ジューン・ブライド 21
「あそこが、散策路だね」「きれいね」
本堂の左手に紫陽花色に染まった山の斜面が見えました。たしかにあそこなら、森本さんの言う圧倒的な量の紫陽花を楽しめるかもしれません。
「だめよ。お参りが先。」
わたくしは、本堂の前を通り過ぎようとする森本さんの袖を引きました。
「おねがい・・・手を・・・ほどい・・・て」
優しいキスの狭間で、わたくしはずっと縛められたままの手を今度こそ自由にしてくれるようにと頼んだのです。
「ごめん、祥子さん」
トモくんは、キスを止めることなく両手をわたくしの背中にまわすとネクタイを解いてくれたのです。彼の右手に握られたヴィトンのネクタイは、くしゃくしゃになっていました。
「もう、使えないわね。」
「いいんだ、こんなもの。」
贅沢な絹の拘束具は、ひらひらとわたくしのふくらはぎの上に落ちてゆきました。
「手、大丈夫?」
「ん・・・ちょっと痺れてるだけ」
滑らかな絹は、平らなだけ後に残るような痣にはなっていませんでした。が、わたくしの手首にはくっきりと縛られたあとが残っていました。
それ以上に、踏まれた時身体の重みを全て受け止めていたことで、じんじんとした感覚が残っていたのです。
「痛い?」
トモくんは、大きな手のひらでわたくしの右手を・・・そして左手を・・指一本一本をもみほぐすようにマッサージしてくれるのです。
「痛くはないわ。ん、ありがとう、感覚ももどってきたわ」
手首の痕が薄れてゆくほどに、手のひらはいつもの感覚を取り戻していたのです。
「あんな無茶な縛り方しちゃだめよ。」
「うん。」
まだわたくしの右手を両手に包み込んだままで、素直に頷くのです。
トモくんの中に、縛りへの好奇心が芽生えた以上、正しい知識は必要です。
でも、もう教えてあげる事はできません。無茶をしないよう・・・女性の身体には限界があるのだということだけが、いま教えてあげられる全てでした。
「ね、シャワーを浴びさせてちょうだい。」
トモくんに支えられ立ち上がったわたくしは、彼の首筋に白い腕を絡めると・・・そう囁きました。いまなら、きっと素直に言う事を聞いてくれる・・・はずでした。
嫉妬に駆られたトモくんの責めは、わたくしの太ももの間をはしたなく・・・濡らしたままだったからです。
「シャワーの前にベッドだよ。僕が綺麗にしてあげるよ。祥子さんのフェロモンがぷんぷんしてる。」
マッサージしたばかりの手首をわたくしの身体の前でクロスさせて掴むと、トモくんの182センチを超える大柄な身体ごと・・・ベッドへと向かうのです。
「だめっ・・・ね・・ゆるして」
わたくしの腰には、再び堅く昂った塊が・・・押し当てられていたのです。
「ヘアがなくなって舐めやすくなってるんだ。祥子さんクンニ好きだろう。今夜はたっぷり舐めてあげるよ。」
今度はベッドに仰向けに押し倒すと、跳ね上げる両膝に手を掛けて・・・大きく左右に割るんです。
ジューン・ブライド 22
「ああぁぁぁぁ・・・っ・・」トモくんの舌がわたくしのアナルから真珠までを・・・一気に舐め上げたのです。
この数日、片時も休むことなくわたくしの秘められた柔肌は苛まれ続けておりました。
「とろとろだよ祥子さん。こんなに濃いジュース、美味しすぎるよ。」
「はぁぁぁ・・いゃぁぁ・ん・んぁぁ・・」
じゅるりゅゅ・・・じゅりゅ・・ わたくしのはしたない声に、トモくんの立てる淫らな水音が絡まります。
「祥子さんの こんなにぷっくりしてる。キスしてってねだってるみたいだよ。」
「やぁぁぁ・・・ぁぁあぁ・・・」
ちゅぅぅぅぅ・・・ 指一本触れられてもいないのに・・・すでに大きくなっているピンク色の真珠を吸い上げてゆきます。
女性の快感の芯を口で愛する方法をトモくんは完全にマスターしておりました。
