2ntブログ

夢のかよひ路 4

リアシートの中央は肘掛けの形に下ろされて、そこにはミネラルウォーターのペットボトルとエルメスのカシミアストールが用意されておりました。
深みのあるオペラピンクのストールを取り上げると、わたくしはすっぽりとワンピースの肩を覆ったのです。
窓越しの日差しは、かすかに流れてくる凍てつく空気とは反対に明るくあたたかでした。
そして肩を包む柔らかくて・暖かくて・軽い1枚の布は、車の振動と相まっていつのまにかわたくしを微睡みへと誘ったのです。

「祥子様・・祥子様」
わたくしは望月さんの声で、リアシートの肘掛けに凭れてぐっすりと眠りこんでしまっていたことにはじめて気付きました。
「ぁっ、ごめんなさい。眠ってしまってたのね。」
「申し訳ありません。よく眠ってらしたのに起こしてしまって。」
「いいえ。ここはどこ?」
「高坂SAになります。少し休憩なさいませんか。」
言われてみれば、随分な時間眠っていたようです。
朝食の後で彼が煎れてくれた珈琲が、わたくしを恥ずかしい生理的な欲求へと駆り立てていたのです。
「ありがとう。お言葉に甘えて、ちょっと化粧室に行ってまいります。」
「はい。」
すでにシートベルトは外していらしたのでしょう。すっと運転席から立たれると、回り込んでわたくしの席のドアを開けてくださいます。
「わたくしは、美貴さんじゃないのだからいいのに。」
外は、軽井沢とはまた違った強く冷たい風が吹いていました。ヌートリアのコートを着て車外に降り立ちながら、その風に紛れてしまわないようにわたくしは傍らに立つ望月さんの耳元にそっと囁いたのです。
「いえ、叱られますから。」
眼を見ることも無く、望月さんは独り言の様に呟くとわたくしが降りたあとのドアを閉めたのです。

わたくしの背後で車のドアがロックされる音が聞こえました。
途中、車が停められていれば気がついたことでしょう。わたくしが眠りこんだままだったということは、望月さんはずっと運転をしつづけていらしたのでしょう。
雪道の・凍る・峠道を。
頼もしく飼い主を守るゴールデンレトリバーのような彼の佇まい。
今日はリアシートから見つめるしかなかった彼の肩が、昨晩からわたくしを抱き続けていたせいだけでなく、気の張る運転でも堅く強ばってしまったのではないかと心配でした。

美貴さん・山崎さん・石塚さん・・・望月さん。
その4人の男性に、目覚めてから眠りに落ちるまでの20時間あまりを交互に責め・嬲られた後、わたくしは鏡張りのキングサイズのベッドの部屋で世話係だと言われて部屋に残された望月さんと二人きりでやすませてもらったのです。
わたくしの身体は、長時間の度重なる責めで想像以上に消耗しつくしておりました。
そのことをご存知だったせいもあるのでしょう。
望月さんはわたくしの身体を彼の腕の中にすっぽりと包んで、ベッドに横たわっても抱きしめる以上のことはなさらなかったのです。
恥ずかしがるわたくしの言葉通り入浴をご一緒することも遠慮してくれました。それでも、湯上がりの香りを漂わせる身体に寄り添い濡れたわたくしの髪を結い上げ、銘仙の着物を着せ付けてくださったりはするのです。
二人きりの部屋でそれほどに近くに居ても、彼はとうとうキスすらもせずにこの帰路へ付いたのです。

あの2泊3日は(実際は3泊4日になってしまいましたが)わたくしがいままでに体験したことがないほどに、官能的な時間でした。
だから・・・もしかしたら、望月さんはわたくしに飽いてしまっていたのかもしれません。
まるで20代の男の子の様にわたくしの身体を求めてくださる望月さんが、小鳥のようなキスすらなさらないのですから。 コメント
はじめまして
いつもいつも読み逃げさせていただいていました。
というのも全部読み終わってからと思っていたのですが
なかなか・・・・^^;;
それでも引き込まれる言葉の数々に妄想がとまらなくなってます^^
また寄せていただきます。

2006/10/07 12:49| URL | トン  [Edit]
トン様
ようこそお越しくださいました。
お越しいただくのは初めてですね。
さやか様や悪夢様のところでお見かけしていたのでとても嬉しいです。
>全部読み終わってから
申し訳ありません・・・とんでもなく沢山あって。
ときどきお休みはするのですが、基本が毎日更新なのでどうぞお気になさらずきままにコメントしていただけると嬉しいです。
これからも宜しくお願い申し上げます。

2006/10/07 16:00| URL | 祥子  [Edit]
無理っぽい
 飽いてしまって?
おやおや、祥子さんもいじわるな事をおっしゃって。
少し、水を向けて差し上げないと
苦しそうですよ。・・・望月さん。
余裕をみせてないで、彼に優しくしてあげてくださいな。

2006/10/07 16:25| URL | さやか  [Edit]
さやか様
ふふふ、望月さんにはお優しいんですね・・・いえ、望月さんにもでしょうか。(笑)
ん~~そうしてあげないとだめかしら?
彼から・・・なんてあり得ない?
でも、お姉さんから誘うなんて恥ずかしいわ、さやか様。

2006/10/07 17:40| URL | 祥子  [Edit]
飽きるなんてとんでもない。
祥子さんのカラダを気遣ってのことでしょう。

キスさえもしない望月さんは逆により強く
求めている。

祥子さんの脳裏から離れることのないように。


2006/10/07 19:41| URL | eromania  [Edit]
eromania様
望月さんが素敵な男性だから
きっと彼を慕う女性も・・・彼が日常で愛している女性もいるはずだと思うと
ついそんな風な嫌な想いも湧いてきてしまいます。
脳裏に浮かんだ途端、杞憂であってくれたらいいのにと
願い打ち消してしまう・・・そんな想いなのですが。

2006/10/07 19:51| URL | 祥子  [Edit]
コメントフォーム
Name
Mail
URL
Subject
Comment

Pass
Secret
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)