2ntブログ

夢のかよひ路 11

肘をついて上体を起こした望月さんの顔はわたくしが思っていたよりも少しだけ離れていて、その距離の分だけほっといたしました。
「その頬も・・・」 ちゅ・・・ 挨拶のような軽いキスが、上気したわたくしの頬に触れました。
「その唇も・・・」 ちゅ・・・ 小鳥のついばみのようなキスが・・・
「その瞼も・・・」 ちゅ・・・ 優しく指先で触れるようなキス・・
「その鼻先も・・」 ちゅ・・・ 優しい兄のようなキス・・・
「塗ったり・飾ったりしない、僕の腕の中で目覚めた時に微笑んでくれる祥子さんと同じ顔。好きです。」
メイクアップということをわたくしは全くいたしませんでした。
口紅もマスカラもファンデーションもアイシャドウも・・・日頃から何一つつけはしませんでした。装うためにわたくし自身に許したコスメティックは、肌を整えるための最小限の基礎化粧品とほんの少しの香水だけでした。
「どんなに感じても・どんなに乱れても祥子さんが綺麗なのは・・・祥子さんが祥子さんのままだから、なんですね。いつでも、どんな時でも。」
ちゅ・・・もう一度今度は右の頬に小さなキスが届けられたのです。
「はじめて夜お迎えに上がったとき、大人な女性だと思ったんです。きりっと意志の強い黒い瞳、羞恥に愁を陰らせる濃い睫毛、白い肌、くっきりと赤い唇。」
望月さんは、わたくしの肩に手を掛けて起き上がらせてくれました。わたくしの瞳を見つめたまま。
「翌朝、迎えに行かせて頂いたとき、不思議だった。少し青白かったけど、ゆうべと同じきちんとしたメイクをしてるのに、どれほど近くに居ても化粧品の匂いが全くしなかったから。石けんの匂いのする綺麗に装った大人の女性は、はじめてでした。」
押し倒され、かき乱された黒髪を一筋一筋・・・望月さんの指が整えてくださるのです。
「次に、お逢いしてお世話をさせて頂いたとき、驚きました。この肌が・・」
望月さんの指が頬の上をつぅぅぅっと滑ってゆきます。
「何も塗られていない肌だって間近で見て、はじめて気付いたから。濡れた様に赤い唇も、マスカラで造られたのだとばかり思っていた長いまつげも・・・全部ナチュラルだったから。」
乱れたニットワンピースの裾を、望月さんの手が整えてくれました。
「それに気付いたとき、僕は祥子さんに恋したんです。」
「そう・・・だったの。」

はじめてでした。そんな風に言われたのは。
「お茶が冷めてしまいましたね。」
立ち上がろうとする望月さんの手を、このままで居て・・・と無言のまま掴み留めたのはわたくしでした。
浮かしかけた腰を、もう一度きちんとソファーに戻して望月さんはお話を続けてくださいました。
「最初は、はじめてお逢いした日に垣間みた綺麗な大人の女性のイメージと、美貴や山崎様や石塚様がその後もあまりにたびたび祥子さんのことを話題にされていたので好奇心を抱いただけでした。」
わたくしの右手は、優しく大きな望月さんの手で包みこまれてゆきました。
「あの美貴が、<祥子さん>という名前しか知らない女性のために自分が持っている関連会社に内密に通達を流し、次に逢うときの為だといって僕の実家まで足を運んで着物を誂えようとし・・・1本の電話で数億のビジネスを放り出してでも時間を作ろうとするなんて、考えられないことでした。」
あの、徹夜明けのプレゼンの夜・・・美貴さんがそんなビジネスを抱えてらっしゃるとは思っても居ませんでした。
「この着物も、もちろん僕がイメージした祥子さんにと用意したのですが、それも美貴への男としての対抗意識からだったに過ぎなかったんです、最初は。」

話し続けたせいでしょうか。望月さんは冷めたアールグレイに手を伸ばし、一口・・・唇を潤したのです。そしてもう一口含むと、わたくしに唇を重ね・・・口移しに香り高いお茶を流し込んでくださいました。 コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

2006/10/13 21:50| |   [Edit]
KISSは始まりと終わりの合図。

そこに必ずしも抱擁や挿入が必要
とは限らないと思うのですが。

二人の距離が近づいた時、したく
なりますね。KISS!

2006/10/13 22:12| URL | eromania  [Edit]
eromania様
はじまりと終わりのキス。
それはデートのはじまりと終わりなのでしょうか?
それとも関係のはじまりと終わり?
友達から恋人になった証がキスという行為だっていうイメージはわたくしにもありますわ。

でも、さよならのキスは・・・ちょっと切なすぎるかも。

2006/10/14 09:52| URL | 祥子  [Edit]
コメントフォーム
Name
Mail
URL
Subject
Comment

Pass
Secret
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)