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春嵐の夜は明けて

待ち合わせた改札から地上に上がるエスカレーターの出口の人だまりで危なくなるほどの大雨がいつの間にか降っていました。
「たしかに雨になるとは言ってたけど。おい、雷もか。」
大きな傘を広げながら、彼は苦笑いをしていました。
真っ暗な空に走った閃光から数秒で雷鳴が轟きます。
「近いわね。早めに会場に入ってしまいましょう。」
「どっち?」
「その信号を左。」

ホワイト・デーの今夜の予定は、ジャズライブでした。
わたくしはもう数年前から月に一度隠れ家のようなホテルで開催されるライブに足を運んでいました。とはいえ・・・演奏も曲名もプレイヤーのことも、ほとんど知識などない素人ゲストでしたが(笑)。
彼もこの数年ジャズに興味を抱いて、あちこちのバーでのライブに足を運んでいたようです。男性らしくマニアックな知識を持つ彼は、ライブの後の土産話にずっとうずうずしていたようです。
「少し寂しいかもしれないけど、綺麗な音の面白い演奏をひっそりと楽しめるライブなの。」
というわたくしの誘いに、スケジュールを合わせてくれたのです。

「今夜は貸し切りかと思ったわ。」
「いやぁ、本当にそうかとおもってドキドキしてたんですが思ったより盛況になりそうです。」
にこにこと主催者の沢田さんが濡れた傘を受け取りいつもの席に案内をしてくれました。
「はじめてのお友達を連れてきたのに、このお天気なんですもの。」
「あいにくでしたね。」
「ええ。よろしくお願いします。」
彼の受付をしながら、ちらっとわたくしに視線を投げたのは・・・なぜなのでしょう。
「いつも女性のお友達とばかりなので、ホワイトデーの今夜はイケメンを連れてきましたの。」
「ははは、うちのアシスタントが喜びますよ。どうぞゆっくりなさっていってください。あと5分ほどで始まります。」

「いいね。こんなふうにのんびり聞けるんだ。」
日本でも有数の家具作家の手に成る一人掛けソファーに身を沈めた彼とワインのグラスを合わせます。
「有名どころのライブハウスなんかよりよっぽど音響もいいみたいよ。」
2階まで吹き抜けになったラウンジスペースを利用したライブ会場は、壁面のタイルと天井の構造が心地よく音を響かせてくれるのです。
「ふぅ~ん。それにしても、いろんな人に声を掛けられるね。」
「みんな常連さんよ。何度もお逢いしてるからでしょう。」
今日のプレーヤーの二人、ホテルのサービススタッフたち、次々お越しになるお客様の何人かが<こんばんは><お久しぶりです>といったご挨拶をしてゆかれただけです。
接客業に従事している彼が普段なら気にすることもないこんな些細な事に、やきもちを妬いてくれるのも、今夜がホワイト・デーだからでしょうか。(笑)
「隣に座ってるのは、誰?」
「祥子だよ。」
「それが答えでしょう。」
膝の上に置かれていた彼の手をさっと指先で触れた時、会場の照明が落とされました。

いつものライブよりも沢山のお客様があったと言いながらも、沢田さんはわたくしたちの席を他の方達から柱一本離れた場所に置いてくれていました。
とはいいながら、大人のライブ会場です。
演奏中にべたべたとしたはしたない振る舞いはできません。
それでも、即興の効いた演奏に思わず笑みをこぼしながら彼を見やると、彼も楽しげに笑っているのがなんとも言えず幸せな時間でした。

「庭に出てみないか?」
5曲ほど(なぜならアレンジに加えた曲をカウントすると何曲になるかはっきりしないくらいだったので(笑)の演奏のあとのブレイクタイムに彼はそういうと、受付から自分の傘を取ってきたのです。
「都心の真ん中にこの庭はいいね。」
雨は、ずいぶんと小降りになっていました。コートを羽織っただけで、彼はわたくしの手を取ると庭の奥の築山へと歩みを進めたのです。
「寒くない?」
「ちょっとね。でも我慢出来なくてね。」
雨に濡れたベンチの前で、コートごとわたくしを抱きしめると・・・彼のワインで火照った唇が重ねられたのです。
「ん・・ん・・ぁ・・」
蕩けるような快感が身内を駆け抜けてゆきます。
彼に応えることの出来ない今夜の身体の芯までも・・・・。
「俺以外の男と親しくしたお仕置きだ。」
「あぅっ そんな だめっ・・・」
耳元でそう低く囁くと、白いブラウスの胸元をはだけて胸元にきつく印を付けたのです。
「や・・・・」
「祥子は俺だけのものだ。」
「んふ・・っ・・・」

彼の大きな傘の中・・・20分ほどのブレイクタイムを、わたくしたちはそこで過ごしたのです。
照明の落とされたセカンドステージのはじめに、はしたなく頬を上気させたわたくしを連れて彼は席に戻りました。
セカンドステージ一曲目のTAKE5の間だけ、ふたりはひっそりと指を絡めていたのです。ブレイクタイムの余韻もさめやらぬまま・・・。


ゆうべの嵐が嘘のように晴れ渡った朝のバスルームで・・・くっきりと残る彼の印を見て・・・わたくしは一人・・・・・。
あぁぁぁ・・・・・ コメント
>「隣に座ってるのは、誰?」
>「祥子だよ。」
>「それが答えでしょう。」

この台詞、ゾクッときました♪
今、隣にいる…それが答え。

いつかどこかで誰かの耳元で囁いてみたい(笑)。


2008/03/16 18:26| URL | dreamcat  [Edit]
後朝♪
私はあくる朝の痕跡のシーンに萌えました。
痕とはやはり、愛の証・・・?(^^)


2008/03/16 20:08| URL | 柏木  [Edit]
雷も鳴る激しい雨でしたね。
降り込められたその傘のもと
小寒い空気、熱い唇…。
お二人の密やかな情熱が伝わって来る様な気がします…。

2008/03/17 19:07| URL | るり  [Edit]
皆様ありがとうございます
バレンタインとは違う男性が主役のイベントだからでしょうか。それとも春の嵐に気を削がれてしまったからでしょうか。
なんとはなしに、静かに過ぎていったようなホワイト・デー。

わたくしはちょっと素敵な時間をいただきました。

dreamcat様
やきもちはみっともないと思いながら、それでも妬かずにはいられない・・・いつになったらと自らため息をつきたくなる今日この頃です。
もともとあまり嫉妬心などないタイプだと思っていたのですが、それは婚姻という約束事に基づいた関係だったから、みたいです(笑)。
大人になるほど妬くことが増えたのは・・・いろいろなことを知ったから?それとも???

わたくしは彼ではないですし、彼はわたくしではないので、気持ちを探るようなことをしてもそこは永遠のラビリンスなんですけれどね(笑)。

早く、大人の悟りを得たいものです♪


柏木様
もう♪ちゃんと読んでくださいな。
『彼に応える事の出来ない今夜の身体』って(笑)
じっと見つめていたのは一つだけ付けられたキスマーク。そのほかは・・・ノーコメントです♪

るり様
実はライブの帰り道ーとはいえ、最寄り駅までですがー彼の傘ひとつに二人で収まって帰りました。
ただ腕を組んで歩くだけですが。
二人の事を知っている人がほとんど居ない街だというだけでいつもよりもきつく寄り添ってしまったような気がします。



2008/03/18 15:27| URL | 祥子  [Edit]
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