初雪 6
「いつものシャンパンと生ガキを頼むよ。それからシェフにおまかせするからあまり重くない、美味しいメニューを頼む」4人が座ったところで美貴さんが支配人に指示をします。
「わかりました。後ほどシェフを伺わせます。どうぞごゆっくりお過ごしください」
一礼をして去る支配人と入れ替わりに、4人の前にシャンパングラスが置かれたのです。
「祥子さんに乾杯!」
石塚さんの声に、他の二人も目線にグラスを上げて乾杯をいたしました。
「ふふ、他の客席の男性達の視線見ましたか」
山崎さんが愉快そうにおっしゃいます。
テーブルに3種類の生ガキの盛り合わせがまいりました。
「美貴は前を歩いていたから気がつかなかったろう」
厚岸のカキを手に、石塚さんはぐいとまるでミネラルウォーターのようにシャンパンを煽るのです。
「いや、僕の前のほうの席の女性までこちらを見ていたからね」
「視線が祥子さんをすうっ・・と追うんだ」
「これだけ艶めかしければ男なら視てあたりまえです」
「おっしゃらないで・・・」
男性達の声にわたくしは顔を赤らめてしまいました。
「ドレスの脇から覗き込もうとしていた不埒な輩もいたな」
「気になるでしょうね、このライン」
右隣の山崎さんがドレスの外側の乳房のラインにつっと指を走らせるのです。
「あっ・・く だ・め・・」
このテーブルにはサービスの男性が1人ついていました。次々と空くグラスをシャンパンで満たし、カキの殻を片付けてゆくためにです。淫らな声をあげるわけにはまいりません。
声を押さえた分、わずかにした身じろぎさえ・・・テーブルに落ちているスポットライトの光を揺れるビーズが反射して明らかにしてしまうのです。
「揺れるだけ反射するビーズがこんなに刺激的とは思わなかった。これは計算か?美貴」 石塚さんの手には、既に2杯目のシャンパンも半分ほどになっていました。
「違うさ。祥子さんに似合うと思って手にいれただけだ。うれしい誤算だよ」
「煌めきの分だけ想像を誘いますよね。それも上げ底なんかじゃない。いまどきの若い人たちと違いますからね、祥子さんは」
「ああ 増えたな。服の上から見ると結構なバストだと思うが、脱がせてみると貧相なのが。祥子さんのが本物なのはこの姿を見れば一目でわかるからな」
左隣の石塚さんの視線が、脇にかすかに見える乳房の膨らみをなぞってゆきます。
「祥子さんの前で他の女性の話なんて。行儀がわるいぞ、石塚」
嗜める様に美貴さんが軽く睨むのです。
「美貴様、いらっしゃいませ」
太く落ち着いた声がしました。大柄でゆったりとした存在感のある男性です。
このレストランのグランシェフでした。
お三方とは顔見知りのようです。それぞれにご挨拶を交わされてからわたくしを見つめ、にっこりと挨拶をしてくださいました。
「今夜はどういたしましょうか」
ゆっくりと美貴さんに視線を戻されて、いつもの会話といった風情でお話がはじまりました。
「シャンパンとシャトー・ラグランジュをいただこうと思ってますから、それに合うものを。祥子さん、お嫌いなものはありますか?」
シェフの瞳がまたわたくしの元へ動きます。それも深く開いた胸元へ、露骨ではないように慎み深く視線が行き来するのがわかりました。
「いいえ、好き嫌いはありませんから。シェフのおすすめのものをいただけたらうれしいですわ」
わたくしは軽く微笑みながらシェフに答えました。
「ジビエでも召し上がれますか?祥子様」
わたくしの名前を噛み締める様に繰り返されるのです。
「ええ 好きです。兎でも鹿でも、シャトーラグランジュには合いますものね」
「承知いたしました。このお時間ですから軽く召し上がれる様にお作りいたします」
「よろしくおねがいします」
美貴さんの一言で一礼をして、シェフは厨房に戻られました。
「あのシェフもこれで祥子さんの虜だな」
「もう 石塚さんたら。シェフに怒られますわ」
「美貴、また連れて来いとねだられるぞ」
石塚さんが残りのシャンパンを煽るように飲み干します。
「祥子さんが気に入ってくださるならいくらでもお連れしますよ。僕と二人きりならいつでもね」
味には自信があるのでしょう。美貴さんは本気ともつかぬ口調で切り返します。
