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初雪 23

テーブルの上にはコンチネンタル・ブレックファーストが用意されてありました・。
コーヒーを望月さんがサーブしてくださいます。焼きたてのロールパンとサラダとふっくら焼き上げたオムレツがとても美味しそうでした。
「いただきます」 
あたたかなコーヒーから口を付けたのです。
 
「それじゃ、先にいくよ」 
わたくしが半分ほど食事が進んだころです。美貴さんが立ち上がりました。
「ご一緒にいらっしゃるのではないんですか?」 
この人数です。2台の車で一緒に行くものだとばかり思っておりました。
「今回は別荘ですから、僕たちが先に行っていろいろ準備しておきます。祥子さんは山崎と石塚がお連れいたしますから」
「心配いらないですよ。僕たちはローバーでゆっくり行きましょう」 
石塚さんがコーヒーを口にしながらのんびりと仰るのです。
「荷物がいろいろありますから望月はもう連れて出ます。あとのことはホテルのスタッフに言いつけてありますので、全てまかせてください」 
美貴さんの後で、望月さんがわたくしに軽く目礼なさいました。
「気をつけていらしてください」 
立ち上がりお見送りをしようと思ったのです。
「いえ、お食事を続けてください。別荘でお待ちしています」 
それだけを微笑んで仰ると、美貴さんと運転手の望月さんはお出かけになったのです。
 
「望月くんと別々なのはそんなに心細いですか?」 
わたくしの横顔を見ながら山崎さんが問いかけます。
「いえ・・そんなこと」 
意識すらしていなかった、ほんの微かな想いを見透かされてしまったみたいでした。
「妬けるなぁ。箱根でですよね。あのとき東京に居れば一緒に行ったのに」 
石塚さんが混ぜっ返すのです。
「もう。知りません」 
わたくしは冗談めかして、この場を切り抜けることにしました。
 
「そういえば、こちらの車は石塚さんが運転してゆかれるのですか?」 
運転手の望月さんは先に行ってしまわれました。車の持ち主であろう石塚さんがこれから長距離の雪路をドライブなさるのでしょうか。
「いえ、雪道ですし僕のところの運転手を呼んであります」 
食後のコーヒーを注ぎながら、答えてくださったのは山崎さんでした。
「申し訳ないわ。その方に。」 
元旦の朝なのです。こんな日に社長の命令・・・とはいえ雪道をドライブするためにお時間を割いてくださるなんて。
「祥子さんがあやまるようなことではないですよ。独身でドライブ好きなので、社用車じゃないAV車を運転できるよって話したら喜んでいたくらいですから」 
「そろそろだろ、山崎」 
クローゼットからウインタージャケットを取り出した石塚さんが腕時計を覗き込みます。
「時間に正確な人だからもう来るでしょう。祥子さんはこれをお召しになってください」
「これを、わたくしに?」 
わたくしの肩に掛けられたのはシャドーフォックスのコートでした。毛並み・使われている毛皮のしなやかさ・・・決して安価なものではないはずです。
「あちらは寒いですから。それに今日の装いには祥子さんのミンクではドレッシー過ぎるでしょう。僕の会社の商品ですけが、いいものです」 
「ありがとうございます」
ふんわりと柔らかく暖かいコートはわたくしの身体にしっとりと馴染みました。

Fur2.jpg

ピンポン・・・ 山崎さんの会社の運転手さんがいらしたようです。
バッグを手に3人でドアに向かったのです。
 
「おはようございます。結城と申します。よろしくお願いいたします」
そこに立っていたのはジーンズにダウンコートを羽織った・・・ボーイッシュで小柄な女性でした。
「時間通りだね。休日出勤で申し訳ないが、よろしく頼みます」 
山崎さんが優しく話しかけています。日頃から信頼なさっている様子がとてもよくわかりました。
「お手数お掛けします。よろしくお願いします」 
山崎さんと石塚さんに囲まれながらわたくしもご挨拶をいたしました。結城さんはどこか堅い表情のままで会釈を返されたのです。
「よろしくな」 
フランクな挨拶は、石塚さんと結城さんに面識があることを窺わせます。
なのに・・・やはり彼女はにこりともせずに会釈を返すだけでした。

