雪の夜
正午を回る頃から雪がしんしんと降り続いていたあの女性はいつもなら肩に白いものが積もり
柔らかな黒髪が濡れそぼるのも構わず
この街を歩き 変わり続ける景色を堪能する
たが今日は昼食に帰った後
二人きりの部屋から出さなかった
細く空けた障子の向こうに舞う雪を見て
我に返り身繕いをしようとするあの女性の腕を
何度引き戻し愉悦の芯をねぶっただろう
外の景色を聡明な脳裏から追い出すほど
何度絶頂に追い込んだことだろう
やっと微睡んだあの女性の
柔らかな寝息を胸に感じながら
部屋の中の空気すら冷えてきたことを
私の頬は感じている
次にあの女性が目覚めた時
狂ったように舞っていた雪は
嘘のように降り止んでいた
「きれいな寝待月ね でも今夜はやけに高いこと」
白い肩をあらわに
障子の向こうを見上げるあの女性にはもう逆らえなかった
「近くに美味しいピザの店がありますが?」
「ふふふ 素敵ね」
「暖かくして出かけますか?」
「いいの?」
黒めがちの瞳が潤んでいる
あんなに注ぎ込んだのに新たな衝動が芽生える
だが、二人ともお腹がすいていた
「暖かくして出ましょう」
「うれしい♪」
「でも、シャワーはだめですよ」
「えっ」
「私のを祥子さんの中におさめたままなら」
寒さに透き通るようだったあの人の頬が染まる
溢れるほどに注ぎ込んだミルクはまだ
あの人の蜜壷の中を満たしているはずだ
「でも・・・」
「大丈夫ですよ 着物で暖かくして出かけましょう」
絹襦袢に深紅の裾よけ
紬のアンサンブルに名古屋帯
大きなストールはセーブル
長い髪をラフにまとめて
足許は爪掛け付きの塗りげたを用意した
町家の前の道は半分凍りかけていた
私のコートの腕にあの女性を縋らせて
夜の雪の積もった街をゆっくりと歩いてゆく
空に星は見えないものの
薄い雲の向こうに月がおぼろに輝いている
「こんな夜もすてきね」
腕に押しつけられる着物ごしの豊かなふくらみが
再び私を欲情させる
街に積もる雪が理性を呼び覚ます
「あなたと歩くにはぴったりです」
「お店は遠いの?」
「5分くらいですが
足許が滑り易いですからゆっくり行きましょう」
私の身体の芯はもう熱を溜め始めている
冴え冴えと光る月に責められても
こればかりはもう譲れない
美味しいワインとイタリアンを堪能したら
またあの白い肌を・・・
「ほら、あの灯りがそうです」
滑る足許に視線を落としていたこの女性は
ゆっくりと顔を上げる
「あたたかいお食事がいただきたいわね」
「そうしましょう」
あたたかく匂やかな貴女の肌のほうが私は・・・
まるで狂うがごとくに降り積もった雪のように
私の欲望もしんしんと高まってゆく
今夜はもう眠れないかもしれない
- ‥‥‥
-
最後の写真素敵ですね‥‥‥
躰には彼の匂いを着物で包み込み、
そして躯には彼のプレゼントを蓄えたまま‥‥‥
私には写真をほめるしか、言いようがありません。
本当に、ピカリと光るような、珠玉の一編です。
ここまで、素晴らしい文章で彼を描かれては、私の出る幕はありません。
祥子さん、戻ったら、またたっぷりと至福の時を過ごしてください。
2015/01/18 13:30| URL | masterblue [Edit] - 管理人のみ閲覧できます
-
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/01/18 13:34| | [Edit] -
このお話。女性目線で読んでみたいものです。
(^^)
異性と逢う話というのは、男性目線だと概して騒々しくなりがちなのですが、この男性は比較的理知的ですね。
言葉のやり取りが多いわりに、なぜか全文を通してシンと静まり返った雪の夜の静寂を気配で感じることができるので。
時おり、祥子さんの艶姿を前に理性を忘れそうになっているようですが。 笑
私ならこと果てたあと着替えて暖かいものを食べに行くんなら、男女ともにこざっぱりとして出ますかね。
(^^)
あと、お写真が素敵です。
んまい日本酒を手に、見あげてみたいです。
寒そー!ですけどね♪
2015/01/18 16:43| URL | 柏木 [Edit] - 素敵です
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〉あたたかく匂やかな貴女の肌のほうが私は・・・
そんなふうに想われてみたいです。
祥子さま、今年も時々立ち寄らせていただきます^^
お忙しいでしょうが、御自愛くださいませ。
2015/01/19 04:30| URL | りん [Edit] - masterblue様
-
雪は、それが非日常の者にとって
何か物語を秘めているような気がいたします
最後のお写真は、
雪の日の帰途の電車ギリギリに
思いついて立ち寄った場所での
ワンカットだそうです
いつもは遠目で堪能する五重の塔も
見上げるアングルだと
一味違いますね
2015/01/26 06:35| URL | 加納 祥子 [Edit] - りん様
-
ありがとうございます♪
今年も宜しくお願いいたします
「どんなに高価なコートよりも
人肌のほうが暖かいのですよ」
と、とある素敵な紳士が仰っていた
その言葉を思いながら書かせて頂いた
ショートショートでした
2015/01/26 06:41| URL | 加納 祥子 [Edit] - 柏木様
-
女性目線ですか
とろとろに蕩けた甘い一編になりそうですね♪
もしくは「もう放っておいて」と怒り出したりして(笑)
男女の心中は、凄く違うかもしれません
このお写真の場所の近くに
美味しいピザがいただけるお店があるのは本当です
2015/01/26 06:51| URL | 加納 祥子 [Edit] -
祥子さん、こんばんは。和巳です。
相変わらずの、純文学のような文章。
美しく、そして素晴らしいです。
私の方は、今、エロスどころではなく、私なりの危機に直面し、それに対し、自分なりに挑み、臨んでます。
祥子さんからすれば、私は単なる若造、チンピラ・・・。
そんな思いを自身のブログで書き綴っています。
時折、ご覧頂ければ幸いです。
寒い時期です。お体だけは充分、ご自愛下さいね。
2015/02/05 19:50| URL | 和巳 [Edit] - 和巳様
-
コメントありがとうございます。
和巳様が新たな挑戦をされていること
時折ブログにお邪魔して拝見しております。
ひとりひとりに降り掛かる課題の重圧と苦悩は
それを引き受けた者にしかわからないこと。
チャレンジを始められた和巳様の背中は
とても素敵だと思います。
まだまだ天候は不安定ですが
今年は少しだけ桜が早く咲いてくれるようです。
必ず春がくることを想って
日々を過ごしましょう♪
2015/02/07 09:46| URL | 加納 祥子 [Edit]
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