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みだれ華

「あの時この黒髪とうなじのコントラストから目が離せなかった」
「あっ・・・いやぁん・・」
初瀬さんの唇が伏せたわたくしの首筋をうなじから耳へと
覆いかぶさるようにして
まるで感じ易い場所が全てわかっているかのようにたどってゆくのです
「敏感なんですね 素敵です」
「あぁぁ・・・ん・・ゆるして」
人払いをなさった時にきっとただの戯れでは終わらないと覚悟はしました
でも こんなに お逢いして間もない方に乱されるとは思ってもみませんでした

白装束の身体からわたくしを引きはがすと
桜を織り出したお太鼓の後ろへと位置を変えてゆきます
「着付けなら気にしなくていいですよ
 わたしがきちんとして差し上げますから」
その言葉と同時にしなやかなのに骨太な
男の手が身八ツ口を割って入り込んだのです
「ひぁ・・・っ・・」
「やっぱり こんなに豊かだったんですね
 私の手は冷たかったですか?」
「やぁ・・ん・・・」
冷たくはありませんでした
初瀬さんの指がわずかの間にしこり立ってしまった
はしたない乳房の頂きを的確に探り当て
指先でころがしたからです
わたくしは手の甲を強く唇に押し当てました

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「本当に感じやすいのですね
 そう声を殺してください
 ほらお客様が庭のあちらがわを通ってゆきます」
「いやぁ・・・・」
左手の指先で白い乳房をもてあそびながら
初瀬さんの右手が帯締めと帯留めを
するすると解いてゆきます
「いい品だ これほどまでのものはなかなか手に入らない
 まるで祥子さん あなたのようですね」
「あっ・・・くっん・・・」
耳朶を甘噛みされる衝撃に打ち震える身体が
着物の裾をはしたなく乱してゆくのです

「さぁ 立ち上がってください」
ささやくような初瀬さんの声は
それなのにある重さをもってわたくしの身体と心に響くのです
「はぁぁ・・・ん・・」
乳房を直に握りしめた左手をそのままに
力を込めてわたくしの身体を引き上げます
「いやぁ・・・」
「しっ お静かに」
雪見障子からは遠いのでしょうが
人影が左から右へとゆっくりと動いてゆくのです
後ろに立つ初瀬さんが解く帯の衣擦れさえ
あの人達に聞こえてしまうかもしれません
わたくしは身動きができなくなってしまいました

足許に落ちてゆく帯
解かれたいく本もの腰紐
優雅に身体から引き離された着物は
初瀬さんの手で柔らかく袖畳みにされてゆきます

「さぁこちらに」
半歩導かれたわたくしは
先ほどの落ち椿を映した様な
深紅の長襦袢姿になっていました
「あぁ素晴らしい 
 あの時祥子さんを無理にでもさらえばよかった」

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「時間がないのが恨めしいですね
 この柔らかく白い身体は
 どれだけ探っても終わりがなさそうなのに」
見つめられたままわたくしは身動きが出来なくなっていました
一瞬も目を離す事無く
初瀬さんは白い袴の紐を解き
シワにならないようにぱさりと椿の描かれた着物の上に置かれました

「さぁ・・・」
白い着流し姿の初瀬さんに深紅の長襦袢姿を包まれるようにして
青畳の上に横たえられたのです
「ここが香りの元かな」
「いやっ・・・」
とっさにまくり上げられた襦袢の裾を押さえようとした手は
初瀬さんの右手に手首を掴まれ宙に浮いていました

「先ほども申しましたね
 今日は時間がありません
 性急な私もいけませんが
 出来れば憧れ続けた祥子さんの身体を
 両手を縛り上げて犯すようにしたくはありません」
初瀬さんの左手がわたくしの腰紐を掴みます
「だめですか?それなら諦めます
 でも次は覚悟をしてください」
「ちがう・・の」
ふるふるとわたくしは首を横に振りました
「くくらないで・・・」
「いいんですね」
「恥ずかしいの・・・」
「何がですか?」
わたくしの左手は自由にされました
横たわったわたくしにかぶさる初瀬さんと視線を合わせないように
庭に面した雪見障子に上気した顔を向けました

