黒衣の情人 17
「そうか。それなら次にしなくてはならないことはわかっているね、祥子」鞭打たれた痕が身内に運ぶ甘い痛みが、わたくしの表情に切なさを付け加えていたのかもしれません。
やさしくさすって下さっていたわたくしの両手を、長谷川さんはご自身の両膝に導き・・・そうなさってから、ゆったりとソファーの背に上体を預けられたのです。
「さぁ、祥子。しなくてはならないことを、僕の命令なくては出来ないような女じゃないはずだね、君は。」
「・・・はい。」
わたくしはしどけなく横座りにしていた脚を、揃えて引き寄せました。
ハイヒールの足を立ててその踵の上に腰を下ろします。
鞭の響きがまだ微かに残る上体を真っすぐに引き上げました。
そして・・・両手を長谷川さんのセーターの裾に伸ばしたのです。
黒の肌触りのいいカシミアのセーターの裾を少しだけたくし上げ、スラックスのベルトに手を掛けてから、改めて長谷川さんの目を見上げたのです。
それでいいんだ、と言う様に長谷川さんは大きく頷いてくださいました。
シルバーのシンプルなバックルのベルトを外し左右に垂らします。
前カンを引き開け、少しだけファスナーを下ろして奥釦を外します。
スラックスの中へ滑り込むわたくしの指先には、もう長谷川さんの熱い塊が触れました。
ファスナーを全て下ろし、黒のボクサーパンツのたった1つの前釦を外して半分だけ昂った塊を眼の前へと引き出すと、すぐに瞼を伏せて・・・わたくしは唇を手の中の塊へと被せてゆきました。
これほどに沢山の方達に可愛がっていただいた経験をもってしても・・・わたくしはこの様な明かりの中で男性の塊をまじまじと見つめることが出来ませんでした。
愛することが嫌いなわけではありません。
指で・手で・唇で・舌で・乳房で・脇のしたで・頬で・乳首で・・・太ももで・ヒップの深い谷間で・花びらを包む丘で・・・そしてもっと奥で・・・わたくしの全てを使って、熱く欲して下さる塊を愛し満足していただくことはとても幸せな一時なのです。
男性の方が望まれるだけのことをして差し上げられる熟した年齢になった今でも・・・なんと言ったらいいのでしょう・・・男性そのものであるその器官を見つめることは、わたくし自身をバージンの時と変わらない羞じらいの中心に引き戻したのです。
そう・・・まるでわたくし自身を視姦されているかのように。
見つめているはずなのに、見つめられるのと同じだけの羞恥を与えたのです。
たとえば、ほとんど照明を落としたホテルのベッドの上でしたら、あまり意識することもなく熱くひくつくこの塊を受け入れたことでしょう。
でも、ここは内装工事すら済んでいないビルの中なのです。
いまだにジャズを奏で続けるピアノの側で、衣服を脱いだ時にソファーの近くにあった照明の向きは変えられたままでした。そのせいでいまは、広い空間を縦横に走る幾つかの照明の光軸からもれた仄かな明かりだけが、それでもひどくあからさまに長谷川さんとわたくしを包んでいたのです。
わたくしは、長谷川さんが口づけてくださったのと同じ様に・・・彼の塊の先端に唇を彷徨わせ、舌先をちろちろと這わせることからはじめました。
「石塚Jr.にもこんな風にしてあげるのかい?」
れろれろ・・・ わたくしは言葉では答えませんでした。
否定の意味を込めて首を横に振ると同時に、舌先に唾液を乗せすべすべとした先端の中央を嬲る様に這わせたのです。
黒衣の情人 16
ペルシャ絨毯に膝をついてみてはじめて、コンクリートの上に直に置かれているわけではないことがわかりました。ホットカーペットのようなものがソファーの周囲のペルシャ絨毯の下に敷き詰めてあるのでしょう。脚から流れ込む底冷えのする冷たさを覚悟していたわたくしは、薄い黒のストッキングごしに想像しなかった柔らかなクッション性と暖かさにほっとしたのです。
ただ・・・最後に振るわれた乱れ鞭は、柔らかなシルクの絨毯の繊毛さえも新たな責めに変えてしまうほどに、わたくしの肌を痛めつけていたのです。
黙ったままで問いかけるようにじっと見下ろしている長谷川さんの視線には気づいておりました。
それでも、文字通りの<お仕置き>を・・・これほどの緊張と痛みを課した男性の眼を素直に見上げる事などできなかったのです。
わたくしは仕方なしに、眼の前に腰を下ろされた長谷川さんのしなやかな太もものあたりに視線を彷徨わせておりました。
