黒衣の情人 12
「ぁっ・ぁあっ・・・」右手も同じでした。
白く薄い内側の皮膚の上を長い縄が走ってゆくときの、肌を焼くような摩擦熱も・・・長谷川さんの力強い縄さばきだと格段に熱が宿るようでした。
手首を括るだけのことなのです。
使われた縄もただの黒の綿縄でしかありません。
なのに長谷川さんの縄は、まるでわたくしに幅広の黒革の手錠を巻いた様に、美しいフォルムを見せていたのです。
「こちらにおいで。」
長く垂らされた縄尻を拾い上げると、長谷川さんは片手にまとめてわたくしを窓の近くまで、柱1つ分だけ歩かせたのです。
真紅のスリップの裾は、普通にしていても辛うじてガーターストッキングの留め具を隠すほどの丈でした。
その下に秘められたままのマットブラックのレースのブラもTバックも・・・長谷川さんは何一つ乱そうとはなさいませんでした。
まるで紅いスリット入りのミニドレスを身に着けて長谷川さんと街中を歩いているだけのように、わたくしは背筋を伸ばして一歩を踏み出したのです。
一歩、また一歩。
膝を曲げることなくすいと伸ばす脚元からは、いつしか不用意に大きな音が響いてまいりました。
コツ・・コツ・・ もうわたくしの足元には、あの瀟酒なペルシャ絨毯はありませんでした。
打ちっぱなしのコンクリートの床をハイヒールが進んでゆくのです。
ジャズ・ピアノの音が響くだけの・・・地上の騒音も届かない空間に、自分自身が立てる大きな音は、まるで・・このはしたない姿を見てください・・・と哀願しているかのようでした。
「そのまま、窓に向かって立ちなさい。」
「・・・はい。」
歩みを止めることが出来て、わたくしはほっといたしました。
長谷川さんの声に促されるままに、わたくしは大きな一枚窓へと身体の向きを変えたのです。
既にわたくしは両手に縄を掛けられておりました。
長谷川さんなら、わたくしにあと1~2本の縄をかけてここに吊るされるおつもりなのでしょう。
望月さんとは違う・・・長谷川さんの厳しく・強い縄はわたくしのはしたないM性を引き出すスイッチでした。
肌の上を縄が走って灼くような痛みを与えられたり、神経や血管を圧迫しないように細心の注意を払いながらもぎりぎりまで締め上げるその縄は、わたくしに甘えや媚びではない真の哀願をさせるだけの力を持っていたのです。
縄の食い込む痛みと拘束されて身動きできない身体と心をこの方に嬲られて、羞恥に悶えるわたくしの様をご覧になるのが・・・快楽系のSだとおっしゃる長谷川さんがお好みになる行為の一つでした。
工事用照明が交錯する真っ暗な空間を透かし見れば、天井の剥き出しになった鉄骨の梁が、そこだけは先ほどまでの空間よりも幾分低めに渡されておりました。
「・・っ」
長谷川さんは手首を括った縄尻を、柱と梁のわたくしからは見えない交点へと投げ上げます。
落ちて来た縄端をするすると引くと、わたくしの左腕を真っすぐに斜め45度に引き上げ、柱に数回巻きつけて縄端を留めました。
「んっ・・・」
右手の縄は左手よりも強く・・・ハイヒールの踵がほんの少し床から浮き上がるほどに引かれてから丹念に結び留められました。
これで終わりではなかったのです。
再び左手の縄が解かれ・・・右と同じほどにきつく引き上げられて・・・わたくしは、黒のハイヒールでつま先立つ様に立たせられたのです。
黒衣の情人 11
「ふふっ、まあいい。さぁ、まだ途中だよ。早く祥子のランジェリー姿を見せなさい。」グランドピアノの開けられた反響板に、わたくしの衣服を掛けるとご自身はまるでそこが指定席だとでも言う様に、再び先ほどと同じ椅子に腰を下ろされたのです。
「こっちを見なさい。」
スカートに隠されていたシャツの6つ目の釦を外そうと視線を下ろした時です。長谷川さんから厳しい声が飛んだのです。
