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桜陰 11

「ん・・んぁ・・ゃぁ」
コートに覆われたままの腰を、わたくしは無意識の内に淫らに揺らしていました。思わずしてしまった仕草に、わたくしははっとしたのです。羞恥に薄く瞳を閉じたわたくしは、長身故に乳房に被いかぶさるようにしている高梨さんに気付かれていないことだけを祈っていました。
が・・・はしたなく乱れるわたくしを眺めながら責める彼には、しっかりと見られていたのです。
 
「スリップ越しじゃだめかい?」
「いゃぁぁっ・・・」
高梨さんの指は、左の乳房を包むスリップのレースをぐいと引き下ろし・・・跳ねるように飛び出した乳首を甘噛みしたのです。
「はぁぁ・・ぁぁぁ。」
抑えても抑えても・・・声にかかる艶だけは・・・防ぎ様がありません。左手に持ったバッグを取り落とさない様にするのが精一杯でした。
「手のひらに収まらないくらい、はずかしい大きさのバストをしてるのに。」
ちゅるぅぅ・・・ 先端を吸い上げるのです。白い乳房に五指をくいこませるほどに掴み上げ・・・乳輪までもすべて・・・一緒に・・・
「・・・ぁぁ・・」 
「こうされたくて、誰からもわかるくらいにたぷたぷと胸を揺らして、ノーブラで散歩したんだろ。」
れろ・・れるん・・ 舌が昂りの側面をたっぷりの唾液を載せた舌が撫で・・・平らな先端とがつくる柔らかな角を、尖った舌の先が繊細に這ってゆきます。こんな乳房への口戯をなさるなんて・・・
「ちが・・う・・わ・・ぁぁ」
「どれどれ・・・Gカップだって。メロンくらいすっぽり包めそうだな。」
らるぅん・・・ 横目でブラのサイズタグを見ながら、ことさらに言葉にしてわたくしを責めるのです。その上で、快感を集められた先端をゆっくりと舌がなでてゆきます。何度も・・・なんども。
「はぁう・・・っ ぃやぁぁっ・・・」 
「肌まで桜色に染めておねだりかい。まだ明るい昼間で屋外なのに、我慢できないのかね、祥子。」
言葉責めの間は右の乳首を指で・・・言葉責めの後は左の乳首に口唇をあてがって・・・途切れる事なく・・・淫媚な刺激を送り込み続けるのです。
「ち・・がぅぅ・・・のぉ・・」
誰かに聞かれでもしたら・・まるで・・わたくしが露出狂の痴女だと言わんばかりの言葉を高梨さんは羅列するのです。
 
公道を通る人がちょっと覗きこむだけで・・・見られてしまいかねない場所なのです。
わたくしたちが何をしているかは解らなくても、ここに<居る>ことは、通りを歩く人にはわかってしまうはずです。
抑えているとはいえ・・・行き交う車のエンジン音や街の奏でる生活音に紛れ込む・・・羞恥に満ちた淫らな言葉の羅列に気づかれたら・・・わたくしは・・あぁ。
「そうか、片一方だけじゃ満足できないのかい。仕方ないな。」
もう一つコートの釦を外すと右の肩もスリップごとはだけるのです。
「ゃぁ・・ぁぁぁぁ・・・」
布越しの愛撫で疼ききっていた小さなしこりにぬめる暖かい唇が被せられ・・・甘噛みされながら激しく舐られるのです。
わたくしは身体をファサードの漆黒の大理石に預けて・・・とうとう・・軽く・・・登り詰めてしまったのです。
 
パシャ・・・・ フラッシュが閃きました。
「きれいだよ」
「・・っ・・だめ・・」
わたくしは慌てて・・かき乱された理性を・・・拾い集めたのです。襟元をかき寄せて・・・露にされていた乳房を・・再びスリップで覆いました。

桜陰 12

「逝ったね、祥子」
脚元に落ちたブラを拾い、身支度をするわたくしを通りから隠す様に立つと、高梨さんはCoolpixをポケットに仕舞いました。
「ゃ・・・ひどい・・わ・・」
あまりに冷静にわたくしを観察しているこの方に・・わたくしが達したことは解ってしまったことでしょう。
だからといって、こんな場所での淫らな振る舞いを・・・それも肯定するようなことを・・・わたくし自身が認めるわけにはいかなかったのです。首を横に振り、彼の言葉を弱々しく否定したのです。

