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唐紅 5

次に彼が持ってきたのは大判のバスタオルでした。
わたくしの胸を一巻きし左胸の上に端をはさみこむのです。
「ん・・・」
少し冷えてきたわたくしの素肌に彼の手はとても熱く思えました。
正直にいえば・・・彼の目の前でなににも遮られずに全てを晒されるのではないとわかって、ほっとしておりました。
だからといってこれで許されたわけではなかったようです。
「あん・・・いや・・・」  
三度跪くとタオルの下に熱い手を差し入れ、わたくしの身体を覆っていた最後のレース取り去ったのです。
「だめです。おねがい・・・触れないで」 
わたくしの足先から抜かれたTバックをなんとか奪い返そうとしました。
なぜなら・・・彼に手首の釦を外されたときから、わたくしは自らの身体から溢れ出すものを止められなかったから。
「返して・・・」 
わたくしが差し出す手を無言で、でもやさしく払いのけて、はしたなく濡れそぼっているに違いないレースの布を彼はやはり丁寧にたたむと乱れ箱におさめます。
あまりの恥ずかしさにわたくしは彼のほうを見やることさえできませんでした。
  
「どうぞこちらへ」 
壁際にしつらえられた化粧台の椅子を引きわたくしを座らせます。
籐で編まれ天板に硝子を使用した化粧台には大きな鏡がありました。
座るまで気がつかなかったのは・・・ずっと化粧台に背を向けたままで彼に脱がされていたからだわ。
「あっ・・・」 
そのときはじめて、彼の視線が宙をさまようように動いていたことを思い出したのです。 
彼はずっとわたくしの正面にいました。
白く滑らかな背と、バストと同じだけのふくらみを持つ腰を・・・わたくしの視線の届かない姿だけは彼には見られていないとずっと安心していたのです。
彼がわたくしの背にあったこの大きな鏡で・・・転びそうになってかがんだときの腰まで見ていたのだとわかって、わたくしはもう・・・鏡ごしにさえ彼の目をみることができなくなりました。
 
「ひどい・・・ひと・・・」 
使い込まれた柘植の櫛でストレートロングの黒髪を梳られながら、わたくしは思わずつぶやいてしまいました。
「櫛のあたりが痛かったですか。祥子様」 
聞こえていたはずなのに・・・わたくしの言葉を無視して髪を後で1つにまとめようとしています。
何も答えないのを大丈夫だと解釈したのでしょう。
左手で根元を握った髪を右手でくるくると巻くと、赤い珠のかんざしを使って器用にアップに結い上げてしまいました。
「・・・すごい 上手なのね」 
髪の一筋もつることなく見事に夜会巻きに結い上げられた髪は、わたくしの恥じらいが生んだ怒りをわずかの間に溶かしてしまったのです。
「ありがとうございます。後ほど髪を洗わせていただいたらもう一度結わせていただきます」
そして・・・無防備になった首筋からパールのネックレスをはずすと、櫛とともに置かれていた白の綾絹の袋にしまいました。
 
「このままおまち下さい」 
全てをおさめた乱れ箱を、彼はやはりわたくしが気づかなかったドアの向こうに持ってゆきました。
「お待たせしました」 
戻ってきた彼はタオル一枚だけを腰にまいていました。
適度に陽に灼けた肌とトレーニングで鍛えられているのであろうしなやかな筋肉が、運転手の身体をおおっていました。
車を運転するだけの人・・・そのひ弱な印象は素の彼には全くなかったのです。
 
