夢のかよひ路 41
「いままでのどんな時の祥子さんよりも素敵です。でも、そろそろ行きましょうか。」望月さんが近づいてきてくれました。ここで着付け直せなくても、せめて胸縄は解いて、はだけた着物を元に戻していただけるのだと・・・わたくしは思っておりました。
「祥子さんの白い肌を蚊に食われてもいけませんし、あまり遅くなり過ぎてもしんどいですからね。さぁ、行きましょう。」
なのに望月さんは、わたくしの肩を抱いて車から一旦離れさせると車のドアを開けたのです。
「おねがい・・・解いて・・」
「だめです。お仕置きは終わってないんですよ。」
これ以上、こんな刺激を続けられたら・・・わたくしは理性を保ちつづける自信がなかったのです。
「ああ、そうですね。またこんなに濡らしてしまったら着物をだめにしてしまいます。」
そして後ろにまわって、着物の後裾までも背中にまわる胸縄に挟むと、丁寧に全体を整えはじめたのです。
下半身を露にきものを絡げ上げた状態のままで・・・
「このままで車に乗ってください。さぁ、僕が手伝ってあげますよ。」
「やぁ、ほどいて・・おねがい・・」
「だめです。」
開いたドアへと回り込まされて、目にした助手席のシートにはタオルが1枚敷かれていたのです。
「こんなに魅惑的なフェロモンをまとわりつかせた着物を、知り合いの職人に預けて洗い張りにするなんてことできませんからね。汚さないためにはこうするしかないでしょう。それともこれ以上、誰が通るかもしれない道でこんな風に淫らな姿を晒しているのがいいんですか?まさか、露出することに感じているわけじゃないですよね、祥子さん。」
「いやぁっ・・・」
「なら、言うことを聞いて下さい。」
さあ、と望月さんはわたくしの・・・露になった腰に手を添えて、レカロのシートに後ろ向きに腰を下ろさせたのです。
このまま、ここにこの姿で放置されたら・・・わたくしにはどうしていいかわかりません。膝をぴったりつけて、足先を揃え腰を中心に90度身体を回しました。
「まだ目的地までは、カーブの多い道が続きます。シートベルトをしておきましょう。」
ドア脇のステムについたシートベルトを引き出すと、望月さんはベルトを白い乳房の間に挟み込むように通して、シート脇のストッパーに留め付けます。
「ドアを閉めます。」
わたくしは、まっすぐに前だけを・・・ヘッドライトが照らす白い闇を見つめていました。
俯けば、露になったバストや、その下にはやはり露になった白い下肢が見えるだけなのです。俯いて、瞳を閉じていれば・・・望月さんにまた眠っていると思われてお仕置きをもっと重ねられてしまうかもしれません。
「・・・はい」
消え入りそうな声で返事をすると、望月さんは助手席のドアを優しく閉めてくださいました。
フロントガラスを望月さんが横切ります。
いつも変わらず紳士的で優しく上品な年下の男性。
いつもより少しカジュアルな装いが、彼を年齢相応の若々しさで彩ってみせました。
『僕は、赤い縄で縛り上げた祥子さんを見るのも好きなんです。でも、せっかくこうして二人きりになれたのに縛って無理矢理なんてことはしたくないんです。』
雪の別荘の帰り、彼はベッドの部屋でこんな風に言っていたのです。
あの時は縄など一度も見せることさえせずに、優しく抱いてくださったのです。なのに・・・今回は・・・
バン・・・望月さんが運転席に戻ってらっしゃいました。でも、シートベルトを締めることすらせずに、サイドボックスから何かを取り出したのです。
「もう一つお仕置きをしなくてはいけませんでしたね。」
「もう・・・ないわ。おしおきされなくてはいけないことなんて。」
わたくしには、望月さんが口にすることに全く心当たりがなかったのです。
「二人きりの時に、望月さんなんて他人行儀な名前で呼ぶからですよ。」
そう言うと、真新しい電池パックを開けたのです。帯に挟まれたコントローラーから2つの単三電池を取り出すと、新品の青い乾電池と変えたのです。
「や・・・もうだめ・・おねがい。」
「僕のことはなんて呼ぶんですか?」
「悠哉さん。」
「そうです。忘れないでくださいね。」
それじゃ、いきます。
望月さんはサイドブレーキを戻すと、FCを深夜の山道へと駆けさせたのです。
夢のかよひ路 42
目的地に着くまでの1時間ほどの間に・・・わたくしは望月さんに課されたお仕置きで3度達して、はしたない姿をすれ違った車のヘッドライトに同じだけの回数浮び上がらせてしまいました。望月さんが新たに入れ替えた電池は、オキシライド電池でした。