「また独り占めか、美貴」
ははは・・・僕もそうしたいな、と揃って笑い声をあげました。
ほんとうに仲の良い3人なのです。
「祥子さんはあの視線に感じてしまったのではないですか?」
右から山崎さんがわたくしを覗き込みます。アップにした髪型のせいで、隠れることのない耳元と首筋に彼の吐息が吹きかかるようです。
「ちっとも召し上がってないですね。生ガキはお嫌いですか」
「いいえ、そんなこと」
「沢山の視線に感じて、その上グランシェフにまであんなに熱く見つめられて。こんなふうにもうしっとりと身体を潤ませてしまいましたか?祥子さん」
海水から上げたばかりのようにぬめぬめと光るカキを、美貴さんが指し示すのです。
「やぁ・・・」
Gカップのバストを覆うランジェリーを与えられず、シルクのドレス一枚だけで胸元を覆う姿でホテルの中を衆目に晒されながら歩かされているのです。
着替えたばかりの新たなTバックも・・・もう・・・。
「美貴、だめじゃないですか。祥子さんがますます召し上がれなくなってしまう。さぁどうぞ美味しいですよ」
山崎さんがわたくしの口元にライムを絞ったカキを寄せるのです。
「自分でいたしますわ」
「僕が食べさせたいんです。さぁ」
美貴さんと石塚さんと・・・ホテルのサービスの男性が見ている前で・・・わたくしはそっと唇を開けました。下唇に殻の当たる感触がして、つるっとカキの身がわたくしの喉に落ちてゆきます。
「・・ん・っくん、おいし・い・・。あん」
海のミルクという言葉がぴったりの・・・磯の香りがするこっくりとした味でした。言葉が終わる間もなく、唇に残るカキの滴を山崎さんの指が拭っていったのです。
「祥子さんの香りのカキ・・美味しいですよ」
すべすべの指先をぺろっと嘗めるのです。
「何をなさるの・・・」
お食事・・・それも他の方の眼のあるレストランで、それなら想像を超える以上の羞恥を強いられることはないだろうと思っていました。でもそれは間違いだったかもしれません。
「唇で拭いたいのを我慢したのに。そんな怖い顔をしないでください、祥子さん」
悪戯っぽく山崎さんの眼が光るのです。
「それじゃ、今度は僕のを食べてもらおうかな」
ワシントン産の丸くて平なカキを石塚さんは大きな手に取ると、ライムを絞りかけ・・やはりわたくしの口元にお持ちになるのです。
「あぁ~んして、祥子さん」
わざとわたくしの唇から少し離して・・殻を傾けたのです。
ちゅるん・・と唇をかすめて薄くでもミルキーな小粒の貝肉と潮の香りがが口内に落ちてゆきます。
同時に、殻に満たされていた海水がわたくしの胸元に滴り落ちたのです。
「ん・・ぁっ・・」
手元のナフキンで拭き取ろうとする間もなく、胸元に石塚さんの顔が伏せられたのです。
ぺろっ・・・肌を舐める生暖かい舌の感触がいたしました。
「だめ・・」「こら やりすぎだぞ 石塚」
わたくしが抑えた声を上げる間もなく、石塚さんは顔をあげたのです。
「山崎が言う通りだ。祥子さんの肌の香りがプラスされると何倍も美味しくなるな」
美貴さんの叱責の声すらも堪えないのでしょうか。舌なめずりをするように僅かな汁を味わっているのです。
「石塚さんはこれだから。祥子さんが困ってるではないですか」
山崎さんのグラスにサービスの男性がシャンパンを注ぎにまいります。
「それに彼も、ね」
山崎さんにアイコンタクトをされたサービスの若い男性は、熟した大人の男女の戯れに頬を軽く染めておりました。
「次の皿が来たようです。祥子さんどうぞ最後のカキを召し上がってください」
そして、わたくしはようやく自分の手で的矢のカキを口にすることができました。
初雪 7
「お待たせいたしました。季節野菜のグリルでございます」白い大皿に10種類の季節の野菜がシンプルに焼かれただけで盛りつけられています。バジルとバルサミコのソースが絵画のようにあしらわれておりました。添えられたていたのは岩塩・ハーブ塩そしてバージンオリーブオイルの小皿でした。
「こんな風にするとお野菜の味も濃くなるのね」
冬に相応しい大根と京人参のグリルを取り分けます。一口頂戴してから、香り付けにハーブ塩を添えていただきます。