「祥子、僕を見るんだ。」
想像していた通り、声の先には横座りをしたわたくしを見下ろしている長谷川さんの強い瞳がありました。
アッシュグレイの前髪が幾筋か、うっすらと汗を浮かせた彼の額に貼り付いていたのです。
鞭は打たれる側の痛みと同じだけの消耗と緊張を打つ方にも強いることを、長谷川さんの表情がわたくしに思い出させてくれたのです。
「縄を解くから手を出しなさい。」
「はい。」
身体の両脇に自然に垂らしていた手をゆっくりと引き上げました。
「痺れてはいないかい?」
「はい。大丈夫です。」
差し出した両手から、長谷川さんはまずわたくしの右手を取ると、しゅる・・しゅる・・と縄をといてゆきます。
美しく結ばれていた縄は・・・するすると・・・滑らかにわたくしの肌から離れてゆきました。
「次は左手。」
膝の上に置いていた手を長谷川さんに差し出します。右手と同じ様に縄はほどかれてゆきます。
「ほら、祥子が素直に答えないからこんなに痕が付いてしまった。」
痕とはいっても・・・多分鬱血が残るようなものではないのでしょう。
が、細心の注意を払って括って下さったにも関わらず、わたくしの全体重を一瞬で支えなくてはならなくなったことで、手首から5センチほどの巾で・・・斜めに薄紅い縄目がくっきりと印されていたのです。
すんなりと細くて長い・・・繊細で大胆な設計図を引く長谷川さんの指がわたくしの腕についた縄の痕をやさしくマッサージしてくださいます。
手首の内側を行き来する温かな彼の指の感触は・・・わたくしへのいたわりを示しておりました。
でも、まだわたくしは緊張を解くわけにいかなかったのです。
なぜなら、長谷川さんはまだわたくしのことを<祥子>と呼んでらっしゃったからです。
前回お逢いしたときは、責めの合間のこの時間だけは<祥子さん>と呼んでくださったのです。なのに今回はまだ・・・。
「痺れてはいないね。」
「はい。」
「祥子はデザイナーなのだろう。グラフィックが専門だとしても、僕と一緒で手は商売道具だからね。注意はするが、万が一痺れたり・感覚がなくなったりしたらちゃんと言うんだ。いいね。」
「・・・はい。」
あの夏のパーティの会場でどなたかに、お聞きになったのでしょうか。
それとも、あのジャズ・ライブを開催しているホテルの支配人からでしょうか。わたくしが、彼の素性を知ったのと同じだけ、彼もわたくしのことをお知りになっていたようです。
安心していただけるように、わたくしは微笑んで・・・改めて長谷川さんを見上げました。
黒衣の情人 15
耐えるための呻きは、次第に悲鳴の色を帯びてまいりました。長谷川さんの質問に・・・沈黙は、肯定の意に取られかねませんでした。
はしたなく張り上げそうになる声を押さえ込むがゆえに、喘ぐ息の間からわたくしは言葉を紡ぎ出したのです。
「何も・・ありません。お酒・・をご一緒するだ・け・・のお友達です・・・。下の会場では・・ゆっくりできない・・から・・・と。・・・あぁっ」
ピシ・・・
右肩を火のような痛みが襲います。剥き出しの肌には・・この打擲はあまりに・・・きつすぎました。
「それだけのために、祥子を呼んだのか?そんな訳はないだろう。」
「でも・・それだけなんです。・・・ひぃぁっ・・・・」
ピシッ・・シッ・・・パシ・・・パンッ・・・・
ピィシ・・・・・ピッシィィ・・・
力任せの鞭がわたくしの真紅のスリップで覆われた背中を・・・時に剥き出しの肩甲骨の上を・・・乱打してゆくのです。
痛みに・・・声を上げるゆとりなどもうなくしておりました。
打たれる痛みに吐き出した息を吸う間もなく、次の痛みた襲うのです。
キスの間に長谷川さんの指で絡めとられ、身体の前面へと垂らされたロングヘアは幾度もの鞭の衝撃にに幾筋か背中へ落ちかかっておりました。背の中心を走る鞭の細い革は、時にわたくしの細い髪にも絡み付き・・・長谷川さんが鞭を引くと同時に数本の髪も引き抜け落ちているようでした。
「・・・ゆるし・・て・・・ なにも・・ない・・わ・・」
ピシッ・・・
「はあうっ・・・」
剥き出しの・・・ガーターストッキングの上の太ももと白い腰の丸みの下辺を舐めた革の痛みに、わたくしはとうとう膝を折ってしまったのです。