先ほどとは比べ物にならない強い振動が、わたくしの何度も上り詰めて敏感になった真珠を絶え間なく襲ったのです。
その上、望月さんは数少ない信号待ちの間、縊り出された乳房の先端の鴇色の昂りを指で嬲り続けたのです。深夜2時をまわって全く歩行者などない交差点で、向いに停まるかもしれない車とその運転手の存在を口にされるたび、わたくしは身を捩って恥辱が呼び起こす快楽に耐えるしかありませんでした。
眠ったりは・・・いたしませんでした。
望月さんの問いにも、できるだけ早くにお答えしたのです。
彼の名前も・・・間違えずにお呼びました。
それでも、ローターのダイヤルは容赦なしに上げられていったのです。
なぜなら時折出される淫媚な質問には・・・例えば『今夜何回逝ったんですか?』といったような・・・すぐに答えられなかったからです。
目的地に着いた時、まだ玩具は振動を続けておりました。
それでもその動きはとても鈍く、なっていたのです。
そこは、玄関口にだけ明かりの点いた建物でした。
すぐ側では潮騒が聞こえます。だからといって、車の中からは海や海岸らしい景色を見ることはできません。建物の周囲は背高い樹が茂りぽつんと灯った街灯だけが、平屋のような建物を浮び上がらせていたのです。
望月さんは一旦、FCを門外に停めました。
そして車を降りると自らの手で門を引き開けたのです。ガラガラと重い鉄の扉を開ける音がしました。
深夜3時に立てられたその音に気を遣わなくてはならない他の建物はこの周囲にはないようでした。
「ここは、どこなの?」
わたくしは快感に荒く・早くなっていた息を、彼が車外に出ている間にようやく整えることが出来ました。運転席に座っている望月さんはわたくしに話しかけながら、一時たりとも責めの手を止めはしなかったからです。
車に戻った彼は先ほどまでの饒舌さが嘘の様に、黙って車をバックさせたのです。
「待っていてください。」
エンジンは掛け、わたくしを縄を打たれたはしたない姿でレカロのシートにシートベルトで固定したままで・・・望月さんは車を出てゆきました。
わたくしは、振り返ることも出来ません。ドアミラーに映る小さな景色だけに、望月さんの存在に縋る様に・・・見つめ続けたのです。
彼はなんのためらいもなく扉の鍵を開け・建物内の照明を点けると、車に戻ってまいりました。そして、大きなバッグを2つリアのトランクスペースから取り出し両手にそのバッグを下げて、建物の中に入ってゆきました。
わたくしは、気が気ではありませんでした。
この場所は、コンクリートの壁と鉄の門に守られているはずでした。が、いまはその門は開け放たれたままだったのです。
ポジションランプだけが点き、エアコンをつけたままのアイドリング時独特の高く・低く変化するエンジン音は、この車にまだ人が居るのだと静かに誇示しているようでした。
そしてこの車には、はしたない姿をしたわたくしが、両手の自由もきかないままシートベルトに括り付けられて・・・座っているのです。
ここに来るまでの15分は、車にも人にも出会いませんでした。
だからといって、いま・・・誰かが通らない、という保証にはならないのです。
もしここに、誰かがきたら。そして乳房も下半身も乱れた着物から晒したままのこんなわたくしを見られたら・・・何をされてしまうか・・・・
夢のかよひ路 43
ガチャっ「きゃっ!」
わたくしは、突然開いたドアの音に小さく悲鳴を上げてしまったのです。
「どうしましたか。祥子さん。」
「驚かせないで。びっくりしたわ。」
「ふふ 一体何に驚いたんですか?変な人ですね。この場には、祥子さんの他には僕しかいないのに。さぁ中に入りましょう。」
腕を括られたままのわたくしに、望月さんが手を貸してくださいます。
「ひとりで、できるわ。」
恥ずかしかったのです。
つい先ほど驚いたときも・・・ショックで・・花びらから蜜を溢れさせてしまっていたのがわかったからです。1時間前に修善寺の山中でいまの姿にされてからずっと、車のシートに敷かれていたタオルにはわたくしの愛液で出来たはずかしい沁みが付いているに違いなかったからです。
「それだけ括られていたらバランスが取りづらいはずです。遠慮しないで、さぁ。」
望月さんの声には、セクシャルな雰囲気は全く含まれてはいませんでした。
ただ、純粋にわたくしを気遣っているのです。
「わかりました。それなら、縄を外してください。」
わかっています、彼がいじわるを言っているのではないことくらい。
それでも、羞恥からわたくしは少しわがままを口にしてみたのです。