「こんな明るいところで だめ・・です
 あっ・・・あぁあん」
わずかの間に襦袢も湯文字もくつろげられ
わたくしの太ももに初瀬さんの指と唇が触れたのです
「みない・・で・・・」
「まるで落ち椿ですね 深紅の花びらに真っ白で柔らかなめしべ
 すべすべな肌の官能的なこと
 そしてこの香り わたしはもうこんなです」
「えっ」
落ちていたわたくしの左手をふたたび掴むと
初瀬さんはご自分の猛る男性自身に導かれたのです
ボクサーバンツごしでも脈打つほどに熱くなった
初瀬さん自身がわかるほどでした
「やぁ・・・」
反射的に引こうとした手を初瀬さんは許してくださいませんでした
「祥子さんのしなやかな指だけでもいいですね
 ここではその艶かしい唇を使っていただくことも
 できません
 どうかこのまま ああ いいです」
指先だけでわたくしは初瀬さんをたどりました
背けたままの顔を責めることもなく
動き出した指先に感じ入った声を上げた初瀬さんを
もう潤い始めた身体が裏切ることを許してはくれませんでした

「祥子さんの花びらを見せて下さい」
「だ・・・めぇ・・」
指先に気持ちを集中させていたわたくしの両ひざを
初瀬さんがぐいと引き上げたのです
「ああ きれいだ
 うちの宮の紅枝垂と同じ色ですね
 なんてきれいなんだ」
「はぁうっぁぁぁ・・・・」
突然濡れそぼった真珠に触れた初瀬の熱い舌先に
わたくしは声を殺すことができませんでした
「ああ 声まで艶めかしい
 でも今日は堪えてください
 いまは誰も通っていませんでしたが
 祥子さんの声なら本殿まで響いてしまいそうだ」
これだけの言葉をわたくしの花びらから一度も唇を離すことなく続けるのです
「い・・ぃぃぃ・・・」
「そう そうです 声を殺してください
 声を殺しても祥子さんの花びらから溢れる蜜が
 どれだけ感じているのか私に教えてくれますから」
「あぁぁ・・・いぃ・・・のぉ・・・」
また同じです
きれいな日本語の発音のままの舌使いと唇の動きが
わたしくの花びらと真珠をなぶっていきます
「もっと声を押さえて
 祥子さんの声はすごすぎる
 私も溢れてしまっているでしょう」
「はぁ・・・ぃぃ」
おっしゃる通り初瀬さんの塊は先端からぬめる液体を溢れさせていました
指先で鈴口をなぞったわたくしの指に感じたように
初瀬さんは花びらに顔を埋めたのです
「逝ってください」
「あぁぁ・・・だめぇぇぇ・・・・い・・っちゃ・・ぅぅぅ」
舐めすする熱い舌と唇に
わたくしは声を忍ばせてのぼり詰めてしまったのです

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「美味しかったですよ」
わたくしの蜜に唇のまわりをぬめ光らせながら
初瀬さんがおっしゃいます
「ぃやぁぁ・・・」
「このままだと襦袢にしみを作ってしまいそうですね
 今日はわたしの上にいらしてください」
「えっ」
わたくしの肩を引き起こした初瀬さんは
自らボクサーパンツを脱ぎ
畳に横たわられたのです
彼の塊はおおらかに力強くそそりたっておりました
「さぁ この上に」
「あぁ・・・」
手を引かれてわたくしは初瀬さんの腰を跨ぎました
がっしりした腰いっぱいに膝をひろげると
初瀬さんの塊はもうはなびらに触れていました

