初雪 7
「お待たせいたしました。季節野菜のグリルでございます」白い大皿に10種類の季節の野菜がシンプルに焼かれただけで盛りつけられています。バジルとバルサミコのソースが絵画のようにあしらわれておりました。添えられたていたのは岩塩・ハーブ塩そしてバージンオリーブオイルの小皿でした。
「こんな風にするとお野菜の味も濃くなるのね」
冬に相応しい大根と京人参のグリルを取り分けます。一口頂戴してから、香り付けにハーブ塩を添えていただきます。
ただ焼いただけではなく、全ての野菜を別々にきちんと下処理をしたフレンチの技が、カジュアルなお料理を一層引き立てているのがわかりました。
「暑い時期は野菜のテリーヌが美味しいんですよ。ブイヨンのうまみがね、しっとりと・・こう・・野菜を包むんです」
フォークを右手に持ち替えた山崎さんの左手が、ナイフを持つわたくしの右手の指をあのすべらかな手でたどってゆきます。
「夏にきんと冷えた白ワインとテリーヌは絶品だからね。冬はグリルだと・・・美貴、そろそろ赤ワインに変えないか」
石塚さんの右手がドレスのスリットをくぐり、わたくしのストッキングに包まれた太ももに触れるのです。
欲情したというよりは、ほんの少し軽いタッチで・・・
「ええ、そう言うだろうとおもってシャトーラグランジュを頼んでおきました。もうシャンパンもすっかり空いてしまったみたいですしね。飲み過ぎても知りませんよ」
ははは・・これくらい大丈夫だよ、笑い飛ばす石塚さんの手が太ももの合わせ目までつぅぅぅっと・・・滑ってゆきます。
テーブルの下の戯れを美貴さんはご存知なのでしょうか? それとも・・・
ご存知であってもなくても、この方達が4人で過ごす場にこのレストランを選んだということは、わたくしに毅然とした淑女の姿を示し続けることを期待されているのでしょう。
先ほどのレストランの通路でのように。
3人の男性の仕掛けるどんな戯れにも凛とした態度を変えないこと、わずかに揺らぐようなそぶりさえ押し殺してみせる・・・わたくしはそう決めたのです。
「シャトーラグランジュでございます」
ソムリエがわたくしの好きな赤のボトルをまるで儀式のように、折り目正しくゆったりと開けてゆきます。
「テイスティングは?」
美貴さんに眼で尋ねる様子さえお芝居のようでした。
「あちらの女性におねがいします」
わたくし? 石塚さんの指はガーターストッキングの上端をなぞり、山崎さんの手はわたくしの手の甲を大理石の置物のように愛でていたのです。このままの状態でワインのテイスティングをしろと仰るのでしょうか。
にこやかに首を横に振って、わたくしは美貴さんにソムリエの儀式のお相手をお願いしようとしたのです。
でも・・・許してはいただけませんでした。
「彼女が一番このワインを愛飲しているんですよ。味には厳しいからね、覚悟したほうがいい」
眼顔でもう一度ソムリエに指示をすると、わたくしに微笑みで命じたのです。
夜の深い時間に盛装で現れて、略式とはいえフレンチを優雅に楽しむ4人の男女。
味を熟知しているというその中の1人にテイスティングを挑む・・・職業上の心地よい緊張感がソムリエを包んでいました。
とっく・・とっっく・・・ とろりとしたガーネット色の液体が、チューリップのようなフォルムのワイングラスに注がれるのです。
1998年のラベル。香りも味も見事なヴィンテージのボトルでした。
「ありがとう」
どうぞ、と差し出されるグラスにわたくしは唇を寄せたのです。
傾けるだけで溢れ出す香り。深く重いのに雑味のない赤の味わい。アクセントともいえるこっくりしたタンニンの後味。
「美味しいわ、みなさんにも差し上げてください。今日のお料理にぴったり。いいヴィンテージを選んでくださったわね」
3人の男性に順にワインをサーブするソムリエに・・・左の太ももをテーブルの下で露にされ、石塚さんの手で撫で回されながら・・・にっこりと笑みを浮かべ賛辞をおくったのです。
「祥子さんの舌は肥えてますね。まさに言葉通りだ。ありがとう、僕の顔が立ったよ」
恐れ入ります・・・美貴さんの言葉にソムリエは一歩下がった場所で控えめに答えました。一流ホテルならではのゆきとどいた躾とサービスの賜物でしょう。
「初めて飲んだが、これはしっかりしたボディのワインだね。まるで祥子さんのようだ」
脚を手で掴む様にしながら、石塚さんは喉をならし、そしてわたくしの頬に軽くキスをしてみせるのです。
「いやですわ、石塚さんたら・・」
彼の指がたった一枚だけのランジェリーの端を彷徨っていることさえ感じさせない様に・・・気まぐれなキスを嗜めるだけにしたのです。
