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桜陰 3

「日本に戻られてもう随分になるのですか?」
「帰国したっていう言葉の意味ならそうだね。」
「ん?」
「戻って間もなく東京コレクションがあったから、自分の時間が持てる様になってからというなら、まだ3日も経ってないよ。」
3日前、わたくしに久方ぶりのメールをいただいた日です。
「そうだったんですか。」
「相変わらず祥子さんは僕に連絡してくれないからね。」
少し拗ねたようなおっしゃり様です。
「そんなこと、お忙しいと思っていたからですわ。それに、いつこちらに戻られるかもわかりませんし。ご迷惑になってはいけないと思ったものですから。」
「言い訳だね。 僕と話したいと思わなかった?」
「・・・時折は」

年が改まってから・・・高梨さんのことは思い出しておりました。
わたくしが、4人の男性から年越しに受けた仕打ちは、もとに戻ろうとする経過でさえもわたくしのことを酷く苛みました。このような事・・・とても口に出来ることではありません。秘して・・・独りで耐えるしかなかったからです。
万が一この仕打ちのことを知っても、単なる事実としてなんということなく受け止めることが出来る男性は、わたくしが知る中でもそうはいらっしゃらないと思えました。
あの4人以外の方に・・・そう考えた時浮かんだのは高梨さんの顔だったのです。
堪え難いとさえ思われる責めが24時間つづく日々に、わたくしは高梨さんの救いの手を幾度となく求めそうになってしまいました。
日本にいらっしゃらない方。
電話でもメールでも、少し話しをさせていただくだけで、翳りを失ったはしたない身体のことを忘れさせて下さる方。
わたくしからの連絡を待ってらっしゃる・・・方。
でも結局わたくしは、電話もメールもできませんでした。
どんなに秘密にしておきたいと思っても、きっとこの方ならわたくしの変化を気づいてしまいそうだったからです。
 
「素っ気ない言い方だね。」
「ふふふ そんな風におっしゃっても、決してわたくしの側に居て下さることなんてできないのに。」
「そういう問題じゃないさ。10年前とは時代が違うんだ。たとえ地球の反対側にいてもなんということなくメールのやり取りは出来るんだ。僕を求めているならそのくらいしてもバチは当たらないだろう。」
偶然に出逢った第九のコンサートホールから3日間。
高梨さんの部屋で過ごす間、幾度となく言われ続けていたのです、『どんな些細なことでも良いからメールをしておいで。電話でもいい。旅の空の1人のベッドで楽しみにしているからね。』
「ごめんなさい。ご連絡をしないで。でも、いつものように過ごしてこられたのでしょう。NYでもミラノでも、パリでもロンドンでも。」
その土地々々に馴染みの女性が居ると、あの日も寝物語に聴かせてくださっていたのです。
「いや。今回は真面目に過ごしていたんだ。」
「・・・うそ」
「嘘なんか吐かないさ。祥子さんの面影を浮かべながら他の女を抱くのがどんなに虚しいかは、前回のコレクションで身にしみてるからね。たまに女と過ごしたのは、まぁ別れ話をした時だけだね。」
もう何年もお独りのままで、コレクションカメラマンとして世界を旅しているこの方が・・・いったい何人の女性と別れ話をなさっていらしたのでしょう。
「もう、ご冗談ばかり。」
もしおっしゃっていることが本当なら・・・とわたくしは一瞬本気にしてしまいました。でも、そんなことある訳がありません。子供のように無邪気に信じたわたくし自身を笑う様に、そうお答えしたのです。
 
「冗談じゃないんだよ。祥子さん。」
ゆったりともたれかかる様に腰掛けていた姿勢をすっと・・・戻されます。
「僕に淋しい想いをさせたお仕置きをしなくちゃね。」
「えっ・・・お仕置き?」
高梨さんのひと言が・・・麗らかな桜の午後の彩りを一転させたのです。
「ああ お仕置きだよ。まずはこれからだ。」
高梨さんが差し出されたのは、綺麗な桜色の・・・大型犬用の首輪でした。
「これからあなたのお部屋へ?」
ここは春の日差しが降り注ぐ桜の庭園を望むカフェのテラス席です。
それぞれのテーブルが離れているとはいえ・・・まさかここで<お仕置き>をはじめるとは思えませんでした。
「いや、今日は祥子さんと桜を見る約束だからね。部屋には行かない。さ、ここで着けなさい。」
「・・・だめ」
周囲に人がいないとはいえ、眼前の庭園からこのテーブルはすぐに見つけられるのです。
「自分ではできないのかい?」
犬の首輪・・・そのものの意味する内容を知っている人なら・・・一目でわたくしのプライベートな秘密を知られてしまうアクセサリー。
「パリのフォーブル・サントノーレで見つけた。あまりに優しく儚い薄紅があの時の祥子さんのうなじを思い出させてね、思わず買ってしまった。」
わたくしが逆らえなくなる深くて甘い声が・・・まるで桜の香りのようにわたくしを酔わせるのです。
「着けなさい。」
「・・・ぃやぁ」
二人きりの夜の帳の下なら素直に従っていたかもしれません。でも、今は・・・ここは・・・。
「祥子」
ふるふるとわたくしは弱々しく首を横に振り続けたのです。 コメント
こんにちわ。コメントお立ち寄りありがとうございました。素敵な文章を書く祥子さん。素敵な体験が、色々とおありなのですね。私も、又、ちょこちょこ寄らせてもらいますね~(`¬´)/

