ジューン・ブライド 16
「今日はTバックじゃないんだね、祥子さん」トモくんの手が目の前の双丘をなでまわします。
「・・ぁはぁ・・ん・・・」
左右からまるみを寄せるように・・・そして次には・・・その指が埋まるほどの白い丘を広げるようにして・・・・。
「祥子さん、あれから誰かとアナルセックスした?」
腰を覆うサテンの布の中央に親指をくいこませるようにして・・・トモくんの指はわたくしの姫菊の在処を探るのです。
「してな・・い・・わ・・・あん・・やぁ・・」
「祥子さんがどうしても生理中だから嫌だっていうなら、今夜はアナルですればいいよね。」
「だめ・・・トモくん・・」
「夏以来だと堅くなってるかもしれないから、ローションを買ってじっくり僕がほぐしてあげるよ。僕がバージンを奪ったアナルで、また祥子さんを狂わせてあげる。」
彼の左手の親指が・・堅く閉じた姫菊を見つけました。
彼とは・・・互いに他の方との行為を話したことはありませんでした。
ですから、本当はアナル・バージンを奪ったのが美貴さんだということも、トモくんにアナルを犯されたあと・・・何人かの方にその場所を許したことも・・・つい10日前にも失神するほどに陵辱されたことも・・・あえて伝えてはいなかったのです。
わたくしに、自分以外に関係を持っている男性がいることは・・・トモくんも当然のこととして受け止めていたでしょう。
ただ、いままでは他の方に抱かれたどんな痕跡も、彼には見せたことはありませんでした。リアルに感じることのない漠然とした<男>の存在は、年若い彼の嫉妬を誘うほどのことではなかったのです。
「やめて・・・ね トモくん」
身体がだめならセックスはできない、それで諦めてくれると思っていました。
まさか、あの時以来一度も望まれることのなかったアナルでつながることまで・・・口にするとは思わなかったからです。
「アナルですると祥子さんの喘ぎ声、いつもより高くなって可愛いよ。また聞きたいな、あの声。」
そういうと、トモくんはわたくしを後ろ向きにしたままで・・・タイツを引き下ろしはじめたのです。
「あぁっ・・・おねがい・・ここじゃいやぁ・・・」
室内の明かりは消えていても、水槽の内部からの照明が青白くわたくしを照らしていたのです。
「どうしてここじゃだめなの、祥子さん。」
もじもじとするわたくしの腰の動きを、楽しむ様にゆっくりとトモくんの手はタイツを下ろすのです。
「こんなに明るいのは・・いや」
触れればわかってしまう・・・のはわかっていました。
でも明るいところで彼の目に、剃毛の痕の恥ずかしい状態を晒されるのは・・・もっと恥ずかしかったのです。
「ほら足を上げて」
トモくんはわたくしの左足を上げると30デニールのタイツを抜き取り、つづいて右足からも・・・取り去ったのです。
「だめだよ、祥子さん。今夜が最後なら祥子さんが恥ずかしがっていままで見せてくれなかったところも全部見るよ。本当は部屋の明かりだって全部点けたいくらいなんだ。水槽の明かりがロマンチックだから、我慢してるんだからね。」
むき出しになったヒップの薄い皮膚に、トモくんの暖かな手が直接に触れてきます。
「おねがい・・・トモくぅん」
ガーターストッキングを着けて逢った時には・・・駐車した黒のベンツワゴンの陰で、スカートの裾をくぐった彼の手に何度となくTバックで露になっている白い双丘を・・・こうしてまさぐられていたのです。
その時のことを思い出しているかのように、トモくんは半分ほどを覆っているハイレグ・パンティの裾を双丘に食い込ませるようにして・・・まるみを全て青白い光の中に晒してゆきました。
ジューン・ブライド 17