「このまま 腰を下ろして」
「あっ・・・くぅぅぅ・・・」
初瀬さん自ら指を添えて立ち上がらせた塊の上に
わたくしの腰を引き寄せたのです
「きつい ああ なんてことだ」
「あぁぁ・・・だめぇぇ・・・」
かりの張った太い初瀬さんの塊は
わたくしの蜜壷をしごきたてるように
押し入ってきました
はじめての塊に
はしたない蜜壷はもうやわやわと動きはじめてしまったようです
「すごい 動いていないのに私がこんなに感じるとは
 祥子さんあなたはなんて女性なんだ」
「ああ・・・っく だめ・・・」
両腕でわたくしの腰を引き上げると
初瀬さんは塊を大きく突き上げてくるのです
「いぃぃぁぁぁ・・・・はぁぁん・・・」
くちゅ・・・花びらからははしたない蜜音が響きます
「いい 祥子さん あなたの乳房も見せてください」
「やぁ・・・ぁあ」
腰を離れた初瀬さんの両手は
長襦袢の襟を大きくくつろげたのです
こぼれ落ちた白い乳房は
初瀬さんの突き上げにあわせて揺れています
「すばらしい眺めですよ 祥子さん
 神に捧げたいくらいですが
 わが宮の女神には嫉妬されてしまいそうです
 その乳房も私に味あわせてください」
「んくぅ・・・はぁん・・・」

長い塊にさし貫かれて揺れていた上体を
両手を引かれて倒されました
大きくゆれる白い乳房は
初瀬さんの顔の上にたゆんと落ちてゆきます
「あぁぁ・・・だめぇぇ・・・いっちゃぅぅぅ」
両の乳首を寄せるようにして一緒に口に含むと
舌先を大きく左右に振るのです
「なんて感度がいいんだ 
 あなたの奥が一層締めつけてきます」
「いわない・・・でぇぇ・・・」
乳房に食い込む初瀬さんの指先の動きも
硬く立ち上がった乳首を舐る舌先も
「あぁぁん・・・いくぅぅ・・」
「私もそろそろ限界です」
腰の動きを早めたのは初瀬さんでした
否応無く高められたわたくしの身体は
愉悦を注ぎ込まれ肩先は桜色に染まっていました
「だめぇっ・・・・いっ・・いきますぅぅ」
甘噛みされた乳首の先を舐め上げられて
わたくしは高みを駆け上がっていったのです
「いっちゃ・・・うぅぅぅ・・・あぁぁ」
「逝きます 受け止めてください」
腰を深く打ち付けた初瀬さんは
わたくしの最奥に熱い白濁液を
たたきつけるように放ったのでした

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「もう 大丈夫ですか?」
放心していたわたくしのほつれ毛をやさしく撫で付けて
初瀬さんはそう耳元でささやきました
二人の体液は彼の胸元にあった懐紙で始末されました

初瀬さんは素早く下着を付けて
袴をきちんと身につけると
愛語でささやいたようにわたくしの着物を
見事に着付けてくださったのです

ぼうっとしていたわたくしの花びらの狭間には
初瀬さんの懐紙の数枚がまだ挟まれておりました
着付けが終わってもこの身体は
ぴくん・・ぴくんとうちふるえ
蜜壷の奥から放たれた精がしたたってきたからです

わたくしの様子をみつめながら
炉の準備をし茶席の準備を初瀬さんは続けていました

「大丈夫ですか? どうぞ化粧室を使ってください」
「はい・・・」
立ちこめる炭の香りに現に戻ると
わたくしはまだ震えている身体を
初瀬さんに起こしていただき
化粧室へと向かったのです

戻った時には
茶席の雪見障子は全て開け放たれておりました
「祥子さんの香りが素晴らし過ぎて」
「いぢわる・・・」
「我宮秘伝の香でも消せませんでした」
「知りません」
春の風は一吹きで淫靡な男女の気配を茶室から追い払ってゆきます
次々と元の茶席の姿に障子を戻してゆく初瀬さんに
先ほどまでの男の気配はありませんでした
どこを見ても清楚な宮司の姿です