「いつものように、女王様然としてこちらを見るんだ。できるね、祥子。」
わたくしは改めて背筋を伸ばし、凛と表情を引き締めて・・・長谷川さんを見つめ・・・そのまま釦を外していったのです。
全ての釦を外した肌触りの良い超長綿のメンズシャツは、わたくしは白い肩から滑り落ちてゆきました。
暖められているとはいえ直接素肌に触れる馴染みのない空気に、わたくしはさっと肌が粟立ちました。
「きれいだ。本当に祥子の白い肌には濃い色のランジェリーがよく似合う。」
長谷川さんは立ち上がると、室内にいくつか置かれた工事用の照明を直接わたくしに向けられたのです。
強い光は熱を含んで、わたくしの肌を真っ白く浮き立たせました。
「まぶしいわ。あなたが・・見えない。」
言葉通り、わたくしの視界は指向性の強い工事用の照明に白く霞み、長谷川さんの姿を見失っていたのです。
わたくしは一人きりにされたような心細さと、ランジェリーだけの姿の羞恥心から思わず胸元を腕で覆ってしまったのです。
「隠そうとするんじゃない!」
長谷川さんの強い声に、わたくしはふたたび腕を最初のように身体の側面に垂らしたのです。
ペルシャ絨毯は黙々と自動演奏を続けるピアノの音と相まって、長谷川さんの靴音を完璧に殺しておりました。
まっすぐ前を見つめ続けるわたくしの視界は、強すぎる光に遮られてあまりの眩しさにいつの間にか軽く瞳を閉じていたのです。
しゅるっ・・・・
かつて聞いたことのある音が左のソファーのあったあたりからいたしました。
あれは、縄を捌く音でした。
しゅっ・・・しゅる・・
長谷川さんは以前お逢いした時も綺麗に縄を束ねて、管理していらっしゃいました。そして、それを使うときだけ束になった縄を解き、二つ折りになさるのです。
「お仕置きだよ。祥子。」
長谷川さんが明かりの中から姿をお見せになったとき、彼の手には2本の黒い縄が握られておりました。
「おねがい・・おしおきは・い・や・・・」
猿臂を伸ばすと、後ずさるわたくしから掛けたままになっていた眼鏡を取り上げたのです。
一旦ピアノの譜面台にツルをたたんで置くと、大きな歩幅で一気にわたくしとの間合いを詰めました。
「手を貸しなさい。」
長い1本の縄を肩に掛けると、もう一本の縄の二つ折りにした輪の部分を持ってわたくしに近づかれたのです。
長身の長谷川さんが持っていても、縄尻は彼の黒革のブーツによりそって蛇のようにとぐろを巻いているようでした。
「ゆるして・・」
それほどの長さの縄でどのような拘束を科せられるのか・・・わたくしは恐怖心からまた一歩後ずさったのです。
この限りある空間から逃れることはできないと解っておりました。それでも、お仕置きだと口にされるこの方に素直に従うことは・・・できなかったのです。
「あっ・・・」
「手間の掛かるお姫様だ。」
あと一歩、間合いを取ろうとわたくしが思ったのと、長谷川さんの大きな手がわたくしの手首を掴み取ったのは同時でした。
瞬く間に黒い縄はわたくしの手首の5センチほど上に回され、必要以上に引き絞られない様にと縄止めをされたあと力を分散するかのように二本取りのまま3度巻き付けられたのです。
黒衣の情人 10
Aラインのフレアスカートはすとん・・・と床の上に黒い光沢のある輪を作ったのです。「そのままにしていたら皺になってしまうだろう。拾いなさい。」
「・・・はい。」
わたくしは半歩だけ動いて・・・光沢のあるウールの黒い輪から抜け出ると、真っすぐに立ったままで上体だけをすっと倒してスカートを拾い上げました。
じっとこちらを見ている長谷川さんの目からは、ハーフカップのブラに辛うじて支えられたGカップの白い乳房が・・たゆん・・と深い谷間を晒すところまで見えてしまったことでしょう。
