初雪 46
さらっ・・ 背後で畳まれた長襦袢を広げる衣擦れの音がいたしました。「失礼します」
「ぁ・・ん・・」
髪を結い上げたうなじに望月さんの熱い息がかかります。バスローブの襟を掴むとそのまま下に剥き下ろされてしまったのです。
抗議の声を上げる間もなく、肩には淡いブルーの長襦袢が着せかけられました。
「肌襦袢は?」
「申し訳ございません。今夜はご容赦ください」
湯文字を纏うなら、当然のように上半身にも同じ機能を果たすものを身に着けると思っていたのです。なのに・・・。
望月さんは、箱根での時のように・・・張りのある絹でわたくしのGカップの乳房を覆い・・ボリュームを抑えるように巧みに着付けてゆくのです。
贅沢な重みのある綾絹の長襦袢でした。
真珠色の伊達締めで整えられると、まるでそれだけでも充分な装いであるかのような見事さが際立ちます。
流水の地紋が織り出された重みのある絹は、所々に・・・墨絵のように淡彩で白の侘助が描かれていたからです。裾と袖だけに配されたその白侘助は・・湯文字の赤が透けて・・裾だけはほんのり淡いピンクの花弁に見えるのです。
半襟は白地に白糸と銀糸で雪輪を刺繍した・・シンプルで上品で・・滅多に手にいれることのできない美しいものでした。
「すてきだわ。もったいないこと、これが長襦袢だなんて」
「恐れ入ります」
わたくしの背に回った望月さんは言葉少なに答えます。
彼の実家が京都の呉服問屋だとはいえ、これだけのものを用意するのは決して簡単なことではなかったでしょう。
「祥子様」
鏡の中の襦袢に見とれていたわたくしの肩に、今度は着物が着せかけられました。
「本来でしたら伊達襟をあしらうと一層引き立つのですが・・今夜はご容赦ください」
この着物でしたら、紅か翡翠色の伊達襟を添えると一層豪華になったことでしょう。
でもこれからの時間を思うと・・・伊達襟を付けた装いは邪魔でしかないのです。
肌襦袢を着ることを許されないのと同じ理由で・・・。
どれほど美しく・見事に装っても、装った姿を鑑賞していただくことがこの方達の最終目的ではないからです。
この装いは三人の紳士と・・そしてこの望月さんの手で・・剥がれ・辱めるために用意されたものだからです。
まるで今朝のランジェリーやパンティストッキングのように。
「いえ、このままでも充分だわ」
「そう言っていただけるとほっとします」
このことは暗黙の了解なのです。気を取り直して、鏡の中で整えられて行く着物に瞳の焦点を合わせたのです。
襟元の雪輪とやわらかく・淡く描かれた淡雪が見事に調和し・・・これまでの淫楽にまみれた時間にやつれたわたくしの顔さえも、明るくみせてくれていました。
襟元を整え・腰を決め・2本の紐で瞬く間に着付けてゆくのです。
綺麗に抜けたうなじ・・・上品に合わせられた襟元。箱根の時と同じ品があるのに艶やかな着付けでした。
裾から袖に描かれた紅侘助が白い雪の世界に・・・はっとするほどの彩りを加えているのです。そして花のそばにきっかりと描かれた常緑の葉が清冽な美しさを際立たせます。
「お食事もありますから、あまり苦しくないように着付けさせていただきます」
そういって袋帯の手をわたくしの左肩に預けるのです。
「お願いします」
半折りにした帯の手を押さえました。
金箔のたっぷりとした袋帯に帯板を挟み込み胸高に二巻きし、後で手とたれを結びます。
「苦しくはありませんか?」
「ええ、大丈夫です」
望月さんはわたくしの真後ろに立ち、いまはもう鏡越しにわたくしに問いかけます。
しっかりと巻かれ、結ばれていても不思議と不快な圧迫感がないのです。祇園で男衆さんから習ったという彼の着付けは・・・盛装になるほど際立つ見事さでした。
「これをお願いします。仮結びでかまいません」
背後から渡されたのは、帯枕を包んだ深緑の帯揚げでした。金の松葉を散らしたシックなものです。
「はい」
わたくしはきゅっとひと結びし・・・かるく片蝶に止めました。
「帯締めをおねがいします」
丸ぐけの帯締めが後から渡されました。しっかりと花結びをして房が上に向く様に左右の脇に挟み込みます。
お太鼓の形を整えた望月さんが、わたくしの前にいらっしゃいました。
