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ジューン・ブライド 7

わたしくはこれ以上車内で抗う事を・・・諦めました。
彼の高ぶってゆく感情を逆撫でするだけだとわかったからです。黙って、トモくんのなすがままに・・・車中の一時この身体を委ねたのです。
「好きなんだ。別れたくない、祥子さん。」
トモくんは、わたくしの沈黙を<了承>だと受け取ったようでした。
「祥子さんじゃないと、満足できないんだ。」
いままで口にしたこともないような睦言をわたくしの耳元に囁き続けるのです。
「せめて、想い出がほしい。祥子さんの・・・この身体の。」
「・・ぁぅっ でも、身体が・・だめなの・・」
ミンクのコートの胸元に手を差し入れると、ジャケットごしにGカップの乳房を握り締めるのです。突然の強い刺激にわたくしは、思わず痛みを交えた喘ぎをもらしてしまったのです。
「今夜、思い通りにさせてくれたら祥子さんの言う通りにする。」
トモくんの手はわたくしの声を聞いて・・・優しく淫媚な動きに変わっていったのです。
「血まみれのあそこも全部きれいに舐めてあげるよ。タンポンも僕の指で引き出して上げる。いいでしょう、祥子さん。」
大柄な身体ごと多いかぶさる様にして・・・トモくんのもう一方の手は・・・わたくしのタイトスカートの太ももを撫で続けていました。
 
「鴬谷ですがどこに着けますか?」
運転手さんの声は・・・全てを聞いているはずなのに、ことさらに完全な無関心を装っていました。
「駅の南口に」
わたくしのロングヘアを掻き上げて耳朶にキスを繰り返すトモくんは、躊躇することもなくそう答えたのです。
いま彼を振り切れば、どうしてももう一度・そしてもう一度と・・・ずるずると逢わないわけにはいかなくなるでしょう。トモくんの幸せを考えれば、もうこれ以上こんな関係を続けることはできません。
彼には今夜一夜で思い切らせるのが、哀しいけれどわたくしの役割なのでしょう。
わたくしは・・・年若いセフレに・・・今夜、このはしたない身体を晒す覚悟を決めたのです。
 


 
書院づくりの建物の奥の菖蒲は、もう花の盛りを過ぎておりました。
ほんの3週間ほどの違いですが、1年前に訪れた時よりも周囲の緑の陰影は一段と濃くなっておりました。
「ここから見えるのか」
森本さんは書院の丸窓の前にしばし立ち尽くすと、改めてカメラを構えたのです。
「ええ、青紫の菖蒲の花に黒揚羽が舞っていたのよ」
「ん~見たかったな。紫陽花よりもそっちのほうが、好みかもしれない。」
「ふふふ、その気持ちは、わからないでもないけれど。でもここは別名紫陽花寺というくらいだから。そんなことを言ったら怒られてしまうわよ。」
年下の気軽さもあったのかもしれません。でも、それだけじゃなくて、いつも逢う珈琲専門店以外の場所で二人きりでいても、こんな軽口を許してくれる雰囲気が森本さんにはありました。
 
「たしかにそうなんだけど。ん~。思ったよりも紫陽花の花房が小さいというか・・・。もっとこう圧倒的な存在感みたいなものをイメージしていたから、ちょっとがっかりもしてるんです。このロケーションは悪くないんだけどな。」
そういって降りて来た道をもう一度見上げるのです。
ゆるい勾配の回遊路の左右に、しだれるかのように咲く紫陽花の花。
ほぼ青紫から淡青までのワントーンの花色。古木となった紫陽花ならではの小さめの花房。歴史のある寺院に相応しい上品な佇まいだったのです。
「そうね、植物園のようにはいかないわね。」
「やっぱり長谷の方に行かないとだめかな。」
手すりに軽く触れながら、登ってきたのとは別の回遊路を下ってゆきます。
「長谷?あの大仏様のある方?」
「そう。もう随分前から植栽が進んでいて、最近では名所もおおいらしいです。ただ、あんまり観光地化していてひっそりとした風情がないかもしれなんで、どうしようかとおもっていたんです。」
仕事に関わるお話になると、森本さんの瞳は輝きを増すのです。
その瞳の奥で高性能のコンピューターが演算を繰り返しているような・・・鋭い透明感のある輝きがプラスされるのです。
コメント
初めてコメントさせていただきます。

ある時、祥子さんのブログを偶然に発見し、
数日かけて読ませていただきました。

拝読しているだけで、
自分もその話の中にいるような錯覚に陥り
体を潤わせておりました。

これからも楽しみにしております。

2006/06/20 17:58| URL | ハチ  [Edit]
ごめんなさい。HNを間違えました。
アールグレーに直していただけますか?

2006/06/20 19:48| URL | アールグレー  [Edit]
アールグレー様
ようこそお越しくださいました。
全189話・・・お読みいただくのは大変でしたでしょう。
心より感謝いたします。ありがとうございました。
これからも、楽しんでいただける物語を綴っていけたらと思っております。
どうか宜しくお願い申し上げます。

P.S.こちらのテンプレートはコメントの修正がきかなくて・・・申し訳ございません。
      あらためてよろしくおねがいします♪

2006/06/20 21:08| URL | 祥子  [Edit]
祥子さん、こんばんは。
二つのストーリーが、時を隔てて同時進行ですね。
結婚を決めたトモ君と過ごそうと決心した先に、祥子さんを待つもの、そしてトモ君が結婚するときに、ご一緒している森本さんとの行方、二つの期待で、二重に後が待ち遠しくなります。
いつもながら、ストーリーの展開の巧みさに、引き込まれています。

2006/06/20 21:14| URL | masterblue  [Edit]
masterblue様
恐れ入ります。2つの時を同時進行というのは初めての試みです。
わたくし自身もドキドキしながら書き進めている次第です。
うまくイメージがシンクロできていればいいのですが・・・。

2006/06/20 22:26| URL | 祥子  [Edit]
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