ただ焼いただけではなく、全ての野菜を別々にきちんと下処理をしたフレンチの技が、カジュアルなお料理を一層引き立てているのがわかりました。
「暑い時期は野菜のテリーヌが美味しいんですよ。ブイヨンのうまみがね、しっとりと・・こう・・野菜を包むんです」
フォークを右手に持ち替えた山崎さんの左手が、ナイフを持つわたくしの右手の指をあのすべらかな手でたどってゆきます。
「夏にきんと冷えた白ワインとテリーヌは絶品だからね。冬はグリルだと・・・美貴、そろそろ赤ワインに変えないか」
石塚さんの右手がドレスのスリットをくぐり、わたくしのストッキングに包まれた太ももに触れるのです。
欲情したというよりは、ほんの少し軽いタッチで・・・
「ええ、そう言うだろうとおもってシャトーラグランジュを頼んでおきました。もうシャンパンもすっかり空いてしまったみたいですしね。飲み過ぎても知りませんよ」
ははは・・これくらい大丈夫だよ、笑い飛ばす石塚さんの手が太ももの合わせ目までつぅぅぅっと・・・滑ってゆきます。
テーブルの下の戯れを美貴さんはご存知なのでしょうか? それとも・・・
ご存知であってもなくても、この方達が4人で過ごす場にこのレストランを選んだということは、わたくしに毅然とした淑女の姿を示し続けることを期待されているのでしょう。
先ほどのレストランの通路でのように。
3人の男性の仕掛けるどんな戯れにも凛とした態度を変えないこと、わずかに揺らぐようなそぶりさえ押し殺してみせる・・・わたくしはそう決めたのです。
「シャトーラグランジュでございます」
ソムリエがわたくしの好きな赤のボトルをまるで儀式のように、折り目正しくゆったりと開けてゆきます。
「テイスティングは?」
美貴さんに眼で尋ねる様子さえお芝居のようでした。
「あちらの女性におねがいします」
わたくし? 石塚さんの指はガーターストッキングの上端をなぞり、山崎さんの手はわたくしの手の甲を大理石の置物のように愛でていたのです。このままの状態でワインのテイスティングをしろと仰るのでしょうか。
にこやかに首を横に振って、わたくしは美貴さんにソムリエの儀式のお相手をお願いしようとしたのです。
でも・・・許してはいただけませんでした。
「彼女が一番このワインを愛飲しているんですよ。味には厳しいからね、覚悟したほうがいい」
眼顔でもう一度ソムリエに指示をすると、わたくしに微笑みで命じたのです。
夜の深い時間に盛装で現れて、略式とはいえフレンチを優雅に楽しむ4人の男女。
味を熟知しているというその中の1人にテイスティングを挑む・・・職業上の心地よい緊張感がソムリエを包んでいました。
とっく・・とっっく・・・ とろりとしたガーネット色の液体が、チューリップのようなフォルムのワイングラスに注がれるのです。
1998年のラベル。香りも味も見事なヴィンテージのボトルでした。
「ありがとう」
どうぞ、と差し出されるグラスにわたくしは唇を寄せたのです。
傾けるだけで溢れ出す香り。深く重いのに雑味のない赤の味わい。アクセントともいえるこっくりしたタンニンの後味。
「美味しいわ、みなさんにも差し上げてください。今日のお料理にぴったり。いいヴィンテージを選んでくださったわね」
3人の男性に順にワインをサーブするソムリエに・・・左の太ももをテーブルの下で露にされ、石塚さんの手で撫で回されながら・・・にっこりと笑みを浮かべ賛辞をおくったのです。
「祥子さんの舌は肥えてますね。まさに言葉通りだ。ありがとう、僕の顔が立ったよ」
恐れ入ります・・・美貴さんの言葉にソムリエは一歩下がった場所で控えめに答えました。一流ホテルならではのゆきとどいた躾とサービスの賜物でしょう。
「初めて飲んだが、これはしっかりしたボディのワインだね。まるで祥子さんのようだ」
脚を手で掴む様にしながら、石塚さんは喉をならし、そしてわたくしの頬に軽くキスをしてみせるのです。
「いやですわ、石塚さんたら・・」
彼の指がたった一枚だけのランジェリーの端を彷徨っていることさえ感じさせない様に・・・気まぐれなキスを嗜めるだけにしたのです。
