夢のかよひ路 27
「やっぱり祥子さんには、華が似合う。ドレスならモノトーンがお似合いですが、着物だとモダンで構築的な若い作家の作品では祥子さんに格負けしてしまうんですね。この絵画のような豪奢な柄を、きっと上品に着こなしていただけるでしょう。」「もう、お世辞でも目の肥えた望月さんにそう言っていただけてうれしいわ。でも、こんなに高価なものばかり、いつも・・・申し訳なくて。」
「そんなこと、気にしないでください。これは祥子さんの時間を予約するためのチケットなんですから。」
「えっ・・」
「気が咎めるのなら、この着物を着て僕とデートをしてください。いいですね。」
「あん・・・」
立ち上がった望月さんは、わたくしの顎をついと持ち上げると素早く唇を奪ったのです。
ローテーブルに用意されたアイス・ティーに冷やされた彼の唇は、半年前と同じアールグレイの香りに満ちていました。
またしても、わたくしをデジャヴュが襲うのです。半年前のあの日からずっと、望月さんの腕の中で愛され抱きしめられ続けてきたようでした。
「返事は?」
つかの間離れた望月さんの唇から掠れた声がいたします。
「ゆうや・・さん・の言うとおりに・・する・わ」
しょうこ・・さ・・・ 今度は激しく・唇も・・身体も・・・望月さんに貪られます。ディープキスは舌の絡まる音でわたくしの理性を蕩けさせ、彼の手はつい1時間前まで石塚さんに嬲られていた白い肌の記憶を蘇らせるのです。
「はぁ・・ぁ・ん・・」
「祥子さんとシャンパンの香りで酔ってしまいそうだ。」
望月さんは、広く大きな胸にわたくしを抱きとめてそうおっしゃるのです。そして・・・
「僕の名前を憶えていてくれたんですね。」
「ええ、忘れたりしないわ。」
「よかった。」
悠哉さん・・・1月3日のベッドの中で、わたくしを責め立てながら教えてくれた望月さんの名前でした。快感とともに刷り込まれた名前は、口にする度に、わたくしを疼かせたのです。
「氷が溶けてしまうまえに、アイス・ティーで酔いを覚ましてください。」
わたくしを腕の中から解き放つと、ソファーに座らせてくれたのです。
「一休みしたら、出掛ける支度をしましょう。」
喉を滑り落ちる香り高い液体は、わたくしに平静を取り戻させました。
いつもはストレートなのに、今夜は少し甘くて、そのこともほっと和ませる要因の1つでした。
「美味しいわ。ねぇ、どこに行くの?」
隣に座る望月さんを振り返ったのです。ずっとこちらを見つめていたらしい視線にダイレクトにぶつかって・・・わたくしはドキッとしたのです。
「祥子さんがいらっしゃりたい場所はありますか?」
じっと、優しく熱の籠った瞳でわたくしを見つめて真顔で質問を返すのです。
ここで行き先を言えばそこに連れて行ってくれるとでも言うのでしょうか。いえ、そんなことはもうこの時間では無理でしょう。今夜から、明日の予定はきっともう組まれているのです。
「もう、素直に教えてください。」
「ははは、行き先は内緒です。明日の夜までにはご自宅にお送りします。安心してください。そして、今夜着替えていただくのはこちらです。」
彼が差し出したのは、きちんと仕立てられた綿の一重でした。
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懇意の江戸小紋職人の方が伝統工芸展で奨励賞を受けられました。まだ50才になったばかり。お父様も人間国宝だったからいずれは…。でも、ああ、お高くなってしまいます…。お着物大好き。
こんな夜更けて、何処へ…?ドキドキ!でも、望月さんのプランならきっと素敵な事が起こりそう。
彼のいない心許無さに、また、書き出してしまいました。勝手ながらリンクさせて頂きます。また、テンプレの整理をなさる時にでも、よろしくお願い致します。
2006/10/28 09:13| URL | るり [Edit] -
るり様
『おかえりなさいませ♪』
スタートから熱々のお写真伺わせていただきました。
書く事がお上手なるり様ですから、またいつか・・・とは思っておりました。早くに戻られたなんて、とても嬉しいです。
出来るだけ早いタイミングでリンクさせていただきます。
これからも宜しくお願い申し上げます。
2006/10/28 12:23| URL | 祥子 [Edit]
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