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ジューン・ブライド 5

「ならいいけど。ここが、気に入らないのかとおもった。」
大柄な男性は、仕事相手には時にひどく強面に見せる事の出来る、整った迫力のある顔を優しい笑みに和ませながらわたくしを振り返るのです。
「そんなことないわ。好きよ、雨の翌日の紫陽花寺。」
昨晩から今朝方まで、しとしとと降り続いていた雨はわたくし達が北鎌倉の駅につく頃、ようやく上がりました。それでも、空はまだ雲がたれ込めて・・・周囲の空気をまだひんやりとさせていたのです。
「その先にある書院の向こうの菖蒲は、もう終わってしまったかしら」
「へえ、そんな場所があるんだ」
「あら、知らなかったの?」 
豪放磊落に見えて実は丹念な仕事を方なのです。ロケハン先なら当然調べていると思っていたので意外な一言に、わたくしはついからかいの言葉を漏らしてしまったのです。
「知らなかったよ。でも、ねえさんがそう言うくらいだから余程印象的な場所なんだろうね。行ってみてもいい?」
そうおねだりをする顔は、まるで本当に弟以上でした。
「もう。今日はあなたのロケハンにわたくしが付き合っているだけなんだから。気にしないで、あなたの思う通りにまわってちょうだい。わたくしは一緒にいるだけで充分楽しんでいるからいいのよ。」
にっこりと微笑みかけるわたくしに、男性は無言で頷くとまた手元のカメラを進行方向へと向けたのです。
 
今日ご一緒している方は、わたくしが行きつけにしている珈琲専門店のカウンターで知り合った方でした。
いつもカジュアルなスタイルで、1人でふらりといらっしゃる方でした。
時に原稿用紙や絵コンテの台紙を手に普通の会社員の方なら決してお出でにならないような時間に、カウンターに座ってらしたのです。
わたくしも常連でしたから、古株の店員さんを介してその男性とお話するようになるまで、そう長い時間は必要としませんでした。

お名前は森本さんとおっしゃいました。年齢は38歳。映像監督兼プロデューサーをしていると苦笑いしながら自己紹介をしてくださいました。
年下だということと、ファーストネームがわたくしの実の弟と同じだとお知りになった時から、彼はわたくしのことを「ねえさん」と呼ぶようになったのです。
不思議なことに、森本さんとわたくしが持つ雰囲気は、どちらもとても似ていて・・・初対面の方は本当に二人を姉弟だと思われるほどだったのです。
 
1週間前。
「GWからずっと働き詰めだったから、この2日間はのんびりと過ごすことにするわ。」
珍しくわたくしのスケジュールが一日オフになることが解った日、カウンターのいつもの席で、古株の店員さんに何気なくそうお話したのです。
わたくしの隣には、たまたま森本さんがいらっしゃいました。
「ねえさんは、鎌倉は好き?」
「ええ、好きよ」
「それじゃ、その休みの日によかったらロケハンに付き合ってくれないかな?」
「ロケハン?」
「そう。次の作品を組み立てるのに、舞台を鎌倉にしようと思ってるんだ。」
「他のスタッフの方も一緒なのでしょう。お邪魔になっちゃうわ。」
「いいって、僕1人だし。ドライブがてら付き合ってくれませんか?」
唐突なお誘いでした。が、カウンターで時々お逢いする様になって1年。森本さんの性格も、考え方も良くわかっていました。
それに今では、彼と居る時間はとてもリラックスしていられたのです。
休日の一日、大好きな鎌倉を気の置けない男友達と散策する。その魅力的なお誘いにわたくしの気持ちは揺れていました。
「お邪魔じゃないのなら、ご一緒させていただこうかしら。」
「やったね。 詳しい事は任せて。また連絡します。」 コメント
鎌倉は修学旅行以来行ってないから、もう記憶のかなた…。どんな街だったかな。相変わらずデッサンがしっかりしてるから風景が目に浮かぶ。

1年かかるのか…初デートまで。
で、初えっちになだれこむのかな、焦らすのかな。

2006/06/18 16:18| URL | eromania  [Edit]
ご訪問&コメントありがとうございました。
祥子さんの文章は、品があって大好きです。
リアルな描写が・・・妄想とは思えませんが?
これからも、じっくり読ませてもらいたい思っています。



2006/06/18 18:51| URL | 小夜子  [Edit]
昨晩の<戦い>に皆様お疲れだったのでしょうか。
おだやかな月曜の朝。深呼吸をして今週をはじめましょう。

eromania様
気になるのは、森本さんのことなのですね。
ん・・・たまたま同じお店の常連さんなだけの関係なのです。
おつきあいを申し込まれたこともないのに、気が早いんですね♪
それとも、わたくしが気づいていないだけなのかしら?

小夜子様
ようこそお越しくださいました。
小夜子様のお好みに合ったようで・・・ほっといたしました。
リアルか妄想かは秘するが花ということで♪
これからもよろしくお願い申し上げます。

2006/06/19 09:00| URL | 祥子  [Edit]
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