ただ一つ仮結びされていた帯揚げを整えると・・・帯の中に入れて・・今夜のわたくしの着付けが終わったのです。
「いかがですか?」
望月さんがわたくしの背を鏡の方に向けました。
「素敵だわ・・・」
定番のお太鼓結びなのに・・・その着物は帯を加えられたことで、格段に華やかな装いに変わっていました。
髪に刺されたかんざしの椿さえも、まるで着物から抜け出した様なのです。
「お綺麗です。祥子様は花の柄が本当に良くお似合いになります」
「ありがとうございます。こんなに素晴らしいお着物、うれしいわ」
わたくしを見つめる望月さんの瞳には、別荘で迎えてくれたときには見られなかった喜びの表情が溢れていたのです。それに・・・彼なりの控えめで誠実な欲望さえも。
「祥子様 私にご褒美をいただけませんか?」
これから起こるであろう時間が、二人の脳裏をよぎりました。
わたくしは・・多分明日の朝まで・・・三人の男性に嬲られつづけることになるのです。
「ええ、これでよろしいの?」
望月さんの方へ向き直り・・・わたくしから口づけをしたのです。
少しでも穢れる前に・・・こんな素晴らしいプレゼントを用意してくれた彼に、わたくしを感じてほしかったのです。
「んぁ・・っぅ」
彼の口づけは濃厚なものでした。
扉の向こうには、主である美貴さんをはじめとしたお三方がリビングに寛いでいるはずです。
主とそのお仲間の想い人とのディープキス。
まるで秘めた二人きりの時を彼らには渡さないと・・・全て貪るような激しさでした。
「ありがとうございます。祥子様」
名残惜しげに身体を離すと、耳元に熱い吐息とともに望月さんの囁きが届いたのです。
そして彼との戯れが・・・わたくしのさきほど清めたばかりの身体を、またはしたなく潤わせてしまったことに気づいたのです。
「お食事が用意してあります。参りましょう」
たとう紙をたたみ重ねると、望月さんはリビングへつながるドアを開けたのです。
初雪 47
「あぁ綺麗です。祥子さん」山崎さんの声と共に、着物姿の3人の男性が暖炉の前のソファーから立ち上がりました。お三方とも大島のアンサンブルをお召しでした。
「着物姿がいいと美貴から聞いていましたが、想像以上ですね」
がっしりとした体躯にこっくりとした渋い茶が、石塚さんにとてもお似合いでした。
「祥子さんの白い肌には濃い色の着物がいいと思ってましたが、こんな白地の着物もいいですね」
美貴さんはいつもお召しになっているスーツと同じ、深いグレーのお着物でした。
「昼間のカジュアルな姿とは格段の違いです。普段から着物を着る機会があるのですか?」
山崎さんは藍を思わせる濃い紺色です。
「いえ、普段というほど頻繁にではありませんの。お茶席の時と、たまにお芝居の時とくらいでしょうか」
「やはりお茶をなさっているのですね。日舞も?」
「いいえ日舞なんて、そんな嗜みはありません。歌舞伎を観せていただくくらいです」
それほど着物の着こなしに自信があるわけではありません。望月さんが用意してくださった上質な絹がしっとりと肌になじんでいる分・・・そう見えたのでしょう。
美貴さんをはじめとした4人の男性の着こなしも流石でした。同系色で合わせた帯と濃色の足袋がシックな大人の装いを際立たせたのです。
丈の長い男羽織とたっぷりとした羽織りの房紐は、望月さんがご用意されたのであろう着物の上質さを物語っておりました。
「あの・・・結城さんはどうなさったの?」
あの小柄でボーイッシュな、寡黙な女性運転手さんのお姿が見えませんでした。
この後男性達と過ごす事になる時間を考えると、今夜彼女までが別荘にお泊まりになるとは思えませんでした。
でも、ここまで雪道を運転してきてくださったのです。せめてお食事くらいは、ご一緒になさるとばかり思っていました。
「結城くんにはホテルを用意しました。明日僕たちを迎えにくるまで、快適なホテルライフを楽しめる様にしてあります。もちろん美味しい食事とスキーのリフト券付きでね」 美貴さんがそう説明してくださいました。
「そうなのですか」
お正月を独りで過ごす寂しさを彼女に味合わせてしまった申し訳なさと・・・これ以上同性に恥ずかしい姿をみせることのない安堵が同時に訪れました。