がむしゃらに貪って痛みを与えるのではなく、その寸前の快感の極みまで・・・舌と唇と・・・時には歯をやさしくあてがって軽くしごきたてるようにすることさえ、いまでは自然に・・・あぁぁぁぁ・・・
「ええっ、こんなに登るんだ。」
長谷寺の上境内の大黒堂の脇から、眺望散策路は山の傾斜面に沿って上へと伸びておりました。
「もう、大げさね。登るってほどでもないでしょう。あんなに綺麗なんですもの、行きましょうよ。」
観音堂でいつまでも手を合わせていたのを先へ行こうと急かした森本さんを、今度はわたくしが急かす番でした。
「都会の子だからなぁ。こういうのあんまり得意じゃないんですよ。それに、実はちょっと高いところが苦手で。」
本気とも冗談ともつかない口調で、森本さんが言い訳をします。
つい先ほどまで、ロケハンのための写真を熱心に撮ってらしたのです。絶対にこの場所のことは気に入っているはずなんです。
「年配の方も歩いてらっしゃるんだから、結構歩きやすいと思うのよ。ね、お仕事に必要なんでしょう、行きましょう。高いところに行って怖かったら手を繋いでいてあげるわ。」
強面の映像監督さんに、そんなことを言う人は周囲にはいないのでしょう。
年下だからという気安さで、わたくしは優しく言うと彼の背を押したのです。
散策路は登り始めてみると、前日の雨の影響も感じさせないほどに足元は階段状に整備されておりました。安全のためにしっかりと組まれた竹の手すりが周囲の雰囲気を壊さない様に、巡らされておりました。
唯一つ、傾斜路はときどき想像よりも急な所があったのです。
森本さんは、わたくしを先に登らせると少し後からゆっくりと付いていらっしゃるようでした。カメラを手に行く先を、そして振り返っては眼下のお堂を背景に咲く紫陽花に向けて何度もシャッターを押されているようでした。
お仕事モードに入った彼に、声を掛ける必要はありませんでした。
わたくしは階段にこすらない様に、長いデニムのフレアースカートの裾を右手で摘んでゆっくりと自分なりのペースで散策路を楽しんでいたのです。
「ねえさん。」
「なぁに?」
カシャ・・・ 散策路の一番上の踊り場に足を掛けたところで、わたくしは森本さんの声のほうに振り向いたのです。
にこやかな微笑みの表情、前髪を押さえた左手。そして、前開きのデニムのワンピースから覗いたストッキングに覆われた太ももから白革のローファーのつま先までも、カメラは捉えていました。
「きれいだよ、ねえさん。」
踊り場の先で待つわたくしに追いついた森本さんは、先ほどの一枚をデジカメのファインダービューに再生して、見せてくれたのです。
まさか、わたくしが撮られることになるとは思ってもみませんでした。
「仕事のお写真を撮らなくてはいけないのに、メモリーの無駄遣いなんてしちゃだめよ。」
照れ隠しに本当の姉のように優しく叱ると、カメラを受け取ったのです。
ジューン・ブライド 23
そこには・・・見事な一幅の絵がありました。ピンクからパープル・・・ブルーへとグラデーションを見せる紫陽花の中に、花の色を凝縮したようなサマーブルーのカーディガンと一段濃い藍のワンピースを着た女性がロングヘアとロングスカートの裾をひるがえして・・・微笑んでいるのです。
「わたくしじゃないみたいだわ。」
アングルのせいもあるのかもしれません。写真の中の女性は本当にわたくしではないように・・・見えました。
「僕のイメージしていた出会いのシーンにぴったりなんです。ここまで登ってきたかいがありました。」
ありがとう・・・そっと森本さんの手にカメラを戻しました。
彼はそのまま何枚も、お堂の鈍色の瓦を背景に一層映える紫陽花を写してゆきます。
「もっとこう観光地風な風情のない場所かとおもっていたけれど、ここは素敵ね。連れてきてくださってよかったわ。」
「ねえさんがそう言ってくれたらうれしいな。」
