重なる指に-2
二人きりになれる場所に着くまでわたくしたちは、一言も交しませんでした。指先をからめることも、腕を組むことも、ましてや先ほどまでカウンターで触れていた脚さえ見知らぬ他人のように離していたのです。
ほんの少しでも互いに触れたら・・・堰を切るように溢れて止まらなくなってしまう事を恐れるように。
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「ん・・ふっ・・」
部屋へ向かうエレベーターで交したキスが始まりでした。
エレベーターが開いて廊下に誰もいないことを確認した一瞬以外、貪る様なキスを止める事は出来ませんでした。
「しょう・・こ・・」
「ぁ・・ん・・」
かすれた声でわたくしを呼んだのと、部屋のドアが閉まったのは同時でした。
扉の内側に互いのバッグを落とすように置くと、彼はわたくしのジャケットの釦を、わたくしは彼のネクタイを外しはじめたのです。
「だ・め・・・んん・・・」
ジャケットを落としてあらわになったノースリーブの肩を彼の唇が襲い・・・カットソーの中のブラのホックをはずそうとするのです。
「いい・・香りだ」
「ゆるし・・はぁぁ・・ん・・」
今度はネクタイを緩め、シャツの貝釦に指を掛けるわたくしの首筋から耳へと・・・
「はぁ・・ぁん だめ・・・あぁぁ・・・」
両手首を掴まれて引き上げられ・・・腋窩を舐め上げられた瞬間、カットソーは引き抜かれ、スカートのファスナーは引き下ろされてしまったのです。
「さっきのバーボンより祥子のフェロモンが香るな。」
「あん・・・・いじわ・る・・言わないで・・・・」
「どうした?」
「おねが・・い・・」
「もう立っていられないのか」
「ん・・・・ゃぁ」
彼のジャケットすら脱がす事ができなかったわたくしは、ランジェリーだけの姿でベッドの上に放り出されたのです。
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「そんなに感じてるのか?」
「やっ・・・だめ・・」
横たわったわたくしは、いつもと違い部屋の中が明るいままであることにはじめて気づきました。
「なにが駄目なんだ」
自らジャケットを脱ぎ、ネクタイを引き抜きながらベッドの足元に乗る彼は引き寄せたわたくしの両膝を割ろうとするのです。
「だめっ・・あかる・ぃ・・ぃやぁぁ・・・」
明るすぎる間接照明を遮るように腕を上げた途端、彼の手で寄せ合わせたストッキングの膝は割り開かれてガーターストッキングの奥のはしたなく濡れそぼったショーツまでも、明かりの下に晒されてしまったのです。
「綺麗なパウダーピンクのランジェリーなのに祥子が濡らすからそこだけ濃いピンクに見える。」
「や・・っ・・・」
開いた脚の間に身体を割り込ませた彼は、スリップの裾を引き下ろそうとするわたくしの手を左手一本でやすやすと封じてしまいます。
「いつから濡らしてた? こんな状態だってことは、俺が来る前からか? マスターに欲情してたのか?」
「あぅっ・・・っちが・・うぅっ・・」
「ブラの上からでも祥子の乳首が堅く立ってるのがわかる。」
彼は右手をランジェリーをつけたままの乳房を指先がめり込むほどに揉みしだき・・・左手はシルクのスリップの裾をわたくしの手ごとガーターベルトのレースが丸見えになるほどに引き上げたまま、視線ははしたないショーツの上と、羞恥にまみれるわたくしの顔を交互にさまよわせるのです。
「やぁぁ・・・ゆる・し・て・・・明かりを・・・」
「久しぶりに逢う恋人に、祥子のきれいな花びらさえ見せてくれないつもりかい?」
シュルッ・・・ シュッ・・・
「いやぁぁぁ・・・」
乳房から離れた手はあっという間にショーツのサイドのリボンを解き・・・明かりの下に晒してしまったのです。
「ヘアをカットしたんだね。祥子のつややかなヘアの感触も好きだったが、この景色も格別だね。まだ触れてもいないのにいつも慎ましやかなピンクの花びらがこんなに濃く色づいてる。」
「はぁぁ・・・ん・・」
彼の指先が、濡れそぼる真珠の上をはいて花びらからしたたる蜜を掬うのです。
「きれいだ。何度見ても・・・こんなに」
「おねがい・・ゆるして・・・もう・・ ね あな・た・・・ぁ・・」
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哀願するわたくしに唇を重ねると、彼は腕を伸ばして部屋の明かりを落としました。