「もちろんです。あまり長時間括ったままなのは良くないですからね。ここには温泉が引いてあります。縄を解いて、ゆっくりと浸かりましょう。」
紳士的な望月さんに、これ以上駄々をこねるわけにはいきませんでした。
彼に手を貸していただいて、助手席で身体を回すと少し勢いを付けて立ち上がったのです。両手を縛められたままのわたくしは、反動で望月さんの腕の中へと身を躍らせてしまいました。
「あん、ごめんなさい。」
「いいんですよ。まるでお正月に雪の別荘でお迎えしたときの様ですね。」
・・・思い出してしまいました。
女性運転手の結城さんの運転する車のリアシートで、東京から雪の別荘に到着するまでの間中石塚さんと山崎さんに嬲られ続け・犯され続けたこと。
先に別荘に着いていた望月さんに出迎えられ・・・嬲られた余韻を残した無惨な姿を見られてしまった時のことを。
「あの時も、ほんとうはこうして僕の腕で祥子さんを抱きしめてしまいたかったんです。あの方達の手前・・・とても出来ないことでしたけれど。」
思わぬ抱擁に身を捩るわたくしの耳元に、また新たな告白を望月さんはするのです。
「ゆう・や・・?」
「さぁ、中に入りましょう。万が一こんな時間に通りかかるのが居るとすれば、たちの悪い連中です。そんな奴らに、祥子さんのこんな艶姿を見せるわけにいきません。」
まるで先ほどまでわたくしが脳裏に描いていた最悪の状況を言葉にされているようでした。
「それとも、僕ひとりじゃ物足りませんか?祥子さん。」
「悠哉の・・・いじわる。」
「はい、わかりました。あっ、これは持って行かないと。」
そうして、助手席のタオルを取り上げたのです。わたくしの・・愛液の染み通った・・・バスタオルを。
望月さんは車内を覗き込み、リアシートからわたくしの手籠を取り出すと畳んだバスタオルと一緒に持って、わたくしを建物の中へと導いたのです。
夢のかよひ路 44
引き戸を開けただけなのに、そこはもうひんやりとしておりました。「お願い、裾だけでも下ろして・・・」
クラシックな鉄のフレームでつくられた照明が、玄関を明るく照らしておりました。
両腕を胸縄と共に括られ股縄をされて着物のすそを大きく絡げられた姿は、非常に日常的な場で一層わたくしの羞恥を誘ったのです。
「仕方ありませんね。」
玄関の扉に鍵を掛け手に持っていた荷物を上がりがまちに置いた望月さんは、わたくしに向き直ったのです。
胸縄に挟んで止めていた裾を素早く下ろして綺麗に整えてくださいました。
でも・・・
「これと、引き換えですよ。」
わたくしの眼の前に出したのは、真新しいブルーと金の単三電池だったのです。
「いゃぁ・・・」
括られたままわたくしは後ずさっておりました。あの、信じられない振動を真珠に与えるオキシライド電池。修善寺の山の中で交換された電池は、持ちうる電力をすでにほとんど使い果たしてしまったのです。
「逃げられません。祥子さん、わかっているでしょう。」
ガタッ・・・ シンプルな作りの下駄箱にわたくしは背中をぶつけてしまったのです。
「ゆるして・・・」
「だめです。」
わたくしを追いつめると、ずっと差し込んだままだったコントローラーのダイヤルをOFFにすることなしに・・望月さんは電池を交換しはじめたのです。
「こんなに長時間動かし続けたら、玩具の方が壊れそうですね。」
「あ・ぁあぁぁぁ・・・」
カチっと2つめの電池が嵌った途端に、わたくしの真珠はまた極限の振動に嬲られはじめたのです。
「そんなに、いいですか?祥子さん。」
「やぁぁ・・」
ここがどこなのか・・・全く解らない家の玄関先で、わたくしは玩具のもたらす終わりのない快楽にあっけなく翻弄されてしまいました。
先ほどまで入っていた電池で、もう終わりだと思っていたのです。
車が止められて、この家の中に導かれて・・・着物の裾を下ろされて・・・もうお仕置きの続きをされるとは思ってもいなかったのです。
一度、安堵し緩んだ緊張は、わたくしを淫楽の底に一気に投げ込みました。
「あぁぁ・・ん・・ゆう・や・・・ゆるして・ぇぇ」
「魅力的です。感じている祥子さんはとても。それに、ここも。」
玄関先で・・・望月さんは縄の間から縊りだされた左の乳房の先端をねぶるのです。ちゅぅぅぅっと吸い上げ・・・右の乳房は彼の大きな手が同時に握りつぶすのです。
「あぁぁぁ・・・いっちゃうぅぅぅ・・・」
しゃぁっ・・・・ わたくしは、潮を吹いてしまったのです。今度は望月さんの手で・・・彼の腕の中で・・・
真っ白に霞む意識の中、わたくしは望月さんの胸に頽れてゆきました。
「祥子さん、大丈夫ですか?」