そんな想像は、わたくしの耳までも真っ赤に染めさせました。自分の脈拍がトクトクと・・・耳元でなり続けているかのようでした。
拾い上げたスカートを軽くたたんで、わたくしは胸元へと抱えました。いまさらですが、ほんの僅かでもこの身を長谷川さんの視線から隠せたらと思ったのです。わたくしは、はしたないストリップに羞恥のあまり長谷川さんからは顔を背けたままでおりました。
ピアノの音は、止まる事なく・・・・。
「スカートも寄越しなさい。」
耳元で聞こえた長谷川さんの声にわたくしはびくっと身を振るわせてしまったのです。眼の前に立たれた黒いセーターとウールのスラックスを見ても、すぐにお答えすることはできませんでした。
長谷川さんの手には、さきほどわたくしが床に脱ぎ落とした革のジャケットがありました。
「あの・・・ピアノは?」
わたくしはただ一言、目の前の長谷川さんに疑問を投げかけたのです。
長身の彼の向こうにあるピアノからは、先ほど彼がそのしなやかで力強い指で弾いていたのと同じように、ピアノは生音での演奏を続けておりました。
「あのピアノには自動演奏装置が付いているんだ。ボタン一つでさっき僕が弾いたとおりに、エンドレスで演奏し続ける。あまりうまくはないが、ありきたりのCDよりはムードがあるだろう?」
身体を半分動かして、鍵盤だけが不思議に動くピアノを一旦わたくしに見せてくださった長谷川さんは、わたくしを見つめたまま身を覆う様に抱きしめていた手の中のスカートを取り上げたのです。
「いずれ、祥子の上げる声でピアノの音どころじゃなくなるだろうけどね。」
わたくしの衣服を左手にまとめて、右手の人差し指でつい・・と顎を引き上げるのです。
「ぃゃ・・」
わたくしはあまりの言葉に、思わず視線だけを逸らせてしまったのです。
「違うというのかい?祥子。さっきの歌声なんか比べ物にならないような、はしたない声を上げるのだろう?」
わたくしは、ふるふると首を横に振ったのです。いまのわたくしにはその質問に頷くことなんてできません。
たとえ、長谷川さんが言う通りに・・・きっと・・・なってしまうにしても。
「声を上げないというのかい?僕にどんなことをされても?」
こちらを見ろ、というように顎先にかかった指に力を込めます。
「本当に、そんなことができると思うのかい?」
冷静に重ねられる疑問符に、わたくしは長谷川さんに怯えの視線を向けるしかありませんでした。
どんなことをされても・・・真性Sだと自認されている長谷川さんの<どんなこと>には、なにが含まれているか想像もつきません。
それなのに、これ以上の抗弁などどうして出来るでしょう。
「・・・できません・わ。」
わたくしはそれだけを口にしました。
長谷川さんがそう言う以上、わたくしにおっしゃるような声を上げさせるための責めを、彼はいくらでも続けることができるのですから。
「やっと認めたね。今夜はこんなに僕好みのスタイルをして来てくれたから少しは素直なのかと思ったが、どうもそうじゃないようだね。あとで沢山お仕置きをしないといけないようだ。」
「ゆるし・て・・。」
「ふふ、まだ何もしてないだろう。なのに、そんな追いつめられた小動物のような目で僕を誘うんじゃない。まるで、虐めてくださいと言っているようだよ。今の祥子の顔は。」
「ちが・う・・・の。」
眼を見てお話しない限り、長谷川さんはわたくしの言葉を聞いてはくださらないような気がいたしました。
なのに、わたくしの表情が長谷川さんの嗜虐心をそそってしまうなんて・・・なんという皮肉なのでしょうか。
黒衣の情人 9
「わたくしの・・・はしたない姿を・・ご覧下さい。ご主人様。」わたくしの喉から出たのは、さきほどの歌の時とは全く違う・・・声でした。
