ジューン・ブライド 6
2日後、森本さんから来たメールにはいつもお逢いする珈琲専門店の前での待ち合わせ時間が書かれていたのです。今日、わたくしはデニムの前開きのフレアーワンピースを着ていました。
ノースリーブなのでサマーブルーのカーディガンを羽織りました。
カーディガンよりも一段濃いアイリスブルーのランジェリー・セットに、今日はナチュラルカラーのパンティストッキングを着けておりました。脚元は、前日の雨もありましたから、ヒールではなく白革のローファーを選んだのです。
森本さんは、いわゆる<お茶のみ友達>でした。
ですから、カジュアルに肩の力の抜けた、そしてセクシュアルではない装いをあえて選んだのです。
トモくんは、羽織ったミンクの胸元をかき寄せるわたくしの手を掴むと、表通りに無言で向かったのです。
わたくしはその日は、当然のことですが仕事帰りでした。
コートの下は黒のタイト・スーツに、胸元を首筋までをきちんと覆った黒のノースリーブのカットソウで脚元はショートブーツに黒のタイツを着けていました。
トモくんには、逢ってお食事をご一緒するだけと告げていました。
こんな風に雪のちらつく夜だということを理由にして・・・わざとよほどカジュアルな時でなければ身につけないような少し厚手の30デニールの黒のタイツを選んだのです。
インナーは、シンプルな黒のサテンのセットでした。
カットソーに柔らかな乳房の肌の動きを感じさせることがないようにフルカップのブラジャーを選び、なおサテンのスリップで覆ったのです。腰にはトモくんに逢う時にいつも身に着けていたTバッグではなく、ハイレグのヒップを覆うタイプのショーツを身に着けたのです。
装いに合わせて・・・のセレクトでもありましたが、それ以上に月のものの時に身につけるランジェリーを黒と決めていたからです。
まるで椿姫が紅い椿を胸元に飾る様に・・・わたくしは漆黒のランジェリーを纏ったのです。
「月のもの」は、彼にわたくしの萌えはじめたばかりのはしたない身体を見せないための・・・単なる言い訳でした。
まったくその気配すらないのに、トモくんにその<嘘>を事実として納得させるために・・・見た目だけは完璧に装っていたのです。
ちらつく雪のせいで・・・数少ない空車のタクシーに向かって、トモくんが手を上げます。
「鴬谷へ」
一台の空車が止まるとわたくしを押し込むように乗り込んで、運転手さんにそう告げたのです。
「はい」
訳知り顔の運転手さんは黙って車を発進させました。
「トモくん、今日はだめって言ったでしょう」
鴬谷という地名が意味することを・・・わたくしは知らないわけではありませんでした。トモくんとは行った事はありませんでしたが、彼の目的ははっきりしていました。
「これからも逢ってくれるの?」
わたくしが、頷く事のできない問いを・・・幸せな婚約者を持つ若いセフレは改めて投げかけてくるのです。
「だめ。もう逢わないわ。」
「もう2度と祥子さんを抱けないなんて我慢できない。今夜は、絶対帰さないからね。」
タクシーという密室の中で・・・運転手の耳に・・・このあけすけな言葉はきっと届いてしまったことでしょう。
「トモくん・・やめて。今日はだめなの。」
「僕は構わない。前から言ってるだろ。もう・・・こんなになってるんだ。」
わたくしの左手を掴むと、ウールのコートの下の彼の腰へと強引に導くのです。
そこはもう・・・くっきりと昂りを示していたのです。
「おねがい。帰るわ。」
「だめだ。今夜が最後なら絶対に、なにがあっても帰さないからね。」
運転手さんの意識が、高ぶるだけ大きくなるトモくんの声に向けられていることはわかりました。
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コメントありがとうございました。
わたしにとっての宝物の思い出も
彼は、三歩歩くと忘れちゃうんですよね。
時々、とっても腹立たしいんですけど
でも、迷惑かけたりしたあれこれも
あっさりと流されて忘れてる(振り?)ので
コインの裏表でしかたないのかもしれません。
2006/06/19 09:09| URL | さやか [Edit] -
さやか様
男の方の脳の中は、そうもそんな作りになっているようです。
どれほど大切と思っても、一度に一つのことしかできないんですね。
記憶も一緒♪
ですからいつもわたくしが一番大事なのよ!!って
刷り込んでおかなければならないのかもしれませんわ(笑)
もし、淋しくなったらいつでも美貴さんをお貸しいたしますわ。
どうぞ、彼との一時をお楽しみください♪
2006/06/19 13:34| URL | 祥子 [Edit]
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