それ以上は、だめ。軽く睨んで、グラスに添えていた手をクロスの下に運び・・・ナフキンを直すふりをして、石塚さんの腕を抑えたのです。
「本当においしいですよ。祥子さん、さすがだ」
しかたないな・・・といった表情で、指先で茂みの上をさっと佩く様になでてから手をテーブルに戻すのです。
その指をグラスの縁に沿えて、ワインをもう一口・・・。
「いい香りだ」
舌の上でワインをころがして・・淫らな視線をわたくしに投げながら、鼻先に右手の指先をかざすのです。どちらの香りを楽しんでいるのでしょうか。
「祥子さんと一緒ですとワインも香りを増しますね」
わたくしの手を撫でていた左手をグラスに戻しゆっくりと・・・グラスに1/3ほど注がれているワインを楽しまれていた山崎さんがうっとりと言葉を口になさいます。
「お上手ですこと」
右隣で・・・石塚さんに比べれば紳士的な・・・山崎さんにも笑みをお返ししたのです。
石塚さんにテーブルの下で脚を嬲られて微かにわたくの身体が火照りはじめたことさえ、触れていた手を通してこの方はご存知に違いなかったからです。
- まだオードブル
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こんばんは。
祥子さんの食についての造詣の深さで、ご一緒に素敵なディナーを楽しませて頂きました。
でも、まだオードブル。この後展開される、山荘でのメインディッシュが待たれます。
責められているようで、その実祥子さんが女王様のようです。結局三人の男性はかしずいているのではないでしょうか。
この先の展開が、ますます楽しみです。
2006/03/15 19:35| URL | masterblue [Edit] - 祥子様
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今日は少しお酒を食しております。
いつもはただ仕事の忙しさで何かを抑えてるという状況ですが、今日はお酒の力を借りる事が出来ます。
この先の展開は自分の想いの通り進んで欲しいと想いますが、こればかりは祥子様の意のままですね。
今日のお酒の力を借りるとすれば・・・・・
これ以上のコメントは控えましょう・・・
2006/03/15 22:21| URL | 桜草 [Edit] - フレンチ
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引っ越したこのマンションにもレストランがあります。
1階は中華(広東料理)で、2階はフレンチですが、2階のフレンチは未経験です。
祥子さんとご一緒して、ワインを味わいたいです。
2006/03/15 22:37| URL | yamatan [Edit] - (〃∇〃) てれっ☆
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わたしごのみの展開になってきて
ヾ(@⌒¬⌒@)ノ じゅるじゅる。
おいしそうです。
早く祥子さんを食べたいなぁ・・・。
2006/03/15 23:11| URL | さやか [Edit] - 一転して雨・・・
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春らしい日差しと思っていましたが、一日と持ちませんでしたね。
いまは本格的に雨が降り始めたところです。
帰り道・・・少し憂鬱ですわ。
masterblue様
お望みの山荘のメインディッシュまではまだ長い道のりですの。
申し訳ございません。
今しばらく大晦日のホテルのメインダイニングでのディナーをお楽しみください。きっと・・・ご満足いただけると思いますわ。
桜草様
昨晩のお酒は美味しかったですか?
こころを解きほぐしてくれるお酒の時間は時に必要です。
そして、そんな心解ける時間にこちらにお越しいただけたなんて
とてもうれしいです。ありがとうございました。
yamatan様
上海は仏蘭租界がありましたから
きっとフレンチも美味しいんでしょうね。
わたくしも「どこでもドア」が手に入るのなら
ぜひ、ご一緒してみたいですわ♪
さやか様
ふふふ お好きですか?こういう展開♪
これからのシーンはたしかにお好みのタイプかもしれません。
ぜひ♪お楽しみくださいませ
2006/03/16 18:02| URL | 祥子 [Edit]
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