「祥子さんの真っ白でおおきなお尻。頬擦りしたくなるくらい・・・すべすべでいやらしいんだ。」言葉通りに擦り付けられたトモくんの頬のざらざらとした髭の感触が・・・わたくしの肌に微かな痛みを残しながら這って行ったのです。
「あぁぁっ・・・・」
まるで茂みを失ったわたくしの太ももの合わせ目はこんな風だと・・・トモくんに見透かされているようでした。
「祥子さんももう我慢ができなくなってきたかなぁ。そろそろ、最後の一枚もぬぎぬぎしようね。」
トモくんの指が・・・サイドが紐のように細くデザインされた黒のサテンのパンティにかかりました。
「あっ・・・あん・・だめぇぇ」
なんの躊躇もなく、光沢をもった布地はわたくしの足首まで強引に下ろされてしまったのです。
「それじゃ、次は長谷寺に向かいますね。」
先ほどの言葉が嘘のように、シートベルトを締めた森本さんは車を出したのです。
「ここから長谷寺へは、若宮大路を下馬で右折して由比ケ浜大通りを真っすぐいった突き当たりなんです。」
車をスムーズに若宮大路に向けたものの、信号を1つクリアする間もなく軽い渋滞につかまってしまいました。この通りは、わたくしも大好きな陶器のお店もある人気の観光エリアなのです。悪気なく止められた路上駐車の車両も、この渋滞の原因の一つなのでしょう。
「あぁこれだからなぁ。そんなに酷くはならないと思いますけど、由比ケ浜大通りも混んでいるでしょうから、ちょっと時間がかかるかもしれないですね。」
ゥィィィ・・・軽い音を立ててパワーウインドウが上がってゆく。
「窓閉めます。エアコンにしましょう。こうすれば外の喧噪も聞こえませんからね。」
「ありがとう。」
こんな時、森本さんの落ち着いた姿勢にはほっとできます。
一緒に車に乗っていて、自然渋滞にいらいらする男性の隣にいてもどうして上げていいかわかりません。気を反らすような会話を仕掛けても上の空、そんな気まずい空気は彼との間には生まれそうもなかったのです。
「ねえさん、もしかして結構疲れてる?」
いつもと変わらぬ態度を取っているつもりでも、なにか違っていたのでしょうか。
「いいえ と言いたいけれど、いつもと変わらないわって答えるのが正解かもしれないわ。」
動き出した車列に前を向いたままで話しかけてくれる森本さんの横顔を見つめます。
「ごめん。無理させちゃったかなぁ。朝も早かったしね。」
軽くヘッドレストに預けた後頭部、ゆったりとハンドルに伸ばされた両腕。彼がリラックスして運転を楽しんでいることは良くわかりました。
「気にしないで。楽しんでいるし、一度は見てみたいと思っていた鎌倉の紫陽花をゆっくりと楽しめて満足しているのよ。」
車内の温度を下げようと頑張っているエアコンの吸排気音だけが気になるくらい、静かな車内でわたくしは声を高めることもなく答える事ができました。
「まだ僕はこの時間は元気だから、ねえさん疲れてるなら寝ててもいいよ。長谷寺に着いたら起こしてあげるよ。」
そろそろ下馬の交差点です。右折のウインカーが上げられました。
「ん、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ。着いたら起こしてね。」
そういって、わたくしは窓に顔を向けて眼を閉じたのです。決して眠ったわけではありませんでした。瞼の下には、あの時のトモくんの顔がありありと浮かんでいたのです。
「祥子さん、そのまま水槽に頬を付けて。お尻を突き出すんだ。」
トモくんは足元に絡み付くサテンの布を、先ほどのタイツとは比べ物にならないほどに乱暴に取り去ると・・・わたくしの後に膝立ちになったままで、そう命じたのです。
「や・・・トモくん・・ここじゃ・・やぁ」
「ほら、もっと脚を広げて。祥子さんの血まみれのあそこを僕に見せるんだ。さぁ」
彼の声は、その姿と同じ重量感と迫力を語尾に向かうほどに含んでいました。
「あん・・みないで」
