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初雪 21

「お待たせいたしました」
先ほどまでわたくしを辱めていた2つのテーブルを片付けていたのでしょう。シェフがやっと戻ってらっしゃいました。
手には赤と白のワインを1本づつ持っていました。
「みなさんのお好みに合わせたワインです。明日は雪の別荘へいかれるということですからどうぞお持ちください」 
白を山崎さんに赤を石塚さんに手渡したのです。
「祥子様。今夜は私にまで・・ありがとうございました」 
一礼をするとわたくしの左手を取って・・手の甲にキスを一つなさいました。
「あの・・お名前を教えていただけますか?」
「田口と申します。以後お見知りおきを」
「シェフのお料理・・好きですわ。ごちそうさまでした」
「こんなことはもういたしません。これからも安心なさって、どうかまた私の料理を召し上がりにいらしてください。今夜は本当にありがとうございました」
シェフにとっても・・・思わぬ出来事だったに違いありません。
美貴さん達がいくら悪戯好きな方達でも、こんなことを過去にもしたことがあったわけではないのでしょう。従業員と客というよりは少し親しい・・・友人のような間柄だっただけなのだと思います。
「わたくしひとりで伺っても、美味しいものごちそうしてくださいね」 
わたくしは、きまり悪そうに照れながらこちらを眩しそうに見る田口シェフに、にっこりと微笑んでみせました。
「勿論です。祥子様のことは忘れません。どうぞまたお越しください」 
レストランの入り口まで照明を落としながら移動し、わたくしたちをドアの外に案内するとBGMと最後のライトを消してメインダイニングを閉めたのです。
エレベーターホールの釦を上と下の両方を押します。
「明日はお気をつけて行ってらしてください。おやすみなさい」 
先に到着した上りのエレベーターにわたくしたちを乗せ、ドアの外でシェフは深々と頭を下げお見送りをしてくださいました。

 
「食事だけのつもりが遅くなってしまいましたね。望月がやきもきして待っていそうだ」
「美貴も意地が悪いな」
「そう言うな。本当に食事だけのつもりだったんだから」 
それを言うなら石塚がストッキングを破ったりするからだぞ・・・美貴さんの眼がそう反論しています。
「明日は予定通りでいいんですか?」 
仲裁のつもりではないのでしょうけれど、山崎さんがするっと言葉を挟まれたのです。
「この時間だし、ドライバーに時間変更というわけにはいかないでしょう」
「そうですね。じゃ予定通り10時に祥子さんを迎えにいきますよ」 
エクゼクティブフロアに到着したエレベーターから降り、部屋に向かいながら明日の打ち合わせをなさってるようです。

ピンポン・・・
「お帰りなさいませ」 
ドアホンを押すとすぐに望月さんが迎えに出ていらしたのです。
「遅くなってすまない。二人と明日の打ち合わせをするから祥子さんをゲストルームへご案内してください。準備は出来ているんだろうね」 
今夜は、わたくしは1人で休ませていただけるようです。
「はい、すぐにバスの用意をいたします」 
食事といいながら既に4時間以上が経っているのです。わたくしの姿を見れば・・・食事の時間がどんなものだったのか・・・望月さんにはもう解ってしまったのでしょう。
どれほど拭っても消し切れなかった精液の匂いや、何度も上り詰めて白く透き通ってわずかに青ざめたわたくしの表情に彼は気づいているはずでした。

「祥子様、どうぞこちらに」 
わたくしはショールを望月さんに手渡すと、ふらつく身体を抱かれるようにしてゲストルームへと向かったのです。
「おやすみなさい」「おやすみ」「よい夢を」 
3人はわたくしを見送ると・・・リビングルームで打ち合わせを再開したようでした。

