唐紅 19
乱れていた髪は、あらたに三つ編みにされておりました。洗面台には、櫛と簡単なヘアクリップと基礎化粧品が用意されていました。
この宿に来てはじめてひとりになれたのを確認し、浴衣の前を押さえていた手を離し・・・ヘアクリップで髪をアップにしました。
繰り返された絶頂はわたくしを少し青ざめさせ、全身をけだるくさせていたのです。
最初に気を失った時とおなじように、男性の名残は運転手によって綺麗に拭われておりました。
浴衣を落とし・・・露天風呂に向かうと、冷たい空気の中で掛け湯をし、優しい恋人に癒されるような暖かな湯に身を沈めました。
髪を洗い・身を清めたわたくしは、脱衣室で少しとまどっておりました。
身に纏うものがあの浴衣しかなかったからです。
洗い髪をきつく三つ編みにし、浴衣だけを羽織って前を押さえ・・・あの鏡の部屋の襖をあけたのです。
そこには真っ白な長襦袢の掛けられた衣桁と、運転手がおりました。
「祥子様。お願いがございます」
正座をし、 まっすぐにわたくしを見て運転手が静かな声で申します。
「どうか今一度、私に身を任せてくださいませんか」
たしかに今夜・・・何度も彼の唇で・指でわたくしは上り詰めさせられました。
でも彼はまだ一度として達してはいなかったのです。
彼の主は、彼の望みを叶えてやると言っていました。
そのために、今日一日わたくしに全てを委ねてやって欲しい・・・とも言っていました。
望み・・・その言葉の解釈が、主である男性と彼との間で違っていたのでしょう。
それとも運転手の<欲>なのでしょうか。
「お疲れなのは存じております。おねがいします、どうかわがままを聞いてください」
真摯な彼の姿勢にわたくしは首を縦にふりました。
「ありがとうございます」
運転手は立ち上がると、衣桁に近づき月光を集めたような白の長襦袢を取り上げました。 半襟までもが純白で、桜の花びらのような折り柄だけが上品に浮かび上がっておりました。
「私が祥子様にどうしても着ていただきたかったものです」
わたくしの肩から浴衣を取り上げ・・・両肩にふわりと着せかけます。
真紅のものと同じ量感のある綾絹の感触が肌を覆いました。
「だって・・・あのお着物もあなたが用意してくださったのでしょう」
奥の間に飾られた、芸術品のような着物を思い起こしておりました。
「はい、でもあれは主から伺っていた祥子様のイメージで選んだものです」
わたくしの前に跪くと、優しく襦袢の前を合わせ腰紐と伊達締めを結んでゆきます。
「私があの日お送りした祥子様に感じていたイメージは、このお姿です」
掛け布を上げた鏡に映っていたのは、花嫁衣装のような純白の襦袢に包まれたわたくしの姿でした。
上品に合わせられた襟元から伸びた首筋に、1点だけ赤い痕が見られました。
無意識に髪を反対側にまとめていたとわかり、はっとして首筋を手で隠しました。
「お綺麗です、祥子様」
運転手はわたくしの後に立ち、鏡越しに視線を合わせてまいりました。
背中に触れ・腰に触れる彼の身体は・・・もう熱く反応しておりました。
「お着物も合わせて用意してございます。それは明日。さあ・・・こちらへ」
奥の間へと、運転手に肩を抱かれるようにして入ってゆきました。
奥の間の中央に敷かれた布団は、シーツまで新たなものに変えられておりました。
すっ・・・襖をしめる音に僅かに遅れ、わたくしは後から運転手の腕に抱きすくめられておりました。
「祥子・・さ・ま・・・」
襖の向こうの主を気遣う彼の囁きに、わたくしは首をかしげるように仰向けてゆきました。
「お名前は?」
主からも<彼>としか聞かされていませんでした。もとよりわたくしは、その主の名さえ未だ知らなかったのです。
「望月です」
「もちづき・さ・・ん・・・ぅくっ」
彼の名を呼ぶ間もなく唇を塞がれてしまいました。
運転手の口づけは甘く・・・優しいものでした。
後ろ向きに応えていたわたくしの身体を優しく回して、向かい合って抱きしめる間も・・・小鳥が啄むようなキスを途切れさせはしませんでした。
「はぁ・ぁぁ・ん・・」
長い夜の間、なすがままに翻弄され続けていたわたくしは、初めて自らの意志で、両腕を彼の背中に回したのです。
わたくしを抱きしめる望月さんの腕は一度だけきつくこの身を抱きしめると、あとは優しく背を・・・腰をたどってゆきます。
そしてゆっくりとわたくしを布団へと導きました。
「あぁ・・・祥子様」
柔らかな感触の上に膝立ちになったわたくしの首筋に、彼は唇を這わせます。
「あん・・・や・」
白い肌にぽつりと付けられた赤い痕を、きつく吸い上げるのです。
「だめ・・・」
優しかった彼のふいの激しい仕草に、抗いの声を上げてしまいました。
「いやです。他の・・・それがたとえ尊敬する主がつけたものでも・・・ほかの男の付けた印を見るのはいやです」
耳を甘噛みしながら伊達締めを・・・腰紐を解くのです。
「改めて私が印を付けます。それだけは、許してください」
はらりと落とされた襦袢の襟元に現れた痕にまで唇をつけるのです。
「あっ・・・はぁ」
それだけのことにわたくしはせつない疼きを感じてしまいました。
左乳房に男性が付けたあと二つの痕まで舌を這わせ、同じ様に・・・より濃い痕を印してゆくのです。
「望月さん・・・おねがいがあるの」
わたくしの声に顔を上げた運転手は、ほほを寄せる様に抱きしめてこういいました。
「なんですか?祥子様」
「おねがい・・・あなただけの・・痕を付けて。はしたないわたくしが嫌いじゃなかったら」
「あぁ・・・しょうこ・さ・ま・・」
彼はまだ痕の付いていない・・・真っ白な右の乳房に顔を伏せたのです。
そしてわたくしの困らない秘かな場所に、大輪の薔薇のような赤い印を付けてくれました。
「望月さんありがとうございました。お礼です」
純白の長襦袢を肩に羽織り、首筋から胸元まで幾つもの赤い痕を散らした姿のまま・・・わたくしは膝をくずしました。
無言で運転手の浴衣の腰を引き上げ立つ様に促します。
わたくしは自らの手で彼の浴衣の前を割り・・・猛々しいほどに反り返った塊に、わたくしは唇を触れさせたのです。
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祥子さん、こんばんは。和巳です。
この作品も私のお気に入りです。
特に、この章からがいいです。
祥子さんの望月さんへのフェラチオ愛撫・・・。
「・・・お礼です」というセリフが効いている気がします。
祥子さんの優しき女心が伝わってきます。
そして、そのセリフから続けられるフェラチオ・・・。
それは、痴女ではなく、心優しき、そして美しき淑女の口唇愛撫です。
精神的に不安定になり、孤独感が増してくる深夜、私も祥子さんのフェラチオ愛撫で癒されたい・・・。
2015/06/16 23:05| URL | 和巳 [Edit] - 和巳様
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まだ恋とも愛ともつかないけれど
いとおしいという想いで尽くす行為は
どんなテクニカルで快楽を極めたものよりも
心に響くのかもしれません
この夜のわたくしはもうくたくたでしたけれど
まっすぐに向けられた想いだけには
応えなければと思っておりました
どんなに拙くても
向き合う相手を想うことが一番の癒しなのですね
2015/06/17 07:07| URL | 加納 祥子 [Edit]
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