わたくしはそろり・・・と上体を倒していったのです。
「もっと。祥子さんがいつも僕におねだりする時の姿勢だよ。ほら」
彼は半歩だけ横に廻ると、わたくしの背に手をかけてぐいと・・・頬が水槽にぺったりとつくほどに身体を倒してしまったのです。
「祥子さんがいままで一度も僕にみせてくれなかったあの日の身体・・・っ」
トモくんが息を飲むのがわかりました。
ジューン・ブライド 18
わたくしの・・・どちらかといえば豊かな漆黒の茂みは、花びらを守る丘から姫菊のあたりまでをいつもやわらかにカールしたヘアで覆っていたのです。なのに・・・いまはまったくその柔らかな茂みはなく、ぽつぽつと伸びかけたトモくんの髭のような芽吹きが、白から鴇色へと変わってゆく柔らかな皮膚に散りばめられているだけだったのですから。
「どうしたの これ」
トモくんは立ち上がると、わたくしの身体を起こし・・・正面を向かせたのです。
「見ちゃ・・・いや・・・」
わたくしの声は、羞恥に掠れておりました。
「自分で したんじゃないよね。祥子さんがそんなことするわけない。誰にさせたの? ねえ、祥子さんのここ誰に剃らせたの」
トモくんが初めて見せた嫉妬でした。
17も年上の女が、自分だけを相手にしているとは思ってなかったとしても、彼に許している以上の行為をさせている相手がいるとまでは・・・思っていなかったようでした。
「あなたの知らない人よ」
わたくしは精一杯冷静を装った声でたった一言、言い放ちました。
そう、彼にはもうわたくしに嫉妬をする資格などないのです。逢っている時だけの恋人、そんな都合のいい謳い文句で続けたセフレという関係は、トモくんの結婚で今日でピリオドを打つんですから。
「あうっ・・・」
なんの予兆もなく、トモくんはわたくしをその場に押し倒したのです。縛められた両手が身体の下敷きになる痛みと、無遠慮に花びらに押し込まれた中指にわたくしはうめき声を上げてしまったのです。
「何をするのっ・・・」
わたくしの身体はこれまでの彼との行為ですでに充分な蜜をたたえていたのです。トモくんの中指はずぶずぶと進んで・・・同じ様に唐突に引き抜かれました。
「生理も嘘だったんだね。」
はしたない蜜に濡れそぼった中指を水槽の青白い光に晒すと、くちゅ・・・ トモくんは口に含み指の根元まで咥えて・・・透明な愛液をねぶりとったのです。そして、押し倒されたままのわたくしの隣に仁王立ちになりました。
「ここを見られたくなかったからか?」
トモくんの足が・・・わたくしの茂みのない太ももの狭間を・・・踏みつけました。
「うっくっ・・・そうよ。あなただけじゃなくて、誰にも見られたくなかったわ。」
彼の足裏にもちくちくする感触は伝わっているでしょう。なのにそれを楽しむように、ぐりぐりとわたくしの柔らかな丘を踏みにじるのです。
「その変態野郎だけってことか?」
わたくしの身体の上にあった足を・・・太ももの間に強引に割り入れると、今度は反対の足で左の乳房を踏みつけるのです。
「はぁぅっ・・・言ったでしょ。誰にも、よ。」
Gカップの乳房は柔らかく流れはするものの・・・圧倒的な質量でトモくんの足裏の蹂躙を受け止めておりました。
痛みは身体の芯を僅かに到達するころには快感に色を変えるかのように走り・・・トモくんの足の下で乳首は鴇色に堅くなったままでした。
「ご主人様が出来たから、僕はもう用無しってことか?」
左足をわたくしの右脚を広げさせる様にして戻すと、今度は先ほど無毛の丘を踏みしめていた脚で右の乳房を踏みつぶしたのです。
「あぁっ・・・ちがうわ。関係ないわ。」
足の親指と人差し指で・・きりきりと乳首をしめつけるのです。力加減のできない足指は、わたくしの感じやすい身体を苛むのです。
「ひぃぃっ・・・やめてっ・・」