脱衣所の川音の聞こえる側には1枚だけの扉がありました。
彼が先に立ってゆっくりと戸を引きあけると、そこは露天風呂だったのです。
 
侵入者とその視線を拒むように槙の垣根に守られた一画は、正面の紅葉の山肌を絵画のように一層引き立てていました。
きっと離れの屋根からのライトアップもあったのでしょう。
美しく色づいた葉の一枚一枚が照り映えておりました。
「きれい・・・」 
わたくしは踏み石の上で、次の一歩を踏み出すのを忘れてしまったかのように見惚れてしまいました。
「祥子様 お気をつけて」 
先に下りた運転手は手を差し出すようにして、わたくしを踏み石から板敷きの床に下ろします。 
ほのかに檜の香りがいたしました。
踏み石のすぐ右手には掛け湯用の小さな湯船があったのです。
屋敷に続く左手は途中に1枚の戸を置いた濡れ縁になっておりました。
「失礼いたします」 
運転手の声に視線を彼に戻すのと、彼の指が左胸の上のタオルの端をはずすのが同時でした。
「いやっ・・・」 
はらりと落ちかかるタオルを両手で押さえると、わたくしはくるりと彼に背を向けてしまいました。
 
「祥子様・・・」 
運転手は背中からわたくしを抱きしめたのです。バスタオルを押さえるために身体に回したわたくしの腕ごと・・・すっぽりと。 
思わぬことにわたくしは身体を堅くしてしまいました。
 
「祥子様はそんなに私をお嫌いなのですか?」 
耳元に囁きかけるように彼は言います。
「はじめてお逢いしたときのことで、わたくしに不信感をお持ちなのですか?」 
声も出せず小さく首を横に振るしかありません。
「私が主の運転手をしているからですか?」 
ちがうの・・・その気持を込めて首を振ります。
 
「祥子様。私は祥子様のお世話をさせていただくだけで、もうこんなになっているのです」 
強く押し付けられた彼の腰には熱く脈打つ大きな塊がありました。 
それだけではなく、背中には少し早くなった彼の鼓動まで伝わってきたのです。
 
「主から幾度となく祥子様のことはうかがいました」 
一言づつ区切る様に、川音に消されない程度の優しく小さい声を耳元に直接届けるのです。
「祥子様が最後まで決してご自分からお求めにならないほど慎み深い方だと、主は感心しておりました」
「身体がどんなに求めても、快感に飲み込まれてしまわない精神性を持たれた女性だと何度聞かされたことか」
「ぃゃ・・・」 
あの夜のことを、男性達がそんな会話として交わしていたのかを聞かされて、抱きすくめられた身体はますます火照ってゆくのです。
「はじめてお迎えに上がった時から素敵な方だと思っておりました。でも、直に言葉を交わさせていただいて、主の話を聞いて・・・ますます想いは募ったのです」 
彼の言葉を裏付けるように塊は熱さを増し、ひくひくと動きつづけていました。
 
「祥子様が慎みのある淑女であることは存じております。このように男性に身を晒すことにどれほどの羞恥を感じでいらっしゃるのかも良くわかっております」 
「だったら・・・」
「どれほど私に身を任せてどんなお姿をなさっても、祥子様がそのことを喜ぶような恥知らずで淫らなだけの女性なのではないと重々わかっております」
彼の言葉に込められた想いがあたたかくわたくしを包み込むのです。
「どうか 日頃お仕事で男性の方達をかしづかせている時と同じように、私のお世話をお受けください」 
抱きしめる腕に・・・また、わずかに力が込められます。
「祥子様がほんとうにお嫌だとおっしゃることはいたしません。その時はどうぞ『嫌』とおっしゃってください」
「でも私をお嫌いでなければ、どうかお約束のとおりお任せくださいませんか。祥子様を想い続けている私のために、お願いいたします」 
ようやく・・・わたくしは身体から力を抜き首をたてに振ったのです。
「ありがとうございます」 
肩先に軽く唇をつけてからわたくしを離すと、ゆっくりと彼のほうにに向けました。
コメント
ご無沙汰してます
FC2に引越しされたのですね
これからも楽しませてくださいね

2006/01/29 10:31| URL | 栗坊  [Edit]
栗坊様
お恥ずかしいのですが
まだまだお引っ越しの途中なのです
新作はmsnの方でアップしていますので
そちらにもどうぞお越しください
これからもよろしくお願いします

2006/01/29 12:10| URL | 祥子  [Edit]
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