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男性のことを考えて宙を泳いでいたわたくしの瞳は、かけられた声にようやく焦点を結びました。「はい」
少し間の抜けた声で答えてしまったようです。
「驚かせましたか。何度か同じ写真の前で立ち止まったので不審に思われたんじゃないかと思ったので、失礼しました」
男性はふたりしかいないのに、美術館のルールに従って抑えた声で語りかけてくるのです。
「いえ、お好みが似ているのだなと思っていたのです」
わたくしの声からは、抑えていても僅かにはにかみを含んだ華やかさが滲んでいたのかもしれません。
「お一人ですか?」
男性の声から緊張が抜けてゆきます。
「ええ、美術館へはいつも1人ですの」
偶然に同じ写真に惹かれて・・・少し興味を感じていた男性との、つかの間の会話にひきこまれておりました。
「きれいですね」
正面のモニターに映る能舞台をみながら、男性は唐突にそう言うのです。
「先ほどの写真ですね。フェルメールの・・・」
「いえ、あなたが」
「ご冗談を・・・ふふふ」
真面目な声で冗談をいう方だと、左肩の上にある彼の横顔を見てみようとモニターから視線を移した時です。
「ん・・・んくっ・・」
はじめてまっすぐわたくしを見つめた彼に、唇を奪われてしまったのです。
「んふっ・・やめ・て・・」
他にだれもいないとはいえ・・・いつ誰がくるかわからない美術館の展示会場なのです。 お客様じゃなくてもキューレターがやってくるかもしれません。
「ん・・ぁ・・」
力強い男性の右手に引き寄せられて、一度だけ舌を絡めると男性は唇を離しました。
「なぜ・・・ひど・い・・」
急なキスで・・・わたくしの動悸はいつまでもおさまってくれません。
なのに、途切れがちになってしまう声さえも・・・周囲を意識してまだ・・・ひそめづつけてしまうのです。
「同じ感性を持つ好みのタイプの女性に逢えた、幸せな偶然に素直に従っただけです」
大きな肩を少し丸めるようにして、わたくしの耳元に甘い言葉を囁くのです。
「あなたもいやではなかったみたいですね」
薄暗がりの中、男性の言葉にわたくしは耳まで紅く染めてしまいました。
ふいのキスに、わたくしの唇と舌は応えてしまっていたからです。
「や・・・ぁ・・」
いつものロングヘアをアップにしているせいで、露になった耳に男性の息がかかるのです。
「この後ご一緒にいかがですか」
男性はわたくしの返事を待つ事もなく手を取ると、腕をからめて次の展示場へと向かいました。
アシンメトリーな建築物のイメージパースを思わせる写真が並ぶ会場を、男性と共に歩きました。
わたくしの眼はそれらの見事な写真を、もう映してはいなかったのです。
男性が囁く様に耳元で聞かせる言葉が、わたくしの思考を奪っておりました。
「最初の展示室で、次の部屋に向かうあなたの後姿を見かけたんです」
「ジオラマの写真に心をうばわれているあなたは、とても魅力的でした」
「ハードなトレンチコート・アップにまとめた髪・ビジネスバッグを持った後姿なのに、とても女を感じさせたんです」
「ずっとあなたが見ていた写真は、私もいいと思ったものばかりでした」
「ベンチに座って鎧のようなトレンチコートの釦を外した姿を見て、我慢できなくなったんです」
「私の腕にあたるこの胸。ふふ、見てみたいものです」
「こんなに柔らかな髪に触れたのも久しぶりです」
「あなたは私が嫌いですか?」
展示場と展示場を繋ぐ照明を落とした通路に出た途端に、男性の逞しい腕で壁に押し付けられたのです。
そのままうつむくわたくしの唇をさぐるようにして、男性はふたたびキスを仕掛けてきたのです。
「ん・・んん・・はぁぅん」
男性の右手はわたくしのアップにした髪を、左手は開いたトレンチコートの中の柔らかなワンピースに包まれた乳房をまさぐっておりました。
「・・だ・・め・・・んくっ・・」
わたくしの唇を啄むようにして抗う声を抑えます。
舌先からはたばこの香りの唾液を注ぎこんでくるのです。
