重なる指に-1
「お久しぶりですね。お元気でしたか」そういって差し出されるおしぼりの暖かさにほっとするくらいに涼やかな夜。
「ありがとう。そんなに久しぶり・・・そうだったわね」
「ですよ。今夜は何になさいますか?」
「おすすめのモルトありますか?シェリー樽熟成のものがいいわ。」
「そうですね・・・」
カウンターの壁面一杯に並ぶウイスキーのボトル。
一本・一本のボトルに慈しむように触れながら、ヴィンテージを確かめているバーテンダーのいつの間にか後で一つに結ぶほどに伸びた髪を見て、わたくしは本当にここに来るのが数ヶ月ぶりだったのだと実感しました。
「加納さんは長熟のものがお好きですからね。マッカランはいまいいものが無くて。」
「構わないのよ。たまには別のものもいただかなきゃ。もう、わたくしの好きなマッカランはほとんど手に入らないしね。」
「これなんかどうですか?」
「スプリングバンク?」
「ええ、ちょっと訳ありなボトルなんですが。加納さんになら飲んでもらってもいいって言われてますから。30年もののシェリーが本当に華やかなモルトなんです。」
「いいの? もしかして竹下さんのボトル?」
「よくお分かりで。随分加納さんがお越しにならないので、皆様寂しがってらっしゃいましたよ。」
「マスターもお上手ね。じゃ、竹下さんに甘えてそれいただこうかしら。」
「いつも通りで?」
「ええ お願いするわ。」
![牡丹2](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/20080608184216.jpg)
ターミナル駅から3つ目の駅の住宅街の中にある隠れ家のようなバー。
モルトウイスキーが売り物で、モルト好きが集まる・・ここはそんな店でした。
本店は、ターミナル駅にある彼が何年も前から懇意にしている店でした。
何度か彼に誘われて本店に伺った後で、よろしければ私は来月からこちらに移りますから・・・と目の前にいるマスターから名刺を差し出されたのが、この2号店に来る契機でした。
「いかがですか?」
「わたくしの知っているスプリングバンクとは随分違うわね。香りと舌の上に乗った時のまろやかさが・・・格別だわ。」
「そう言っていただくと竹下さんも喜びます。このボトルを持って来たとき、加納さんが来ないかなと随分お待ちになっていましたから。」
「そうだったの。申し訳ないことをしたわ。」
また一口。華やかなシェリーの香りの余韻に浸っていると・・・
「いらっしゃいませ。」
わたくしにそっと微笑んで、マスターは新しくお越しになったお客様へと小粋なお髭の顔を向けたのです。
今日はここで彼と待ち合わせでした。
とは言っても、時間はなんとも言えないよ、という注釈付きの約束でした。
わたくしが忙しい日々を送っていたように、彼も多忙な毎日を繰り返していたのです。
日々、手元に届くメールで互いの存在を確かめながら、決して触れる事のできない・・・そんなひと月にふたりで焦れて交した約束でした。
わたくしのことも、彼のことも知っていて・・・でも二人の本当の関係は知らない、ここもそういう店の一つです。
時間を決める事の出来ない約束の時、彼は必ずそういう店を待ち合わせ場所に選んでくれました。
わたくしの居心地が悪くないように。
お店に来て出来るだけ早くふたりきりになれるように。
![牡丹1](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/20080608184157.jpg)
「いらっしゃいませ。」
「悪い、遅くなった。」
隣のスツールに滑り込むように腰を下ろした彼は、まだ仕事が心のどこかにひっかかっているようなそんな顔をしていました。
「いいのよ。今夜は面白いお酒をいただいているから。」
「それは?」
「ノアズミル。バーボンなんだけど、美味しいわ。とっても。」
「今夜は珍しい人が来ると思っていたら、お待ち合わせでしたか。」
先ほどわたくしにしてくださったようにマスターは暖かなおしぼりを彼に差し出します。
「悪いね、なかなか足を運べなくて。」
「今夜は何になさいますか?」
「それ、美味しい?」
