芳しき丘へ
どこまで行けばいいのだろうそう思うほど幾つもの林を抜けた先に
その丘はあった
油絵のような濃厚な色味が幾重にも重なる
夏のはじめだけの景色
香りのあまり強くない種類の百合なのに
まるで強い香りに包まれているような
錯覚を覚える
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ビジネススーツと革靴
セルシオで到着したこの場所は
主が経営する会社の持ち物のひとつ
「一度ぜひお越しください」
この季節のために丹精を込めて
1つ1つの花を育てている庭師からの電話で
突然このスケジュールが決まった
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この丘を彩るのは百合だけではない
ラベンダー、モナルダ・ベルガモット、アガパンサス
フロックス・ナターシャ、ヤロウ、アスチルベ
様々な宿根草が風に揺られ繊細な美しさを添え
花の蜜に惹かれた
蝶が我が城のように乱舞する
「今年はまだ庭が若いが来年ならいいかもしれない
あの女性を連れて来よう」
サマースーツの背中を見せたまま
主の美貴がつぶやくように言う
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高原・主とその友人たち・あの女性
雪の高原の別荘にあの女性をお連れした時の
狂おしいほどの熱情と欲情が一瞬で蘇る
「ゆるして・・・いっちゃぅぅぅ」
何度その声を出させただろう
幾度その声に共に頂きまで登らせられただろう
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気配を感じて振り向いた先に
あの女性のような一輪の花が咲き誇っている
純白の穢れのない姿なのに
私を主と友人たちをそそらずには済ませない
何かをまとったあの女性に似ている
早くあの女性に逢いたい
そう思った瞬間に主が言った
「ここからそう遠くない場所に
あの女性をもてなすための
別荘をひとつ手にいれてくれ」
「はい 承知しました」
自ら口にした答えが私の心の片隅を焼く
主とその友人たちへの嫉妬と
私一人があの女性を独占できない時間が
どうしようもなく存在するその事実に
オンデマンド版(ペーパーバック)配信開始と明日から楽天koboキャンペーンスタート
ご無沙汰いたしておりました電子書籍関連のお知らせです
1)オンデマンド配信が始まります♪
既刊の淑やかな彩シリーズの電子書籍を
ペーパーバックとしてお買い求めいただけるようになりました
出版社のアットマーククリエイト様から
「加納さんの本が<紙の本>になるんですよ」と
説明を受けてはいましたが
ちょっとドキドキです
お取り扱いはAmazonと三省堂の店舗になります
まだ皆様のご贔屓のサイトすべてではご注文いただけないのです
ごめんなさい
きっと少しずつお取り扱い先も増えてくるかと思います
末長くよろしくお願いします
2)楽天koboスペシャルプライスキャンペーン
7月2日10:00から8月6日9:59まで
<21:00>をスペシャルプライスでお求めいただけます
まだお手にとっていらっしゃらない方
お試しにいかがですか?
3)初雪(下)校正はじめました
なにせ長いお話なので
お届けできるまでまだまだお時間がかかるかと思いますが
出版社様のご好意で初雪(下)の校正を
開始することにいたしました
またいつか・・・近いうちに
配信のご案内ができたら嬉しいです♪
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「初雪」の中で降っていた雪のように音もなく落ちてゆく
沙羅のお庭を拝見しました
「ちゃんと今を生きていますか?」
今日開いたばかりのお花に
そう語りかけられたような気がしました
いつまでもじっとしていたい
でもいつ目の前のその花が
落ちてしまうかもしれない
目を離すことができない切なさを
身体中に感じた初夏の2時間でした
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