「祥子様のバスルームはこちらです」 
望月さんが案内してくれたのは、以前に使ったことのあるメインベッドルームのものよりはコンパクトに設計された清潔なバスルームでした。 
バスタブに入っても窓からは夜景が楽しめるようになっていました。
「お召しかえはこちらにご用意しました。お脱ぎになったものはこちらにそのまま置いておいてください」 
ドレッシングルームには純白のシルクのネグリジェと同じシルクのパンティが・・・それに備え付けのものとは違うシルクのルームシューズが用意されていました。
「ありがとうございます」 
わたくし好みの上質な素材とシンプルな作りのものばかりです。

「後は自分で・・・」 
するわ・・・という言葉を言い切る前に、望月さんに背中から抱きすくめられてしまったのです。
「待っている間、気が狂いそうでした」 
小声で耳元でそう囁くのです。
彼の腕はわたくしの肩を優しく抱きしめていたのです。
解っているはずなのです。 
彼の主と友人がわたくしを呼べばどんな時間を過ごすことになるのか・・・彼は良く 知っていてわたくしを迎えに来たのですから。
「お召しかえだけでも手伝わせてください」 
わたくしの髪を左側に寄せて首の後で止まっているアメリカンスリーブのスナップに手を掛けるのです。
「おねがい、自分でするわ。許して・・・」 
彼に、先ほどまでわたくしの身体が他の男性に嬲られていたことを知られているからといって、直後の身体を見られることにはためらいがありました。
でも同時に、彼に愛してもらうことで・・・他の方との情事の痕を清められると考える・・・不可思議な想いもわずかにですがあったのです。
「今夜の最後の祥子様のぬくもりを私にください。おねがいします」 
わたくしを近くに感じながら触れることもできない・・・感情を抑えていても滲み出る苦しみがこんな行動に走らせたのでしょう。
真摯な彼の言葉には抵抗できませんでした。
開いた背中の下から始まるファスナーを下ろされ・・・うなじにかかるスナップを彼は外したのです。
ぱさっ・・・・ シルクとビーズの重さで脚元にドレスが落ちるのと同時に、身体を返して彼に向き合い・・・抱きしめてもらったのです。
「祥子様・・・」 
何一つランジェリーを身に着けていない白い身体は、バスルームを遮る硝子の壁に白く映り込んでいたことでしょう。
わたくしの下腹には彼の昂った塊がスーツごしにさえ感じられたのです。
なのに・・・彼の瞳には欲情は存在しませんでした。そこにあったのは、わたくしを腕の中に確かめられた悦びだけだったのです。
「望月さん・・」
望月さんは冷たくなったわたくしの背をあたためるように優しく一度だけ抱きしめると・・・キスをすることもなく・・・手元のバスタオルで包んでくださいました。
「ゆっくり暖まってお休みになってください。明日は9時ごろ朝食をご用意いたします。なにかあったらその電話で呼んでください」 
バスルームのドアを開け、一礼をするとわたくしのドレスを手に彼はゲストルームを出ていったのです。

 
バスルームは薔薇の香りで満たされていました。

優しい香りの中で男性たちに弄られ辱められた身体を清めると・・・シルクの優しい肌触りに包まれて・・・1人ゲストルームで深い眠りに落ちたのです。

初雪 22

ルルル・・ルルル・・・ わたくしの眼を醒させたのはベッドサイドの電話でした
「おはようございます。祥子様、お目覚めですか?」 
電話の声は望月さんです。
「ありがとう、起こしてくださって。どのくらいで用意しなくてはいけませんか?」
「お出かけまであと2時間ほどあります。お食事も用意致ししますが、入浴なさいますか?」
「ええ」
「わかりました。御入浴なさっている間に、今日のお召し物をお部屋にご用意しておきます」
「ありがとうございます」 
わたくしが着て来た服を含めて、この部屋には今身に着けているもの以外の衣類はなにもありませんでした。
望月さんがご用意してくださるのを待つしかなかったのです。
「それでは入浴させていただきますわ。よろしくお願いいたします」

