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夢のかよひ路 7

エレベーターは8階で停まりました。
「こちらです。」
エレベーターを出て右側へ、最初のドアに<806/Y.MOCHIZUKI>のプレートが見えました。望月さんは黙って鍵を開けると、入り口すぐの照明のスイッチをいくつかONにしたのです。
「上がって、少し待っていてください。」
一足先に玄関に上がると、ムートンのスリッパを・・・雪の別荘で出してくださったのと同じものを・・・揃えてくださいました。
わたくしの手からヌートリアのコートを受け取ると玄関のクローゼットに掛けて、ご自分はスタスタと室内に入ってゆかれたのです。

ジィィィ・・・・っ わたくしは、ロングブーツのファスナーを下ろしました。続いて左脚も。そうしながら、望月さんがこの場から外してくださった訳がわかったのです。
身支度をする姿を見られるのが苦手なわたくしのブーツを脱ぐ姿を、無作法に見つづけていなくてもいいように・・・気をつかってくださったのです。
踵に手を添えてブーツを脱ぎ、玄関の脇に揃えて置かせていただきました。
ムートンのスリッパに足を入れた時、彼の足音が聞こえたのです。
「お待たせしました。」
望月さんは、スーツからカジュアルなネイビーのコットンパンツに同じ色のセーターを白いシャツの上に重ねた姿でいらっしゃいました。
「似合うわ。素敵よ。」
「ははは、ありがとうございます。」
いつも、年上の男性達の間できちんとした仕立てのいいスーツを着ている望月さんの姿しか知りませんでした。雪の別荘でも・・・。
カジュアルな着こなしの彼はとても新鮮に映りました。
「こちらにどうぞ。」
望月さんが先に立って歩くと正面の扉を開けました。

扉の先はキッチンとリビングダイニングのようでした。
滞在している間のお食事の支度も彼の役目になっていました。
望月さんは別荘でもわたくしたちに美味しい珈琲を何度も煎れてくださいました。別荘ではお夕食はホテルから届けられていたものの、朝食のオムレツを美味しく焼き上げてくださったのも望月さんだったのです。
お1人で住まわれるには広々としたキッチンや、垣間みることのできた整えられた調理用品は彼の日頃の生活を彷彿とさせました。
「お疲れですよね。いま熱いお茶を煎れますから、ソファに座って待っていてください。」
「ありがとう。失礼します。」
望月さんは、キッチンで湯気を立てはじめたケトルへと向かいました。

「わぁ・・・きれい・・・。」
そのまま左手に広がるリビングに入って、わたくしは思わず声を上げてしまいました。
緩やかにRを描く窓に向かって置かれたソファーの背中には、衣桁に紅葉柄を繊細に織り出した白大島が掛けられていたのです。
足元の乱れ箱には、黒繻子に銀糸で刺繍された流水が美しい名古屋帯と葡萄色の帯揚げ・帯締め。そして・・・箱根の宿でわたくしに着せてくださったのと同じような、純白の綾絹の長襦袢が置いてありました。
「気に入ってくださいましたか?」
振り返ったわたくしの視線の先には、アールグレーの香りのポットとカップをトレイに乗せた望月さんが立っていらしたのです。
ソファーの前のローテーブルに茶器を置くと、見事な着物の前に立ち尽くすわたくしの隣にいらしたのです。
「これは?」
「あの、箱根の宿で私が選んでプレゼントしようとしていた着物です。あの日長襦袢を私が頂いてしまったので、差し上げられなくて。今日、こちらに立ち寄っていただけたらと思って用意しておいたのです。」 コメント
時間よ、止まれ
着物姿の祥子さん…この場合は良からぬ妄想は
あとに取っておいて、ずっと眺めていたいな。

時間よ、止まれと思うほどに。

2006/10/09 18:06| URL | eromania  [Edit]
eromania様
今回も望月さんは着物を着せてくださるのでしょうか?
<唐紅>の最後にわたくしに長襦袢だけを着せてくれた彼からの贈り物が・・・いまようやくわかりました。

このお話は<オペラピンクのランジェリー(地下のバー)><唐紅(箱根の宿)><初雪(雪の別荘)>という望月さんと過ごした3つの物語の想い出が去就いたします。
<初雪>はもうご覧頂いていると思いますので、<オペラピンクのランジェリー><唐紅>も時折ご覧になってみてくださいませ。

2006/10/09 18:33| URL | 祥子  [Edit]
祥子さん お元気?
いつも会社で読んでるよ~^^;
そして頭の中で想像しちゃってます。
見た後は大変ですがv-8
(^Q^)/ ギャハハ
股 きますね~

2006/10/10 19:28| URL | シュン  [Edit]
シュン様
ふふふ、会社で読んでくださっているんですね。
大丈夫ですか?(笑)
ひっそりと社内でファンを増やしていただけたらうれしいです♪
読んでいて、上司に呼ばれたりして困ったこともあったのでしょうか。
これからも懲りずに可愛がってください♪

2006/10/10 23:26| URL | 祥子  [Edit]
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