黒衣の情人 35
「祥子。」「・・・は・・・ぃ」
敏感な肌に与えられる想像以上の熱い刺激に、わたくしは意識をとらえられていたのです。一瞬、現実の火のついた蝋燭を持つ長谷川さんの呼びかけに答えるタイミングが遅れてしまいました。
ぽた・・っ・・・
「あつぅぅ・・・いぃぃ・・・」
黒い縄が横切る真っ白い腹部に数滴の蝋が滴り落ちてきました。
わたくしは出来るはずもないのに、思わず上体を起こし無防備なその場所を守ろうとしたのです。普段から刺激を受ける事のほとんどない場所に、その熱さは予想を超えて肌を焼くほどに思えたからです。
「祥子。」
「は・・い。」
「祥子、こちらを見なさい。」
そう言われて、わたくしははじめてきつく眼を閉じていたことに気づきました。
眩しい光の中、黒いバスローブに包まれた長谷川さんのアッシュグレイの髪と厳しい表情がありました。
内装工事の始まっていない高層ビル34階の工事現場の打ちっぱなしの天井は、黒々とした闇に飲み込まれていて、まるで長谷川さんをいつもの黒衣の装いを思わせたのです。
「これはね・・・」
「あっ・・・やめて・・」
「怯えなくていい。垂らしたりはしないよ、祥子。これはね、低温蝋燭だ。君の肌を焼かない様に融点の低い蝋をこうして溶かしてからしか、落としたりしない。」
「でも・・あついの・・」
「ああ、そのためのものだからね。でも、決してやけどなどさせない。解っているね。」
わたくしは、長谷川さんを見つめたままふるふると首を横に振ったのです。
それは、彼を信じていないからではありませんでした。
視線の上に差し出された真っ赤な太い蝋燭とその先に黒煙を巻き付けながら揺らめく炎・・・わたくしから見てもいつ滴り落ちてもおかしくはない蝋涙が・・・怖かったからです。
「信じられないのか?」
眉根を寄せる長谷川さんの表情が、少し傷ついたように見えたのです。
「いいえ。信じております・・・ご主人様。でも・・・」
「でも?」
「こわ・・い・・・」
「こわい? 僕がか?」
「ちがい・ま・す・・」
「それじゃ何が怖いんだ?」
「その・・ろうそく・・が・・」
「これがか。」
「きゃぁぁ・・・ぁぁぁ・・・」
ずっと太い蝋燭の頂点に溜め続けられたいた熱蝋が、長谷川さんの微笑みと同時に一気にまだ一滴も垂らされていない右の乳房に落とされたのです。
「あぁぁ・・あつい・・ぉぉぉぁぁぁ」
「祥子! 見るんだ。」
わたくしが見る事のできたのは、蝋燭が傾けられたところまで・・・だったのです。
肌にふりかかる蝋を視認することなく、熱とそれにともなう焼け付く痛みに耐えるために顔を背けきつく眼を閉じてしまっていました。
- 黒衣の情人をお届けしながら・・・
-
わたくし自身も改めて、長谷川さんとの過去の逢瀬の物語を読み返してみました。
<蝉時雨の庭><ムーンナイト・アフェア>
この方は、本当にSなのだとしみじみ感じてしまいました。そして、つい行為ばかりに眼がいってしまうのですが、ひとりの男性としての関わり方もしっかり深まっているのだとも実感いたしました。
長谷川さんはとても素敵な男性です。
2007/02/07 08:56| URL | 祥子 [Edit] -
こんばんはd(*⌒▽⌒*)b
剃毛だとおもったら蝋燭・・・Mの考えることなんて長谷川さまにはお見通しですね・・・そして嘲笑うように別の責め・・・そういうのに翻弄されて自分がMだということを自覚してしまう・・・・
わたしも長谷川さまは素敵なサディストだと思います・・
2007/02/07 21:09| URL | 悪夢☆ [Edit] - うらやましいですね
-
祥子さんと長谷川さんとの間にある
確たる信頼感
これがあるから、祥子さんはきつい責めに
耐えられる。
そこに悦びもうまれる。
ろうそくは興奮します。
反応がすごいから。
2007/02/07 21:17| URL | くろす [Edit] - まるで・・・
-
悪夢様
そうですね。まるで、他の男との記憶などなぞる気はさらさらないぞ・・・と言わんばかりの責めになっていますね。
何より、自分の身体に垂らされる蝋を見つめるなんて怖いことまさかおっしゃるとは思いませんでした。
素敵なS様は、やっぱり厳しくてらっしゃいます。
くろす様
不思議なのですが、長谷川さんはなぜか初めての責めの時にはきちんと怖がらなくてもいい訳を説明してくださいます。
だからと言って興ざめにならないのは、大抵その前にわたくしを拘束しているからなのかもしれません。
どんなに説明をされても、あの熱が弱まる訳ではありませんから・・・わたくしも大理石のテーブルに括りつけられていなければ、もっと無様に身を跳ねさせていたことでしょう。
2007/02/07 21:27| URL | 祥子 [Edit] - こんばんは。
-
今日も暖かかったです。
さて、長谷川さんの蝋燭責めですが、大理石のテーブルに身動きできない状態に拘束したのは安全に対する気遣いですね。
祥子さんの仰る通り、初体験の女性は熱さで逃げますから、予想外の場所に蝋を垂らすことになります。
狙った場所に垂らすには動かれたら困るのです。
動くなよ!じっとしてろよ!といくら言ったところで、反射的に逃げるのは人間の防衛本能で避けれません。
祥子さん、長谷川さんは素敵なSさんですから、お仕置きたっぷり受けられても大丈夫ですよ。(笑)
・・縄指導・・
2007/02/07 22:34| URL | 縄指導 [Edit] - 縄指導様
-
長谷川さんの縄掛けが安全のための拘束だとまでは気付きませんでした。
確かに、身体に落ちないならともかく顔などに落ちては大変ですものね。
長谷川さんは蝋を落とす距離も微妙に変化させているようです。
でも・・・縄指導様。あまりお仕置きが沢山なのは、いやですぅ。
2007/02/07 23:19| URL | 祥子 [Edit] -
そうなのですね。下手に逃げない為ですか…。
そう言えば蝋燭は、縛られている時しか使われたことは無くて…。
安全と言う事もあるのですね。
それにその時はアイマスクをつけられています。
何処に落ちるかわからない恐怖も、心臓が止まりそうに痛くなりますが、逆に見えていて、溜った蝋が間も無くこぼれる…と言うのも怖いものでしょうね。
2007/02/08 00:36| URL | るり [Edit] - るり様
-
蝋責めの時にはアイマスクですか。
それも確かに怖いかもしれませんね。
恐怖を増すためなのか・・・それとも。
ぜひ、Sさまの真意を伺いたいものです。
2007/02/08 22:22| URL | 祥子 [Edit]
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