わたくしはまだ少しだけだるさの残る身体を起こして・・・お湯をバスタブに満たしました。
着ていたものをベッドに置いて・・・わたくしはバッグの中からあるものを取り出したのです。
バスタブにたゆたう微温湯を別の器に取ると・・・胎内洗浄の準備をしたのです。
化粧室とバスルームを往復して身体の中から綺麗にして・・・わたくしはようやく髪を梳り、ゆっくりと1人で入浴したのです。
バスタブに身体を横たえ、しばらくしたころにゲストルームのドアが開きました。
望月さんが今日身に着けるべきものを用意してくださったのでしょう。
「祥子様、もう上がられますか?」 
ベッドルームからは望月さんの声が聞こえました。
「ええ」 
「お手伝いいたします」 
わたくしがバスルームから出るのを・・・待つというのでしょうか。
「1人で大丈夫ですわ。みなさんはお揃いですか?」 
ざぁっ・・・浴槽から出て、大きなバスタオルで身体を拭ったのです。
「わかりました。あと15分で朝食が始まります、お待ちしております」
ぱた・・ん ゲストルームのドアが閉まる音がいたしました。彼には出かけるための準備があったのでしょう。

濡れた黒髪のロングヘアをタオルに包み、バスタオルを身体に巻いてベッドルームに戻りました。
ベッドには今日のためのわたくしの装いが用意されていました。
ノースリーブのハイネックとカーディガンのツインニットがトップスでした。一緒に用意されていたのは、フロントファスナーの革のタイトスカートでした。
ランジェリーは黒にピンクの花柄を刺繍したレースのブラと、同じレースで彩られたサイドが紐で結ばれたパンティだけだったのです。わたくしがいつも身に着けるスリップはそこにはありませんでした。
紐で結ぶタイプのパンティはわたくしのランジェリーにはない形です。
2つきりのランジェリーを身に付け・・・ストッキングを探したのです。

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レッグウェアは黒のパンティストッキングが用意されていました。
ロングブーツも雪道を考えたのでしょうか。あまりヒールの高くない黒のシンプルなものだったのです。
コートは見当たりませんでしたが・・・きっとリビングにはあるのでしょう。
エレガントというよりは、カジュアルなテイストの装いでした。
これはどなたのお好みなのでしょうか。
ドライヤーで濡れた髪をざっと乾かして、皆さんの待つリビングルームにまいりました。

「おはようございます」 
声を掛けると、昨日とは打って変わったカジュアルな姿の3人が振り向きました。
「おはよう」 「良く眠れましたか?」 
美貴さんはグレーのタートルセーターとミックスグレーのスラックスでした。
隣で珈琲カップを手にした山崎さんは、オフホワイトのシャツとクルーネックのセーターにブラックデニムをお召しでした。
「祥子さんはこういう姿もやっぱり似合いますね」 
カーキの肌触りのよいネルシャツとチノパン姿の石塚さんが立ち上がって、わたくしを迎えてくださいました。
「これは石塚さんが?」 
箱根で用意されたものや、昨夜の装いとは明らかにテイストの違うものでしたから、美貴さんが選ばれたものではないと思っていました。
カジュアルでアウトドアテイストなものは、石塚さんがセレクトしてらっしゃるようでした。
ということは・・・このランジェリーも石塚さんのお好みなのでしょうか。
「着慣れないものですから・・・はずかしいわ」 
雪山に行くとはいえパンツスタイルはあまり好みではありませんでした。とはいえミニといってもいい丈の革のタイトスカートにロングブーツというスタイルも、ほとんどしたことがなかったのです。
「いえ、とてもお似合いですよ。さぁお食事をなさってください」 
山崎さんが椅子を引いてくださったのです。

初雪 23

テーブルの上にはコンチネンタル・ブレックファーストが用意されてありました・。
コーヒーを望月さんがサーブしてくださいます。焼きたてのロールパンとサラダとふっくら焼き上げたオムレツがとても美味しそうでした。
「いただきます」 
あたたかなコーヒーから口を付けたのです。
 
