わす三紳士の会話もお楽しみくださいませ♪
2006/12/02 17:48| URL | 祥子 [Edit] -
おやじの会話に戸惑う結城さんの姿に若さを
感じます。
これをさらりと交わせる女性は女性でまた別の
魅力があるのですが。
2006/12/02 18:20| URL | eromania [Edit] -
遅ればせながら、50万アクセスおめでとうございます。
私のほうも、沢山の方に楽しんでいただけるよう、頑張ります。
結城さんがヒロイン・・・気になっていた女(ひと)です。
どのようにほぐれてゆくのか、また放り出されたままで終わるのか、気がかりです。
どうか、結城さんにもいい年になりますように。そして、成長した彼女も活躍させてください。
2006/12/02 18:45| URL | masterblue [Edit] - 夜の月が冴えて見えるこのごろです
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eromania様
もう・・・どう考えたって冗談でしかない内容なのに、なぜか真面目に受け取ってなんでそんなことに気付かなかったんだろう・・・なんて思ったりしてしまうんですよね、こんな年頃って。
さらりと躱せない初々しさをいやみなく晒せるのもいまのうちかと思うと、彼女のことはこのままにしておいて上げたいような気がします。
masterblue様
以前にストーリーにしたときよりももっと前のお話なので、彼女はまだファーストキスも経験してないころです。
一途に山崎専務に好きになってもらいたくて、1人相撲をしてしまう彼女をどうか優しく見守ってあげて下さい。
結城さんが主人公のストーリーは、きっと<淑やか>とはまた別の物語になりそうです。
来年にでも・・・そんな新しいブログが立てられればいいのですけれど♪
2006/12/02 19:56| URL | 祥子 [Edit] - はじめまして
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性的表現を求めて、ぶらりとやってきました。まだまだブログ初心者ですが、祥子さんの文章を参考にしてこれから新たなブログを作っていきたいと思っています。
2006/12/03 04:43| URL | missjenny [Edit] - missjenny様
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はじめまして、ようこそお越しくださいました。
わたくしのブログが何かの参考になればよろしいのですが・・・。
これからもぜひ、お時間のある時にはお運びくださいませ。
2006/12/03 08:53| URL | 祥子 [Edit] -
>「・・・どう答えていいか、わかりません。」
いますよねぇ、こういう女性。
齢だけが、あるいは世間ずれしていないだけが、理由ではないのかも。
ずっと・・・かたくなに初心な心を抱きつづける女性も、いらっしゃいますね。
花が、一輪一輪ちがう咲き方をするように。
女性もやはり、人それぞれ・・・なのでしょうか。
2006/12/10 10:04| URL | 柏木 [Edit] - 柏木様
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この質問にするすると答える結城さん・・・想像できますか?
わたくしは出来ませんでした。
悪意はない大人な質問にあっぱれに答えることができる女になれたことを、いま少し喜びきれないのは、結城さんのストレートな潔癖さに出逢ったせいかもしれませんね。
2006/12/11 01:04| URL | 祥子 [Edit]
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