それ以上は、だめ。軽く睨んで、グラスに添えていた手をクロスの下に運び・・・ナフキンを直すふりをして、石塚さんの腕を抑えたのです。
「本当においしいですよ。祥子さん、さすがだ」
しかたないな・・・といった表情で、指先で茂みの上をさっと佩く様になでてから手をテーブルに戻すのです。
その指をグラスの縁に沿えて、ワインをもう一口・・・。
「いい香りだ」
舌の上でワインをころがして・・淫らな視線をわたくしに投げながら、鼻先に右手の指先をかざすのです。どちらの香りを楽しんでいるのでしょうか。
「祥子さんと一緒ですとワインも香りを増しますね」
わたくしの手を撫でていた左手をグラスに戻しゆっくりと・・・グラスに1/3ほど注がれているワインを楽しまれていた山崎さんがうっとりと言葉を口になさいます。
「お上手ですこと」
右隣で・・・石塚さんに比べれば紳士的な・・・山崎さんにも笑みをお返ししたのです。
石塚さんにテーブルの下で脚を嬲られて微かにわたくの身体が火照りはじめたことさえ、触れていた手を通してこの方はご存知に違いなかったからです。
初雪 8
次に運ばれてきたのはジビエのワゴンでした。エゾジカ・山鳩・うさぎ・鴨・・・この季節ならではの滋味溢れる素材の数々と、合わせるためのソースの乗ったワゴンをシェフが自ら押してらっしゃいました。
「ジビエが召し上がれるとうかがったので4種類ご用意いたしました。お好みのものをサーブします。いかがいたしましょうか?」
美貴さんの斜め後・・・わたくしのほぼ正面にシェフは立っておりました。
シェフの声はテーブルの主である美貴さんに掛けられているはずなのに、その視線はわたくしの元にじっと留まっているのです。
「美味しいところをカットしてください。僕の好みはご存知でしょうから、シェフにお任せします」
こちらで幾度もシェフの味を堪能しつくしている美貴さんならではのオーダーです。
「そうだなワインに合うものを。肉の味のしっかりしたものが好みなんです」
オーダーすらも剛胆な風情を漂わせる石塚さんは、シェフに声をかけながら・・・テーブルの下に潜ませた指でプツッ・・・と、わたくしのストッキングを裂いたのです。
つ・ぅっっっっっぅ・・・ その音は・・想像以上に大きな音でした。
テーブル越しの離れた場所で、BGMと人の話声とシルバーのカトラリーの音に囲まれたシェフでさえ、一瞬手を止めたのです。
それでも次の瞬間には、何事も無かったかのようにサービスを再開しました。
シンプルなミドル丈ドレスのスリットはテーブルクロスの下で捲り上げられ・・・太ももでガーターベルトに吊られているストッキングは、足首に向けて次第に細く伝線してゆくのです。
「山崎様はいかがなさいますか?」
石塚さんの皿をサービスの男性に委ねると、ワゴンを楽しげに眺める山崎さんに声を掛けます。
「僕はそうだな・・」
プツッ・・・・あん、また。だめ・・聞こえちゃう。
「山鳩と鴨とうさぎを少しずつ。さっぱりめのソースがあればそれをいただけますか?」
ツぅぅぅ・・・わたくしの左脚のストッキングは、次から次へと石塚さんの指で無惨な姿にされてゆきます。
「今年のうさぎは柔らかですからきっと楽しんでいただけます」
ツッ・・ブチッ・・・・明らかにシェフの耳にも届いているのでしょう。そしてこの音が何を意味しているのか、この方はわかっているのです。
裂いたストッキングの下にくぐらせた指で、石塚さんがなにをなさっているのかも・・・。
プロの仮面をしっかりとかぶったシェフは、ゆったりとした動作で山崎さんの前にメインディッシュの皿をサーブします。
そして、ようやくわたくしを見つめ直したのです。
テーブルの下の痴態を想像し、山崎さんにサービスをしながら、もっとも柔らかなわたくしの体側の肌を・・・嬲られて微かに赤く染まるわたくしのむき出しの肩を・・・その視線で味わっているかのようでした。
「祥子様はなにがお好みですか?」
「わたくしはエゾジカと鴨を少しずつ。ソースがとても美味しそうですね。」
左側の露になった脇のラインに撓むバストの下辺を、石塚さんが中指で微妙なタッチで撫でてゆきます。思わぬ刺激にわたくしの答えは上ずった声になってしまいました。