「それじゃ、先にいくよ」 
わたくしが半分ほど食事が進んだころです。美貴さんが立ち上がりました。
「ご一緒にいらっしゃるのではないんですか?」 
この人数です。2台の車で一緒に行くものだとばかり思っておりました。
「今回は別荘ですから、僕たちが先に行っていろいろ準備しておきます。祥子さんは山崎と石塚がお連れいたしますから」
「心配いらないですよ。僕たちはローバーでゆっくり行きましょう」 
石塚さんがコーヒーを口にしながらのんびりと仰るのです。
「荷物がいろいろありますから望月はもう連れて出ます。あとのことはホテルのスタッフに言いつけてありますので、全てまかせてください」 
美貴さんの後で、望月さんがわたくしに軽く目礼なさいました。
「気をつけていらしてください」 
立ち上がりお見送りをしようと思ったのです。
「いえ、お食事を続けてください。別荘でお待ちしています」 
それだけを微笑んで仰ると、美貴さんと運転手の望月さんはお出かけになったのです。
 
「望月くんと別々なのはそんなに心細いですか?」 
わたくしの横顔を見ながら山崎さんが問いかけます。
「いえ・・そんなこと」 
意識すらしていなかった、ほんの微かな想いを見透かされてしまったみたいでした。
「妬けるなぁ。箱根でですよね。あのとき東京に居れば一緒に行ったのに」 
石塚さんが混ぜっ返すのです。
「もう。知りません」 
わたくしは冗談めかして、この場を切り抜けることにしました。
 
「そういえば、こちらの車は石塚さんが運転してゆかれるのですか?」 
運転手の望月さんは先に行ってしまわれました。車の持ち主であろう石塚さんがこれから長距離の雪路をドライブなさるのでしょうか。
「いえ、雪道ですし僕のところの運転手を呼んであります」 
食後のコーヒーを注ぎながら、答えてくださったのは山崎さんでした。
「申し訳ないわ。その方に。」 
元旦の朝なのです。こんな日に社長の命令・・・とはいえ雪道をドライブするためにお時間を割いてくださるなんて。
「祥子さんがあやまるようなことではないですよ。独身でドライブ好きなので、社用車じゃないAV車を運転できるよって話したら喜んでいたくらいですから」 
「そろそろだろ、山崎」 
クローゼットからウインタージャケットを取り出した石塚さんが腕時計を覗き込みます。
「時間に正確な人だからもう来るでしょう。祥子さんはこれをお召しになってください」
「これを、わたくしに?」 
わたくしの肩に掛けられたのはシャドーフォックスのコートでした。毛並み・使われている毛皮のしなやかさ・・・決して安価なものではないはずです。
「あちらは寒いですから。それに今日の装いには祥子さんのミンクではドレッシー過ぎるでしょう。僕の会社の商品ですけが、いいものです」 
「ありがとうございます」
ふんわりと柔らかく暖かいコートはわたくしの身体にしっとりと馴染みました。

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ピンポン・・・ 山崎さんの会社の運転手さんがいらしたようです。
バッグを手に3人でドアに向かったのです。
 
「おはようございます。結城と申します。よろしくお願いいたします」
そこに立っていたのはジーンズにダウンコートを羽織った・・・ボーイッシュで小柄な女性でした。
「時間通りだね。休日出勤で申し訳ないが、よろしく頼みます」 
山崎さんが優しく話しかけています。日頃から信頼なさっている様子がとてもよくわかりました。
「お手数お掛けします。よろしくお願いします」 
山崎さんと石塚さんに囲まれながらわたくしもご挨拶をいたしました。結城さんはどこか堅い表情のままで会釈を返されたのです。
「よろしくな」 
フランクな挨拶は、石塚さんと結城さんに面識があることを窺わせます。
なのに・・・やはり彼女はにこりともせずに会釈を返すだけでした。