キシュッ・・・ 左右の手首に回された黒の縄が、わたくしの体重を受けて乾いた軋みを響かせたのです。
「・・・ぁ・・・はぁ・・・・」
落ちた膝は、吊られているために宙に浮いたままでした。
鞭を受けるために強いられた緊張が一気に解かれてしまったいま、息を乱したままのわたくしは体勢を整えることすらできないでいたのです。
「強情だね、祥子。」
長谷川さんはわたくしの腰に手を添えてくださると、真っすぐに立ち直れるように身体を引き上げてくださいました。
それから、梁に投げ・括り付けてあった縄を解いたのです。
縄のテンションが無くなった途端、わたくしはよろめいてしまいました。
それでもなんとか堪えることができました。
さきほどの体勢のままでこの場に膝をつけば、剥き出しのコンクリートはストッキングを破り・・わたくしの膝を傷つけてしまったことでしょう。
長谷川さんが縄を緩めるより先にわたくしの体勢を整えてくださった訳に、わたくしはようやく気づいたのです。
そして耳には・・・あのピアノが奏でるジャズが・・・切ないSummer Timeが蘇ってまいりました。
「こちらに来るんだ。」
縄を・・・手首に回した縄はそのままに、長谷川さんはふらつくわたくしを抱き寄せると、ここに来て最初に案内してくださった革のソファーの前に連れて来ました。
先ほどまでそこにあった大理石のテーブルは、ソファーとピアノの間に移動されていました。
長谷川さんはソファーに腰を下ろすと、わたくしを彼の開いた膝の間の絨毯の上に座らせたのです。
黒衣の情人 14
「はぁう・・っ・・・」紅いスリップごしとはいえ、冷たい銀の玉は容赦なくわたくしの敏感な先端に氷を押し当てたような刺激まで与えたのです。
長谷川さんはわたくしの乳房に鞭の握りを強く押し付けたまま動かしてゆきました。
柔らかな乳房の先端から外側へと・・・そして白く・薄く・感じやすい柔らかな下辺に埋め込む様にして・・・やがて鞭の握りを、両手を上げて吊るされたことで中央に寄り合わせる形になった乳房の間にすっぽりと挟み込まれたようになりました。
「祥子、今夜は聞かせてもらうよ。夏の竹上のパーティの間、石Jrと2人きりで何をしていた?」
白い二つの乳房の間の銀の玉を上下させるようにしながら、長谷川さんが問いかけたのです。わたくしの耳元は冷気と緊張から、彼が寄せた唇の熱に軽い痛すら感じておりました。
「ご一緒に特別室から花火を見ていただけですわ。」
「嘘を言うんじゃない。」
乳房を嬲る様に押し付けていた鞭を掴み取ると、長谷川さんはわたくしの背後から大股で離れてゆかれたのです。
ピィシ・・・・
「はっ・あっ・・・ぅ・・」
力づくの一鞭がわたくしの背中に振り下ろされたのです。
スリップとブラごしでも・・・その痛みは耐えきれず大きな呻きを上げてしまうほどでした。
ピシッ・・・ピシ・・・
「ぅっ・・・んくっ・・・」
立て続けの鞭はウエストの少し上、刺激に弱い同じ場所を右上からと左上から鋭く走って行ったのです。
ピシ・・・
「あっひぃぃっ・・・」
腰の頂きから下に振り下ろされた一閃は、細革の何本かで剥き出しになった太ももまで舐めてゆきました。
長谷川さんは全く容赦も手加減もなく腕を振り下ろしてらっしゃいました。
ただ、まだ身に纏わされたままだったランジェリーの儚い厚みの分だけ・・・痛みが軽くなっていました。
でもそれも、打たれた瞬間だけのことでした。
じんじんとする鞭痕は、やがて身動きするたびに触れるランジェリーの感触に、別のひりつく痛みをわたくしに与え続けたのですから。
「あの時、祥子はとうとう僕の居たパーティルームには戻って来なかった。2時間近くも2人きりでいて、何もない訳はないだろう。」
長谷川さんのおっしゃる通りなのです。
あの2時間・・・わたくしは破廉恥に石さんにこの身体を・・・それも客船の特別室専用デッキで貪られていたのですから。
でも、石さんとお仕事上の取引関係のある長谷川さんにそんなことは口が裂けても言えることではありませんでした。
「ご一緒に、花火を見てお酒を頂いただけですわ・・・ひっ・・・ぃ」
ピィシィィ・・・
わたくしの答えが終わる間もなく、鞭が・・・今度は左のスリップに覆われていない肩先から背中に向けて打ち下ろされました。
「祥子と2時間居て、酒を飲むだけで我慢できるほどあの男が聖人君子だとは思えないがね。」