「しょう・こ・・・」
「あふぅぅ・・ぁん」
スリップとブラのストラップを乱暴に引き下ろし彼の手に揉みしだかれて堅く立ち上がった乳首をねぶりながら、わたくしがほとんどの釦を外していたシャツを脱ぎ去ります。
「いいのか?」
唇も耳朶も首筋も乳房も・・・全てに唇を這わせながら、柔らかな感触のウールのスラックスとソックスを荒々しく脱ぎ捨て、わたくしの手を彼のものに導くのです。
「はぁぁ・・・あぁ・・おっ・きぃぃ・・・あぅっ」
彼はいつものボクサーパンツを・・身につけていませんでした。
いつからそんな風になっていたのか、いままでにないほどに猛々しく雄々しく立ち上がり、わたくしの指にはぬめる彼の体液さえ感じられたのです。
「ほしいか?祥子。これが欲しいか?」
「は・・ぃ・・・ほしぃ・で・すぅ・・・はぁうっ」
「じゃぁ 咥えてくれ」
力強い腕で体勢を入れ替えられたわたくしは、ガーターストッキングだけの姿にされ、仰向けの身体の中心にそそりたつ彼に唇を重ねたのです。
少しずつ口内の粘膜の比率を高めるように・・・唇の触れた場所に舌先を這わせるように・・・
「ああ・・・そこだ 気持ちいいな 祥子のフェラは 本当にいい」
彼の茂みに鼻先を埋めるほどに深く・・喉奥で先端を愛撫し・・・
左右の皺袋をひとつづつ含み・・・
鼻先で袋の根本を刺激しながら舌先で彼のアナルを舐め・・・
「うぅ いいっ」
同時に彼に添わせた指に新たなあたたかな粘液がしたたり落ちるのがわかります。
指先を皺袋に移し・・・わたくしは改めて口腔に彼を迎え入れたのです。
「最高だ 祥子 これ以上されたら逝ってしまいそうだ」
長い髪に指を絡めるようにしてわたくしの頭を引きはがすと、彼はわたくしの身体をそのまま昂りの上へと引き上げたのです。
「祥子を味あわせてもらうよ」
「あぁうっ・・・」
騎上位に彼を跨がらせたわたくしの花びらを貫くように、昂りを突き上げ・・・わたくしの腰をぐいと引き下ろした彼は、挿入するなり最初の絶頂に達したわたくしを容赦なく責め立てはじめました。
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「はぁぁ・・ん・・いい・・いぃのぉぉぉ・・・あなたぁぁ・・・」
「っ締まる 祥子のはなんて」
わたくしを上にして責めに応じてたゆんと揺れる乳房をいらっていたのは、十分にもならなかったように思えます。
突然動きを止めると、彼は今度は正上位でわたくしを責め立てたのです。
「いぃぃ・・・あな・た・・・す・きぃ・・・」
「好きだよ 祥子」
「だめ・・・そこ・・・また・い・っちゃ・うぅぅ・・」
「何度でも逝ったらいい。祥子が逝くのを見るのが俺は好きなんだ。」
「あぁぁ・・・いっちゃう・・ぅ」
「逝ってるな 解るよ 祥子の身体は嘘がつけない」
「やぁ・・・そんな・・あぁぁ・・・いやぁぁぁ」
「もっと もっとだ」
逝き続けたままの身体をうつぶせにされ、ヒップだけを引き上げられて今度は後ろから深々と・・・
「あぁ・・・ゆるしてぇ・・また・・いぃぃ」
「ほらっ」
パシィ! 白く張りつめた尻たぼに平手のスパンキングが飛びます。
「ひぃっ・・・」
「いいのか? 祥子」
パシッ! パチッ! 立て続く刺激にわたくしは身体全体をひくつかせてたくましい彼を体奥でより一層感じてしまうのです。
「祥子に逢うまでバックがこんなにいいとは思わなかった」
「あうっ・・・」
「わかっているか祥子。スパンキングの度に祥子は酷く締め付ける。」
「あぁぁ・・・いぃぃ・・・いぃのぉぉ・・・・」
「動かずにいても中が動いて俺のを扱く。奥を突けば吸い込むようだ。こんな身体は祥子しかしらない。」
再び乱暴にわたくしを引きはがすと仰向けにして・・・正上位で・・・・彼は絶頂へ向けて・・・身体を重ねたのです。
「はぁぅ・・ん・・」
「祥子 逝くぞ!」
「はぁ・・・いぃぃぃ・・・」
「一緒だ いいな」
「くださ・いぃぃ・・・ あなたの精液で・・祥子を・・まっしろ・に・し・てぇぇぇ・・・」
「ああっ 逝くっ」
ヘッドボードに突き当たったわたくしの頭を一層押し付けるように3度大きく突き上げると、彼は熱い精液をわたくしの中に迸らせたのです。