やっと、絞り出した掠れた声には、もう・・・長谷川さんの視線に犯されて感じてしまったはしたないわたくしの体内に生まれた淫らな熱が籠っておりました。
「そうだ。良く覚えていたね。それに僕の好みも。」
視線を避けるように背けた頬に長谷川さんの眼差しが注がれているのにも・・・気づいていました。
「ランジェリーはスリップだけが赤なのか?」
「・・・はい。」
彼に捧げる様にさし出された脚は、マットな質感の黒のストッキングが同じく黒のガーターベルトで留められていたのです。開いた黒のシャツの胸元からは、真紅のスリップのストラップに寄り添う黒いレースのブラのストラップが覗かせてしまったのかもしれません。
「マニッシュな装いの下の真紅のスリップ。その下の黒のランジェリー。今日は昼間からクライアントの男性達を誘惑していたわけじゃないだろうね。」
「ちがい・ま・す・・」
ピアノを弾く長谷川さんの指は、わたくしに触れることはありません。
でもその分視線が・・・スリップの胸元を、スカートのスリットを掻き分けて素肌を這っているようでした。
「祥子がそう思っているだけだろう。打ち合わせが急に増えたと言ったね。それは、祥子のせいだね。こんな女性と隣り合って打ち合わせできるなら、何時間でも側に拘束しておきたかったんだろう。そのクライアントに脚くらい触らせてあげたのかな?」
「いたしません・・そんな・こと・・・」
夏に客船でのパーティでお逢いした時にも、そのことはお話いたしました。
わたくしは、お仕事関係者とはこんな関係は持たないって・・・。
ご存知なのに、長谷川さんはわざとおっしゃるのです。
「シャツの釦をどれだけ留めても、打ち合わせテーブルの下でストッキングに包まれた脚を見せない様にしても、祥子のフェロモンだけは隠せないからな。君の色香に迷わない男なんて、打ち合わせの相手はよっぽどのガキか枯れたジジイだったってことだね。」
「ひど・・い・・わ」
指一本触れられていないのに、長谷川さんの言葉と視線はわたくしの身体を疼かせたのです。
「酷い?心外だね。こんなに褒めているのに。嬉しいよ。祥子がずっといい女でいてくれて。他の男の心を動かせないような女には、僕は用がないからね。」
Summer Timeのサビを繰り返して・・・長谷川さんの指は鍵盤を離れました。
「さぁ、脚を下ろして。続きをしなさい。」
「・・・はい。」
ハイヒールのつま先を下ろすと、Aラインの黒のスカートはわたくしの脚を上品に覆い隠してくれました。
それでも・・・すぐ・・・このスカートはわたくしの身体から落ちてゆくのです。
両手を後ろに回し、スプリングホックを外します。
チ・チチチ・・・ コンシールファスナーを左手で下ろしてゆきます。
わたくしは・・・男性の手で、着ているものを剥がれることがほとんどでした。
こうして、ご覧になっている前で自分で脱いでゆくことが、こんなにも恥ずかしいことだなんて思いませんでした。
ピアノはまた「枯葉」に戻っていました。
なのに、わたくしの落とした視線の先に見える長谷川さんの脚は、肩幅に開かれてピアノではなくわたくしの方を向いていたのです。
「どうしたんだ。スカートを脱ぎなさい。」
長谷川さんの声に、わたくしはスカートのウエストを持っていた指を離しました。
黒衣の情人 8
「えっ・・・・」「祥子。もう一度言わせたいのかい?ここで、自分で、服を脱ぎなさい。」
長谷川さんがわたくしを<祥子>と呼ぶ時。
それは、優しい紳士から1人のSになったときでした。そして、それは同時にわたくしが、彼の求める極上のMとして存在しなくてはならない時が来たことを意味しました。