わたくしは、玄関に立つ望月さんの腕のなかにおりました。
快感に意識を遠のかせていたのはほんの一瞬のことだったのでしょう。
「あっ・・、やぁっ」
俯いたわたくしの視線の先には、濡れて深々と色の変わった黒曜石だけが見えたのです。
「ごめんな・さ・い・・・みちゃ・や・・」
「うれしい。潮を吹いてくれたのですね、僕と居て。はじめてですね、本当にうれしいです。」
夢のかよひ路 45
「ああ、い・や・・・」もしかしたら着物も、そしてこの桐の下駄も駄目にしてしまったかもしれません。玄関には、男の方達がフェロモンだとおっしゃるわたくしの匂いが、生けられた山百合の香りにも負けないほどに漂っていたのですから。
もうあのローターの終わることのない振動は止められておりました。
「1人で立てますか?ここで縄を解いてしまいましょう。」
「いやぁっ」
わたくしは、涙の浮かんだ瞳を上げて首を横に振ったのです。
もうこれ以上は・・・。なのに望月さんはここまでわたくしを追いつめて、玄関先でなお・・・辱めようというのでしょうか。
「大丈夫です。もうお仕置きは終わりです。そんなに辛かったですか。」
わたくしを腕の中から解き放ち、1人で立たせると後ろ向きにして胸縄からほどきはじめたのです。
「温泉の掛け流しの音が聞こえますよね。上がって右に行った突き当たりが湯殿になっています。ここで解いてさしあげますから長襦袢姿で、先に行って入っていてください。」
しゅる・・しゅる・・と赤い縄はまるで意志をもっているかのように解けてゆきました。わたくしの腕は自由になりました。長時間の緊縛と緊張に、ほんの少し両手が痺れているようです。
「もう少しだけこちらにいらしてください。」
望月さんは、わたくしを濡れていない玄関の中央まで進ませたのです。そして・・・
「これを持っていてください。」
彼が差し出したのはずっと帯に挟んであった玩具のコントローラーでした。
わたくしを幾度も絶頂に追いやったその装置を委ねると、望月さんは後ろに回ってほおずきの柄の半幅帯を解いたのです。帯はわたくしの足下に蛇のように落ちてゆきました。望月さんは帯を器用に手繰ってまとめてゆきます。
「こちらを向いてください。」
わたくしは、望月さんが背後にいるうちに左手で簡単に胸元だけを掻き合わせておきました。右手も本当は襟元へと向かわせたかったのです。でも、預けられたコントローラーのコードが入り込んでいる、合わせられた着物の裾から遠くへは手を上げる勇気が出ませんでした。
伊達締めに手を掛けようとしていた望月さんは、中途半端な場所に留まったままのわたくしの手に気がついたようでした。
「失礼いたします。」
不意にわたくしの前に膝をつくと、着物の前裾をくつろげたのです。
「いやっ・・ぁぅっ」
わたくしの抗いの声にも、彼は動きを止めませんでした。着物の裾を伊達締めに挟んで止めると、わたくしの股縄から卵形の玩具を取り出したのです。
「これで、もう大丈夫ですよ。祥子さん。」
コントローラーごと玩具をわたくしの手から受け取って、先ほどの帯の隣に並べます。
望月さんの手は股縄を解きにかかっていました。
縄止めしたところは腰骨に丸く掛けられた縄を少し引くようにして、やがて・・しゅる・しゅる・・・と括ったときの何分の一かの時間で解いてゆきます。
「あぁっ・・・」
声を出してはいけない、と思っていました。それでも、ぐっしょりと潮と愛液で濡れた縄と結び目が、真珠から花びら・・そして姫菊から引き離されてゆく瞬間に、はしたない声が漏れてしまいます。
「この縄は、僕の宝物ですね。」
ねっとりと・・半濁した粘液をまとわりつかせた縄瘤を望月さんは見つめて呟いたのです。
「だめ・・そんなもの・・だめです。」
「この結び目はもう2度と解けないでしょう。この縄は祥子さん専用です。あの方達にはあなたの蜜をまぶしたランジェリーを差し上げているのでしょう。ですから、これは僕にください。」
望月さんの目は真剣でした。と同時にわたくしは気付いたのです。
わたくしの恥ずかしい痕跡の残ったランジェリーをお三方の手元にお渡ししたのは、いずれも望月さんのいらっしゃらない時のことでした。なのにご存知だということは、あからさまではないにしてもあの3人の方達の間で何度か話題に出た・・・ということなのでしょう。
わたくしは、もう望月さんの願いを退けることなんてできませんでした。
俯いて胸元を押さえて小さく首を横に振るしか・・出来なかったのです。
その間も望月さんはてきぱきとわたくしの着物を・・・伊達締めを解き、腰紐を解いて・・・脱がせてゆきました。