秋深く
「おはようございます」こんな早朝
どなたにもお会いすることはないだろうと
訪ねた有名な石の庭で
思わぬ優しい声に迎えられた
「おはようございます 早いのね」
フランネルの柔らかなグレーのスーツに
ダークネイビーのドットタイ
背筋を伸ばしたままでこちらに振り向いている
「なぜここに?」
「祥子様がいらしたと、主が風の便りに耳にして
お迎えにいってこいと言われまして」
この雅な街に到着してまだ2日目
この方達とご一緒したことのない場所にしか
まだ足を運んでいないはず
どこからの噂話なのかしら
「数多あるこの街の紅葉の名所のいくつ目で
わたくしは捕まったのかしら?」
「幸いなことに
最初のお庭でお会いすることができました」
なぜ?・・・と口にしようとしてやめた
わたくしの好みを知るなら
この天候のこの時間に出会える場所は
市内ならあと2つほどの場所しかないから
「今年は例年と比べて祥子様を楽しませることのできる
名所が少ないと存じまして
主がよろしければ
このあとご一緒にいかがですかと
申しております」
「貴方だけを迎えによこすなんて
美貴さんも人が悪いわ」
「申し訳ありません」
ふっと優しい笑みが彼の顔に広がる
欄間から透けて見える紅葉も艶やかなグラデーション
この方達と過ごしたいと想うわたくしと
ひとりの時間を惜しむわたくし
「お宿はいつもの?」
「はい、いつもの町家をご用意しております」
「今日はこの後予定もあるし
わたくしの宿をひき払わなくてはならないわ
夕方、そうね16時頃にここに迎えにきてくださる?」
ホテルカードを望月さんに差し出した
「承知いたしました
次の寺院まで車でお送りいたしましょうか?」
「ありがとう でも大丈夫よ
せっかく伺ったのだし
このお庭もゆっくり拝見したいわ」
石庭の周囲の色づきはまだだが
池をめぐる遊歩道沿いの紅葉は美しかった
朝一番の時は過ぎぱらぱらとお客様がこちらに向かってくる
「それでは後ほどお迎えにあがります」
「お願いします
美貴さんによろしくお伝えください」
すっと立ち上がる彼の後ろ姿を見送った
- 期待して
-
望月さんの登場、美貴さんの町屋へのお招き。この後のお話の展開を期待してもいいのでしょうか。
何時も、まるで予告編のようなショートショートばかりで、ちょっとフラストレーションがたまってきました。
添えられた素晴らしい秋のお写真が、美貴さんからの招待状のよう‥‥‥それに誘われた祥子さんが豊饒の海に溺れるさまで、孤独な私を満たしてください。
2015/12/08 12:23| URL | masterblue [Edit] - 偶然にも
-
おそらく同じ時期に
同じ場所で
同じ景色を眺めていたようです。
今年の古都は
暖冬で色づきがあまりよくなく
けれど
写真で切り取れば
それはそれなりに美しく。
色濃く染まった景色の中を
あなたと歩きたい
隠微なわなを仕掛けながら。
期待が膨らむ出だしです。
2015/12/12 20:36| URL | ぱぱ [Edit] - masterblue様
-
ご期待いただき恐縮でございます
ですが・・・今年もこのショートショートで
ブログを締めくくらせていただくことになりそうです
masterblue様のブログは益々ご盛況のご様子
年末年始の落ち着かない気候ですが
お風邪など召しませんように
お元気でお過ごしくださいませ
2015/12/17 09:16| URL | 加納 祥子 [Edit] - ぱぱ様
-
素敵な偶然でしたね
もしかしたら、この数日
油土塀の向こうの紅葉も
やっと美しく色づいたかもしれませんね
またどこかですれ違えたら
と思うと ドキドキしてしまいます
2015/12/17 09:17| URL | 加納 祥子 [Edit] - 管理人のみ閲覧できます
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/12/20 20:41| | [Edit] - 管理人のみ閲覧できます
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/12/23 20:12| | [Edit]
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