「だめだよ。このままだ。」
コートの襟元を整えて釦を止めようとしたわたくしの手を高梨さんが止めるのです。
「だって・・これはあなたが・・・」
ルール以外で外された1つの釦は・・・元に戻したかったのです。たった一つ残った釦はそれだけを止めているのはあまりに不自然な第五釦だったからです。
「祥子があんな喘ぎ声で強請ったからだろ」
「ちがぅ・・・」
抗い・羞恥にまみれ・・・押さえ込もうとしても漏れ出た声が・・・原因だと・・・高梨さんの深くて・甘い声が告げるのです。
「まぁ確かにたった一つ止めている釦がその位置じゃおかしいね。」
「もう・・いいでしょう。」
第三釦を止めて・・一番下の釦を外す高梨さんの行為に、わたくしは<お仕置き>は終わったのだと考えました。
人目を避けた場所だとはいえ、わたくしを淫らに・屋外で登り詰めさせたのです。もうご満足になられたことでしょう。
 
「祥子、これはお仕置きなんだよ。思い違いをするんじゃない。」
高梨さんの声は・・・優しい情人のものではなく、<ご主人様>の響きを帯びはじめていました。
「まだ解ってないようだね。」 
「ゆるして・・」
「パンティを渡しなさい。」
屋外で、前を開けたコートに透けるスリップだけの姿でさえ充分に扇情的なはずです。
なのに下半身をガーターストッキングだけしか身につけない・・・娼婦のような姿になれとおっしゃるのです。そんな、ひどい・・・
「おねがい・・・」 
「ランジェリーショップで言っただろう。これ以上逆らうなら、スリップもショーツも取り上げるって。」
高梨さんのわたくしが逆らえない声が、命じるのです。
「それとも、ここでコートを取り上げようか?」
レジデンスまではまだ1/3ほど桜並木は続いていたのです。それを・・・コートの前を開けるのではなく・・・ランジェリーだけで歩くなんて。
「だめ・・」
そんなことはできません。そんなはしたない・・こと。

「もう一度言うよ。パンティをここで脱いで渡すんだ。」 
公道に通じるファサードの入り口は高梨さんの身体で塞がれていました。
桜の花びらが舞い込む場所で・・・わたくしは腰をかがめてコートとスリップの裾をたくしあげると、そろ・・そろ・・・とショーツを下ろしていったのです。
左脚のヒール・・・次いで右脚のヒールを小さなランジェリーの布から抜いたのです。
「あっ・・・」
わたくしは、ショーツを手の中で小さく丸めて、コートのポケットに仕舞おうと思っていました。なのにその前に・・・オーガンジーのショーツは、高梨さんに横取りされてしまったのです。
 
「こんなに濡らして。はしたないね、祥子」 
「ぃやっ・・・」
彼の手から桜色の布を取り戻そうとしたのです。わたくしの手を遮って、高梨さんは恥ずかしく濡れたクロッチを一層じっと見つめます。
わたくしは首輪を着けられたときから、身体を反応させてしまっていたのです。
ランジェリーショップで・・・そしてこの桜並木で・・・
久しぶりにお逢いして友人のように話すだけだと思っていたこの午後が、次第に淫らに色合いを変えて来てから・・・ずっと。
加えてキスのゲームは、パンティではとどめ切れず、わたくしの太ももまでもしっとりと湿らせるほどに・・・蜜を湧き出させていたのです。

「どうして今日はTバックじゃないのかな?」
「・・・知りません」
確かにTバックではありませんでした。
今日身に着けていたランジェリーのセットになったパンティは、薄い桜色の素材は桜色から漆黒の茂みを透けさせ・・・ハイレグのカットは鋭い角度でわたくしの腰を1/3ほどしか覆ってはくれない・・・セクシーなものでした。

桜陰 13

わたくしはあまりの恥ずかしさと、仰る通りにしたのに、なお羞恥を与え続ける高梨さんにつれない返事をしただけです。
「僕が嫌いになったのかい。わざわざこんなに素敵な装いで逢いにきてくれたのに?」
「・・・しらない・・いじわる」 
パンティがTバックじゃないのは、高梨さんのことが嫌いになったから・・・そう仰りたいのでしょうか。偶然でしたが、確かに以前高梨さんと出会った時は2度ともTバックを身に着けておりました。

今日・・・お約束をして逢う事になった時、Tバックを選ばなかったのには2つの理由がありました。
1つは久しぶりにお顔を見るのにお誘いが昼間だったからです。わざわざこの時間を選ばれるのです。きっといままでいらした海外のお話を聞かせて下さるのだと・・・だったらセクシュアルな空気をわたくしから漂わせるわけにはいかない・・・と思ったからです。
もう1つは、わたくしが<彼との行為>だけを求めていると思われたくなかったからです。高梨さんは1人の<男性>として、<プロフェッショナルな芸術家>として大変魅力的な方でした。彼がわたくしに何を望んでいたとしても、わたくしは人として彼に惹かれはじめていたのです。
ランジェリーがわたくしに与える精神的な影響を良く知っているからこそ、今日・・・Tバックを身につけるわけにはまいりませんでした。
 