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「あ・ん・・・ ごめんなさい」
シャワーを浴びた彼に頬を撫でられて、あられもない姿のままでいることにはじめて気づきました。
彼に逝かされたまま気を失ったようになっていたわたくしの身体には、パウダーピンクのスリップだけが掛けられていたのです。
「そろそろ時間だ。シャワーを浴びて来られるかな?」
「はい。 あっ・・・いゃ・・・はずかしいわ」
身体を起こしただけで・・・太ももに暖かなものが垂れ落ちてくるのです。
「さっき拭いたつもりだったけど、今夜は沢山出したからな」
「もう・・・」
ベッドサイドのティッシュを慌てて押し当てて、彼がベッドの上にあつめて置いてくれたランジェリーを胸元に抱えたのです。
「シャワーを浴びてきます。」
「逝ったままで気を失っている祥子もきれいだったよ。あと少し若ければもう一戦挑んじゃいそうだ。」
「いじわる・・・・」
「普段の乱れない祥子を知っているからだろうな。俺にだけ見せる姿だと思うとたまらない。うれしかったよ。」
「・・・すぐに・・支度しますわ」
先ほどとは違う熱に染めた頬を隠すように、わたくしはバスルームに逃げ込みました。
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「ありがとう 遅くなっちゃったね。」
「ううん」
二人きりの部屋を出たエレベーターの中で名残の口づけを交しながら、わたくしは彼に腕をからめたのです。
「いつものように凛とした祥子も好きだよ。」
「ふふふ・・・」
夜の空気は、ふたりにはとても心地よいものでした。
火照る身体を冷やす為にも・・・腕を組んで街を歩くためにも・・・・
重なる指に-1
「お久しぶりですね。お元気でしたか」そういって差し出されるおしぼりの暖かさにほっとするくらいに涼やかな夜。
「ありがとう。そんなに久しぶり・・・そうだったわね」
「ですよ。今夜は何になさいますか?」
「おすすめのモルトありますか?シェリー樽熟成のものがいいわ。」
「そうですね・・・」
カウンターの壁面一杯に並ぶウイスキーのボトル。
一本・一本のボトルに慈しむように触れながら、ヴィンテージを確かめているバーテンダーのいつの間にか後で一つに結ぶほどに伸びた髪を見て、わたくしは本当にここに来るのが数ヶ月ぶりだったのだと実感しました。
「加納さんは長熟のものがお好きですからね。マッカランはいまいいものが無くて。」
「構わないのよ。たまには別のものもいただかなきゃ。もう、わたくしの好きなマッカランはほとんど手に入らないしね。」
「これなんかどうですか?」
「スプリングバンク?」
「ええ、ちょっと訳ありなボトルなんですが。加納さんになら飲んでもらってもいいって言われてますから。30年もののシェリーが本当に華やかなモルトなんです。」
「いいの? もしかして竹下さんのボトル?」
「よくお分かりで。随分加納さんがお越しにならないので、皆様寂しがってらっしゃいましたよ。」
「マスターもお上手ね。じゃ、竹下さんに甘えてそれいただこうかしら。」
「いつも通りで?」
「ええ お願いするわ。」
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ターミナル駅から3つ目の駅の住宅街の中にある隠れ家のようなバー。
モルトウイスキーが売り物で、モルト好きが集まる・・ここはそんな店でした。
本店は、ターミナル駅にある彼が何年も前から懇意にしている店でした。
何度か彼に誘われて本店に伺った後で、よろしければ私は来月からこちらに移りますから・・・と目の前にいるマスターから名刺を差し出されたのが、この2号店に来る契機でした。
「いかがですか?」
「わたくしの知っているスプリングバンクとは随分違うわね。香りと舌の上に乗った時のまろやかさが・・・格別だわ。」
「そう言っていただくと竹下さんも喜びます。このボトルを持って来たとき、加納さんが来ないかなと随分お待ちになっていましたから。」
「そうだったの。申し訳ないことをしたわ。」
また一口。華やかなシェリーの香りの余韻に浸っていると・・・
「いらっしゃいませ。」
わたくしにそっと微笑んで、マスターは新しくお越しになったお客様へと小粋なお髭の顔を向けたのです。
今日はここで彼と待ち合わせでした。
とは言っても、時間はなんとも言えないよ、という注釈付きの約束でした。