「美味しいものを良くご存知ですね」
優雅にシルバーをつかうシェフの眼がわたくしの胸元を行き来しています。
「そう、祥子さんは趣味がいいんです。お食事もお酒も」
山崎さんのすべすべの手がわたくしの肩に親愛の情を表すかのように置かれ・・・そのまま肩甲骨の上を滑り落ちてゆくのです。
「会話も、それに・・・ドレスの下もね」
プチッ・・・・・テーブルの下でまた一カ所・・・ツゥッッッ・・・・。
「石塚さん、飲み過ぎじゃないですか」
嗜める山崎さんの声も、実は共犯者の笑みを含んだものでしかないのです。
さりげない言葉でずっと羞恥を刺激され、テーブルの下と・ドレスに覆われていない背中と・敏感な脇の白い肌を指先でなぞられて・・・わたくしの揺れる乳房の先端は・・はしたなく立ち上がってきてしまいました。
「どうぞ、こちらでよろしいですか?」
わたくしの右後からシェフ自らがサービスしにいらしてくださいました。
「ありがとうございます。美味しそうだわ」
わたくしのランジェリーをつけていない・・・ドレスの下のGカップの胸元をなぞるようなシェフの視線が・・・美味しいのはその肌だと囁くようです。
3人の男性はようやくわたくしから、目の前の極上の皿へと関心をうつしてくださいました。どなたも男性らしく、そして優雅にカトラリーを操ってジビエを楽しまれているようです。
「どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。このレストランはもう他のお客様はお帰りになるお時間なのです。美貴様のテーブルだけですから、ゆっくりとご利用ください。」
「申し訳ありません。こんなに遅い時間にお邪魔して」
美貴さんは他のお客様へのサービスを終えシェフの隣にきた支配人に何かを渡して・・・シェフと二人に頷きかけたのです。
「どうですか。ワインも美味しいですしシェフもご一緒に。もう厨房は他の方にお任せして大丈夫なのでしょう」
「そうですね。こんな夜ですし僕たちと一緒に・・・。どうか祥子さんからもお誘いしてください」
エゾジカをゆっくりと噛み締めて味わった石塚さんだけでなく、山崎さんまでもが熱心にシェフを誘うのです。わたくしも口添えしないわけにはいかなくなってしまったのです。
「ええ、お仕事のご迷惑にならなければ、ぜひお話を聞かせていただきたいわ」
「決まりだね、支配人」
美貴さんの一言が全てを決めました。
「承知いたしました。ただこのお時間ですので、サービスのスタッフは失礼させていただきますが宜しいでしょうか?」
「ええ 結構です。そうですね、お酒と珈琲だけいただけるようにしてもらえれば。後はシェフがサービスしてくれますよね」
「私の無骨なサービスでお許しいただけるなら」
ははは・・・男性達の笑い声が重なります。
人として男性としても魅力的なシェフです。ご一緒にお話したいと思う気持に偽りはありません。でも・・・これもきっと・・・
「それでは厨房を片付けてまいります。どうぞゆっくりとお食事を召し上がってらしてください」
失礼します・・・一礼すると、支配人とシェフはワゴンとともに厨房に下がってゆきました。
「ジビエは癖があっていまいちだと思っていたが、これは美味しい。見直したよ」
シャトーラグランジュのグラスを最初に飲み干したのは石塚さんでした。
「シェフの得意料理だからね。この鴨なんてたしか彼が自分で猟をしてきたもののはずですよ」
猟銃を持ち野山をかける・・・そんな姿がぴったりイメージできるそんなシェフだったのです。
「ワインもあっという間だね」
サービスの男性が最後のワインを美貴さんのグラスに注ぎ、会釈をして下がってゆきます。
最高の仕事をされたメインディッシュは、濃厚な味わいとはうらはらにすっとわたくしたちの身体に収まってゆきました。自家製のパンで味わうソースも絶品でした。
「シェフ おいしかったです。流石ですね」
ジャケット姿のシェフと、制服のままの支配人が新たなワゴンを運んできたのです。
そこにはマディラ・グラッパ・ブランディと数種類のナチュラルチーズ・ドライフルーツ・そしてデザートが、珈琲とともに用意されていました。