質問を投げかけたマスターにではなく、わたくしの方に振り向くとさりげなくそう聞くのです。
「舐めてみれば?」
わたくしは彼の目の前に、本当にこの瞬間まで口元にあったグラスを差し出したのです。
彼はグラスの中の芳香を楽しみ、まるで当たり前のようにわたくしがいただいていたのとおなじグラスの縁に唇をつけると、ほんの少しバーボンを口にします。
「いいね。俺もこれにしよう。」
「承知しました。」
他のお客様にするように、マスターは彼に飲み方を確認する事はありません。
美味しいウイスキーを彼がストレート以外で楽しむことなどないことを、マスターは熟知しているからでしょう。
磨き上げられたテイスティンググラスにワンショット分のバーボンを注ぐと、カウンターを滑らせるように彼の前に置きます。
「普通のバーボンでしたらショットグラスの方が気分ですが、ノアズミルはぜひこのグラスでお召し上がりください。」
「ありがとう。」
カットグラスにミネラルウォーターを注ぐと、マスターはカウンターの反対の端に座るお客様の相手に行ってしまいました。
![牡丹3](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/20080608184232.jpg)
「おつかれさまでした。」
「おつかれさま。」
わたくしの眼を見つめたまま、バーボンのグラスを傾けます。
眼をそらす事もできず・・・酔いではなく頬が染まるのを感じます。
「旨いな、このバーボン。それにこういう場所にいる祥子はとっても魅力的に見える。」
「もう お世辞じゃごまかされません。」
甘くにらむ視線も絡んだままでした。
「ごまかすなんてさせないよ。今夜は」
カウンターの上の二人はマスターやこの店の常連さんがご存知の、友人としての彼とわたくしの距離を保っていました。
でもカウンターの下のわたくしのストッキングに包まれた脚には彼のウールのスラックスの感触がしっかりと寄り添っていたのです。
「どうです、お好みよりも甘くはなかったですか?」
「いや、自分で選ぶと同じ様なものしか飲まないからな。こういうのは新鮮でいいよ。」
ゆっくりと1杯のグラスのバーボンを楽しむ間、わたくしたちは彼の仕事がらみのさまざまなことを・・・誰に聞かれても当たり障りのないような会話を・・・続けていました。
グラスの中身が空になったところで彼は、マスターにチェックの合図を送ったのです。
「これからどちらかへ?」
「2つ先の駅のイタリアンを予約してあるんだ」
「そうですか。では満腹なさったらまたお越しください」
「ははは 加納さんに酔わされなければそうするよ」
「お待ちしてます。おふたりとも」
「ごちそうさま」
「いってらっしゃいませ」
イタリアンなんて・・・予約していませんでした。
二つとなりの駅に行く為の改札とは逆の方へ、わたくしたちは何かに追われるように歩き、急いでタクシーをひろったのです。
降るがごとくの花の香に
待ち合わせは酔うほどの薫りがこもった藤の花の下でした。
『遅くはならないと思うから。一つ目の太鼓橋を渡ったところの
弁天堂の前でまっていて。』
藤の花でつくられた祭壇のような弁天堂。
普段なら誰も足を止めないこの場所も
今日は俄カメラマンで溢れ返っていました。
![fuji1.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/fuji1.jpg)
「待たせたかな」
山門側を眼で探していたわたくしは
背後からの声にびくっとして振り返ってしまいました。
「なんて顔してるの」
「だって こんな方から来るとは思ってなかったんだもの」
「ちょっと早かったから先にお参りしてた。
思ったより時間がかかって、気が気じゃなかった。」
「一緒にお参りできない願い事でもあったのかしら?」
「いや、想い合う男女が一緒に参ると神様がヤキモチを妬いて別れ
させると言うからね。それは嫌だなと。はははは」
「わたくしも後でお参りしたいわ。お待たせしちゃうけどいい?」
「神様に見つからないように、こっそりと見守っていて上げるよ」
「こっそりね」
わたくしはこっそりと隣に立つ彼の指に小指を絡めました。
そこここでシャッターを押される沢山のカメラに映らないように。
