SnowWhite 48
「はい、熱いですから気をつけてくださいね。」お代わりのお椀を差し出して、わたくしもあらためて高梨さんの隣に座ります。
「このお着物は、どうなさったんですか?」
「おふくろの若い頃のものなんだ。あの年代の人にしては大きな人だったから祥子でも着られると思ったが、正解だったね。」
「はい、まるで誂えたみたいです。それに着心地が良くて。いい感じに練れたお着物だったので。」
「祖母が手縫いしてね、正月にここに来る息子夫婦のために縫ってくれていたらしい。何度か着て、もうそのままになっていたみたいだけどね。よかったよ、虫に喰われてなくて。」
「高梨さんがお召しになっているのは、お父様の?」
「いや、これは祖父のものらしい。」
「あら、まるで対のようだからてっきりご夫婦で誂えられたんだとばかり思ってました。」
「実はね、親父は俺よりも小さくてね。俺はだから祖父の隔世遺伝だな。」
「ふふふ、だから可愛くてらしたのね。あなたのことが。」
高梨さんの少年のころに過ごした家で、ご家族のお召しになった着物を着て。
想い出話を通していままで知らなかった高梨さんのことが少しずつわかってきます。
「ゆずるさん、ってどうゆう字を書くんですか?」
「分譲マンションの譲だよ。」
「ふふ、その喩えが・・・おかしい」
「そうか。なんでそんなことが気になるんだ。」
「だって、ゆうべ教えてくださったのは呼び方だけだったから。」
「そうか。仕事仲間は皆、ジョーって呼ぶんだ。」
「それで写真集のサインがJoeだったのね。」
「見てくれたのか、写真集も。そうだね、なかなか外国人にyuzuruって発音してもらうのが難しくてね。漢字表記はそのままに、Joe Takanashi と仕事上の写真にはサインしている。」
「ええ、だからゆうべ譲さんだって聞いて、ちょっと不思議な気がしたのよ。」
「ああ、それは気付かなかった。」
ははは・・・。
プレートに盛り合わせた祝い肴を綺麗に召し上がりながら、大きな声で笑ってらっしゃるのです。お料理の味に負けないように、しっかりと入れたお煎茶を美味しそうに召し上がってくださいます。
このあとお出掛けがなければ、お酒を出して差し上げたいほどでした。
「高梨さん・・・」
「ん、もう名前で呼んでくれないのかい?」
「だって・・・」
ベッドの中で、快感に狂わされながら教えられた高梨さんの名前には、昨晩の淫らな香りがまとわりついているようでした。
口にする度にその記憶が蘇るようで・・・わたくしは、香り付けにお屠蘇に入れた日本酒に酔ってしまったように頬を染めたのです。
「ここにいる間だけでも呼んでくれると嬉しい。」
わかっています。高梨さんが、無邪気にそう思ってらっしゃるだけだということくらい。
「譲さん・・・ふふふ、照れちゃうわ。」
「ははははは、それは俺の台詞だろう。」
わん・わん・・わん・・・ 室内の楽しげな様子がわかるのでしょうか。ベランダで仲間に入れろと言いたげに白雪が鳴いています。
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