「それでは私共は失礼をさせていただきます。どうぞ今夜は思う存分お楽しみください」 石塚さんの向こうにシェフのための椅子を一つ用意し・・・おのおのに好みのお酒をストレートでサービスすると、支配人は一礼をして帰っていったのです。
初雪 9
「今夜ここは私たちだけです。どうぞリラックスなさってください。それともソファーになっているVIPルームに移られますか?」ウォッシュチーズとマディラ酒の組み合わせに舌鼓を打つ美貴さんに、シェフが話しかけます。
「もうスタッフは全員いないのでしょう。」
「ええ 私以外は誰もおりません。外のドアもクローズしてありますから、他の宿泊客が間違って入ってくるようなこともないでしょう。」
「だったら・・・ここで充分でしょう。」
美貴さんの一言が、それまでほんの微かだった淫媚な空気を一気に濃くしたのです。
たとえストッキングを破られた姿でも・・・ここでしばらくゆったりとお食事と会話を楽しんで・・・そっと専用のエレベーターであの部屋に戻るつもりなのだと、わたくしは食事の間中ずっと思っていました。そして、あの部屋で明日に備えてこの3人の中のどなたかとのわずかな戯れを求められて・・そのまま眠りにつくのだろうと。
なのに・・・美貴さんの言葉は「それでは終わらないんだよ」と告げているようだったのです。
口に含んだグラッパが火のような刺激を・・・わたくしに与えたのです。
「今夜の祥子さんは綺麗でしょう」
山崎さんの指が、レストランの椅子に浅く腰掛けてすっと伸ばしたわたくしの背骨をつぅ・・と撫で上げます。
「ゃぁ・・・」
不意の刺激に胸を突き出すように背を反らせてしまったのです。
たふ・・ん・・ ドレスの下のGカップの乳房が揺れ・・立ち上がったままの先端をシルクが刺激するのです。
「ええ、サービスの若い連中が噂を止めなくて困りました。とはいえ、美貴さんからお噂を伺ってなかったら、私もすぐに覗きに来ていたに違いないですよ。」
ははは 若い奴を叱れませんね・・・太くて落ち着いた声でシェフが笑います。
「柔らかい肌・しっとりとした・・・その手触りも歯触りも・・見ているだけで想像させられてしまいます。」
「窓の外の夜景をバックに、白いテーブルクロスの上で・・・祥子さんを味わってみますか?」
「いやぁ・・・」
美貴さんのひと言で山崎さんと石塚さんがわたくしの両手を掴み、同じ様に窓に向かって半円を描く隣のテーブルに連れてゆくのです。
山崎さんがわたくしを抱きしめて上体の動きを押え込み、石塚さんが腰を抱え上げてテーブルに載せたのです。わたくしを横たえ肩を動けないように押えると、左右の手首をそれぞれの膝を覆っていたナフキンでテーブルの脚に括ってしまわれたのです。
「やめて・・ください。なにをなさるの」
手の自由を奪われ・・抗うわたくしのドレスの裾は乱れ・・先ほど石塚さんに破られたストッキングは露になってゆきます。
「ふふ 本当はレストランの営業中にしてみたかったんだが、祥子さんがこういう人だからね。迷惑を掛けてはいけないと思ってこの時間にしたんだよ。」
「いえありがとうございます。こんな景色、私が何年こちらに勤めていても簡単に楽しませていただけるものではありません。」
「いいね、ホテルのレストランで饗される祥子さん。いくらお金をつんでも欲しがる好事家がいそうだ。」
「そんなことはさせない。祥子さんの価値を本当に解る人以外には、とてももったいなくて触れさせられないさ。」
「解いて・・おねがい。こんなところで、悪戯はやめてください。」
4人の男性は口々に勝手なことを言いながら、その眼はどれもすでに・・・欲情を滾らせていたのです。
わたくしの哀願と制止の言葉は・・・彼らを煽るだけでした。
「このストッキングは・・・みなさんでもう祥子様を味合われてから、こちらにいらしたという証ですか?」
シェフが石塚さんに問われます。
「いや、そんな時間は無かったのですよ。祥子さんのフェロモンに酔わされて、我慢できなくて。先ほど食事をしながら僕が楽しませてもらったんですよ。この太ももの感触が素晴らしくて」
ほら・・・とシルクのドレスの裾を大きくまくり上げるのです。