![fuji2.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/fuji2.jpg)
「この時期は忙しいんでしょう。」
「今年は連休もとぎれとぎれだから、いつもほどじゃないよ。」
小指だけ絡めた指はいまは五指とも・・・
「祥子は今年は大丈夫なの?」
去年も一昨年も。わたくしには5月の連休はありませんでした。
去年の今頃は、まだ彼はわたしのいいお友達のひとりでしかなかったのに
うん・・・と眼を見つめて小さくうなづいて・・・
「この薫り、好きなの。お気に入りの日本酒の口に含んだときと一緒。」
問いかけの答えではない言の葉を口にしたのです。
「ははは、藤の精が聞いたら喜ぶな。」
「どうして喜ぶの?」
「藤の花は酒をやると一層色が綺麗になるそうだ。切り花にしたときは
日本酒に挿しておくと花の持ちがいいそうだ。」
「ほんとう?」
「店に花を生けてくれる先生がそんな話をしていたことがあるんだ。
聞いたときは冗談だろうと思ったが、
こうしてここに居るとなるほどと思うよ。」
![fuji3.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/fuji3.jpg)
「そうね。本当に酔ってしまいそう。」
「耳たぶが赤く染まっているよ。」
花房を見上げたわたくしの耳元に口づけるように彼がそっと・・・
だ・め・・・・
前後に沢山の人、あちこちに沢山のカメラ。
わたくしは声に出さず唇だけでこれ以上酔わせないで と
伝えるしかありませんでした。
「お行儀が悪いと祥子に嫌われるな。いいコにしていよう。」
「もう・・・」
藤棚に沿って巡る回遊路を人に押されるようにそぞろ歩くふたりに、
お行儀の悪いことなど出来る訳もありません。
それなのに・・・してほしい・・・と思う はしたないわたくしも居て・・
「きれいだよ。ほら、まるで祥子の・・・」
真珠みたいだ そう動く彼の唇に、真っ赤にほほを染めたわたくしに
気づいた方がどなたも居ない事を祈るしかありませんでした。
![fuji4.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/fuji4.jpg)
「あっ・・・」 大粒の雨が落ち始めました。
観光客もそれぞれに傘を広げてカメラをしまいはじめています。
急ぎ足で帰る人の流れに逆らって社務所へと抜け出した二人は
いつのまにかふたりだけ取り残されたようでした。
「予報通りだったね。傘は持ってる?」
「ええ 折りたたみだけど。」
「良かった。まだ今頃の雨だと風邪ひくからね。」
コートごしにわたくしを抱く腕の暖かさに人目も忘れて・・・
「祥子・・・」
ん・・・んぁ・・
重ねられた唇は腕よりも熱く・・・
「だ・め・・・」
薄く開いた眼に映った藤の枝に
絡み合う二人の肢体を見せつけられたような気がして
かすかにあらがっていた腕の力を・・・そっと抜いたのです。
![fuji5.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/fuji5.jpg)
フォト・ストーリー・シリーズ第二弾(どこまで続くかは・・・(笑))
本当に雨が降り出す前のお写真なので空の色が優れないですが
かえって香りが地表にこもって、花の色が濃く見えた様な気がします。
もう白藤は終わりかけていたのが残念でしたが
こんなに見事の藤は久しぶりでした。
あっ、写真の未熟さは・・・ご容赦くださいませね。
はら・は・ら・・・
あたたかな陽射しの午後なのに肌寒いのはなぜでしょうか
にぎやかな声に囲まれているはずなのに楽しくないのはなぜでしょうか
ひとりが・・・こんなに切ないと感じるのはなぜでしょうか
![P1014338.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/P1014338.jpg)
ほの白い染井吉野よりもあえかな赤みのさす桜に
うしろめたさを感じるのはなぜでしょうか
華やかな美しさを疎ましく感じてしまうのはなぜでしょうか
