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初雪 58

「申し訳ございません。」
そう言う望月さんも羽織すら身に付けていない・・・着物だけの姿でした。防寒のための備えをしているわけではありません。
当然のように、彼の声も寒さに震えていたのです。
「あたためて差し上げることもできないのです。こうしてお話することも、後で主の責めの言い訳にされてしまいかねないのです。どうかお許しください。」
「いい・・え。わたくし・・の方こ・そ・・ごめ・・んなさ・い」
緋色の湯文字だけを纏い両腕を縄で縛められた姿のわたくしは、僅かな時間のうちにもう歯の根が合わなくなっていました。冷たすぎる外気はわたくしを一瞬の内に凍えさせ・・・すぐに体表だけを火照るような熱に包んだのです。
最も皮膚の薄い・・・身体の前面を覆うこともできず、やわらかな脂肪の層で形づくられたGカップの乳房は確実に冷やされて行きました。
せめて両手が自由なら、身体の前面を覆って最も冷えて行く敏感な部分を守れたことでしょう。
後ろ手に縛られた腕は、わたくしの身体を一層厳しく冷気に晒す結果を招きました。
肌の粟立ちは収まらず・・・乳房の先端は快楽ではなく寒さのために、堅く高く凝り立ってゆくのです。
白い肌は見る間に青ざめて・・・赤い縄がくっきりと映えるほどに血の気を引かせていたのです。

「望月くんの表情が切なそうだね。」
リビングの椅子に座り、用意されていた日本酒を注いだぐい飲みを手に石塚さんの視線は、曇りかけた窓硝子を見つめていました。
「あぁ、きっと望月のことだから祥子さんを抱きしめて暖めたくて仕方ないんだ。良かったよ、釘をさしておいて」 
今夜祥子さんをどうやって責めるつもりなのか、大まかな筋書きを美貴さんは彼に話してありました。なぜなら様々な小道具の準備は、全て望月さんに任せていたからです。不安と狼狽を見せる運転手に、祥子さんをフォローはしてもいいが僕たちのすることを妨害することだけは許さない、そうきつく申し付けてあったのです。
「それにしても、まるで今夜の祥子さんの着物の柄のようですね」
山崎さんのひと言で、二人の視線が改めて窓の外に注がれます。
今夜は幸いに月が綺麗な夜でした。
ベランダに降り積もった雪は月明かりに青く輝き、その中に立つ祥子の緋の湯文字はひっそりと咲く侘助の風情でした。縛められた上半身は白い花芯を、側に立つ望月さんの鈍緑の着物は花をかばう様に沿う常緑の葉を思わせたのです。
室内の適度に暖められた空気が窓ガラスを薄くけぶらせ・・・まるで二人を淡雪でおおわれたかのように見せていました。
「祥子さんが簡単にOKするわけはないと思ったが、大丈夫かな。もう3分を超えているぞ」
不安を打ち消す様に、石塚さんが手元に残っていた日本酒をぐぃっと煽るのです。
「そのために望月を一緒に出したんだ。引き際は解っているよ、ほら」
窓硝子の外で、一歩踏み出した望月さんを彼女が見つめていました。
「そろそろかな、毛布と暖かいタオルくらい用意しておきましょう」
椅子を引くと、山崎さんは玄関脇のゲストルームの方へ向かったのです。

「祥子様お願いです。どうか承知なさってください」
望月さんの声は、白い息さえも震えていました。でも彼の若々しく甘い声色が、わたくしをほんのり暖めてくれたのです。
「望月・・さん・まで・・・」
解っていました。このまま外に居ることがどんなに危険なことなのか。
精神力だけで堪えていたのです。
きっと望月さんの身体も芯まで冷えているはずです。なのに、彼自身のことは・・・おくびにも出さないのです。
「私が望んでいる、と言ってもだめですか?」
「あなたが・・・」
そんなことは・・きっとないのです。彼が望んでいるなんて・・・そんなこと。
「はい。お願いです、祥子様のお身体が心配です。どうか承知なさってください」
「そん・・な・・・」
寒さに凍え切った身体はもう限界でした。望月さんの表情を見上げた瞬間、バランスを崩した身体は雪の中に倒れてゆきそうになったのです。
「危ない!!」
駆け寄る望月さんの胸が、わたくしを支えてくれました。
「祥子様、もうよろしいですね。どうか承知してください」
わたくしの肌に触れる大島の絹の冷たさに・・・その胸に顔を埋めたままで頷いたのです。 コメント
祥子さんと望月さん
 主である三人よりも祥子さんの心は
すっかり望月さんのものになってしまっているようです。
これで、美貴さんはフリーだ!
さやかのポケットに入れて持って帰ろう。


2006/05/09 02:47| URL | さやか  [Edit]
さやか様
ふふふ 本当に美貴さんがお気に入りのようですね。
でも、あんな・・・凍える仕打ちをなさる方なのですよ。
よろしいのでしょうか?


2006/05/09 11:43| URL | 祥子  [Edit]
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2006/05/09 12:36| |   [Edit]
こんばんは。
ちょっと寒い一日でした。

望月さんまでと、祥子さんは驚かれたようでうすが、愛すればこそ、その全てを見たいと思うのが、男の性でしょうか。あるいは業かも・・・

望月さんの胸の中で、小さくうなづく祥子さんが、愛おしく魅力的です。

うなづいた祥子さんに、部屋で待っている三人もほっとしたことでしょう。充分ご承知でしょうが、皆さん祥子さんを愛すればこそです。

2006/05/09 20:24| URL | masterblue  [Edit]
鼓動が聞こえる
途中から読んでるはずなのに、dokidokiします。
当blogよりリンク設定&本文にて紹介…をアップしました。

「侘助」は明日どうなるのでしょう。楽しみです。

2006/05/09 21:52| URL | eromania  [Edit]
今夜は雨の大阪からです。
masterblue様
masterblue様もご一緒にほっとしてくださったのでしょうか?
共に居て下さった望月さんのお気持ちも
お三方のお気持ちも・・・そういうことなのですね。
頷いたわたくしにこれから与えられる仕打ちも・・・同じ理由なのでしょうか。

eromania様
そうですね。途中からご覧いただいたのですね。
いつかお時間が出来ましたら一度ゆっくり全てをご覧頂けたらと思います。
わたくしのはしたない姿を・・・あん・・はずかしいです。

リンクありがとうございます。
相互リンクはもう少しお待ちくださいませ。
いずれ必ず♪

2006/05/10 23:28| URL | 祥子  [Edit]
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