トモくんは乳首を摘んだままの足で、今度は踵をやわやわとした乳房に埋め込もうとするようにぐりぐりと押し込むのです。
「違わないだろう。そいつにはここをこんなにさせるくせに。」
限界まで乳首を摘まみ上げたところで足指を離すと・・・またちくちくと萌え出たばかりの丘を踏みつけるのです。
「あっ・うっ・・ぅぅ・・・ちがう・・わっ・・・」
こんなに・・憎しみをぶつけるかのような・・・男の力で押さえつけるような・・・仕打ちをトモくんがするとは思わなかったのです。痛みに言葉はうめきに代わり・・どう伝えても・・彼には届かないのかと・・絶望しかけたのです。
わたくしの眦を・・・つうぅぅっと涙が流れてゆきました。
「ねえさん、着いたよ。」
森本さんがわたくしの肩を軽く揺すっておりました。
ジューン・ブライド 19
「あら、思ったより早く着いたのね。」わたくしは森本さんに見られない様に、一筋の涙の痕を手の甲で拭うと軽く倒していたリクライニングを起こしたのです。
シートに凭れて瞳を閉じていても、わたくしは眠ってはいませんでした。
森本さんが音を押さえてかけてくれたクライズラー&カンパニーのレッドルームから流れる心地よい音色を、OLD LANDMARKから白鳥の湖まで全て聞いていたのです。
二人きりの車にいながら、トモくんとの最期の夜を不自然じゃなく思い出すために・・・彼の言葉に甘えていただけでした。
森本さんは何かを気づいていたのかもしれません。
さりげない彼の優しさに対する礼儀として、いま森本さんの声で目覚めたばかりのように・・・振る舞いました。
「大丈夫?ちゃんと起きてる」
「森本さんの運転が優しいから、うとうとしちゃったわ。」
「ちょっと歩くけど、平気かなぁ」
「ええ、せっかく連れて来て頂いたのだから長谷寺の紫陽花を見たいわ。」
「ん、それじゃぁ行きますか。」
森本さんはカメラを手に車を降りました。
運転席のドアの前でわたくしを待って、紫陽花の景色を求めて想像よりも広い長谷寺へと歩き出したのです。
「どうしたの、祥子さん」
トモくんはわたくしを抱き起こすと、先ほどまでの荒々しさが嘘のように・・・唇で涙の痕を拭ってくれたのです。
わたくしの涙を見たのは、トモくんにとっては初めての出来事でした。
年上の大人の女。そのイメージに一番相応しくない<涙>を見せるようなことはいままで一度もいたしませんでした。
トモくんの瞳の中から、嫉妬に高ぶっていた感情がゆっくりと醒めてゆくのが眼に見えるようでした。
「トモくんには、誰よりも知られたくなかったわ。だから、身体のことを言い訳にして逢えないってメールしたのよ。」
彼の腕の中で、わたくしは静かに語りかけました。
「食事だけでもしたいって、トモくんが言ってくれた時うれしかったわ。はじめて普通の恋人になれたみたいな気がして」
そう、夜の住宅街の交差点やホテル街のある繁華街ではなくて、老舗のおでんやさんで彼と待ち合わせることについ数時間前まで心躍らせていたのです。
「お正月にご挨拶に行ってきたの?彼女のご両親のところに」
「うん」
「お許しをいただいたんでしょう。よかったわね。」
「うん」
「おめでとう」
わたくしをその腕に抱き起こしたまま、トモくんは言葉少なに肯定の言葉だけを繰り返していました。
「あのね、トモくん。もうあなたに逢えないって言ったのは、あなたが結婚するからなの。」
「でも・・・」
「お願い聞いて。わたくしも、以前に結婚していたことがあるわ。」
16年間・・・貞淑な妻で、浮気など考えない真面目な夫だったけれど・・・
「愛している夫に、他に女性がいることがどんなに切なくて、辛い事か、誰よりもわかっているわ。そして、疑心暗鬼になった奥様といる男性が、決して幸せになれないことも、ね。」
後手に縛られた腕は、痺れた様に痛んだままでした。