「優しいんですね。祥子さんは」
山崎さんは、わたくしの横顔に浮かぶ表情に気づいてしまったのでしょう。
「いえ、そんな・・・」
「それとも、結城くんがいないと燃えないのかな。祥子さんは」
「そんなのじゃありませんわ」
冗談ともつかぬ石塚さんの口調に、わたくしは大人気も無く即座に反論をしてしまったのです。側にいる望月さんに、車の中での痴戯をいまは知られたくありませんでした。
「立ち話もなんだね。食事にしよう」
美貴さんが助け舟のようにわたくしの手を取り、ソファーの向こうのダイニングテーブルへと連れて行ってくださったのです。
美しく整えられたおせち料理は、6人掛けのダイニングテーブルに用意されていました。
美貴さんが椅子を引いてくださいます。
「あら、このグラス」
テーブルに用意されたバカラのグラスセットの中で、その席だけには椿をアクリルで描き出したワイン用のベネチアングラスが置いてあったのです。
「さきほど見かけたので手に入れたんですよ。こちらのグラスはいいものだけれど、祥子さんの手には無骨でしょう。まさか着物の柄と同じモチーフだとは思わなかった」
オペラの椿姫を彷彿とさせる薔薇のような紅白の椿の花が、金彩とともに描かれた美しく華奢なグラスでした。
「ありがとうございます。うれしいわ」
わたくしを記念館の展示室で犯すかのように荒々しく愛したあとに、手に入れてくださったもののはずなのに・・・はんなりと美しく優しいフォルムのグラスでした。
わたくしの正面には山崎さんと石塚さんが、コーナーを挟んだ左側には望月さんが・・・そしてわたくしの右手には美貴さんがお掛けになったのです。
「きれいなお料理ですわね」
テーブルに並べられたお重の蓋をあけると、そこには絵画のような和のお料理が並んでおりました。漆黒に金の南天の塗りのお重に相応しい品格さえ漂うお食事です。
こんなに素晴らしいお料理をどなたがご用意されたのでしょうか。まさか、先に来ていた望月さんが?
「結城くんの泊まっているホテルの、和食の料理長に頼んでおいたおせちなんです」
この別荘は石塚さんの持ち物のようですが、ホテルのことは山崎さんがお詳しいのでしょう。さりげなく教えてくださいました。
「祥子さんのお眼鏡にかなってよかったです。都心の名店で修行をしてきた板長だそうで腕は確かです。味もなかなかですよ」
ほかのお二人も頷かれています。
器は石塚さんのセレクションなのでしょうか。洋のディテールの別荘なのに、しっかりとした素性の良い和の器が並びます。
取り皿を初めとする陶器は粉引きに大振りの椿を描いたものでした。
5枚のお皿にそれぞれ別の種類の椿が描かれ・・金彩で彩られているのです。
「これは土渕陶あん先生のものですか?」
わたくしの大好きな清水焼の陶芸作家の名前を口にしました。この方の描く花の器は友禅の振り袖のような優雅な豪華さが特徴です。
「ご存知でしたか」
石塚さんのにこにことした表情を見れば正解だということがわかります。
「ええ、わたくしは桜のものが好きで、いくつか手元に集めさせていただいておりますわ。絵付けが素敵で・・・石塚さんは器の趣味がよろしいのね」
「よかった、祥子さんに気に入ってもらえて。この皿はオーダーして作ってもらったものなんですよ。今夜のために」
「えっ・・・」
「僕はわりと備前のような器地肌を楽しむものか、絵付けがあっても呉須だけで描かれたような伊万里が好きなんです。ただ 祥子さんをお招きすると決めて、あなたに似合う器があるかと考えたら無骨なものばかりで、お恥ずかしいですが見当たらなくて。ははは、急いで手配したんですよ」
「それでまさかオーダーなさったんですか?」
確かに、陶あん窯は特注での製作を受け付けてくださいます。しかしそれには・・・それなりの対価と時間が必要なはずです。
「望月くんに紹介してもらって依頼したんです。今夜に間に合ってよかったですよ」
この方達はなんという手間と・・対価をこの数日のためにお掛けになるのでしょうか。
そしてそれは・・・きっとこの1枚のお皿だけのことではないのです。
なのにそんな気負った気配など微塵も感じさせなません。