2006/07/20 08:38| URL | ゆう  [Edit]
先ほどはコメントありがとうございますw
ちょうど10分後に起きました(笑)

自分でも思うのですが、エロ記事ばかり書いてると
飽きて来るんです・・・(少し真面目にやりますw)

朝から女性からのコメントがあったので
とてもうれしいですw (今日は仕事がんばりマス!w)

犬の首輪をつけて出勤しようかと・・・(冗談ですがw)
コメントありがとうございますw ではではw 『よ』

2006/07/20 09:07| URL | よしちょ  [Edit]
祥子さん テンプレも変えてますます、いい感じになって来ましたね~
20万ですか~?
凄いですね~
私も出来る限り続けれるように
頑張って行きますので
応援宜しくお願いします。

2006/07/20 15:27| URL | シュン  [Edit]
先週末、先取りの夏休みを張り切りすぎたから?
何のせいやら身体の節々が痛く、すっかり風邪引きです。仕事も早めに切り上げました。
手枷足枷は有りますが、首輪は…。実質的な意味より精神的な拘束感なのですね…。

2006/07/20 16:46| URL | るり  [Edit]
 質問の好きな高梨さん
大人の男の人って感じがします。
Sの男性って、自信に満ちた立ち居振る舞いの仮面の下に、ちょっと危うい弱さを隠していて、隠し切れずにチラッと見せるところがいいですよね。
その辺りを、甘えながらちくちくちくちくしてみたい。
って、相手は嫌がるでしょうけど(笑)。

2006/07/20 17:09| URL | さやか  [Edit]
すっきりと青く晴れた空・・・とは行きませんでしたが、今日は一日すゞやかでしたね。
湿度の多い毎日に疲れた身体をほんの少しでも癒せましたでしょうか?

ゆう様
さっそくコメントありがとうございます。
経験というよりも・・・物語ですので(笑)。ゆう様の実体験のレポートも素敵でした。
これからもよろしくお願い申し上げます。

よしちょ様
今朝はおねぼうさんだったのでしょうか?
お仕事うまくいかれましたか?
ブログでも同じ傾向のお話ばかりだと、
ちょっと疲れてしまうことありますよね。
お休みをするのではなくて、上手に気分転換されているな♪
と、お邪魔して感じました。
またコメントに伺わせていただきます。

シュン様
ありがとうございます。
素っ気ないほどにシンプルなテンプレートになってしまいました。
でも、わたくしっぽいと思っていただけたらうれしいです。
おかげさまで、たくさんの方にお越し頂けました。
これからも応援よろしくお願い致します。

るり様
首輪を好む方と、手枷・足かせを好む方がいらっしゃるのでしょうか。
るり様にコメントをいただいてはじめてふと考えてしまいました。
手枷・足枷は単に自由を拘束するためのものなのですが、
首輪は<飼われる>感が強いとわたくしは思っております。
だって、真珠のチョーカーと対して変わらない構造なのに・・・ね。

少しお休みになってお身体ご自愛くださいませ。
はやく元気になってくださいね。


さやか様
ふふふ、仰る通りです。
実はSの方って寂しがりやだったり甘えただったりしそうですもの。
でも、あんまりちくちくすると、
べしべしお仕置きされちゃうかもしれませんよ♪

2006/07/20 19:26| URL | 祥子  [Edit]
さすがに高梨さんは上手。
会話が拗ねているような強気のような捉えどころがないようにみえて、ちゃんと祥子さんの心は掴んでる。

試してる?試されてる?
でも祥子さんは高梨さんの言葉に頷くのでしょうね、きっと。それが悔しかったりして(笑)。

2006/07/20 22:16| URL | eromania  [Edit]
祥子様

雨がず~~と降り続いています。
明日も一日雨の予報なんですよ。
せっかくの週末なのに・・・。

パリでお買い求めになった桜色の首輪・・・・
「お仕置き」って言葉にも感じていらっしゃるのではないのですか?


2006/07/20 23:17| URL | 桜草  [Edit]
eromania様
わたくし何故か高梨さんの声には弱いんです。
一番年齢が近いせいでしょうか。
つい・・・心を許してしまっているのかもしれません。

桜草様
夜になってパタパタと雨音が・・・・。
今日の昼間の雨のない時間はつかの間のことだったのでしょうか。
早く入道雲が綺麗に見える青空を見たいと
日焼けが苦手なくせに憧れています♪

「お仕置き」という言葉よりも
その言葉を口にした高梨さんの声に・・・感じてしまっているのですわ。

2006/07/21 00:13| URL | 祥子  [Edit]
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