2ntブログ

緋の迷宮

祇園祭の後祭宵山と同じ夜
さほどの人出は想像していなかったにも関わらず
今や世界的にも人気の宮は多くの人で溢れていた

201707227875.jpg

201707227503.jpg

201707227616.jpg

201707227584.jpg

201707227957.jpg

緋の迷宮
あなたと訪れても引き離されてしまいそうな場所

雨の季節

ようやく梅雨模様本番のよう

青や紫の花を見ると
雨の季節を思い出すのは
わたくしだけだろうか

雨の匂い
差しかけた傘の向こうの
広い背中

足早に急ぐその背中を
渡し損ねた和傘と
この花を見るたび
思い出すのは
わたくしだけかもしれない


眩しいほど暑い日

連絡はいつもの様に唐突にやってきた

『皐月の下旬 京都でお会いできませんか?』と

風は爽やかだけれどあまりに高い気温のお昼時
お約束の場所に赴いた

201705190717.jpg

今は<青紅葉>と言い習わすらしい

瑞々しい緑の紅葉には羽の様な種が
いくつも折り重なる様に実っていた

日傘なしでは歩けない様な気温なのに
「こちらでお待ちください」
と言われた座敷は爽やかな風と
季節柄まだ優しい陰が快適な空間を創り出していた

宛名のない白い洋封筒でお誘いくださる方々なら
いつもの町家でもよろしいのに
思うまもなく男性の声が背中から聞こえた

201705190622.jpg

「お待たせしましたか?」
「そんなことはありませんわ
 とてもいいお庭ですね」
「最近手を入れた様ですね」
「三筋の滝から流れる小川が涼しげね」
「もう少しこちらでゆっくりなさいますか?」
いつも自信に溢れた涼しげな声の美貴さんの
いつも通りの冷静な口調でつぶやく様に口にした一言が
この場所が今日の目的地ではないことを教えてくれた

「こちらでしたら、またお伺いすることもできますわ
 何か予定がおありなのでしょう?」
「予定という訳ではないのですが・・・」
「構いませんわ 参りましょう」
「どうぞ、こちらです」

窓外の飛び石伝いに
木陰の奥にひっそりとある洋館に導かれた

   201705190515.jpg

「こちらです」
階段を巡る様に上がった先には
アールグレイの香りが広がるティールームが
設えられていた
「あら」
二人きりの踊り場で
本当ならここにいらっしゃるはずの
もう一人の男性の気配を探して振り向いた先には
緑けぶる古い硝子窓が
眩しいほどの日差しをたたえていた
「先ほどのお座敷でお抹茶でもと思いましたが
 せっかくの洋館ですから」
「ありがとうございます」
ゴブラン織りの椅子と彫刻が美しいテーブルで
まるで目の前で入れたての様な紅茶を口にした
「美味しいわ」
「白いブラウスとフレアスカートの貴女を見るのは
 初めてだ 新鮮ですね」
「あまりに暑くなりそうだったものですから
 似合っておりませんか?」
「良く似合っています
 このまま抱きしめてしまいたくなるくらいに」
わたくしはゆっくりと微笑みかけた
この紅茶を用意してくださった方が
待たれている場所にたどり着くまで
この方はそんな風にはなさらないことがわかっていたから

   201705190520.jpg

「ああ 我慢ができない
 だめですか?」
わたくしの左手は男性の右手に掴み取られていた
「参りましょう どちらですか?」
先ほど上がってきた階段を降りてゆく
「明日のこの時間まで
 この洋館を貸し切りました
 これから地下室にお連れします」
螺旋階段を見下ろす
先ほど入ってきた扉はすでに閉じられ
緑を反射した窓の明かりだけが
階段室を一方向から照らしていた
「ここで?」
「ええ どれだけ声を上げても平気だそうです」
「おねがい」
「なんでしょうか」
わたくしたちはすでに地下への最後の階段に
足を踏み出していた
「ひどく・・・しないで」
「もちろんです ひどいことなどしません
 なあ望月」
そこにはひっそりと微笑む
もう一人の男性が待ち受けていた

閉じ込めて

空は高く青く晴れていた
目の前を歩くあの人の姿が
ふっと揺らいで
霞んでしまいそうになる

201704306789.jpg

香りだけが後からすがりつく
藤の精の様に

今朝までこの腕の中にあった
白く嫋やかで柔らかな身体は
あれほど確かに私を受け止めて
打ち震えていたのに

陽の光の下に解き放った途端
するりと消えていって
しまうのではないかと
不安を掻き立てる

201704305507.jpg

香りなぞいらない
花と水に囲まれた回廊に
閉じ込めてしまおうか

広い敷地の片隅にある
茶室に閉じ込めてしまおうか

誰の目にも
月にも太陽にも星にも
触れさせない様に

201704306902.jpg

心の声が聴こえたはずはないのに
振り向いたあの女性の眼は
「お気が済む様になされば」
と語っていた

また昂ってゆくのを止められなくなる




最新刊 4月14日発売です♪

カメラマンの高梨さんから4ヶ月ぶりに届いた1通のメール。
コレクションシーズンの終わった彼が仕掛けた数百メートルの桜並木での艶戯から始まる白昼の逢瀬。
手の中のカメラとパリからの淫らな手土産が、彼の熱情をためらいなく祥子に向かわせる。
ひとつずつ身を守るものを奪われてゆく祥子。
どこまで祥子を求め・晒せば4ヶ月の間に溜め込まれた高梨の欲望は満たされるのか。

あの<桜陰-hanakage->がいよいよ4月14日に発売されます。

<初雪>の帰り道の3紳士のウィットに富んだ会話と、山崎への儚い恋心を意識した結城さんを描いたもう一つの外伝<レンジローバーの帰り道>を含むシリーズ最新刊。


9.jpg