山の上に吹く風が、少し汗ばんだ身体に心地よかったのです。
カメラの電源を切ると、森本さんは散策路にある鉄柱に腰をもたせかけ、ほぉっと・・・ため息をついたのです。
「ねえさん」
「なぁに?」
「さすがに一番上までくるとドキドキもんだね。」
そういえば、森本さんが高いところが苦手だということを、以前聞いたことはありました。だから、観覧車とか苦手でさ・・・と恥ずかしそうに微笑んで珈琲を口に運んだ横顔を今でも憶えています。
「ん、でもちゃんと柵もあるし、大丈夫でしょう。」
怖いなら手を繋いであげるわ、その言葉を実行に移す様に、彼の手に開いている右手を重ねてあげたんです。
「がんばったご褒美がほしいなぁ。」
「ごほうび?」
「そう、ねえさんから」
ほんとうに、まるで甘えた幼い弟です。
「何が欲しいの?」
わたくしは森本さんに正面から向き合いました。
「これっ・・・」
軽く繋いだ右手をぐいっと引くと、森本さんはわたくしの唇を奪ったのです。
「あぁぁっ・・だめぇぇぇ・・・トモくぅぅ・・ん」
トモくんの両腕から・・・彼の快楽で責め立てるような舌から・・・なんとか逃れようと・・・わたくしは身を捩ったのです。
「だめだよ。クンニで逝くまでゆるさない」
ちゅぷ・・・ トモくんの舌は・・まるで先ほどまでのキスでわたくしと舌を絡め合い・貪りあったように・・・今度は花びらを翻弄し・ねぶりあげるのです。
「ゃぁぁぁ・・・あっあぁぁぁ・・ゆる・・し・てぇぇぇ」
二枚の花びらを割ると・・堅く尖らせた舌をねじ込むようにして・・・わたくしの蜜壷を犯すのです。
わたくしの声が一段と高く・・細く響いたのをトモくんは冷静に確認していたのでしょう。今度は姫菊を・・細かなひだの一本一本を確かめる様にねっとりと舌でなぞります。
「そこ・・だぁめぇぇ・・・はぁぁ・・ん・・」
「柔らかくしとかないと 後で痛いよ」
「だめぇ・・・き・たなぁ・・い・・あぁぁぁ」
身体を合わせないと決めてはいても、女の嗜みとしていつもトモくんと逢う時と同じように・・・清めてはありました。でも、仕事の後シャワーも浴びないままで・・・こんな風に彼の唇と舌で責められるとは思ってもいなかったのです。
「汚くなんかないよ。祥子さんのここ、美味しいよ。こんなことも・・・してあげる。」 ちゅぷぅ・・・ 堅く尖らせた舌先を姫菊の蕾に押し入ろうとするのです。まだ堅い蕾には彼の舌先を迎え入れる事など出来はしないはずなのに・・・幾度も幾度も・・・トモくんは繰り返します。
「ああっ・・・やぁぁ・・」
ぬぷぅっ・・・ どれだけ心は抵抗をしたことでしょうか。
なのに身体は・・・ほんの少しづつですが・・彼の舌を受け入れていったのです。
ジューン・ブライド 24
姫菊の内側に男性のやわらかな粘膜の感触を感じた瞬間、身体はこわばり・・・きゅぅっと彼の舌を締めつけたのです。「っく そんなにきつく締めつけちゃだめだよ、祥子さん。舌をちぎるつもり?」
一旦姫菊の中から離れたトモくんの舌は、また姫菊の外側をたんねんに舐め回すのです。
「だ・めなぉぉ・・・はぁぁあっ・・・」
姫菊を責める間・・わたくしの大きな真珠はトモくんの鼻先に嬲られていました。舌は花びらから溢れ落ちてくる蜜を舐めとり・・・そのまま花びらの尾根へと・・・登ってきました。
「祥子さんはアナルもきれいだよ。ここも。いつ可愛がっても・・・きれいで、美味しくて、いやらしい」
ぺちゅ・・・ぺちょぉぉ・・くちゅ・・・ しなやかな茂みという邪魔者のないふっくらとした丘の谷間を・・・自在にトモくんの舌が舞ってゆきます。
「あぁぁ・・・いいのぉっ・・いい・・トモくぅぅぅん」
「いくんだね、祥子さん。いけっ!!」
ぺろっ・・ちゃぷぅぅ・・・ ちゅぅぅぅ・・・ ああっ・・・そんなにしちゃぁ・・・だめ・・・・・