荷物は全て望月さんが運び込んでくれてあるのでしょう。わたくしはハンドバッグだけを手に、二人の男性はコートだけを羽織って部屋を出ました。
「これがキーだ。地下駐車場に停めてある。僕はフロントに寄って行くから先に車に行っていてくれ」 
エクゼクティブフロアのエレベーターホールで、石塚さんはポケットの中の車のキーを結城さんに手渡しました。
雪の別荘と男性達は言っておりました。 
寒冷地仕様の車でも、雪道の走行はそれなりのドライビングテクニックが必要なはずです。なにも言わずにキーを預けるのですから、彼女の技術は信頼に足るものなのでしょう。
「別荘って、どちらになりますの」
「軽井沢の奥に万座スキー場があるのをご存知ですか?」 
「ええ」 
雪深い土地でした。プリンスホテルが除雪をする有料道路の先にある有名な温泉地でもありました。雪のワインディングロードを注意深く登って行くしかありません。
「あの近くになります。とはいっても少し外れてますから静かですよ。温泉も引いていますしね」 
わたくしに腕を差し出し、エスコートをする山崎さんが教えてくださいます。
「石塚さんの別荘ですの?」
「ええ、そうです。木立に囲まれてますから夏でも涼しくてね。ゴルフのときに良く3人で利用しているんです」
「だったら、石塚さんが先に行かれた方がよろしかったのではないですか?」
ゆうべ3人がどんな打ち合わせをしたのか・・・先に休んだわたくしは知らなかったのです。
「美貴は何度もいっているから勝手知ったる場所なんですよ。それにね・・・」 
チン・・ フロントフロアにエレベーターが到着してしまいました。 
「じゃ、すぐ追いかけるから」 
石塚さんだけが降りていかれます。
「いつも美貴ばかりが祥子さんを独り占めするから、今日は『僕たちふたりに祥子さんと過ごさせろ』とゆうべ石塚が迫ったんですよ」 
にこにこと山崎さんが謎解きをしてくださいました。
「もう・・そんなことを仰ったの」
「僕も石塚さんの意見には異議なかったですからね。それで美貴と望月くんに先発隊を頼んだのですよ」 
チン・・・地下駐車場に到着しました。
エレベーターホールの少し先に、ブラックボディのレンジ・ローバーが停まっていました。
「結城くん、あの車だよ」 
山崎さんの言葉に一礼すると、彼女は車に走りよってゆきました。

ドアを開け、ドライバーズシートに収まるとエンジンを掛けて暖気をします。
「ほんの4・5時間ですが、僕たちだけの祥子さんになってください」 
山崎さんはわたくしと腕を組みゆっくりと車まで歩いてゆきました。
結城さんが運転席から降り、リアシートのドアを開けてくださいます。
ロングボディの・・・4人で乗るには十分すぎる贅沢な空間がそこには広がっていました。
 
「どうだい?運転は」 
ドライバーズシートの結城さんに、気遣わしげに山崎さんが話しかけます。
「はい、大丈夫そうです。いつもの別荘でよろしいのですね」
「そうだ。頼むよ」
「少し慣れるまでいろいろしますが、安心して乗ってらしてください」 
まるでわたくしなどそこに居ない様に山崎さんにだけ語り続けるその言葉は、まだ少し堅く感じられたのです。

初雪 24

「新車なのでしょう」 
さきほど乗り込む時に見えたタイヤは、ほとんど走行してないもののようでした。
「冬に祥子さんをご招待するからと、石塚さんが用意したんですよ」
「えっ・・わたくしのために?」
先ほど乗り込んだのと反対側のリアドアが開きました。
「お待たせ。さぁ行こうか」 
石塚さんが乗り込んでいらっしゃいます。
「助手席にいらっしゃればいいのに」 
決して狭いわけではなかったのです。が、せっかく開いている助手席でゆったりなさったらいいのに・・・と思っておすすめしたのです。
「ん そうですね」 
石塚さんは少し考える風で・・・リアのドアを閉めると助手席に座られました。