でも・・・まさか・・・こんな四方がガラス張りで外が見えるような場所で始まってしまうなんて・・・。
「ここで、ですか?」
わたくしの声には、怯えが混じっていたかもしれません。
20畳ほどのペルシャ絨毯が敷かれたこの場所以外は、打ちっぱなしのコンクリートと鉄筋が剥き出しになったままの空間なのです。
閉鎖されたホテルの部屋とは違う空間は、ここが長谷川さんの神聖な仕事の場であることもあってこのまま・・・彼の罠に落ちてゆくことを躊躇わせたのです。
「もう充分空気もあたたまったことだろう。ワインの酔いも祥子の身体を暖めているはずだよ。外壁は全て偏光ガラスだ。外からはよほど絶好の角度でもないかぎり覗かれることはない。安心して祥子の身体を僕に見せなさい。」
わたくしは、まだ躊躇っておりました。
確かに長谷川さんがおっしゃる様に、外からは閉鎖された・・・見られることのない空間にいるのでしょう。
でも、あまりにくっきりと見える冬の都会の夜景が・ところどころに点くビルの窓明かりが・・・わたくしを呪縛しておりました。
「さっそくお仕置きかな?僕はピアノから手を離せない。なのに手を貸さないと、このお姫様は服を脱ぐこともできないというのかい。」
お仕置き・・・。
長谷川さんのおっしゃるお仕置きは、言葉通りの厳しい罰でした。わたくしは・・・それでもほんの少し躊躇った後で、革のジャケットの釦に手を掛けたのです。
「そう。それでいい。」
わたくしは長谷川さんから顔を背けるようにして、肩からジャケットを床へと落としました。続いてシャツの袖口の釦を外したのです。
次は胸元の釦・・・3つめ・・4つめ・・・5つめ・・・。
「綺麗な赤だね。白い肌に良く映える。祥子は自分の魅力を良くわかっている。黒いメンズ仕立てのシャツの襟元からこんな色を見せていたら、支配人はその場から動けなくなったろうね。まるで現代の花魁のようだよ。」
ピアノの音が変わっていました。
Summer Time。セクシーな啜り泣くようなメロディーが、長谷川さんの指先で奏でられてゆきます。
シャツのウエストは、スカートの中でした。命令通りにするために、わたくしは両手を後ろに回してスカートのホックを外そうとしたのです。
「待ちなさい、祥子。ここに来て、その姿のまま左脚を椅子に掛けなさい。」
「・・・はい。」
2歩だけ、長谷川さんに近づきました。
彼が腰を下ろしているピアノ用の椅子の座面の下の横木に、左脚のハイヒールのつま先を掛けたのです。
はら・っ・・・
90度以上に持ち上がった太ももは、スカートのスリットの間からガーターストッキングの留め具の上までもを晒しておりました。
引き上げた脚を彩るように、真紅のスリップと光沢のある黒のベネシャンのスカートは左右に着物の重ねのように垂れていたのです。
あまりに刺激的な色のコントラストに、わたくしは無駄とは知りながら椅子に掛けた膝を・・・スカートの奥まで見通そうとする長谷川さんの視線から避けるように内側へとほんの少しだけ倒しました。
「手は左右に自然に垂らして、そう。」
長谷川さんの指は、そうおっしゃりながらも一時も止まりません。
さらっと・・・流す様に弾いていたSummer Timeに、却って熱が籠るようでした。
彼の椅子にかかった黒革のハイヒールからわたくしの羞恥に染まった耳元までを、長谷川さんはねぶるように見つめておりました。
「祥子。黙ってないで、言うことがあるだろう。他の男に甘やかされすぎて、忘れてしまったのかい?」
アッシュグレイの前髪と同じさらさらとした肌触りの声。
ピアノの音とは裏腹に、冷静なその響きが1年も前のあの夜をわたくしに思い出させたのです。
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