「あぁぁぁぁ・・・いくぅぅぅぅ・・・」
真珠を吸い上げられて・・・わたくしはトモくんの口戯で・・・達してしまったのです。
「もう、だめ。この悪戯っ子。」
ちゅっと軽く合わせただけの唇に、わたくしは森本さんを軽くにらんで嗜めたのです。
「はははっ ねえさんのくちびるは柔らかいね。さっ、戻りましょうか。」
悪びれもせずに笑うのです。
「しかたないわね。」
彼の肩をぽんと叩いて、先に行く様に促しました。森本さんにいまのわたくしの表情を見られたくなかったからです。
写真を撮りながらゆっくりと降りてゆく彼の背中を、わたくしは見つめていました。
ねえさん・・と呼ぶ彼を、わたくしは本当の弟のように錯覚していたのです。戯れのようなキスは、改めて森本さんのことを1人の男性なのだと意識させました。
恋愛ではない友情に近い好感で今日の一日を二人で過ごすことを了解したつもりでした。
森本さんは魅力的な男性でした。わたくしの好みにタイプであることも確かです。
でも・・・。
回廊のように花の道は続いていました。
でもその道も、経堂の前を抜けると上境内に戻ります。
わたくしは先ほどのことは単なる戯れだと思う事にしたのです。目の前を歩く男性は、気のいいわたくしの<弟>なのです。
「ねえ、お腹が空かない?」
振り返った森本さんの顔も、珈琲専門店の隣で並んでみるいつもの顔に戻っていました。
「そうね、いま何時かしら」
「もう1時近いんだ。ごめんね、こんなに連れ回して」
「いいのよ。雨の上がった翌日の午前中が紫陽花の花は一番きれいなんですもの。」
「そう言ってもらえるとほっとするよ。お昼にしよう。和食がいい?洋食がいい?」
「ん、気分的には和食かしら。」
「じゃ、急ごう。」
「ええ」
わたくしの手を取って森本さんは弁天堂へと向かう道へと歩き出しました。
「いったね、祥子さん。」
わたくしの脚を抑える手に力を込めたまま、トモくんは唇を離しました。
「ぁぁ・・・だめ・・ぇぇ・・」
達した緊張の後で気怠くなった脚をなんとか元に戻そうとしたのです。水槽の青い明かりの中・・・わたくしは・・・はしたない場所を晒されていました。
「きれいだよ、祥子さん。こんなきれいなピンク色してるんだ。いつも綺麗だっておもってたけど、ここも白くて・・・」
ちゅっ・・・萌え出たばかりの丘に・・・キスをするのです。
「あぁっん・・・」
くちゅっ・・・上り詰めたばかりなのです。トモくんの視線は新たな蜜を湧き出させる力を持っていました。
男性と違って・・・長引く淫楽は・・・彼の目の前の真珠も花びらも・・・いまも溢れ出した蜜で淫らなコーティングを施しているはずでした。
「僕が開発してあげたアナルもひくひくしてるよ。祥子さん、欲しくなっちゃった?」
中指を花びらの間を泳がせて蜜にまみれさせると姫菊の中心を・・・つついたのです。
ジューン・ブライド 25
「ぁうん・・おねがい・・・みない・・でぇ」わたくしは自由になった左脚を・・・抑えられたままの右脚に引き寄せようといたしました。
「だめ、閉じちゃ。こんなに可愛い祥子さんが見られてうれしいよ。」
改めてわたくしの脚を押さえつけてじっと・・・熱い視線を・・愛撫するように這わせるのです。
「ああっ・・・」
「ほら、また垂らしたね。きれいだよ、祥子さんの愛液。すっごくいやらしい匂いがする。」
「みないで・・・ゆるして・・・」
「その顔も、きれいだ。祥子さんが羞恥にまみれて感じてる顔、僕好きだよ。」
トモくんはようやくわたくしの間から立ち上がると、ベッドの上に・・・わたくしに被いかぶさるように乗ってきたのです。
トモくんはわたくしの上から、左の乳房をその大きな手でやわらかく包んだのです。
「足で踏んでも気持ちよかったよ。祥子さんの胸。ぷにぷにしててもっと強く踏みたくなった。」
「ひどい・・・わ」