暖まった室内でわたくしたちはコートをラゲッジスペースに移して、車はゆったりとスタートしたのです。
「ETCはセットしてあるからな」
「はい」 
結城さんは車幅感覚を確かめる様に、ゆっくりと公道を走らせてゆきます。
「関越でよろしいですね」
「あぁ、嵐山あたりで一度休憩しよう」
「わかりました」 
初めての車とは思えないスムースさで、女性運転手の結城さんはレンジローバーを操作していました。
「結城さんは運転手さんのお仕事をなさってるの?」 
一年のうち最も空くといわれる元旦の都内の道はスムースでした。
「ええ、僕の車をね」 
答えてくださったのは彼女ではなく山崎さんでした。
山崎さんのすべすべとした手はわたくしの右手を愛で続けていました。
「社用車を運転してるんですか。何を使ってらっしゃるの?」
「山崎はね、ベンツに乗ってるんですよ」 
石塚さんが助手席から振り返ります。
「ハンドルが逆でもこんなに簡単に乗りこなすんですね。すごいわ」 
レンジローバーは右ハンドルでした。
「結城くんの運転の技術はすごいですよ。見た目と違ってね」 
買ったばかりの新車を、当然のように預けるのです。石塚さん・山崎さんが彼女の技術を認めているのは間違いないでしょう。それもきっとわたくしを委ねて先に発った美貴さんも・・・そして望月さんも同じなのでしょう。
「美貴さんたちとご一緒できたらよかったのに。この車でしたらセルシオとでもクルージングできましたでしょう」
「美貴と一緒だったら、この車に祥子さんをご招待できないじゃないですか」 
空いた都内の一般道から関越道へ入って行きます。石塚さんの愉快そうな声が響きました。
「美貴も望月くんも祥子さんを離さないでしょうからね。ですからゆうべ3人で打ち合わせをして、美貴に先に行って準備してくれって頼んでおいたんです」 
あのあと3人で・・・きっと望月さんも合わせて4人で打ち合わせしていたのはこのことだったのです。美貴さんがいらっしゃればわたくしはセルシオの後部座席を選んだでしょう。山崎さんがおっしゃるとおりです。
「祥子さんを僕たちだけのものにできるのは移動時間しかありませんからね」
カチカチ・・・ウインカーの音がして嵐山のサービスエリアが近づいてきました。
「あそこまでなら途中1回休憩くらいの予定だろう」 
駐車スペースを探す結城さんに石塚さんが質問をします。
「そうですね」 
抑揚の少ない声が帰ってきました。

「お疲れさまでございます。出発は10分後くらいでよろしいですか?」
「ありがとうございました」
「よろしく頼むよ」
山崎さんはわたくしにラゲッジスペースからコートを取り出し、手渡してくださいます。
「すぐ行くよ」 
石塚さんは結城さんになにごとか指示をされているようでした。
このペースなら思った以上に早く着きそうです。
わたくしは手を離して下さらない山崎さんの腕に沿いながら・・・サービスエリアの化粧室に向かいました。

化粧室を出ると山崎さんと石塚さんが待っていてくださいました。
「コーヒーでもいかがですか?」
つい先ほどホテルでいただいたばかりです。
「いいえ、結構ですわ。飲み物はなにか買っていったほうがいいのかしら?」
「お茶とミネラルウォーターでしたらバゲッジスペースに用意してありますよ」
「それにワインもね」 
石塚さんがウインクしながらおっしゃいます。
「もう、運転をしてくださる結城さんに申し訳ないわ。彼女には何か?」
「先ほど何か買っていたようですから大丈夫でしょう」
車までほんの僅かの距離なのに、今度は石塚さんが手をとってくださるのです。
「さぁ、結城くんが待ってます。行きましょう」