「お待たせいたしました
 あと15分ほどで予約のお客様がいらっしゃいます」
「もうそんなお時間なのですね」
「申し訳ありません わがままを申しました」
今日何度目でしょう
わたくしはふるふると首を振ったのです
「私の名刺はまだお持ちですか?」
「はい」
「よかった よろしければご連絡ください」
「えっ」
「また逢いたいです 陳腐な言葉ですが
 祥子さんはいかがですか」
「わかりませんわ」
「はっはは 祥子さんの心のままに
 でもこの街にいらしたならまたお逢いすることもあるでしょう」

入って来た障子を明けると先に降り
靴脱ぎにわたくしの草履をそろえてくださいました
「私には神のご加護がありますから」
わたくしに微笑むその顔は
見知らぬ白装束の男性ではなく
灰紬の着物を着てすれ違ったあの時と同じでした

巡る春

「待って下さい」
わたくしに向かってまっすぐに向かってきたのは
着物姿がしっくりと似合うすっとした背筋の伸びた方。
白装束の袴姿の男性でした。

「あの・・・わたくしですか?」
この姿、多分この宮の宮司の方でしょう。
そんなお知り合いはおりませんでした。
「はい お忘れですか?」
朗々と響く声は祝詞に相応しいものでした。
「申し訳ありません。どこかでお会いしておりますか?」
「銀杏の黄葉が散り敷く路で名刺を差し上げました」
「あっ 初瀬さん」
「名前は憶えていてくれたのですね」
「失礼いたしました。
 あの時の紬の着物姿とは随分印象が違ったもので」
「ははははは 無理もないです」
「わたくしのことはなぜお判りになりました?」
「忘れられなかったから」
「うそ・・・」
「今日の散り椿の友禅も素敵です。
 あなたの着物の後ろ姿と黒髪が忘れられなかった。
 それは本当です。逢えてよかった」

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「今日はお一人ですか?」
あの時は、東京の4人の男性との待ち合わせの途中でした。
「ええ一人です こちらのお花を楽しませていただこうと思って」
どちらからともなく、曲水の庭を歩き出していました。
平日のあたたかな陽射しの中
この街とは思えないほど観光客の少ないこの神宮。
「先日はお名前をうかがい損ねてしまいました。
 教えていただけますか?」
そうでした。
声を掛けられてまもなく石塚さんがいらして
お名刺だけを受取ってすれ違っただけの関係でした。

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「加納祥子ともうします。その節は失礼いたしました」
「祥子さんですね。改めまして、初瀬です。
 こちらの宮司をしております。宜しくお願いします」
流れにかかる橋の上で、二人の視線が絡んでゆく。
「失礼ですが 祥子さんはこの街の方ではありませんね」
「ええ 観光客の一人ですわ」
「いやいや ここに居る事自体とても観光客とは思えない。
 着物の着こなし、立ち居振る舞い。
 声を掛けて言葉を聞いて
 はじめてこの街の方でないのだと気づきました」

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「ふふふ そんなこと」
「でも絶対にまた祥子さんとはこの街で出逢えると思っていた」
「なぜ?」
「さぁ故の無い確信としか言いようがありません。
 私のただの願望だったのかも」
茶室として立てられた瀟洒な平屋の軒先で
枝垂の花を見つめるわたくしの耳元にふいに熱い息がかかっった。
「仕事中なのにあなたが欲しくてたまらない」
「えっ」
初瀬さんの長い腕が、背中の雪見障子をふいに開きました。
「衣川さん、今日はここの予約はどうなっている?」
ファイルを手に控え室から現れた女性は朱い袴の巫女姿でした。
「今日は4時に桐崎先生のお教室があるだけです」
「それではこれから3時間ほど使わせてもらっても構わないかな」
「はい お客様ですか? あっ失礼いたしました」
大きな初瀬さんに隠れていたわたくしを認めて
巫女姿の女性は改めて居住まいを正し礼をなさった。
「ここは私がするから、
 衣川さんは本殿で来週の祭事の準備を手伝っていてくれないか」
「はい承知いたしました」
手元の書類だけを取り纏めて、彼女は立ち上がった。