「いやぁぁぁ・・・」
突然のことにわたくしは昂った抗いの声を上げてしまいました。
幾重にも重ねられたシルクのスカートは、わたくしの左のスリットから大きく・・・鳥が羽を広げる様に捲り上げられ・・ガーターベルトに吊られた・・左脚だけを無惨に破かれているストッキングと・・・茂みを覆うランジェリーと白い太ももを・・額縁のように彩って晒したのです。
「ほぉぉ・・見事ですね。この脚、この肉付き・・触れてもいいですか。」
シェフの声がほんの少しだけ興奮に掠れました。
「ええ どうぞ。いいですね祥子さん」
いいなんて言えるはずはありません。なのに・・・美貴さんはまるでわたくしを一品の料理のようにシェフに勧めるのです。
「お止めになってください。シェフ・・おねがい・・・やめて・ぇぇ」
シェフの頬が破かれ伝線したストッキングのふとももに触れ・・次いで唇が触れるのです。
「祥子様の声はまるでソースのようだ。私の唇に触れる白い肌の味わいを深めてくれる、もっと聞かせてください。」
「やぁぁ・・・」
シェフの唇はストッキングの伝線に沿って足首に向かって下がって行き・・やがて足首をパンプスごと引き上げるのです。
「だめっ・・・」
脚を開かれ・・ふとももの狭間を晒すはしたなさを畏れ、わたくしはもう一方の脚の膝を揃えて脚をテーブルの上に引き上げたのです。
「だめじゃないですか、祥子さん。テーブルの上に靴をはいたまま上がるなんてお行儀がわるいですね」
シェフに引き上げられていた左脚に、必死で沿わせていた右脚の足首を山崎さんが掴みます。
「やめて・ぇぇぇ・・・山崎さん」
ぐいっ・・・黒のガーターストッキングに包まれた脚を左右に大きく割られてしまったのです。
初雪 10
「薫りも素晴らしいですね。祥子様の・・・これは香水などではないですね。男をそそる香りをこんなに溢れさせて」足先からパンプスを脱がせ カタン・・と床に落とすと、シェフは割り開かれた太もものストッキングの上の素肌に唇をそわせるのです。
「ストッキングを破く音があんなに響くとは思わなかった。そそられたよ、石塚のあの悪戯にはね」
山崎さんが右のパンプスを脱がせてつま先をねぶる・・・その脚に美貴さんの指が這うのです。
「そうですね 盛装した女性の、それもガーターストッキングをこうして破る。男が憧れる行為の一つですからね」
このレストランに脚を踏み入れた時から続けられた羞恥責めに、潤わせ・滴らせてしまった蜜が・・・内ももにはしっとりとまとわり付いていたのです。
シェフの指は左脚のまだ無傷だったストッキングの内側を・・・ピリリ・・と破り、伝線の中に表れる白い肌に舌を這わせてゆくのです。
「美貴の用意したストッキングはシルクだろう。この高く響く音はそのせいさ。安物のストッキングじゃこんな音はしない。もったいないとは思ったが・・手触りだけでどうしてもしたくなってしまったんだ」
食事の間中ずっとわたくしに指を這わせ続けていた石塚さんは、いまは隣のテーブルでブランデーとチーズをゆっくり味わいながら、テーブルの上に饗されたわたくしを眺めていました。
「構わないさ。祥子さんのためなら惜しくはないさ。それにプレゼントなんていくらでも用意してある。一番似合うと思って用意したストッキングが、こんな趣向を生むとは思わなかった。うれしいよ」
ピッ・・・とうとう右のストッキングも・・美貴さんの指で破かれてしまったのです。
「部屋のベッドの上でもいいが、こういう場所でというのも格別だね。美貴が言う様に営業時間中にこうしてみたくなる」
「いやぁ・・ぁぁ・・・」
もう誰もいないとはいえ、メインダイニングは通常の夜間営業時とおなじシチュエーションのままでした。
クラシックのBGMが流れ・・・フレンチを楽しむに相応しい照明と・・・わたくしたちの周囲のいくつかのテーブル以外には、すでに明日のためのグラスとシルバーがセットされているのです。
背後の窓の外には新年を迎える都市の夜景が宝石箱のようにまたたき・・・わたくしの身体の下には、ホテルのロゴがジャガードで織り込まれた真っ白なリネンのテーブルクロスが敷かれていたのです。