男性の大きな手にも余るGカップの乳房は、つぼを抑えた淫らな指先の動きに、輝くサテンのブラの中でさえ反応してしまいそうでした。
「ん・・・ぁ・・」
くちびるを重ねたまま、男性はわたくしの髪を止めていたヘアクリップを外しました。
はら・・り・・・ 背の中程まである黒髪のロングヘアが、トレンチコートの背に落ちたのです。
「この方があなたには似合いますね」
ヘアクリップをわたくしに手渡しながら男性は無邪気に微笑むのです。
「だめ・・人がくるわ」
閉館まであまり時間がありません。
退館を急がされた他の来場者が、いつここを通るかわからないのです。
「あなたの身体はそうは言ってない」
「あぅっ・・・」
男性の指ははしたなく立ち上がった乳首をつまみあげたのです。
「私と今夜過ごしてくださいませんか」
「やめ・・て・・おねがい」
長い髪をかき寄せ敏感な耳朶を甘噛みするのです。
「返事をしてください」
男性の威圧感のある声は、わたくしの理性を従わせる力をもっていました。
「あぁぁ・・んっ」
男性の左手がわたくしの乳房を・・・指の間に堅くなった先端をはさみこむようにしながら揉み込むのです。
男性を素敵だと思い始めていたわたくしの身体は、素直に彼の手と唇が送り込む快感に屈服してしまったのです。
「いかがですか」
耳元にかかる熱い息に、わたくしは首を縦に振ってしまいました。
閉館まであと10分ほどでした。
「私の部屋がすぐ近くなのです。一緒にワインでもいかがですか」
下りエレベーターに向かう通路で男性はそう提案をいたしました。
「ええ あなたがよろしければ」
落ち着いた大人のカップルに見えたことでしょう 。
「よかった。それじゃそこで髪を整えて・・・そのワンピースを脱いで来てください。そのスリップも」
男性はとんでもないことを言い出すのです。
それにどうしてわたくしのランジェリーがわかったのかしら。
「なにを・・いうの」
「ちょっとした冒険です。ふたりの夜を楽しむための、ね。そのコートをきちんと着ていればだれにもわかりませんよ」
あの・・・声でわたくしに魔法をかけるのです。
「それにそのバッグならそのワンピースをしまってもおけるでしょう。閉館してしまいます。さ、待ってますから行って来てください」
美術館の閉館間際の化粧室で、わたくしは髪を梳き・・・コートの下のワンピースとスリップを脱いだはしたない姿で、トレンチコートだけを羽織って男性の元に戻ったのです。
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しっとりして素敵な物語ですね。
言葉を知らないもので…
気に障る表現でしたら申し訳ないです。
2006/02/07 22:30| URL | きょろ [Edit] -
きょろ様
はじめまして。コメントありがとうございます。
とてもうれしいお褒めの言葉です。
きょろ様のところにも伺っているのですが
まだコメントも差し上げず失礼いたしております。
これからも時々お立ち寄りいただけたらうれしいです。
2006/02/08 13:10| URL | 祥子 [Edit] - 素敵な。
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こんばんわ。
素敵な薔薇の花になりましたね(^_^)
物語を読んで興奮するだけじゃなく、目からも何だか感じちゃいます。
物語、毎回楽しく読んでいます。
引き続きがんばってください!
2006/02/08 19:34| URL | 小雪 [Edit] -
小雪様
ありがとうございます。
こちらのテンプレートを見つけたときには
わたくしも一目惚れ♪してしまったんです。
素敵ですよね。
これから最新の掲載物語に合わせて
時々テンプレートも変更してゆく予定です。
またいらしてくださいね。
2006/02/09 13:34| URL | 祥子 [Edit]
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