ジューン・ブライド 15
「ごめんなさい。」一緒に過ごしてくれる男性の前で、他の方のことを考えたりしない、それはわたくしに出来る最低限の誠意だと心得ていました。なのに、トモくんの披露宴の日だという特別な事情は、わたくしの大人の信条に何度も・何度も揺さぶりをかけたのです。
「や、そんなんじゃないんだ。謝らないでください、ねえさん。」
わたくしが重ねたお詫びの言葉に、恐縮した風で森本さんはさらりと前髪をかきあげるのです。
仕事の時には年齢よりも貫禄を感じさせるに違いないその風貌が、年相応の爽やかさを取り戻します。
「さっきまではさ、ねえさんが仕事のことを考えている時の目の色とは違う気がしたから、ちょっと気になっただけ。」
わたくしは、ぎょっと・・しました。
ありえるはずもないのに、心の中の映像を彼に覗かれていたのではとさえ思ったのです。
「そんなに、違うものかしら。」
動揺が声に出ていない事を・・・祈りながら会話を他愛ない方向へと誘導しました。
「ん。なんていうか、磨き上げた日本刀みたいに光るんですよ。仕事のことを考えたり、話したりしているときのねえさんの眼は。」
「あら、物騒な喩えね。」
何度か、珈琲専門店のカウンターで隣り合って、それぞれの仕事の話に花を咲かせたこともありました。その時のわたくしのことを、森本さんはそんな風に観察していたのでしょうか。
「まぁ、真剣を見た事もない人にはちょっと伝わりにくい喩えだけどね。さっきまでのねえさんの眼には、あの光がなかったからちょっと不思議に思ったんだ。」
若い頃は<総長>と呼ばれてやんちゃをしてきた、と笑って話してくれた過去には・・・真剣を目にしたこともあったのかもしれません。
「ふふふ、そんなに殺気走った仕事の話ばかりじゃないのよ。」
森本さんの映像監督としてのプロの眼ゆえ・・・でしょうか。観察眼が見抜いた事実を<単なる誤解>にしなくてはいけません。
「わかってる。でもさ、さっきのねえさんの眼。まるでラリックのガラスみたいだった。半透明の乳白色を透かしたみたいな・・・眼だった。」
ゆっくり楽しんできたあじさい園も、もう出口でした。
「その眼を見てたら、欲情しそうになりましたよ。」
わたくしの耳元に口を寄せると、森本さんは真面目な表情のままでそう囁いたのです。
「やっと、いえたね。祥子さん」
トモくんはそう言うと、わたくしの後に回りブラのホックを外したのです。
縛められた両手を浮かせるように引き上げられて・・・わたくしを辱めていた黒のサテンは、はらりと・・・足元に落ちたのです。
「ぁっ・・・・」
とうとう、彼の手で・・・・秘密を明かされてしまう時が来てしまうのです。
「次は、ブーツだね。いつもみたいにガーターストッキングで来てくれたら、ブーツを履いたままでも可愛がってあげられたのに。」
すぐに、タイツのウエストにかかるかと思っていた彼の手は、わたくしの足元に向かったのです。ランジェリーの扱いと同時に、装う順序も・・・寝物語にトモくんに聞かせたことがありました。
ためらいもなく膝をつくと、彼の手が右足から内側に付いた短いファスナーを下ろしてゆきます。
「二日目って出血が一番多いっていわなかったけ、祥子さん。ちっとも、血の匂いなんて感じないけど。いやらしいフェロモンの匂いしかしないよ。」
若い彼が興味本位で聞いて来た女性の身体のことを、淫らな実習のようにして教えたこともありました。
トモくんは片脚づつわたくしの足を取り上げると、足首までのエレガントなショートブーツを脱がしてしまいました。
「や・・・そんなふうに・・いわないで」
ふとした拍子に太ももの合わせ目にすりよせられようとするトモくんの鼻先を、わたくしは不安定な姿勢で避け続けていたのです。
「タイツって祥子さんが履くと思ってなかったからなんだか新鮮だよ。こんなに濃い色で覆っていやらしいヒップを隠したつもり?」
トモくんがわたくしの身体を水槽に向き合う様にと向きを変えさせたのです。
彼の目の前には、鈍く光る黒のサテンのハイレグに半分だけ覆われた白い腰の頂きが晒されているはずです。タイツが黒のグラデーションでその曲線を却って主張しているかのようでした。
-
見られちゃうことよりも
その前のほうが恥ずかしいのはどうしてなのでしょう。
祥子さんの心臓の音が聞こえてくるようです。
ドキドキドキドキ・・・・。
あ、私のでした。
2006/06/28 17:52| URL | さやか [Edit] -
同時進行というのは、何だか「はっ!」と現実に引き戻されるような効果があるのですね。
せつなさとdokidoiが交差しています。
2006/06/28 21:34| URL | eromania [Edit] -
上海のyamatanです。
中国人の女性はスタイルがいいですが、タクシーの車内広告に豊胸に整形するクリニックの広告が多いです。整形している人も多いのでしょうか?
2006/06/29 07:55| URL | yamatan [Edit] -
破り甲斐のありそうな・・・タイツだ。
ゆっくりカッターで切り裂きたい。
2006/06/29 10:58| URL | 青龍 [Edit] -
今日は昨日よりももっと強い夏の気配。
陽の当たる壁の照り返しが眩しいオフィスの窓際のデスクです。
さやか様
はじめて唇を合わせるとき、ブラウスの3つ目の釦に手がかかったとき。
ドキドキは最高潮になってしまいますね。
でも・・・最近思うんです、
きっとこのドキドキって、そのあとに訪れるめくるめく快感を
この身体が知っているせいだからなんだなって・・・。
恥ずかしくていやらしい身体になってしまったものです・・・。
eromania様
おっしゃるとおり、そこが同時進行の難しいところでも醍醐味でもあります。
あまりに怖すぎる悪夢に襲われたとき・・・ふと訪れた目覚めが
不安と焦燥を救ってくれるように
現実に戻された時間が次のドキドキを一層高めてくれるような気がするのです。
yamatan様
美容整形のことは、韓国でも同じようなニュースが流れていましたね。
女の子が整形したいっていうと、お母様が応援してくれるそうです。
そう言えば日本の女性雑誌にも、そういう記事はとても増えているようです。
見た目の美醜が全てを決める訳ではないのに・・・・と思うのは、
わたくし世代の身勝手な思い込みなのかもしれませんわ。
青龍様
破らなくても・・・この身から1枚の薄物を引きはがす事はできますのよ。
帰り道どうしてくださるの。
だめです・・・その刃物はしまってくださいな。
2006/06/29 13:33| URL | 祥子 [Edit]
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