金額の高ではないのです・・・以前にも望月さんがそのようなことをおっしゃいました。その言葉が許されるだけのものと、それをひけらかす必要のない素性の良さが、リラックスしてゆったりと微笑むお三方に垣間見えたような気がいたしました。
初雪 48
「お飲物は日本酒でよろしいですか?それともシャンパンになさいますか?」カウンターをはさんだキッチンに消えていた望月さんの声がしました。
「このお料理には日本酒がいいでしょう。用意してください」
そう答えたのは美貴さんでした。
「お酒もいろいろご用意なさっているの?」
一流ホテルではありません。冬山の中の個人の別荘なのです。それもお話によると夏場しかほとんどお使いになってないようなのです。なのに・・・
「地下に趣味でワインカーヴを作ったんですよ。ですから僕が好きなお酒のは、ほとんど東京ではなくてこちらで保管してあるんです。カクテルがいいなら後でお作りしますよ」
「カクテルまで? 石塚さんがブレンダーをなさるの?」
「ええ、学生時代にバイトで憶えたんですよ。ははは、そんなに意外ですか」
「ごめんなさい。そんなんじゃないんですけれど・・・」
「無骨に見えて石塚さんは器用なんですよ。きっと僕たちの中でも一番」
美貴さんが困っていたわたくしをフォローしてくださいました。
他愛ない会話を楽しんでいる内にお酒の用意が出来たようです。
お皿と同じ椿の柄の杯が並べられました。そして酒器も。
「お注ぎいたしますわ」
酒器を手にとり山崎さんに向けて差し出します。
「着物姿の祥子さんにお酌してもらうなんて格別ですね」
いつもなら・・祥子さんがなさることはありません・・とおっしゃる方達が、この時だけは・・・どなたも反対はなさりません。
「さぁ 祥子さんも」
正面に座られた山崎さんの杯から望月さんの杯までを満たし終えると、もう一つの酒器を持った美貴さんがわたくしにお酌をしてくださったのです。
「もう夜になってしまいましたが、あらためて」
この別荘のオーナーである石塚さんが乾杯の音頭を取られるようです。
「祥子さんと過ごす1年に、乾杯」
「おめでとうございます」
傾けられた杯の中の日本酒は・・とろりと舌を流れていったのです。
「このお酒は?」
わたくしの記憶にある好きな日本酒の味だったのです。
「ご存知ですか?」
ご用意になったのは美貴さんなのでしょうか。笑みを浮かべてわたくしをご覧になるのです。
「琵琶の長寿でしょうか」
「ええ あたりです。大吟醸が手に入りましたからお持ちしてみたのです。お好きなんですね」
やはり美貴さんがご用意くださったものでした。
「そうなんです。この花のような香りが好きなんです。和食にとても合いますものね」
「祥子さんの舌は特別製だね」
石塚さんのひと言には・・何故か淫らなニュアンスが少し混じります。
「この味がわかってしまうとは思いませんでしたよ」
それを助けてくださったのは山崎さんでした。
「いえ 偶然ですわ」
まだお食事がはじまったばかりです。せめてこの時間だけは、美味しく楽しませていただきたいものです。
「失礼します」
望月さんが次にお持ちくださったのはお造りでした。
寒ブリとカワハギ、ヒラメと牡丹海老に梅の花が添えられた一皿です。小皿には肝醤油と塩と加減醤油が用意されていたのです。
とても個人宅でいただいていると思えない美しさでした。
「望月くんもゆっくりしなさい。もういいのでしょう」
忙しく立ち働く望月さんに口添えをしてくださるのは山崎さんでした。
わたくしの左隣にようやく腰を下ろした望月さんに日本酒を注ぎます。
「ありがとうございます」
注がれたお酒をくぃっと一気に干すのです。
「望月くんの飲み方は気持ちいいね」
そう言う石塚さんも、ほとんど変わらないペースで召し上がっているのです。
「ほんとうに美味しいわ」
極上の夕食はこうして進んでいったのです。
なぜか食事中、今日のこれまでのことについては話題に上りませんでした。
わたくしが身支度を済ませる間に、男性の方達の間でもうお話されていたのでしょうか。
望月さんは迎えに出た車のわたくしを御覧になって・・・全てを察してしまわれたようですけれど。
そしてもう一つ話題に上らなかったのが<結城さん>のことでした。