車に戻るとバゲッジスペースにレースのカーテンがかかっていました。
石塚さんがリアドアを開けてくださいます。
「祥子さんが真ん中ですね」 
今度は石塚さんも後に乗ってらっしゃるのでしょう。
先ほどまでの話からしたら、お二人がわたくしと一緒にこちらの車に乗られたのは・・・これが目的だったのでしょうから。 
ただ、運転手は女性の結城さんなのです。
彼女の眼のあるところで悪戯はあっても、ここでひどく淫らなことをされることはないと思っておりました。
「出発してもよろしいですか?」
「あぁ、頼むよ」 
石塚さんが声をかけました。ゆっくりと駐車スペースから車が出て行きます。

わたくしの右には山崎さんが、左には石塚さんが座ってらっしゃいました。
後部座席は少し後に下げられていたのでしょう。先ほどよりも足元がゆったりとしていました。
BGMはサックスの音も軽快なジャズのCDのようでした。
「ポール・デズモントですか?」 
Take Fiveが軽快に始まりました。
「そうです。祥子さんはジャズもお詳しいのですね」
CDも石塚さんのセレクトなのでしょうか。
「石塚さんはジャズ好きなんですか? あっ・・ん・・」
彼に向き直ったわたくしの右肩を大きな手で押さえると、唇を重ねたのです。

初雪 25

「ん・・ん・・だめ・・っ」 
シャッ・・・カーテンがレールを走る音がしました。
「いつものあのバーはクラシックしか流しませんから、祥子さんもジャズがお好きとは思いませんでした」 
山崎さんはさりげなく右の窓のカーテンを閉め、運転席との間のカーテンも閉めてしまったのです。
「やぁ・・・」 
抑えた声でキスの合間に抗議の声を上げるしかありません。

車に乗ったときに豊富に用意されているカーテンが気にはなったのです。でもまさか、運転席との間を仕切るものまでもがあるとは思っていませんでした。
他のカーテンはレースでしたが、運転席との間はバックミラーのところだけがレースになったしっかりとしたものでした。
「石塚さん、そちらを閉めないと見られてしまいますよ」 
唇を奪われているわたくしの右の耳に落ちかかる黒髪をかきあげ、耳朶を甘噛みするのです。
「そうだな」 
ようやく唇を離して、石塚さんは左のカーテンを閉めました。
追い越し車線を軽快に走り続けるレンジローバーは、左側の窓からほかの車に見られてしまうからです。
「やめて・・ください。こんなこと」 
エンジン音とBGMが流れているとはいえ、すぐそこには女性の運転手がいるのです。まさかこんな淫らなことを昼間から仕掛けてくるとは思いませんでした。
「結城は承知してます。はしたない声を上げたら、恥ずかしいのは祥子さんですよ」
耳元から首筋までを舐め・啄みながら、山崎さんの指はわたくしの乳房のフォルムを楽しむように下辺の丸みをカットソーの上から撫でていました。

「僕たちではいやですか?」 
膝の上に置かれた石塚さんの手が、身体に張り付くような革のスカートを中に向かって進んでゆくのです。
左の耳をねぶりながら太ももを外から内側に向かって撫でさするのです。
「僕たちは美貴みたいに括ったりしません。だからおとなしく言うことを聞いてください」
わたくしの手首には昨晩のストッキングの痕が微かに残っていました。山崎さんにその手首を取られ、カーディガンの右袖を脱がされました。そして、そのまま左の石塚さんに剥ぎ取られてしまったのです。
「あん・・だめ」 
カーディガンを・・・一枚でも多く衣服を取り戻そうとしたのです。
「寒いですか、祥子さん。結城くんリアヒーターを上げてください」
車の中でノースリーブの腕を晒したわたくしを見て、なんでもないように・・・山崎さんがいつもの声で結城さんに指示をするのです。
「この太もも・・たまらない」 
石塚さんの手が少しだけスカートのフロントファスナーを上げてゆきます。 
「ん・・んぁ・・・ゆうべも・・・あん・・なだった・・・の・に」
山崎さんの手が乳房を這い・・唇を重ねるのです。
「ゆうべはシェフがいましたからね」
石塚さんの手は太ももの外側を丹念に撫で上げてゆくのです。昨晩メインダイニングのテーブルの下で、だれにも内緒にわたくしのドレスのスリットの中に手を這わしていたようにです。
「ゆるして・・・おね・・が・い・・・」 
左手で石塚さんの手を・・・右手で山崎さんの乳房を掴もうとする手をなんとか防ごうとしました。
「祥子さん、僕たちはこのカーテンを開けてもいいんですよ。結城にも外を走る他の車の人たちにも・・・祥子さんのはしたない姿を見せたいですか?」 
耳を唇で愛撫しながら、冷静な声のままで山崎さんがおぞましい脅しの言葉を告げるのです。