荷物は全て望月さんが運び込んでくれてあるのでしょう。わたくしはハンドバッグだけを手に、二人の男性はコートだけを羽織って部屋を出ました。
「これがキーだ。地下駐車場に停めてある。僕はフロントに寄って行くから先に車に行っていてくれ」 
エクゼクティブフロアのエレベーターホールで、石塚さんはポケットの中の車のキーを結城さんに手渡しました。
雪の別荘と男性達は言っておりました。 
寒冷地仕様の車でも、雪道の走行はそれなりのドライビングテクニックが必要なはずです。なにも言わずにキーを預けるのですから、彼女の技術は信頼に足るものなのでしょう。
「別荘って、どちらになりますの」
「軽井沢の奥に万座スキー場があるのをご存知ですか?」 
「ええ」 
雪深い土地でした。プリンスホテルが除雪をする有料道路の先にある有名な温泉地でもありました。雪のワインディングロードを注意深く登って行くしかありません。
「あの近くになります。とはいっても少し外れてますから静かですよ。温泉も引いていますしね」 
わたくしに腕を差し出し、エスコートをする山崎さんが教えてくださいます。
「石塚さんの別荘ですの?」
「ええ、そうです。木立に囲まれてますから夏でも涼しくてね。ゴルフのときに良く3人で利用しているんです」
「だったら、石塚さんが先に行かれた方がよろしかったのではないですか?」
ゆうべ3人がどんな打ち合わせをしたのか・・・先に休んだわたくしは知らなかったのです。
「美貴は何度もいっているから勝手知ったる場所なんですよ。それにね・・・」 
チン・・ フロントフロアにエレベーターが到着してしまいました。 
「じゃ、すぐ追いかけるから」 
石塚さんだけが降りていかれます。
「いつも美貴ばかりが祥子さんを独り占めするから、今日は『僕たちふたりに祥子さんと過ごさせろ』とゆうべ石塚が迫ったんですよ」 
にこにこと山崎さんが謎解きをしてくださいました。
「もう・・そんなことを仰ったの」
「僕も石塚さんの意見には異議なかったですからね。それで美貴と望月くんに先発隊を頼んだのですよ」 
チン・・・地下駐車場に到着しました。
エレベーターホールの少し先に、ブラックボディのレンジ・ローバーが停まっていました。
「結城くん、あの車だよ」 
山崎さんの言葉に一礼すると、彼女は車に走りよってゆきました。

ドアを開け、ドライバーズシートに収まるとエンジンを掛けて暖気をします。
「ほんの4・5時間ですが、僕たちだけの祥子さんになってください」 
山崎さんはわたくしと腕を組みゆっくりと車まで歩いてゆきました。
結城さんが運転席から降り、リアシートのドアを開けてくださいます。
ロングボディの・・・4人で乗るには十分すぎる贅沢な空間がそこには広がっていました。
 
「どうだい?運転は」 
ドライバーズシートの結城さんに、気遣わしげに山崎さんが話しかけます。
「はい、大丈夫そうです。いつもの別荘でよろしいのですね」
「そうだ。頼むよ」
「少し慣れるまでいろいろしますが、安心して乗ってらしてください」 
まるでわたくしなどそこに居ない様に山崎さんにだけ語り続けるその言葉は、まだ少し堅く感じられたのです。 コメント
NoTitle
こんばんは。
昨夜は、インターミッションたけだと思いましたが、ストーリーもあったのですね。今夜、二話まとめて読ませていただきました。

祥子さんの衣装、山崎さんの魂胆が見えるようですね。特にフロントファスナーのスカートと紐で結ぶパンティーは、期待が膨らみます。祥子さんが車の中で受けるいたぶり、私の想像が当たっているでしょうか。楽しみです。何にもなかったというようなことは、よもや無いでしょうね。

結城さんが新登場ですね。女性が絡んできたのは、祥子さんにとって初めてではないでしょうか。こちらも楽しみ。

伏線の沢山ある、期待の盛り上がる二話でした。
おやすみなさい。

2006/03/31 21:23| URL | masterblue  [Edit]
masterblue様
一昨日の夜<初雪22>をアップしたのは
丁度masterblue様のコメントをいただいた後でした。
2話まとめてお読みいただけたとのことありがとうございます。

今回の衣装は・・・ね♪ あんまりですものね(笑)
きっと当たってらっしゃるとおもいますわ。
これから車で移動するだけですのに・・・酷いでしょう。

2006/04/01 08:40| URL | 祥子  [Edit]
家族が来ます
今日から3泊で家族が上海に遊びに来ます。楽しみです。
家族がきているときはプログをのぞきに来ることは出来ないと思いますが、来週水曜日にはまた遊びにきます。
祥子さんがどんなふうになっているのか楽しみにしています。

2006/04/01 09:42| URL | yamatan  [Edit]
yamatan様
春休みですからようやくご家族がいらっしゃるのですね。
美味しいイタリアンで久しぶりの団らん楽しんでらしてください♪

2006/04/01 10:31| URL | 祥子  [Edit]
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