夢のかよひ路 30
望月さんはわたくしの前に回り込むと袖を通した長襦袢を一度さっと開け、改めて合わせてゆきました。たゆんとしたGカップの白い乳房が、ちょっとした襟合わせの加減で寄せ合わされ、押しつぶされるのではなくコンパクトに襦袢の中に閉じ込められてゆきます。
キュ・・・ 伊達締めの締まる音がします。
望月さんの言葉をその時わたくしは実感いたしました。きつく閉じ込められた乳房の先端がガーゼに包まれてくっきりと立ち上がった陰を映しています。
皮膚が薄く感じやすい鴇色の昂りを、先ほど見せられた糊のきいた張りのある綿の素材でこすられ続けたら・・・もしかしたら傷つけてしまったかもしれなかったからです。
「ありがとう、悠哉さん。」
後ろに立つ望月さんの心遣いにそっとお礼を言いました。
彼には次に着せかけられた蜻蛉柄の着物に対するお礼に聞こえたかもしれません。
「いえ、この着物も祥子さんに着ていただけて本望でしょう。」
後ろ中心で襟を合わせ、かるくクリップで留めると望月さんは紐と伊達締めを手に前に戻ってらっしゃいます。先ほどと同じ白の紐は、着付けのためのものでした。
なのに・・・望月さんの手に紐様のものを見ると、期待と抗いにドキッとしてしまうわたしがおりました。先ほどの・・・括る・・・という脅しの言葉のせいでしょうか。
お着物の時は、わたくしは何もランジェリーを身に着けません。今夜は湯文字もなく絽とガーゼで作られた長襦袢だけがはしたないわたくしの身体を包むものでした。
付けているかいないかの肌着を汚してしまいかねない、いけない想像に身を浸してしまうことがないように・・・と。わたくしは自らの心を戒める様に下唇を噛んだのです。
「どこか苦しかったですか?」
着付けをしながらわたくしの表情を見あげた望月さんが、そう質問をなさいました。黙ったままの望月さんが側にいるということだけで、感じてしまった快感を押しとどめる表情はそんなに苦しそうに見えたのでしょうか。
「いいえ、大丈夫よ。」
腰骨の位置で裾を整えた紐をしばり、襟元をきゅっと引き締めます。大きく開けた襟足ときっちりと閉められた襟元のコントラストは、ただの木綿の一重を粋な装いへ変えてゆきました。
箱根の時と同じ様に、袋帯よりは少し低い位置で伊達締めを締めてゆきます。
ぴたっと決められた襟元は、さきほどまでのレースのドレスの開放感とは一線を画す、凛とした風情を感じさせたのです。
半分に折られた帯の手が、後ろに立つ望月さんから渡されました。裏が銀・表が黒地にほおずきの柄の半幅帯です。
するすると二巻きし、キュっと締めるとわたくしから手を受け取るのです。
ぽん・・と叩かれた場所には、綺麗な貝の口が結ばれていました。
「こちらにお掛けになってください」
ソファーにわたくしを腰掛けさせると、望月さんは明かりを点けにいったのです。
ふっ・ふっ 2つの蝋燭を吹き消します。
着付け終わるまで、時間にして15分足らず。その間に、アロマキャンドルは室内を優しい香りで満たしていました。
「苦しくないですか?」
わたくしの着ていたものを乱れ箱にまとめ、ハンガーに掛けて望月さんが戻ってきました。ブラシと黒のリボンがその手にありました。
「髪をまとめさせていただきます。」
そのままソファーの後ろに立った彼は、わたくしの髪をブラッシングし、左側にまとめるとざっくりと三つ編みをしたのです。束になった毛先をゴムでまとめリボンを飾ると、首筋から反対の耳元まで4カ所ほどヘアピンで留めたのです。
「痛いところはないですか?」
「大丈夫よ。」
振り返る事なくソファーの背から差し出された鏡を受け取りました。
手渡された鏡には右の耳元からグログランのリボンをコサージュのように垂らした、シンプルなアップスタイルが出来上がっていました。
-
襟を合わせる前に
一度ぴんと引っ張りながら前を開く・・・
望月さんのその動作が着物を着る前の
一瞬の緊張と
襟を合わせていく際の
折りたたまれ閉じ込められていくような感覚の記憶を
奔流のように、呼び戻してくれました。
ああ、着物が着たいなぁ・・・・。
もう、こうなったら家で普段着るしかないかぁ。
2006/10/31 17:31| URL | さやか [Edit] -
さやか様
わたくしは、自宅で着物で生活出来る<奥様>になることが子供のころの夢でした。
だからといって専業主婦になりたかったわけではないのですけれどね(笑)
自宅に居る時もいつもきちんと足袋を履いて、帯を締めて・・・そういられたらいいですね♪
2006/10/31 20:07| URL | 祥子 [Edit]
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