同じ運転手なのに望月さんは同席して、控えめながら会話に加わっています。
美貴さんが後継者の1人として育てているという望月さんの立場は、この方達の中でも認められているのでしょう
そして結城さんはただの運転手でしかないのだと、この方達の態度が物語っておりました。
初雪 49
「美味しかったです。ごちそうさま」四人の男性と豊富な話題の会話を交わすうちに、和のお食事も終わりに近づいていました。
琵琶の長寿と地元の美味しいミネラルウォーターが、わたくしをほろ酔い気分にさせていたのです。
「今度伺った時に、板長にお礼を言わなくてはね」
杯に残ったお酒を干して山崎さんは満足そうに頷いてらっしゃいました。
普通の家庭でしたらここでお雑煮・・・ということになるのでしょう。
でも、酒肴とお料理でわたくしたちは充分に満足していたのです。
「ソファに移られてお薄でもいかがですか?」
そう望月さんがご提案くださったのを潮に、わたくしたちは暖炉の前のソファーに席を移しました。
チューダー調風のこの別荘に、相応しくレンガづくりの暖炉がしつらえられていました。薪のはぜる音と赤々とした火が贅沢な寛ぎの時間に添えられています。
平屋づくりなのですが、高い天井にはロフトが設けられ、リビングの上だけ吹き抜けになった空間にはファンがゆったりと回っておりました。脚元は床暖房が施されて、マイナス3度とも言われる外気の冷たさを感じることもありませんでした。
暖炉の隣のキャビネには山崎さんのお好みのお酒が・・・暖炉の上には椿と水仙がたおやかに活けてあります。ほのかに薫る花の香はこの水仙のものなのでしょう。
BGMはモーツアルトでしょうか。お食事の間からずっと、クラシックが低く・優しく流されていたのです。
柔らかに和洋折衷を果たしているこの空間は、4人の男性にしっくりと似合っておりました。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
望月さんのご用意くださったのは、真っ白な肌に薄く桃色の餡が透けるはなびら餅とお薄でした。
黒塗りの小盆に1人前づつ用意された器は、やはり陶あん窯製の抹茶茶碗です。
「石塚さんたら、どれだけ手にいれられたのですか?」
決して安価ではないこの窯の作品を・・・それも<椿>の柄に限ってこれだけの数を同時に見たのはわたくしも初めてだったのです。
「いやぁ、憶えてないなぁ。とにかく来客用だからといって店にまとめて揃えてもらっただけですからね」
石塚さんの声はあくまで暢気な調子のままに、添えられた黒文字で花びら餅を口に運んでいます。
「こんなに沢山の作品を一度に見せていただけるなんて、眼福です」
「祥子さんに喜んでいただけただけで、用意したかいがありましたよ」
リラックスして、でもお作法通りにお薄を召し上がるのです。この方達はどなたも・・・そうでした。会話が洒脱なだけでなく、きちんと躾けられたお育ちの良い方達なのでしょう。
「ありがとうございます。うれしいわ」
望月さんが立ててくださった、苦みが甘みを引き立てる抹茶も見事なものでした。それに初釜の時に饗される花びら餅。時期を得た取り合わせも流石です。
「僕たちにご褒美をくださいますか?」
左隣に座られた美貴さんが、お茶碗をテーブルに置くとゆっくりとわたくしに向き直ります。
「ご褒美?」
「ええ、この花びら餅のような祥子さんを楽しませてください」
「えっ・・・」
照明がすっと・・落とされてゆきました。
「ん・・・だめ・・・」
美貴さんはわたくしの肩を抱くと、唇を重ねました。
「ん・・ん・ん・・」
右隣の山崎さんは、わたくしの身八つ口に手を差し入れて・・・着物の中に閉じ込められたGカップの乳房を捉えたのです。
いつかは来ると覚悟をしていた時間が・・とうとう始まってしまいました。
「着物の祥子さんは本当にいいですね」
耳元で囁く山崎さんの声には、もう欲情が滲んでいました。
つい数時間前にわたくしを犯して欲望を遂げたばかりなのに・・・その熱は全く冷めていないようでした。
「胸元も足先も柔らかな腕もしなやかな絹に覆われて、いつものランジェリーを一枚も付けていない身体のラインが柔らかく撓う。あぁあの丸みの中に・・・そう思うだけで昂ってしまいますよ」
