ジューン・ブライド 10
圧倒的だったのです。彼の存在感が・・・わたくしを欲しいという想いの強さが・・・ストレートに押し寄せてきたのです。
身体だけ・・・快楽だけを共にするだけの関係。欲しいと思った時だけメールで連絡するだけ・・・。彼の本当の名前すらわたくしは知りません。でも、ここまで続いたのは、トモくんが好きだったからです。
その力強いしなやかな筋肉が、若さを感じさせながらもしっかりと太いその声が・・・わたくしの決心を溶かしていったのです。
「もう一つの乳首はどうなってるかな。 ああ、こっちもこんなに大きくして。ブラをしててもわかっちゃうよ、祥子さん。」
「ん・・くぅ・・・・」
困惑に唇を噛むわたくしの表情を見つめたままで、被いかぶさる様にして唇を重ねるのです。被いかぶさるトモくんの胸板が・・・サテン地ごしにわたくしの乳房を荒々しく愛撫するんです。
くちゅぅ・・・ はしたない水音と水槽の明かりを跳ね返すような唾液の糸を引いてトモくんの顔が離れていきます。
「こんな表情を見せつけておいて、忘れろなんて祥子さんは残酷だよ。」
彼の左手はわたくしの髪を引き・・・困惑と快感に歪む表情を真上から見下ろすのです。
「トモくん・・・やめて。ほどいてちょうだい。」
わたくしの声は・・・でも・・・もう欲情に掠れていたのです。
「ねえさんは、額紫陽花が好きだっていってたんだっけ。」
運転席でエアコンの調節をしながら、森本さんが思い出した様に1週間前に交わした会話を口にしたのです。
わたくしの実家に、昔祖母が好きだと言って植えていた額紫陽花があったこと、園芸品種として開発されたうつくしい紫陽花も好きだけれど、額紫陽花のさやかな風情も格別だと思っている事。
鎌倉へというお誘いを受けた時に、問わず語りの内にわたくしは森本さんに聞かせておりました。
「よく憶えていたわね。」
「ん~印象的だったからかなぁ。ねえさんの持ってる雰囲気なら、カメレオンみたいなすっごく豪華な西洋種の紫陽花でも似合うのに、時々えって思うくらい粋なものやシックなものを選ぶよね。」
結局森本さんは、思い切ってエアコンを切ると走り出した車のリアの窓をほんの少し開けました。渋滞のあまりない平日の鎌倉街道を進むごとに気持ちよい風が車内に吹き込んでまいりました。
「そう?」
森本さんの口調が、ようやくいつもの気軽な様子になってきました。
初めて、二人きりで出掛けたからでしょうか。今朝、いつもの珈琲専門店の前でピックアップされてからずっと、少し堅い仕事モードの言葉づかいが混じった会話になっていたのです。
「鶴岡八幡宮にある植物園の紫陽花は、額紫陽花が中心らしいんだ。よかったら行ってみますか?」
「ほんとう、うれしいわ。でも、いいの?スケジュール押してない?」
「大丈夫です。どうせ通り道だしね。」
その言葉の通り、通り沿いには鶴岡八幡宮の駐車場を案内する表示がちらほらと見えてきたのです。
まっすぐ前を見てレガシーを運転をする森本さんの横顔から、車窓を流れる通り沿いの紫陽花の花へとわたくしは視線を移したのです。
鶴岡八幡宮の植物園といえば、ぼたん庭園のことでしょう。雪囲いに覆われた冬牡丹の見事なその庭は、源平池の向こうに広がっていたはずです。この時期にはあじさいが見頃になっているとは思ってもいませんでした。
「今日はあんまり混んでなかったね。もうすぐですよ。」
数台の車が並ぶパーキングの入り口が見えてきました。
「あら、そうね。ちゃんとお参りもしたいわ。」
「はいはい、ねえさんのご命令の通りに♪」
おどけた口調で答えを返しながら、ブレーキをきっちりと踏みウインカーを出して心地よく減速させると、駐車待ちの最後尾に車を付けます。森本さんの明るい声にわたくしも思わず微笑んでしまいました。
「待つかとおもったけれど、すぐに停められそうね。」
ご祈祷が終わったのでしょうか、数台の車がパーキングを出たのです。
「これも日頃の行ないっていうことで。」
車を進め、駐車スペースを見つけると、わたくしが一瞬どきっとしたのを知らぬ気に、森本さんは助手席のわたくしのシートに手を掛けて・・・車をバックさせたのです。
「だめだ。解いたら祥子さんは抵抗するだろう。だから、だめ。」 わたくしの髪をとらえたままで、トモくんの右手はブラジャーのストラップをゆっくりと片方ずつ落としはじめました。
-
湿気を帯びた夜気の中、妖しいくちなしの香りが香ります。
自分の小旅行の影響でゆっくり、伺えないうちに2作が、こんなに進んでいたのですね。
白山神社の紫陽花も見事でしたよ!
2006/06/23 09:56| URL | るり [Edit] -
るり様
お忙しいようですね、お身体は大丈夫ですか。
白山神社はまだ紫陽花の時期には伺った事が無くて
いまが見頃かもしれませんね。
2006/06/23 16:31| URL | 祥子 [Edit] -
Hydrangea macrophylla
額紫陽花、大好きです。
長崎育ちなので・・・・。
こんなに好きなのに・・・でも、トモくん
他の人と結婚するんだね。(涙)
2006/06/23 20:47| URL | さやか [Edit] -
さやか様
勉強不足でした。長崎では額紫陽花がメジャーなのですか?
最近はようやく園芸品種としても注目されてきておりますが
それまではあまり注目されない花でしたよね。
トモくんもわかってるんです。<好き>の種類が違う事くらい。
17年上の妻はやはり非現実的でしょう。
でも、だからといって結婚することがわかっているコと
愛人関係をつづける気持ちに・・・・わたくしがなれないのですから
しかたありませんわね。
2006/06/24 00:12| URL | 祥子 [Edit]
トラックバックURL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| BLOG TOP |