そのような場所で、テーブルの脚に両手を縛られ・・・3人の男性に両脚を割り開かれたはしたない姿を強いられていました。
今宵の為にと装った黒いシルクのドレスの裾は乱され、露になったガーターストッキングを無惨にも破かれ脚を指で・唇で・・・嬲られているのです。
「営業時間中だけはご容赦ください。こんな姿の祥子様がいらしたら、どなたも食事などなさらなくなってしまいます。それにこの香り・・・なによりも私が仕事になりません」
わたくしの足首は二人の男性に左右に開いたままで掴まれぴくりとも動かせないように押さえ込まれていました。
脚をねぶるために伏せていた身体を起こした3人の男性に・・石塚さんが加わり、半円形のテーブルを取り囲んでテーブルクロスの上のわたくしを見下ろすのです。
「この景色は、ん・・・祥子さん。箱根のあの姿以上ですよ」
美貴さんがポケットから携帯を取り出しました。
「どれどれ・・」
石塚さんがグラスを手に覗き込みます。
「やめて・・・だめです・・美貴さん。やめてください」
「ほぉっ、美貴は祥子さんを独り占めして、こんな姿をさせて楽しんでいたんですか」
箱根の宿で運転手に赤い縄で縛められ・梁に吊られて・・・着物をはだけられた・・淫らなあの写真に違いないのです。
「見ないでください」
山崎さん・石塚さんだけではなく、はじめてお逢いしたシェフの手にまで携帯が渡ってゆきます。
どんなお写真なのか、被写体となったわたくしはまだ眼にしたことがありません。
でも、あの夜の淫らさを思えば・・・お写真が粗く・不鮮明なものだからこそ・・・真実わたくしがあの時限りと晒した痴態を伝えてしまうに違いないのです。
携帯に群がった男性たちが離してくれたおかげで自由になった脚を、ようやく合わせ引き寄せたのです。膝をできるだけ身体に引きつけて・・折り畳んだのです。
縛められたままだったので、ドレスの裾まではもとに戻すことはできません。
白いテーブルクロスの上に広がる黒のシルク。その上にたたまれた白い脚を覆う・・破られ・伝線させられた黒のシルクのガーターストッキング。
「これもよろしいですが、いまの祥子様には敵いませんね」
ようやく携帯の画面から眼を引き離したシェフが、わたくしの姿に視線を戻します。
「ここまでしたら、もう一つ。こうしないとね」
つかつかと近寄って来た石塚さんの手が、わたくしの首筋に回されます。
プチっ・・アップにした髪の下でスナップで止められたアメリカンスリーブの襟を外すと、右側の身頃だけを・・・Gカップの白い乳房が乳首まで露になるようにずらすのです。
「やぁぁぁぁ・・・」
ホテルの高層レストランという日常空間で、纏っていたドレスを引きはがされ・・・白い肌を晒させられて4人の男性に視姦される。
気の遠くなるような羞恥がわたくしを襲いました。
「い・いですね。これは」
ゴクリ・・男性達のつばを飲み込む音が聞こえます。
淫らな欲望に晒されている、解っているはずなのにわたくしの身体は・・・彼らの欲望をなおも煽るように・・・乳首をなお堅くしこらせてしまうのです。
ビーズの散りばめられたシルクに覆われたままの左の乳首さえ、ビーズの反射がくっきりと・・・はしたない姿をあらわにしていたのです。
身体を丸める様に引き寄せた脚が、白と黒とのコントラストを一層強めていたのでしょう。
「もう・・やめて・・許して」
4人の男性は言い交わしたわけでもないのに・・・おもむろにジャケットを脱ぎはじめます。シャツ・ネクタイ姿になった4人は・・・すでにスーツのパンツごしでさえわかるほどに・・・昂らせていたのです。
「写真を撮らせてはいただけませんか?」
シェフの無理に欲望を抑えた声が響いたのです。
「祥子さん。美味しいお料理の御礼にシェフにあなたの艶姿の写真をプレゼントしますか?」
美貴さんがまた頷けるわけもない問いを投げかけるのです。
「いや、許して。お写真なんて・・だめです」
「だめだそうです。残念ですね」
山崎さんが、また一歩わたくしに近づきました。
「シェフには別の御礼をしなくてはなりませんね」
美貴さんが乱れはじめたわたくしの黒髪が落ちかかる耳元に・・・次の責めを予告するかのように囁いたのです。