着物の中で山崎さんのすべすべの指に弄られた乳房の先端は、はしたなく立ち上がってしまったのです。
初雪 50
「ん・・ゃぁ・・・」美貴さんに唇を塞がれたままで、それでも合わせられた唇の隙間から喘ぎを漏らしてしまうのです。
「何重にも重ねられたその衣の中に、男をそそる香りを包み込んでいるかと思うと、かえってそそられるんですよ」
いつの間にかソファーの端にいた石塚さんが、わたくしの脚元にいらしていました。
「車の中と同じアングルでも、また趣きが違いますね。豪華な着物に覆われた祥子さんの脚」
頬擦りするようにソファーに掛けた太ももを抱き・・絹の上から爪を立てる様につぅぅっと指を這わせるのです。
「んぁ・・ぁ・・やめて・・・」
「いまさらだめです。ここでの夜の過ごし方くらい、祥子さんは承知の上でしょう」
唇を啄むようなキスを繰り返しながら、美貴さんが念を押すのです。
「着替えて・・きます・・そしてベッドルームへ」
「ここには僕たちしかいないんです。だからどの部屋でしても同じです。それにこの着物姿の祥子さんがいいんだから着替えるなんてだめです。あぁこうして乳房に指を食い込ませるたびに、祥子さんの香りが漏れてくらくらしそうですよ」
「ぁっ・・はぁん・・」
ソファーで上体を捻られ・・・3人の男性に弄られているわたくしの右頬は暖炉の火で赤く色づいていました。
身八ツ口から差し入れた山崎さんの手は着物のなかの乳房を執拗に嬲り、アップにした髪から出ている耳たぶを美貴さんの唇が襲うのです。ぬめる舌が敏感で感じやすい耳朶を乳房のように吸い立てます。
「もう我慢できません。見せていただきますよ、祥子さん」
石塚さんの指が着物の裾を持ち上げるのです。
「ぃやぁ・・ゆるして・・・」
「だめです」
石塚さんをさえぎろうとしたわたくしの手を、美貴さんが掴み男性の虜力で押さえ込むのです。
「長襦袢は淡いブルーなんですね。ここにも椿が染め抜かれている・・・祥子さんにぴったりの優雅さですね」
「しないで・・・おねがい・・」
長襦袢を目にしただけで・・・許されるはずもないのです。石塚さんの手は繊細なアイスブルーの長襦袢の裾にも掛けられます。
「ああ この赤。湯文字だけ赤なんですね、綺麗ですよ。望月くんの趣味は相変わらずいいな」
湯文字一枚の上からきつく合わせた太ももを頬擦りします。先ほどやはり入浴をされたからなのでしょうか。石塚さんの頬には・・髭のざらつきはありませんでした。
「こんなに薫る。まだ絹に覆われているのに、男をそそる香りがしますよ。祥子さん」
「あぁ・っ・・」
身体を起こすと一呼吸置いて湯文字をくつろげてしまいます。
「見ないで・・ください」
外側から白地に椿の友禅、淡水色の長襦袢、深紅の湯文字・・・そして足袋だけをつけたわたくしの揃えた脚が太ももから露になっていたのです。
「陶あんの器よりも華麗だね。この景色を愛でられるなら僕が用意した器など・・・ものの数ではありません」
石塚さんの声も強い欲情の色を帯びはじめます。
「あぁ もうフェロモンがこんなに甘く薫る」
むき出しの太ももに唇を這わせるのです。
「あぁん・・だめ・・」
柔らかな肌に走る滑る感触に、わたくしはぴくん・・と身を震わせてしまいます。
「僕たちもその景色を楽しみたいですね」
胸元を嬲り続けていた山崎さんの手が抜かれ・・・わたくしの背はソファーに押し付けられたのです。
「望月ちょっと来てくれ」
「はい」
わたくしの両手を掴んだままの美貴さんに呼ばれた望月さんが、ソファーの背側に回りました。
「祥子さんがおとなしくしているように、この手を押さえていてくれないか」
掴んでいた手を頭上に引き上げ、そのまま望月さんの手に委ねたのです。
「わかりました」
わたくしの手を頭の後で組んだようにまとめると、彼の大きな手でがっしりと拘束されてしまったのです。
「おとなしくしますから、放して・・おねがい」
望月さんなら聞いてくださるだろう・・そう思ったのです。
「いえ だめです。言うことを聞いてください」
彼の声は冷静で・・・他の方達と同じ様に牡の欲望を滲ませていたのです。