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夢のかよひ路 1

ゲストハウスを出て国道へ向かう駐車場に、ブラックボディのセルシオはひっそりと停まっておりました。
その車と運転手を見た時にはじめてわかったのです。
今夜、あの石塚さんがわたくしのランジェリーを丁寧に扱ってくださったことや、最後の絶頂をわたくしの中で逝かれなかったことの理由が。

「祥子様、お迎えに上がりました。」
そういって、微笑んだのはいつもよりもずっとカジュアルなジャケット姿の望月さんでした。
「ありがとうございます。」
あらっ・・いいわね・・・ 黒塗りのセダンへ向かうわたくしに、周囲の羨望の眼差しと囁き声が投げかけられたのはわかっておりました。
その眼差しが高級車にではなく、後部座席のドアを開けた若くて素敵な男性の存在のせいであることも充分に理解しておりました。
こんな風に注目した方達の口から『でも、あの方パーティの間お見かけしなかったわね。』・・・なんていう意地悪な言葉が出る前にと、わたくしはまるで当然のことのように、心地良く冷やされた空気が流れ出る革のシートに身を沈めたのです。
バァゥッ・・・ リアドアを閉めると、望月さんは右の運転席のドアへと向かいます。
フロントガラスを横切る彼の姿さえ、ついわたくしは眼で追ってしまいます。
「お久しぶりです。お送りいたします。」
シートベルトを閉めると、望月さんはルームミラーごしにわたくしに声をかけてくださいました。
いつものように、ビジネスライクなほどに最低限の丁寧な言葉遣いで。
「わたくしの方こそ、ご無沙汰してしまって。お元気でしたか?」
「はい、おかげさまで。お気遣いありがとうございます。」
望月さんのアクセルワークはいつものとおりです。
滑るように車を発進させ、ブレーキも的確に、乗っているわたくしが些細なGを感じることさえないように細心の注意を払ってくださるのです。
たとえ、今夜のようにリアシートにわたくし1人だけだったとしても。

「今日は美貴さんはどうなさったの?」
「いまはNYに行っております。」
「そうなの。あちらもサマーバケーションのシーズンですのに、お忙しいのね。でも、ご一緒に行かれてないなら望月さんは夏休みの最中ではなかったんですか?」
「いえ、1週間ほど前に石塚様からご連絡があってお迎えに上がる様に指示されてました。お迎えに上がるのが祥子様なら、喜んでいつでもうかがいます。」
「ごめんなさいね。せっかくのお休みでしたのに。」
「祥子様は、美貴がいない車に私の運転で乗るのは、お嫌ですか?」
「ふふふ、何を言うの。」
わたくしは、花火帰りの群衆で渋滞を始めた通りを窓越しに見つめたのです。
「望月さんが迎えにきてくださって嬉しいわ。こうして二人きりでドライブなんて、お正月の時以来ね。」
「憶えていてくださいましたか、祥子様。」
「ええ、忘れる訳はないわ。だからあなたも思い出して。」
「何をでしょう。」
車はストップ&ゴーを繰り返しながら、ゆっくりと進んでゆきます。
こういった状況が、運転手として最も気を使わなくてはならない時だということは、わたくしにもわかっておりました。
だから、焦らさないで答えを教えてあげることにしたのです。
「あのとき約束したでしょう。二人きりの時は<様>なんて使わないでって。」 コメント
祥子さん
新しいストーリーの始まり…
ワクワクしてます。
今度はどんな祥子さんが見られるか楽しみにしています。
真紀より

2006/10/04 15:27| URL | 真紀  [Edit]
けっこう大事。
どんなに間柄や関係が深まっても、お互いどんな
風に呼び合うのかは会話の中でけっこう大事。

「祥子」って呼び捨てにするのかな、望月さん。

2006/10/04 22:13| URL | eromania  [Edit]
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2006/10/05 00:18| |   [Edit]
お返事が遅くなって申し訳ございません
真紀様
先日の<閑話休題>の人気投票で1位になった望月さんの物語です。
彼がお相手だと・・・お話があまあまになってしまうんです。そんな、普段とは少し違うわたくしを、お楽しみいただければ幸いです。

eromania様
呼び方って本当に大切ですよね。
名前も知らない時から、姓をさん付けで呼んで、名前をさん付けで呼んで、ニックネームになり・・・そして最後は<あ・な・た♪>。
わたくしの親しい呼びかけの仕方の順番です。

匿名のお客様
恐れ入ります。今度のお話も楽しんでいただけたら幸いです。

2006/10/05 04:52| URL | 祥子  [Edit]
「さん」が取れない。
 さやかは、結構しつこく「さん」が取れない。
良く「呼び捨てでいいから。」と、言う人がいるけど
できない物は、できないんですよ。
すみませーん(^_^;)

2006/10/05 22:00| URL | さやか  [Edit]
さやか様
ふふふ わたくしもそうです。
年下ならどんなにフレンドリーになっても<くん>づけですし、年上ならやはり<さん>づけですね。
呼び捨てにできるのは・・・ベッドの中で我を忘れてしまったときだけかもしれませんわ・・・いやん♪

2006/10/06 12:26| URL | 祥子  [Edit]
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