「だめです・・・だめ・・・ここじゃ・・いや・・・」
でも抗いを止めることなんてできませんでした。
「いますぐ高速を下りてホテルにでも入りますか? 僕たちはそれでもいいですよ。ラブホテルの駐車場に結城くんを待たせておけば済むことですからね。でも別荘にはつけなくなるなぁ。美貴と望月くんが・・待ちぼうけかなぁ」 
ジィッ・・ またファスナーが少し上げます。
パンストに包まれたランジェリーが露になる寸前のところで止めるのです。
「そんな・・こと・・・」 
フランクで紳士的で優しいお二人の欲望の深さを感じました。
やはり・・・許しては・・・いただけないのです。
「僕たちはいいんですよ。先ほども言った様に結城も承知済みです。おとなしく出来ませんか?」 
黒にピンクのレースで彩られたブラの中で立ち上がりはじめた敏感な乳首に向かって絞り込み始めていた手を、運転席との間のカーテンに伸ばしたのです。
「やめて・・・いやっ・・・」
革のスカートのファスナーは引き上げられ・・カーディガンは脱がされて・・4本の男性の手が身体を這い回っているのです。
たとえまだ肌を晒していなくても、わたくしの姿はもう充分淫らだったことでしょう。
「あっ・・」 
山崎さんの手に気を取られたわたくしの脚を石塚さんの逞しい腕がブーツごとかかえ、ご自分の膝の上に引き上げたのです。
わたくしの身体は腰を中心に90度回り・・・上半身はやさしく山崎さんの膝に受け止められてしまいました。
「いいですね。こんなポジション」 
膝枕をしているようなわたくしの頭を両手で抱えて、山崎さんの唇が重ねられます。
「あふっ・・ん・・く・ちゅ・・」 
カーテン越しとはいえすぐそこには結城さんがいるのです。どんなことをされてもわたくしは声を抑えるしかありませんでした。
膝下は石塚さんの脚と左のドアの間に挟まれ・・・動かせない様になっているのです。
ジィィッ・・・またファスナーが少し・・・引き上げられてしまいます。
「黒のパンストにピンクのレースと肌が透けて・・・綺麗ですよ、祥子さん」
茂みをつつむランジェリーの丸みを、手のひらでまぁるく愛撫するのです。
「ん・・んく・・んゃぁぁ・・・」 
隠そうとした手は山崎さんの手で引き上げられ・・脚と同じ様にドアと山崎さんの脚の間に挟み込まれてしまいました。

「祥子さん、おとなしくなさってください」 
両手と両脚を二人の男性に押さえ込まれて・・・わたくしの身体はふたりのなすがままでした。
「聞けませんか?」 
山崎さんがドアポケットから出したのは数枚のシルクのスカーフでした。
「このスカーフでドアハンドルに手首を括られたいんですか? 祥子さん」 
山崎さんの声はもう顰められてはいませんでした。結城さんに聞かせることも厭わない・・・彼女は承知している・・というのは本当なのだとわかりました。
「おねがい・・・括らないで」 
キスを繰り返す山崎さんに・・わたくしは小声で<おねがい>したのです。
いつ誰が覗き込むかわからない車のドアに括られて・・・二人の男性に嬲られるなんて・・・できません。