いまの彼の手は優しかったのです。
「はじめてしたんだ、あんなこと。感じるなんて思ってなかった。勃起しちゃったよ。」
わたくしを踏みつけ・嫉妬をぶつけていたとき・・・Gカップの乳房を・・茂みのないむきだしの丘を踏みつける感触にトモくんが感じていたなんて・・・。
「あ・・ぁあぁん・・」
柔らかく掴まれた中心をトモくんの唇が啄んだのです。酷くされた後の優しい舌の感触が、わたくしの身体から艶めかしい喘ぎを導きださせました。
「また堅くなっちゃった。ほら」
わたくしのふとももに触れる彼のトランクスの前は、堅く・熱くなっていました。トモくんは身を起こすと、その場で邪魔なものを脱ぎ捨てたのです。
「欲しい?祥子さん。」
彼の引き締まったお腹につくほどに反り返った大きな塊を・・・右手でくいくいと動かしてみせるのです。先端にはぺっとりと・・・透明な液体がまとわりついていました。
「ぁぁ・・・すごいわ」
いつもよりももっと大きく見えるトモくんの塊に、はしたなくため息のような声を漏らしてしまったのです。わたくしは、いままで何度この塊に・・・貫かれてきたのでしょう。
「言ってごらん、祥子さん。ちゃんと、ほら。」
我慢できないかのように、トモくんの右手は塊に淫楽を送り込む様に、ゆっくりと動いてゆくのです。
「おねがい・・ちょうだい、トモくんのでしょうこを犯して。」
はしたなくわたくしの声は掠れていました。
「良く言えました♪」
「ああぁっ・・」
ずぅん・・とトモくんの大きな昂りは、わたくしの再奥までを一気に貫いたのです。
「さすがに土曜日だね。思ったよりも混んでたよ。」
森本さんが車を滑り込ませたのは、七里ケ浜からほど近いリゾート・ホテルの駐車場でした。
「R134はね、仕方ないわ。」
鎌倉の海岸線を湘南へとつづく国道134号線は、渋滞のメッカでもありました。今日のこの流れなら、まだましな方だったでしょう。
森本さんは、長谷寺の駐車場で携帯のアドレスから一つの番号を選ぶと、手慣れた感じで昼食の予約を入れたのです。
お時間が・・・というホテルの方の声も聞こえたのですが、エアコンの効く車内にわたくしひとりを残し、お1人だけ車外に出るとほんの数分なんとか交渉をしてしまったようでした。
「さ、お腹もすいたしまずは腹ごしらえさ。」
海に面して建つホテル棟のはずれに建つ、離れのような和食レストランへとわたくしを導いたのです。
和食レストランは落ち着いた雰囲気を醸し出していました。
白壁にどっしりとした梁が、以前訪れたことのある箱根の宿を思い出させたのです。
もう、昼食のピーク時は過ぎていた様です。海を望む窓際のテーブル席が、わたくしたちに用意されていました。
「お飲み物はいかがいたしましょう。」
サービスの女性がおしぼりを手にわたくしたちに問いかけます。
「とりあえず、ビールをください。瓶で。ねえさんも飲むでしょう。」
「もう、運転大丈夫?」
「酔いが醒めるまで庭でも見ながらのんびりしてから帰ればいいんだから。喉かわいたしね。」
確かに、わたくしも喉が渇いていました。紫陽花が綺麗なうちにと、早朝からいままで休憩もしないで3つの寺院をまわってきたのですから。
「しかたないわね。」
わたくしは、サービスの女性に頷きかけました。
「どうぞごゆっくりなさってください。」
もうメニューはお願いしてあるのでしょう。サービスの女性がそのまま下がると、次には小振りなビアグラスと、ビールをトレイに戻ってらっしゃったのです。
「どうぞ。」
わたくしは森本さんへビールを傾けたのです。
「ねえさんも。」
今度は森本さんが。涼しげな泡を載せた黄金色の液体が切り子のビアグラスを満たしてゆきます。
「おつかれさまでした。」「おつかれさま。」
チン・・・グラスを交わすと、森本さんは一気にグラスのビールを飲み干したのです。