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初雪 1

上品な金線が美しいオフホワイトのインビテーション・カード。
わたくしの名前だけを表書きしたカードに書いてあった伝言はほんの少しでした。
「明日 21:00に望月を伺わせます。
 何も持たずに身一つでいらしてください。
 3日間を僕たちにください。 いいですね。」

セルシオは、約束の場所に時間通りに到着しました。
わたくしの目の前に停まると、あの心地よいドアの開閉音がして・・・運転手の望月さんが降り立ったのです。
「祥子様、お久しぶりです」 
いつもの主の方がいらっしゃる時と同じに礼儀正しく、視線すら合わせない様にして後部座席のドアを開けてくださったのです。
ドアの中には、予想に反してどなたもいらっしゃいませんでした。
「皆様がお待ちの場所までお連れいたします。どうぞ、お乗りください。」
私語は許されない、そう彼の態度が言っていました。
望月さんもいらしたあの箱根の最後の夜。
どなたも側にいないのなら、あの時の二人になれるかと・・・わたくしは勝手に、二人きりの車内の空気に儚い期待を抱いていました。あの時の見事な着物のプレゼントの御礼も、彼が示してくれた優しさへの気持ちだけでも改めて伝えたいと思っていました。
なのに、彼は運転手という役割に徹した姿勢を取り続けたのです。
 
カードには何も持たずに身一つでいらしてください・・・そう書かれていたのです。
そして・・・3日間を僕たちにください・・と。
わたくしは首もとに薄く残る首輪の痕を気にして、黒のハイネックのノースリーブワンピースにニット・カーディガン、ミンクのミドル丈のコートを羽織っておりました。
ランジェリーは桜色のレースのセットにしたのです。先日のターコイズブルーのものと同じブランドのストレッチリバーレースだけでつくられたスリーインワンとTバックです。コルセット付きのブラジャーから伸びるストラップの先にガーター用の黒のストッキングを止め付けました。
今夜はスリーインワンでしたのでいつも欠かさないスリップを身につけなかったのです。脚元はシンプルな黒のハイヒールを履きました。

わたくしには確信に近い予感がりました。
それは、きっと・・どんな装いをしていっても・・・あの方達が用意してくださったプレゼントを身に付けて3日間を過ごすことになるのです。あの箱根の一夜のように。
それならば出来るだけ心地よくシンプルな、久しぶりの方達を刺激しない上品なものを、と思って選んだ装いでした。
 
「今日はどちらに行くのですか?」 
黙って都内をゆく運転手に、わたくしはようやく話しかけたのです。それほどに彼の背中は張りつめた雰囲気を漂わせておりました。
「いつものホテルにお連れするように言われております」 
バックミラー越しにわたくしに視線を合わせると、彼はそう口にしたのです。
運転手の主の持ち物らしい・・・タワーホテルの最上階のエクゼクティブ・スィート。オペラピンクのランジェリーを身に付けた夜に、3人の紳士に同時に犯されたあの部屋なのでしょう。
「今日はどなたがいらっしゃるの?」 
気にかかっていたもう一つの質問をいたしました。
「私は存じません。祥子様をお連れする様にと言われていただけですので」 
運転手の声には・・・わたくしを彼の主達の手に引き渡し、彼自身は指一本も触れることも許されない夜へ予感と苦しみも含まれているようでした。
これ以上の質問はしないでほしい・・・そう言っているような彼の背中に、もう何も語りかけることは出来なくなってしまいました。