「もう一度聞くよ。僕が嫌いになったのか、祥子」
「・・・・・」
嫌いになんかなってないです・・・と口にすることはできませんでした。無言のままで羞恥にうつむけた顔を横に振ったのです。
「聞こえないね。」
優しく深く甘い・・声。明るい屋外の午後の日差しの中でさえ・・わたくしを従わせる高梨さんの声。
「・・・きらい・・じゃない・です。」
とろぉぉ・・たったこれだけの言葉を告げただけなのにわたくしの身体はまた・・蜜を溢れさせてしまったのです。
「それじゃ、どうしてTバックじゃないんだ?」
わざとランジェリーの名前を口にして・・羞恥誘うのです。
「・・・わからない・・わ」 
どう告げればいいのか、本当にわかりませんでした。身支度したときの想いを口にしても・・・彼の手にあるぐっしょりと濡れたパンティが、全てを台無しにしてしまうとわかっていたからです。
「言えないのか。」
どうしていいか解らなくて、ただ首を横に振ったのです。
「仕方ないね。また一つお仕置きが増えるだけだ。いいね。」
「・・・ゆるして・・だめ」
これ以上何をすると仰るのでしょう。
「さぁ 行こう。たったこれだけの桜並木なのに、いつまでたっても部屋にたどり着けないよ。」
右手に掴んだ濡れたパンティをCoolpixの入ったポケットに仕舞うと、わたくしの手を引いてふたたび桜並木を歩きはじめたのです。
 
オフィスビルのファサードに引き入れられてどのくらいたったのでしょうか。
あれほどに淫らな時間を過ごした後でも、並木の桜は美しく咲き誇っていました。
時折強まる花散らしの風は枝を揺らし、薄紅の花びらをはらはらとわたくしたちの行く手に舞わせるのです。
ブラもパンティも身につける事を許されず・・・コートの前もたった1つだけしか釦を止めることを許されずに・・・男性に手を取られて車と人の行き交う公道を歩く。それも・・・その男性の唇と指でさんざんに上り詰めさせられたあとに・・です。
わたくしは平静を装うことも、高梨さんに語りかける言葉すら失っていたのです。
「どうした?祥子」
わたくしの肩を抱き寄せる様にすると、高梨さんは優しい気遣いを見せるのです。
「んん・・ん」
ふるふると俯いた首を横に振るわたしを覗き込むようになさいます。
「怒ったのかい?」 
わかりません。
怒っていたのかもしれません。屋外でこんな姿にされてしまうことに・・・何度も登り詰めさせられてしまうことに。
「そんな祥子もそそられるよ。魅力的だ。とてもね。」
肩に回っていた手が脇腹を降りて、パンティを着けていないヒップラインにたどり着くと、さもその曲線と手触りが愛おしいとでもいうように・・・手を這わせるのです。
「だ・・め・・・」
ふいにコートの裾を乱そうとする風と、大切な2つのランジェリーを身に着けていない緊張感とで、わたくしの身体はとても敏感になっておりました。

桜陰 14

コート越しの高梨さんの手の動きさえ、なんとかして押さえ込もうとしている疼きに簡単に火をつけてしまうのです。
わたくしの身体は、白昼の咲き誇る桜並木というありえない場所での淫戯に溺れかけていたのです。

「そろそろ次の桜だよ。」
行く先をわたくしの瞳は見つめているはずなのに、身体に触れる高梨さんの手に集中してゆく意識が・・・また次の責めの場所が近づいていることを忘れさせていたのです。
「おねがい・・もう、ゆるして」
すれ違う人たちに聞こえないように、わたくしは彼によりそい小さな声で<おねがい>をしました。
これ以上の責めを受けることはなくとも、彼の部屋で二人きりになった時わたくしは、高梨さんには逆らうことなど出来はしなかったでしょう。
もう、桜を楽しむ余裕はわたくしにはありません。<お仕置き>と言う名の公共の場での辱めは・・わたくしを想像以上に苛んでいたのです。
「お願いの仕方が違うようだね、祥子」
歩みを緩めて、高梨さんがひとこと一言をゆっくりとおっしゃいました。
俯いていた顔を上げて・・・彼の瞳を見た時、わたくしは高梨さんの求めている言葉がわかったのです。
 
「どうか、もうわたくしをお赦しください、ご主人様」
 
「憶えていたようだね。」
「はい。」
「赦すって、祥子はどうして欲しいんだ。」
わたくしたちは3本目の桜の下に辿りつきました。
「ご主人様のお部屋で、祥子を・・・お望みのままに。」
口にした言葉が、いったい何を意味しているのか・・・充分にわかっておりました。でも、神経がひりつくような、こんな行為を続ける事はわたくしにはもう出来なかったのです。
高梨さんの瞳を見続けることができなくなって、視線を外そうとしたわたくしの頤をぐいと引き上げると・・・高梨さんは唇を重ねたのです。
「ん・んく・・・ぅ」
ディープキスでした。
でも、今度は身体を犯すのではなく・・・心を奪うような・・・キスだったのです。
 
