黒衣の情人 16
ペルシャ絨毯に膝をついてみてはじめて、コンクリートの上に直に置かれているわけではないことがわかりました。ホットカーペットのようなものがソファーの周囲のペルシャ絨毯の下に敷き詰めてあるのでしょう。脚から流れ込む底冷えのする冷たさを覚悟していたわたくしは、薄い黒のストッキングごしに想像しなかった柔らかなクッション性と暖かさにほっとしたのです。
ただ・・・最後に振るわれた乱れ鞭は、柔らかなシルクの絨毯の繊毛さえも新たな責めに変えてしまうほどに、わたくしの肌を痛めつけていたのです。
黙ったままで問いかけるようにじっと見下ろしている長谷川さんの視線には気づいておりました。
それでも、文字通りの<お仕置き>を・・・これほどの緊張と痛みを課した男性の眼を素直に見上げる事などできなかったのです。
わたくしは仕方なしに、眼の前に腰を下ろされた長谷川さんのしなやかな太もものあたりに視線を彷徨わせておりました。
「祥子、僕を見るんだ。」
想像していた通り、声の先には横座りをしたわたくしを見下ろしている長谷川さんの強い瞳がありました。
アッシュグレイの前髪が幾筋か、うっすらと汗を浮かせた彼の額に貼り付いていたのです。
鞭は打たれる側の痛みと同じだけの消耗と緊張を打つ方にも強いることを、長谷川さんの表情がわたくしに思い出させてくれたのです。
「縄を解くから手を出しなさい。」
「はい。」
身体の両脇に自然に垂らしていた手をゆっくりと引き上げました。
「痺れてはいないかい?」
「はい。大丈夫です。」
差し出した両手から、長谷川さんはまずわたくしの右手を取ると、しゅる・・しゅる・・と縄をといてゆきます。
美しく結ばれていた縄は・・・するすると・・・滑らかにわたくしの肌から離れてゆきました。
「次は左手。」
膝の上に置いていた手を長谷川さんに差し出します。右手と同じ様に縄はほどかれてゆきます。
「ほら、祥子が素直に答えないからこんなに痕が付いてしまった。」
痕とはいっても・・・多分鬱血が残るようなものではないのでしょう。
が、細心の注意を払って括って下さったにも関わらず、わたくしの全体重を一瞬で支えなくてはならなくなったことで、手首から5センチほどの巾で・・・斜めに薄紅い縄目がくっきりと印されていたのです。
すんなりと細くて長い・・・繊細で大胆な設計図を引く長谷川さんの指がわたくしの腕についた縄の痕をやさしくマッサージしてくださいます。
手首の内側を行き来する温かな彼の指の感触は・・・わたくしへのいたわりを示しておりました。
でも、まだわたくしは緊張を解くわけにいかなかったのです。
なぜなら、長谷川さんはまだわたくしのことを<祥子>と呼んでらっしゃったからです。
前回お逢いしたときは、責めの合間のこの時間だけは<祥子さん>と呼んでくださったのです。なのに今回はまだ・・・。
「痺れてはいないね。」
「はい。」
「祥子はデザイナーなのだろう。グラフィックが専門だとしても、僕と一緒で手は商売道具だからね。注意はするが、万が一痺れたり・感覚がなくなったりしたらちゃんと言うんだ。いいね。」
「・・・はい。」
あの夏のパーティの会場でどなたかに、お聞きになったのでしょうか。
それとも、あのジャズ・ライブを開催しているホテルの支配人からでしょうか。わたくしが、彼の素性を知ったのと同じだけ、彼もわたくしのことをお知りになっていたようです。
安心していただけるように、わたくしは微笑んで・・・改めて長谷川さんを見上げました。
- SM愛好者として・・・Mとして・・・
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SMって本当に危険がつき物なのです。
いろんなことがあって詳しく覚えてないのですが
吊られて落ちたことがあると人づてに聞いたことがあります。
SMの世界は深いと思います。
ここはカウンターが無いからわかりませんが、かなりの読者がいるかと思います。
だから影響力も多大だと思うんです。
こういう気遣いが出来る人こそSなのだと・・・
そういうS様だからこそMは見も心も捧げる事が出来るのだと
どうぞ、折を見て明記してくださいませ。
そのことをちょこっと書きたいので、トラバさせてもらっていいですか?
2007/01/19 10:00| URL | トン [Edit] - トン様
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コメントありがとうございます。
トン様の意見にはわたくしも賛成です。
トラックバック了解いたしました。
ぜひ、お待ちしておりますね。
2007/01/19 11:49| URL | 祥子 [Edit] - ありがとうございました。
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トラバは初体験でしたので・・出来たのか不安^^;
少々長いですが書きました。
ありがとうございました。
やっぱり私は文章が下手・・・
書いていて途中でよくわからなくなってきて(苦笑)
まとまりが無いですがご覧くださいませ。
2007/01/19 13:39| URL | トン [Edit] - 安全第一で
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こんばんは。
寒い一日でした。明日も寒いそうです。
縛りは難しいし、危険ですね。
長谷川さんのように、訓練を受け、注意してくだされば、安心して身を任せることが出来るのでしょう。
どうぞ素敵な一夜を。
2007/01/19 21:40| URL | masterblue [Edit] - 安全について
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先日の縄指導様のコメント以来、安全についてのコメントをいくつもいただいております。
物語として、全体の流れを損なわないように行為の安全性についてはこれからも触れてゆきたいと思っております。
というよりも・・・Sの方の思いやりを言葉で表すと、安全への気遣いにつながってゆくことになってしまうのですけれど。
トン様
トラックバックありがとうございました。
本文の記事読ませていただきました。
主である戒様への信頼と愛情に溢れたお話をご紹介いただいてとても嬉しかったです。
masterblue様
masterblue様もご存知のように、こういった技術にご興味がある方でも、なかなか正しい知識を得る事が難しいものです。
なのに、SMという行為だけが様々な媒体で一般の方に浸透してゆくなかで形だけを真似るという<危険>が一人歩きしているように思えます。
masterblue様をはじめ、こちらのブログに来て下さっているお客様の中でも、きちんとこういったことに答えて下さるブログオーナーの方が沢山いらしてくださいます。
どうか、むやみに初めてみるまえに・・・パートナーのことを考えていただきたいですね。
と・・・わたくしにできるのは、あくまでも物語のなかでお伝えするだけなのですが。
2007/01/20 07:43| URL | 祥子 [Edit]
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