青紅葉の部屋
桜の季節の後、数週間だけ楽しめる景色を求めてここに足を運んだ
歴史ある建物と庭園の全てが柔らかな緑に染まる
一足ごとに静けさと青紅葉に溶け込んでゆく
隣にそっと佇む男性とともに
言葉を交わさなくても触れる指先で想いが伝わる
そのひと時を堪能する
優しく触れる腕に
時折耳たぶにかかる吐息に
洛中を避けて
この時期あの女性がここにいるのはわかっていた私の町家があるのをわかっていても
宿を取りにくいこの時期であっても
いつも決して甘えてきたりはしない
例年より4日ほど早く見頃が訪れた桜花
きっと一人で楽しむには足が必要だと思って
桜が盛りの社で待ち合わせをした
人で溢れかえる洛中を避けても
今年は楽しむ桜に事欠くことはない
宇治の地で紅枝垂のシャワーを浴びるあの女性の
横顔を見つめるうち午後の陽は落ちていった
「お食事はやっぱり洛中ですのね」
まるで意地を張るかのように街中に戻らなかった
私と望月にゆったりと微笑みかける
その頬は春にしては強すぎる日差しに
ほんのり赤く染まっていた
今夜の肌に刻まれる縄痕を想い少し昂った
上巳の節句
厳しい天候の休日が続いたこの冬を裏切るように3月はじめの土曜日は
抜けるような青空だった
この地の名を冠した桜花の
濃いピンクの花びらに埋め尽くされた河原を
あの女性とそぞろ歩く
久しぶりに過ごした夜のあの女性は
桜に負けないほどに艶やかなのに
恥じらう様があまりにも可憐に過ぎた
酷くしたくはない
けれどこの可憐さを突き崩したくて
あられのない声を上げるまで
幾度も責めた
隣で右腕を預けて歩くあの女性の横顔には
あの可憐さも
乱れ切ったはしたなさも
今は残っていない
長い黒髪が風になびくその瞬間に
はらりと落ちた花のように
白い首筋に浮かぶ赤い印だけが
俺の昨夜を物語っているだけだった
スーパーブルーブラッドムーン
「この部屋なら一番月に近いはずです」そう告げてあの女性を誘った
地球に最も近く上がる・満月が・赤く染まる
35年ぶりの天体ショー
「月を楽しませてくれるのでしょう?」
窓辺のテーブルに置いたシャンパーニュを片手に
微笑むあの女性は月よりも妖しく微笑む
20時30分から始まった月の幽かな陰りは
2時間で清純な姿をダークなワイン色に変えていた
「もうよろしいでしょう
身体が冷えてしまいます」
「今夜は月を見せて下さる約束でしょう」
「あと2時間私たちに待てと言うのですか?」
「お約束ですわ」
グラスを満たすワインを月と同じ色に変えた
「わかりました
お待ちしましょう でも」
窓の外の月を映すあの女性の黒い瞳を覗き込んだ
そのあとの時間が
どれほど狂おしくなっても知りませんよ
その想いを込めて・・・
迎春
あけましておめでとうございます澄み切った空気が印象的な元旦でした
今年も宜しくお願い申し上げます