数十秒?それとも1分?
わたくしの首筋にまわした高梨さんの手がストレートロングの髪を分け入り・・美容師さんのシャンプーにも声を漏らしてしまう・・・感じやすい頭皮を愛撫している間中、キスは続きました。
「次の桜がレジデンス棟の入り口だよ。祥子。」
最後のコートの釦は、高梨さんの手で外されてしまいました。
コートの中は透ける桜色のオーガンジーのスリップと、お揃いの素材のガーターベルト・・・そしてナチュラルのストッキングだけの姿でした。
辛うじて釦が留まっている間は人目に晒されることのなかった、短く整えられている漆黒の茂みさえ、いまはスリップからくっきりと透けてしまっていたのです。
「これじゃ眼の毒だな。」
そう仰るのに、でも許してはくださらないのです。
「いや・・」
それでも、高梨さんはいままでよりも少し早足で先を急いでくださいました。
レジデンス棟まであとわずか。どなたとも近距離ですれ違うことがないことを・・・祈るだけでした。

桜陰 15

一歩進む度に、スリップだけにつつまれた乳房がたふふ・・たゆ・ん・・と揺れ、動きに合わせてはだけるコートはオーガンジーに透ける鴇色の先端を露にします。
1人で歩いてゆきなさい・・・そうおっしゃるかと思っていた高梨さんは、わたくしの右手をしっかりと捉えたままでした。
左手に持ったバッグは、その手でコートを押さえることすら不自然に見せました。しかたなく自然に垂らした腕の前で、コートは風に煽られてひらひらと・・動き続けておりました。
きっとわたくしのGカップの膨らみの淫らな動きすら、高梨さんの腕には伝わってたことでしょう。それでも、何事もないかのようにわたくしと腕を組んだまま、すたすたと早足で歩くのです。

高梨さんは桜並木の花陰の下、わたくしを車道側に歩かせていました。
わたくしの淫らな姿は、脇を行き過ぎる対向車線の車のドライバーの眼にはわかってしまったかもしれません。が、レジデンス棟に行くまでにいくつかあるショップのお客様やスタッフに気づかれることはありませんでした。
そして本当に偶然なのですが・・・3本の桜が過ぎる間だけは、とうとうどなたとすれ違うこともなかったのです。
坂のはるか先にお二人の男性の姿がありましたが、あの方達には、わたくしのはしたない様はおわかりにならなかったでしょう。

レジデンスの入り口はもう・・・すぐそこでした。
自動ドアを二人で入っても、高梨さんは何もおっしゃいませんでした。
2つめの扉の前でオートロックを解除します。
セキュリティに守られたこの空間にたどり着いて、わたくしはほっと小さなため息を付いたのです。
ここまで来ても、高梨さんはコートを脱げとはおっしゃいません。あの一言で・・・もう許していただけたのでしょうか・・・。
何もおっしゃらないままで、共有空間を抜けた先にあるエレベーターホールに向かいました。
 
土曜日の午後なのに、レジデント棟にはほとんど人気がありませんでした。
オフィスビルではないのですからどなたが居らしても不思議ではないのです。
高梨さんのお部屋のあるここで・・・こんな姿のわたくしとご一緒なのを誰かに見られては、彼のご迷惑になってしまう・・・そう思って、わたくしはコートの釦にさりげなく手を掛けたのです。
「だめだよ、祥子。何を勝手なことをしているんだい。」
わたくしの左手を高梨さんが押さえます。そして、もう一方の手でわたくしのバッグを取り上げたのです。
「だって、こんな姿・・・どなたかに見られたら。」
咎められてしまっていても・・・ようやく耳にすることの出来た高梨さんの声に、わたくしの言葉には甘えが滲みます。
「僕は構わないよ。祥子のこの姿を見せびらかしたいくらいだからね。」 
チン・・・ 到着したエレベーターのドアが開くなり、わたくしのコートを乱暴に剥ぎ取ると、スリップとガーターストッキングしか身に着けていない身体をゴンドラの奥に押し込んだのです。
「休日出勤をしている管理会社のスタッフへのご褒美だ。見せつけてやろう。」
16階の釦を押すと、コートもバッグも紙袋も床に置き、高梨さんはわたくしの前に膝をついたのです。
「なにを・・・」
「キスだよ。別のフロアに止まりそうになったら教えるんだ。」
早口にそうおっしゃると、レースのちりばめられたスリップの裾を引き上げ・・・わたくしの太ももの狭間にキスを・・なさったのです。