ピシッ・・・・
「ぅあっ・・・」
左の脇腹からバストの下まで・・・鞭先がサテンのスリップを舐める様に回り込みます。
バストのすぐ下の・・・男性の指が触れるだけでわたくしの甘い声を導き出す柔らかな皮膚が・・・強い細革のピンポイントの強打に肌を裂かれたような痛みを感じたのです。
黒衣の情人 13
さきほどまで、ミニドレスのようにガーターストッキングの留め具を上品に隠してくれていたスリップは、Tバックのフロントの逆三角形の頂きを露にする位置まで無惨に引き上げられておりました。殊に左前の深いスリットは、Tバックとガーターベルトのレースの重なりが白い腹部の肌の上につくる妖しい陰影までもを、長谷川さんの眼に晒していたのです。
踵を下ろすことができないわけではありませんでした。
でも、そうするためには、手首の内側の白くて柔らかい皮膚がひきつれるほどに・・・縄を食い込ませるしかなかったのです。
ピシッ!・・・
「ゃっ・・・」
突然の床を打つ鋭い音に、わたくしははしたない驚声を上げてしまったのです。
あれは・・・
「綺麗だよ。祥子。」
「ぁん・・・ん・・」
背後から声を掛けた長谷川さんは、背中に流れるストレートのロングヘアに左手を差し込むと、擲音に怯えたわたくしの顔を捻る様に向けさせて今夜初めて・・・唇を重ねたのです。
夏に客船で再会した時は、言葉を交わしただけでした。
口づけさえ1年ぶり以上になるのです。
でも・・・1年前の夜にわたくしを試す様に重ねた冷静な唇とは、明らかに違いました。
熱く・深く・・だからといって淫欲に溺れるだけでもなく・・・<思慕>という言葉を滲ませる口づけは、わたくしの怯えた心を溶かしてくださいました。
「・・・はぁ・ぅ・・・」
太もものガーターストッキングが途切れて素肌を晒す、ちょうどそのあたりを細い革の束が撫でてゆきます。バラ鞭と言われる形状のようでした。
「・・ん・・ぁ・・・」
以前、この方がわたくしに使われたことのある八条の1cmほどの巾のある黒革を束ねた鞭とは・・・同じバラ鞭でも全く違う種類のようです。
「・・ぁ・・ぁぅ・・・」
まるで長谷川さんの口内に流れ込むわたくしの慄きの声を楽しむかの様に、吊られ・引き延ばされたランジェリーだけに覆われた身体を、長谷川さんは右手に持った鞭で撫で回してゆくのです。
太ももの外から内・・・Tバックに包まれた丘の頂き・・・やわらかなわたくしの腹部・・・ハーフカップブラに支えられたGカップのバストの下辺・・・キスのために反らされて露にされた左の首筋。
「ゃ・・ぁ・・・・・」
眼を開けることも、肌に触れる鞭の姿を追うことも、頭を押さえられ・唇を奪われたままのわたくしにはできませんでした。
それでも張りのある細革の滑らかさは、束ねた革の本数が振り下ろす力を分散するためでなく一部の無駄もなく全ての力をわたくしの身体に伝えるためにあることを教えていました。
「今夜のキスはシャンパンの香りだな。」
「ぁ・・ぁぁ・・・」
唇を重ねられるのと同じ唐突さで、長谷川さんはわたくしを離されました。
わたくしの舌は、先ほどまで絡められていた長谷川さんの舌を追う様に・・・喘ぎ声とともに差し出され・・・放置されたのです。
キスをしていれば、鞭打たれる時間は遠のくと思ったのです。
でも・・・
「これが随分気に入ったみたいだね、祥子。」
「ぃゃぁ・ぁ・・・」
眼の前に差し出された鞭は、眼を閉じていたわたくしが想像した以上のものでした。
沢山の細革が束になったその鞭は、振り下ろす力にGを加えることが可能なほどの長さとしなやかさを備えていたのです。この鞭の一振りは、間違いなくわたくしの白い肌に・・・紅い火襷のような痕を付けることができるでしょう。
「ブラをしていてもこんなにはっきりわかるほど昂らせて、そんなにこの鞭が欲しかったのかい?祥子。」
「あぅっ・・・」
鞭の持ち手のエンドに付いた銀の玉で、長谷川さんはわたくしのGカップの先端を・・・ぐりぐりと押しつぶすのです。
両腕を吊り上げられてしまったせいで、くっきりと立ち上がった乳首をのせたGカップの乳房は乳暈をぎりぎり覆っていたハーフカップのブラから溢れ落ちんばかりになっていたのです。
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