![P1014339.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/P1014339.jpg)
桜は桜なのに・・・
わたくしはわたくしなのに・・・
わたくしであることを止める事などできないのに
![P1014358.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/P1014358.jpg)
桜は桜のまま見つめるだけ
桜は桜のまま愛するだけ
桜は桜のまま樹下に佇む人を抱きしめるだけ
桜の悲しさは置き去りにして
![P1014373.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/P1014373.jpg)
はら・は・ら・・・と舞う花びらに
はら・は・ら・・・とほほ伝うなみだ
独りよりも想う人のいる春のほうが
切ないと知った午後
![P1014376.jpg](http://blog-imgs-21.2nt.com/s/y/o/syouko8138/P1014376.jpg)
この記事の桜の写真はわたくしが撮ったものです
素人写真なのでお恥ずかしいですが・・・・
お花見気分を楽しんでいただければ幸いです
ボイスレコーダー
ねぇ・・・ だ・め・・っ・・・ あぁぁん・・ そんな・・ぁ・・ゆるして・・・ あぁ・・・ そ・こっ・・
そんなに・・・お胸しちゃ・・・ぁ・・ だめ・・ぇぇぇ・・・
キ・スぅ・・・ キスもして・・ない・の・・に・・・
ぁぁん・・んくぅ・・・ ゃあ・・っ・・・・
ペチャ クチュ
ちがうの・ぉ・・・ あなた・・が・・する・か・らぁぁぁ・・・・
いつ・も・・・そ・・ぅ・・・ あぁぁ・・・ ちが・ぁぅぅぅ・・・
わたくしが・・・ はぁぁぁ・・ん・・・ いけ・な・い・のぉぉ・・・
あぁぁ・・・だ・め・・・ お・ゆび・ぃぃ・・いぃぃ・・のぉぉぉ・・
ピチュ クチュ クチャ
う・ぅぅ・・ん・・・ でも・・ぁ・・・おゆび・・で そんなにぃぃ・・・
す・き・・・ あなた・・・の・・す・き・・・
お・ゆびも・・・す・き・・な・・のぉぉ・・・・
あぁぁ・・・ ゆる・し・て・・・・ いっ・・ちゃ・うぅぅ
おゆびで・・・い・っちゃ・・・う・のぉぉぉ
ぁぁぁああああぁ・・・・ いぃぃ・・・・・
グチュ
あぁっ
いって・・る・の・にぃぃぃ・・・・ しちゃ・だ・めぇぇぇ・・・
あぁあぁぁぁ・・・ おく・・ま・で・・・
そこ・・・ そこだめ・・・・
クチュ グチャ ピチュ
いい・・・・あなた・・が・・いぃの・・・
わたくしは・・・い・い?
ぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ また・・また・いっ・・・ちゃうわ・・・
わたくし・・ば・か・りぃ・・ぃぃ・・・・
あぁ・・・・ま・た・ぁぁぁ・・・・
っん・・・ほ・しぃ・・のぉぉ・・・・
あ・なた・・の・・・せいえきぃ・・ぃ・・・・
なかに・・・ちょう・だ・い・・ぃぃ・・・・
なか・に・・・まっしろ・・に・・し・て・・・ぇぇぇ・・・・
あっ あ あ・あっ・・・
いっちゃう・・・いい・・・・いっちゃうの・・・
あぁぁ・・・あな・た・・ぁぁぁぁ
いっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
チュ♪ 好きよ
春嵐の夜は明けて
待ち合わせた改札から地上に上がるエスカレーターの出口の人だまりで危なくなるほどの大雨がいつの間にか降っていました。「たしかに雨になるとは言ってたけど。おい、雷もか。」
大きな傘を広げながら、彼は苦笑いをしていました。
真っ暗な空に走った閃光から数秒で雷鳴が轟きます。
「近いわね。早めに会場に入ってしまいましょう。」
「どっち?」
「その信号を左。」
ホワイト・デーの今夜の予定は、ジャズライブでした。
わたくしはもう数年前から月に一度隠れ家のようなホテルで開催されるライブに足を運んでいました。とはいえ・・・演奏も曲名もプレイヤーのことも、ほとんど知識などない素人ゲストでしたが(笑)。
