夢のかよひ路 8
「すてきだわ。こんな大島・・なかなか手に入らないもの。」紅葉柄を織り出している無数に広がる小さな絣の交点は、この着物が最高級品の大島である証でした。
それも、白大島。淡く墨絵のように浮び上がる柄は、上品で奥行きを感じさせる大胆な構図を備えていたのです。
「気に入ってもらえて良かったです。これは秋の柄ですから、別荘にお持ちするわけにも行かなくて。お召しいただくのは随分先になってしまいますが、あのとき出来なかったプレゼントです。お持ちになってください。」
「ありがとうございます。うれしいわ。」
あの・・・望月さんの名前をはじめて知った夜。
美貴さんに苛まれて全てを犯されたわたくしを、真っ白な花嫁のような襦袢に包んで望月さんは優しく清めてゆくように愛してくださったのです。
足元の長襦袢の眩しい白は、その時の淫らな感覚まで呼び覚ましそうでした。
こうして見せられた着物を、いままででしたら望月さんはわたくしに必ず着せ付けたのです。
今夜もそうなさりたいのでしょうか・・・。
「紅茶ですが、暖かいうちに召し上がりませんか。」
着物に幻惑された物思いを知らぬ気に、望月さんは声を掛けて立ったままのわたくしを改めてソファーに座らせてくださいました。
ティーセットはウエッジウッドのセレスティアルプラチナのシリーズでした。
背後に掛けられている白大島のような、磁器の白肌に銀に輝く唐草模様が美しい・・・ウエッジウッドの比較的新しいシリーズでした。
「よかったら、香り付けにブランデーを使ってください。」
ポットから、香り高いアールグレーを注ぐとわたくしの目の前にカップを置きました。それに、ブランデーの入った小さなガラスの器も。
「ありがとう。でも、わたくしの好きな紅茶だからこのまま頂戴するわ。」
アールグレーをストレートで。
いつの間にか望月さんはわたくしの紅茶の好みも憶えていてくださったのでしょう。彼がキッチンお持ちになったトレイにはあと1つ、シュガーポットだけが残っていました。
窓辺には大型のテレビとひっそりとオーディオセット。
そして、お正月用に用意されたのでしょう。松竹梅の鉢が飾ってありました。
さほど大きくはない梅の木でしたが、窓越しの暖かな陽の光に花開いた枝から清々しい香りを室内に満たしておりました。
「ここは、あなたが1人で住んでいるの?」
インテリアのしつらえは、男性のものらしいシンプルなものでした。
が、紅茶のためだけの器や正月飾りがわりの植木鉢などは・・・たとえ望月さんでもそう気がまわることではないでしょう。
「実は、上のフロアに父が上京する時用の部屋があるんです。年末には、母がその部屋と私の部屋を大掃除に来てくれるんです。」
「そうだったんですか。」
「男の独り住まいに、鉢植えなんて変ですよね。」
「いいえ、素敵だなと見ていたのだけれど、望月さんだってお忙しいのによく気がつかれるなと思っただけよ。」
「ははは、嫌いじゃないですがなかなかそこまではできません。」
照れた様に、望月さんは笑います。京都から出ていらっしゃるお母様の思いやりもそのまま受け止める息子としての思いやりまで、その表情からは感じることができました。
「あの、寒くはないですか?ここは基本的に建物全体でエアーコンディショニングをしているのですが、帰ったばかりで少し冷えていたので床暖房を入れたんです。祥子様に風邪をひかせたら、怒られてしまいます。」
「ほら、また。だめよ。」
「あっ・・・つい。」
「今度<様>を付けて呼んだりしたら、帰っちゃうから。」
本気ではありませんでした。この部屋は、望月さんの隣で寛ぐソファーの包み込むような柔らかさは、とても居心地が良かったのですから。
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望月さんの自宅でしたか。
ここは、生活の臭いがするところですね。
どちらかというと、透き通ったような、あるいはメタリックな場所が多かったように思います。
たとえ、それが木造りの宿であっても。
白大島、どのように働くのでしょう。
望月さんに着付けて貰い・・・そして、剥がされてと・・・期待しているのですが。
2006/10/10 21:04| URL | masterblue [Edit] -
良いですね、大島。若い頃、母が用意してくれた縦横絣のモダンな柄の大島の反物が有ります。大人の女になったら仕立てようと思いながら、まだ湯通しもしていません。派手になってしまいそう…。祥子さんの記事で、そんな事を思い出しました。良い機会です。お正月までに仕立てよう!!
望月さんとの二人だけの世界。
今までとても近くとても遠い存在だったお互いが、どう溶け合うのか…。甘あまな祥子さんに…。
2006/10/10 23:00| URL | るり [Edit] - こんな時間になってしまいました
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なぜか慌ただしい毎日。
落ち着いてお返事もできず申し訳ございませんでした。
masterblue様
ご自宅にご招待してくださったのは、高梨さんに次いでお二人目ですね。
お二人ともマンションに住んでいらしてわたくしを連れてきてくださったのですが、お二人の部屋はそれぞれ別の雰囲気があります。
お着物は・・・ん~どうするのでしょうね。
紅茶を入れてくださった望月さんのみが知る・・・ですね。
るり様
素敵なお母様の心遣いですね。
ぜひぜひ今年のお正月にお召しになってみてください。
とても高価なものなのに、どうしても正装にはできない<粋>をきわめたお着物はるりさんに似合う様に思えますわ。
派手なんておっしゃらずに♪
2006/10/10 23:35| URL | 祥子 [Edit]
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