銀幕の向こう側 18
「いや、大人の女性があんなに可愛く泣きじゃくる姿を見させてもらえて、私は幸せものだよ。」「お恥ずかしい・・わ。」
「君は泣きじゃくる姿も綺麗だったからね。」
普段は涙を見せることなどほとんどありません。
もっと言えば身も世も無く泣きじゃくったことすら、今夜お見かけしたあの方とお別れした夜に独り自宅のベッドで・・・が最後だったと思います。
蘇った記憶に、背筋を伸ばし・きりりと前を見据えていた顔を、わたくしは思わず伏せてしまったのです。大人にはあるまじき極めてプライベートな行ないを言葉にして指摘された恥ずかしさも、ありました。
「顔を伏せるんじゃない。」
「・・・はい。」
その甘えを、男性は許してはくれませんでした。
わたくしは男性の声に応え、素直に顔を上げたのです。
「そう、女王のように毅然と顔を上げてなさい。君にはそれが似合う。」
「・・はい、恐れ入ります。」
スカーフで目隠しをしたまま、ランジェリーに前を開いたままの男性のワイシャツを羽織っただけ。黒のストッキングの足元は裸足できちんと揃えて座っている。
その姿は女王というよりも、囚われ・競売に掛けられる前の奴隷というほうが似合っているのではないでしょうか。
そんな姿でも、男性は<女王>のようだと仰って下さるです。
せめて姿勢だけでも、その言葉に相応しく居たいと・・・わたくしは一層背筋を伸ばしたのです。
「シャツを脱いでごらん。」
1人で待つ間、恥ずかしいならと着ることを許された男性のワイシャツを、剥がれる時がきたのです。
「・・・はい。」
わたくしは少しだけ浅くソファーに座り直すと、左右のカフスの釦を外して、男性からお借りしたシャツを脱ぎました。
「ありがとうございました。」
手探りでざっと袖だたみをすると、男性の声のする方に向かって差し出したのです。
「ん、いいよ。そのシャツは君のソファーの右脇に置いておきなさい。」
「はい。」
男性の言葉通り、わたくしはそっとシャツをソファーの脇に置きました。
どうしたことでしょう。
先ほどとは全く違って、わたくしに触れることは無く、声と存在感だけで・・・関わろうとなさっているようです。シャツを受け取ることすらも、してはくださらないのですから。
ひとことの説明もなく変わってゆく男性の行動を、わたくしはそのまま受け入れることにいたしました。
視覚が奪われていなければ、もっと容易に男性の意図を汲み取ることが出来たでしょう。見ることができない以上全身で感じとるしかないのです。
両手も両脚も自由なのに、目隠しのスカーフを取ることもせず、わたくしは大人しくソファーに座っておりました。
ブラとTバックにガーターベルトで吊られたストッキング。その上は身体にフィットする揃いのキャミソールでした。
まるで娼婦のコスチュームのようなオールインワンのランジェリーを身に着けた姿で、指一本触れられたわけでも・命じられたわけでもないのに、自らの意志で動くことやめたのです。
- 訪問
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、コメントありがとうございます。ゆっくり拝見させていただきますね。読み応えありそうですね。
2006/09/05 14:07| URL | JAY もっと貴女を愛したい [Edit] - JAY様
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はじめまして。お運びくださってありがとうございます。
とても量がございますので、カテゴリ毎にゆっくりお楽しみいただければと思います。
これからよろしくお願いいたします。
2006/09/05 14:38| URL | 祥子 [Edit]
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