大晦日の都心の道は思ったよりも空いていました。 
ほどなくあのホテルに到着したのです。
地下駐車場には決まったスーペースが用意されているのでしょう。開いている駐車スペースに車を停めると、彼はわたくしをエスコートするようにエクゼクティブフロア直通のエレベーターに乗り込んだのです。
「あん・・・」 
ドアが閉まるなり、運転手はわたくしを抱き寄せ・唇を重ねてきたのです。
「ん・・んくっ・・ちゅぅ」 
貪るような激しい口づけです。
「祥子さ・・まぁ・・」 
運転手の手に力が籠ります。わたくしとのことを忘れていたわけではなかったのです。
「もち・・づ・き・さぁあん・・」 
チン・・もう一度互いの舌を貪ったところで、エレベーターは彼の主が待つフロアへ到着してしまったのです。
望月さんは先ほどまでの熱情が嘘の様にさっと絡めた手を振りほどき・・・開くドアに向き直ったのです。わたくしも乱れているわけではないのに・・髪とコートを撫で下ろしました。

「こちらです」 
運転手の声に一段と堅さが加わりました。
わかっているのです、今日わたくしを招いたのは彼の主なのですから。
あの夜を共に過ごした運転手は、これからわたくしがどんな眼にあうのか・・・思い描いているのかもしれません。
主の目からみたら分不相応な嫉妬心のもとに。 コメント
おひさしぶりです
マレーシアとシンガポールへの出張から今日戻りました。
プログの引越しがうまくいってよかったですね。
ゆっくり、自宅で読んでいます。

2006/03/10 00:23| URL | yamatan  [Edit]
yamatan様
おかえりなさいませ。
ご出張おつかれさまでした。
マレーシアもシンガポールも海の綺麗な常夏の国のイメージがあるのですが、この季節はいかがなのでしょうか。
とは言っても、ご出張ではリゾート気分など味わう間もなかったのでしょうね。
しばしごゆっくりお寛ぎください。
yamatan様の側には・・・祥子がおりますから。

2006/03/10 14:15| URL | 祥子  [Edit]
NoTitle
祥子さん、こんにちは。もう、こんばんはの時間ですね。
「初雪 1」読ませて頂きました。
一回にこのくらいの量を読ませていただくと、落ち着いて読めます。
今回はどのような夜になり、新年を迎えるのでしょう・・・余韻を残して、次回が待ちどおしい出だしです。
もちろん、古いサイトでは先へ進んでいるのでしょうが、次回のアップをワクワクしながら待ちます。
青春時代のドキドキ・ワクワクを思い出しています。

2006/03/10 17:43| URL | masterblue  [Edit]
masterblue様
ありがとうございます。
いままで・・・お引っ越しモードでしたので集中連載に近い量をアップしていたものですから、初雪からのアップが短くなって物足りないと言われたらどうしようかとドキドキしておりました。
実は、文章にも随分手を入れているので、msnをご覧いただいた方にも充分お楽しみいただけると思います。
HAIREI様にいただいたイラストも準備中ですので今しばらくお待ちください。
これから、こうしてmasterblue様からのコメントがいただけると思うと・・・楽しみです。
どうぞ、3人(4人)の紳士との3日間をお楽しみください。

2006/03/10 20:43| URL | 祥子  [Edit]
NoTitle
お引越しがだいぶ大詰めになってきたのですね・・・と申し上げるつもりだったのですが。
まだまだ長い道のりのようですな。^^
愉しく、おさらいさせていただきますね。

それはさておき。
運転手さんの水際だった立ち居振る舞い。
さすがにお見事ですね。
動と静とを見事に使い分けておいでのご様子。
波乱含みの幕開けにふさわしいワンシーンとお見受けいたしました。

でもね。
>出来るだけ心地よくシンプルな、
>久しぶりの方達を刺激しない上品なものを、
と、申しましても。
上品でシンプルなイデタチほど、人をそそるものはないのでは。^^
お召しものについて描かれたたった数行の行間から濃艶な色気を感じ取ってしまったのは、私の妄想が強いせいでしょうか?

2006/03/10 23:37| URL | 柏木  [Edit]
柏木様
ふふふ、せっかく刺激しないようにと装いに気をつかっても
そんな目で御覧になられたら・・・どうしようもございませんわ。
おねがいです。そんな風に見ないでくださいませ。

2006/03/11 16:55| URL | 祥子  [Edit]
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2007/02/05 11:09| |   [Edit]
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