わたくしが忙しい日々を送っていたように、彼も多忙な毎日を繰り返していたのです。
日々、手元に届くメールで互いの存在を確かめながら、決して触れる事のできない・・・そんなひと月にふたりで焦れて交した約束でした。
わたくしのことも、彼のことも知っていて・・・でも二人の本当の関係は知らない、ここもそういう店の一つです。
時間を決める事の出来ない約束の時、彼は必ずそういう店を待ち合わせ場所に選んでくれました。
わたくしの居心地が悪くないように。
お店に来て出来るだけ早くふたりきりになれるように。
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「いらっしゃいませ。」
「悪い、遅くなった。」
隣のスツールに滑り込むように腰を下ろした彼は、まだ仕事が心のどこかにひっかかっているようなそんな顔をしていました。
「いいのよ。今夜は面白いお酒をいただいているから。」
「それは?」
「ノアズミル。バーボンなんだけど、美味しいわ。とっても。」
「今夜は珍しい人が来ると思っていたら、お待ち合わせでしたか。」
先ほどわたくしにしてくださったようにマスターは暖かなおしぼりを彼に差し出します。
「悪いね、なかなか足を運べなくて。」
「今夜は何になさいますか?」
「それ、美味しい?」
質問を投げかけたマスターにではなく、わたくしの方に振り向くとさりげなくそう聞くのです。
「舐めてみれば?」
わたくしは彼の目の前に、本当にこの瞬間まで口元にあったグラスを差し出したのです。
彼はグラスの中の芳香を楽しみ、まるで当たり前のようにわたくしがいただいていたのとおなじグラスの縁に唇をつけると、ほんの少しバーボンを口にします。
「いいね。俺もこれにしよう。」
「承知しました。」
他のお客様にするように、マスターは彼に飲み方を確認する事はありません。
美味しいウイスキーを彼がストレート以外で楽しむことなどないことを、マスターは熟知しているからでしょう。
磨き上げられたテイスティンググラスにワンショット分のバーボンを注ぐと、カウンターを滑らせるように彼の前に置きます。
「普通のバーボンでしたらショットグラスの方が気分ですが、ノアズミルはぜひこのグラスでお召し上がりください。」
「ありがとう。」
カットグラスにミネラルウォーターを注ぐと、マスターはカウンターの反対の端に座るお客様の相手に行ってしまいました。
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「おつかれさまでした。」
「おつかれさま。」
わたくしの眼を見つめたまま、バーボンのグラスを傾けます。
眼をそらす事もできず・・・酔いではなく頬が染まるのを感じます。
「旨いな、このバーボン。それにこういう場所にいる祥子はとっても魅力的に見える。」
「もう お世辞じゃごまかされません。」
甘くにらむ視線も絡んだままでした。
「ごまかすなんてさせないよ。今夜は」
カウンターの上の二人はマスターやこの店の常連さんがご存知の、友人としての彼とわたくしの距離を保っていました。
でもカウンターの下のわたくしのストッキングに包まれた脚には彼のウールのスラックスの感触がしっかりと寄り添っていたのです。
「どうです、お好みよりも甘くはなかったですか?」
「いや、自分で選ぶと同じ様なものしか飲まないからな。こういうのは新鮮でいいよ。」
ゆっくりと1杯のグラスのバーボンを楽しむ間、わたくしたちは彼の仕事がらみのさまざまなことを・・・誰に聞かれても当たり障りのないような会話を・・・続けていました。
グラスの中身が空になったところで彼は、マスターにチェックの合図を送ったのです。
「これからどちらかへ?」
「2つ先の駅のイタリアンを予約してあるんだ」
「そうですか。では満腹なさったらまたお越しください」
「ははは 加納さんに酔わされなければそうするよ」
「お待ちしてます。おふたりとも」
「ごちそうさま」
「いってらっしゃいませ」
イタリアンなんて・・・予約していませんでした。
二つとなりの駅に行く為の改札とは逆の方へ、わたくしたちは何かに追われるように歩き、急いでタクシーをひろったのです。
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