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「さぁ、こちらに」
引き上げられた雪見障子の向こうには
薄く色をのせた繊細な花びらの連なりが美しく映えています。
炉を切った畳の正客の席にわたくしを座らせると
初瀬さんはゆったりと控え室から茶室の中で立ち働いていました。

「どうして?」
ふいに目の前の花の景色を雪見障子で覆われて
はじめて初瀬さんの言葉が本気だったと気づいたのです。

「祥子さんの声は聞きたいが今日は押し殺してください。
 庭を通る人たちに聞こえてしまうから」
「ぁっんんん・・・あっっくん・・・」
神官の装いの男性に唇を奪われ首筋を貪られる。
「だ・・めぇぇ・・・・」
「4ヶ月も待ったのです。
 想いを遂げさせていただきます。
 それとも私ではだめですか?」
初瀬さんの瞳が
わたくしのまなざしをまっすぐに捉えるのです。
「だめじゃ・・・ないです」
わたくしは再会して1時間たらずの男性の白装束の胸に
羞恥を浮かべた顔を埋めるしかありませんでした。


振り向くと

呼び止められた気がして振り向くと
そこにはひっそりとした紅の椿
つい先ほどまでこちらを向いていた花首を
恥じ入るように背けたよう

「あなたなの?」

心の中で呼びかけてみる
耳を澄ませても答えはない
もしかしたら
椿の奥に咲く梅の馥郁たる香り
のせいかもしれない

曲水の庭へ歩みを進めようとする

「待ってください」

今度は本当に呼び止める男性の声がした

着物姿のしっくりと似合う男性
まさかここで再会するとは・・・


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ぽとり・・・

暖かかったと思っていたのに
一夜を越えたら
うっすらと積もっていた雪

布団から出た肩先さえ
少し冷たい

ぽとり・・・

中庭で儚げな音がする

ぽ・とり・・・

今年ももうこんな季節になったのね

ぽと・・ん・・・

ひっそりと咲いていた侘助が落ちる音
きっと花の下には抱きかかえるように
うっすらと白い雪が積もっているはず

ぽと・・・

無言で肩に掛けられた布団の暖かさに
大きな逞しい胸へと振り返る

もう少しで春
この腕の中のようにあたたかな・・・春

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小春日和の庭

今朝も空気はキンと冷えていた
なだらかな坂道を上った先にある寺院に
朝の拝観を請う

しんとした本堂の
緋毛氈に差し込む日差しだけが
やけにあたたかい

「おはようございます」
今朝はこの寺のお嬢さんがお茶の係のようだ
二人分の抹茶と菓子を運び
作法通りに並べ一礼をする
作務衣の肩に薄茶色の髪が揺れた

「今日も冷えますね」
「お足許凍っておりませんでしたか?」
ふっと隣のあの女性が私を振り仰ぐ
「滑りそうになって 助けていただいたの」
一瞬目元に浮かぶ笑みに心奪われてしまう
「まぁ 大丈夫でしたか」
「ええ」
「お帰りの時も気をつけてくださいませ」
「ありがとうございます」
隣に並ぶさらさらと流れる黒髪が
あらためてゆるりと一礼をする
「どうぞごゆっくり」

二人きりの本堂はしんとしている
朝の勤行のお線香の香りがいつもよりは
わずかに強い
そして今は
とどけられたばかりの抹茶の香りに包まれている

それなのに何もつけていないはずの
隣の女性の薫りが
ふわりと立ち上っているような気がする
その場のどんな香りの印象より
ほのかでたおやかな透明感のある薫り

昨夜幾度も私を狂わせたその女性の肌を思い出す
本堂にふりそそぐ陽射しのように
あたたかくほの白く私を煽るくせに健康的な薫り

いま隣にその薫りがあることが
私の心を満たしていた

「あら かわいい」
本堂の縁側にしつらえられた手水鉢に足を止める
季節の花をその時々でお内儀があしらう
今朝は一輪の菊がやわらかな陽の中で水の流れと戯れていた
「気持ち良さそうですね」
「ほんとうに」
小春日よりも振り向いたこの女性の微笑みのほうが
暖かくまぶしかった

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