不安定な姿勢を安定させようとほんの少し身じろぎしたわたくしを、トモくんはなにも言わずに、左腕に力を加えて背を支えてくれました。
「トモくんに幸せになってほしいの、わかって頂戴。」
彼の力強い腕が、わたくしを抱きしめたのです。
「きっとわからないよ。いままでだって気づかれてないんだ。」
「いままでとは、恋人だった時とは違うわ。24時間・・・一緒に暮らすのよ。すぐに気づくわ。」
そう、何年も結婚生活を重ね心の離れた夫婦でさえ、女の勘はあなどれないものです。
ましてや、心が夫にしか向いていない新妻には隠し通せるわけがありません。
ジューン・ブライド 20
「トモくんをわたくしだけの恋人にしたいって、何度も思ったわ。でも、そんなことは無理。17歳の年の差は埋まらないわ。こういう日がいつか来るってわかっていたから、セフレという関係を続けてきたのよ。」「祥子さん。」
「わたくしは、あなたのことを・・・何も知らないわ。知っているのはこの身体とベッドのなかのことだけ。」
首をかしげると・・・顔を埋めた彼の胸に小さくキスをしたのです。
「それで充分だろ。」
耳元で吐き出す様に出された声には、強い悲しみが宿っていました。
「おねがい。あなたのことを嫌いにさせないで。」
彼もわかっているはずなんです。
「トモくんが好きなの。わたくしだって、あなたがこの腕で毎晩若くて可愛い奥様を抱くって想像するだけで嫉妬するのよ。さっきまでのあなたと同じ、わかるでしょう。」
トモくんの腕に、一層力が籠りました。
「逢う度に、じゃぁねとトモくんの車から降りるたびに・・・嫉妬に狂いそうになるの。次に逢うまで辛い・・・あなたとそんな悲しい関係になりたくないわ。おねがい。わかって。」
「・・・うん。」
彼の声がようやくいつもの落ち着きを取り戻したのです。
「最後だから、思い出をちょうだい。トモくんにたくさん可愛がってほしいの。」
「祥子さん。」
トモくんはわたくしに・・・降るようなキスを浴びせたのです。
長谷というと大仏様を思い浮かべてしまうのは観光客だけなのかもしれません。
土地の名を持つ寺院である長谷寺は、厳かな表情の十一面観音菩薩を本尊とする観音山に広がる広大な敷地の寺院だと、山門近くの案内に印されておりました。
「思ったよりも、厳粛な雰囲気だね。」
先を歩く森本さんは、鶴岡八幡宮のあじさい園と同じ様に、わたくしの手を握ったままでした。
「もう、ころんだりしないわ。大丈夫よ」
整備された広々とした駐車場を歩きながらそう言ったわたくしの手を、まぁいいじゃないといって屈託なくとったのです。
「仲のいい姉弟だって言えばいいさ。」
「もう」
こちらにはロケハンのために訪れたのです。
いずれ彼がカメラを手にするときは自然とこの手も解いてくれることでしょう。
「ねえさん、行こう。」
森本さんは、二人分の拝観料を払うと山門をくぐったのです。
「このお寺は、紫陽花だけじゃなくてお花がたくさん植えられているのね。」
すぐ目の前に広がる妙智池の周囲にも色鮮やかな初夏の花が奔放に咲き乱れているのです。
「最近の観光寺院にとって、庭と花は大事な集客装置だからね。」
さっそくにカメラを構えた森本さんは振り向きもせずに、シビアな現実を口にします。
「ふふふ、罰当たりって言われちゃうわよ。」
「でもさ、ここに来ている拝観者のどうだろう85%はきっと紫陽花を見にきたんだよ。観音様を信仰して、なんて客は5%もないよ。」
「ここにも、紫陽花目当ての不届きものが2人ね。」
「たしかに」
あははは・・・ 明るく笑う森本さんの肩がやさしく揺れています。
池をわたると本堂までは、上りです。
左右の植栽が見せる景色の変化を楽しみながら、地蔵堂で一度手を合わせると鐘楼を通って本堂へと進みました。