彼もこの数年ジャズに興味を抱いて、あちこちのバーでのライブに足を運んでいたようです。男性らしくマニアックな知識を持つ彼は、ライブの後の土産話にずっとうずうずしていたようです。
「少し寂しいかもしれないけど、綺麗な音の面白い演奏をひっそりと楽しめるライブなの。」
というわたくしの誘いに、スケジュールを合わせてくれたのです。
「今夜は貸し切りかと思ったわ。」
「いやぁ、本当にそうかとおもってドキドキしてたんですが思ったより盛況になりそうです。」
にこにこと主催者の沢田さんが濡れた傘を受け取りいつもの席に案内をしてくれました。
「はじめてのお友達を連れてきたのに、このお天気なんですもの。」
「あいにくでしたね。」
「ええ。よろしくお願いします。」
彼の受付をしながら、ちらっとわたくしに視線を投げたのは・・・なぜなのでしょう。
「いつも女性のお友達とばかりなので、ホワイトデーの今夜はイケメンを連れてきましたの。」
「ははは、うちのアシスタントが喜びますよ。どうぞゆっくりなさっていってください。あと5分ほどで始まります。」
「いいね。こんなふうにのんびり聞けるんだ。」
日本でも有数の家具作家の手に成る一人掛けソファーに身を沈めた彼とワインのグラスを合わせます。
「有名どころのライブハウスなんかよりよっぽど音響もいいみたいよ。」
2階まで吹き抜けになったラウンジスペースを利用したライブ会場は、壁面のタイルと天井の構造が心地よく音を響かせてくれるのです。
「ふぅ~ん。それにしても、いろんな人に声を掛けられるね。」
「みんな常連さんよ。何度もお逢いしてるからでしょう。」
今日のプレーヤーの二人、ホテルのサービススタッフたち、次々お越しになるお客様の何人かが<こんばんは><お久しぶりです>といったご挨拶をしてゆかれただけです。
接客業に従事している彼が普段なら気にすることもないこんな些細な事に、やきもちを妬いてくれるのも、今夜がホワイト・デーだからでしょうか。(笑)
「隣に座ってるのは、誰?」
「祥子だよ。」
「それが答えでしょう。」
膝の上に置かれていた彼の手をさっと指先で触れた時、会場の照明が落とされました。
いつものライブよりも沢山のお客様があったと言いながらも、沢田さんはわたくしたちの席を他の方達から柱一本離れた場所に置いてくれていました。
とはいいながら、大人のライブ会場です。
演奏中にべたべたとしたはしたない振る舞いはできません。
それでも、即興の効いた演奏に思わず笑みをこぼしながら彼を見やると、彼も楽しげに笑っているのがなんとも言えず幸せな時間でした。
「庭に出てみないか?」
5曲ほど(なぜならアレンジに加えた曲をカウントすると何曲になるかはっきりしないくらいだったので(笑)の演奏のあとのブレイクタイムに彼はそういうと、受付から自分の傘を取ってきたのです。
「都心の真ん中にこの庭はいいね。」
雨は、ずいぶんと小降りになっていました。コートを羽織っただけで、彼はわたくしの手を取ると庭の奥の築山へと歩みを進めたのです。
「寒くない?」
「ちょっとね。でも我慢出来なくてね。」
雨に濡れたベンチの前で、コートごとわたくしを抱きしめると・・・彼のワインで火照った唇が重ねられたのです。
「ん・・ん・・ぁ・・」
蕩けるような快感が身内を駆け抜けてゆきます。
彼に応えることの出来ない今夜の身体の芯までも・・・・。
「俺以外の男と親しくしたお仕置きだ。」
「あぅっ そんな だめっ・・・」
耳元でそう低く囁くと、白いブラウスの胸元をはだけて胸元にきつく印を付けたのです。
「や・・・・」
「祥子は俺だけのものだ。」
「んふ・・っ・・・」
彼の大きな傘の中・・・20分ほどのブレイクタイムを、わたくしたちはそこで過ごしたのです。
照明の落とされたセカンドステージのはじめに、はしたなく頬を上気させたわたくしを連れて彼は席に戻りました。
セカンドステージ一曲目のTAKE5の間だけ、ふたりはひっそりと指を絡めていたのです。ブレイクタイムの余韻もさめやらぬまま・・・。
ゆうべの嵐が嘘のように晴れ渡った朝のバスルームで・・・くっきりと残る彼の印を見て・・・わたくしは一人・・・・・。
あぁぁぁ・・・・・
![](http://blog86.fc2.com/p/pvlabo/file/hr.gif)